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アサシンと踊る -3

 魔力感知やその制御を極めたリルクを以てして、微妙な違和感しか抱かせない洗練された魔力回路の隠蔽。


 その技術はあまりにも高度で洗練されたものであった。


 ともあれ、それほどまでに高度な技術が扱えるとすれば、その人物が所属しているであろう組織はただひとつ。


「魔術、書院…」


 帝国最強の魔術研究機関。魔術を極め、魔術に魅入られた者たちの集団。魔術の深淵を臨まんとするものだけがその門をくぐることができるという象牙の塔。


 リルクにとって、それと敵対しているというのは、信じたくないことだった。


 ───なにか、対抗手段は……


 リルクは護身用の長剣の他に武器と呼べるものを持ち合わせていない。さらに、この部屋には全く戦闘に利用できそうな物がなかった。


 早く部屋を出て逃げなければ、逃げ場を失う。


 そう考えたとき。


 ひた、ひた。ひた、ひた、と。


 向こうから、足音が聞こえた。


「まずいぞ」


 今外に出ても、見つかるだけだろう。


 リルクは逃げ道を失ってしまった。


 脳みそをフル回転させるが現状を打開する良案は出てこない。


 考えている間にも足音の発生源はどんどん近づき、やがて目と鼻の先になった。


 そして、音が止んだ。追跡者が扉の前で足を止めたのだ。


(もうこれしかない…!)


 リルクは素早くドアに向かうと、ドアノブを掴み、ドアが開かれるのを阻止する。


 ガチャ。…ガチャガチャ。


「あれれ? …オカシイなぁ」 


 間一髪で間に合ったようである。


 そして向こうで声が聞こえた。聞こえたのは、まだ子供のような高い声だ。


「何者だ?」


 リルクは声をくぐもらせて尋ねる。


「あーわたし? わたしはアルティマ! 迷子の子犬を探しに来たんだ!」


(アルティマ…? 帝国ではよく聞く名前だが…単なる偽名か?)


 アルティマとは、ファーファイル帝国の建国に功のあった魔女の名前である。不老不死であり、魔術書院の室長を務めているとされている。


 だが、全く表舞台には上がらず、皇族であるリルクですら目にしたことがないのだ。本当にそんな存在がいるのかどうか、口に出すことはないが、リルクは怪しいものだと思っている。


(魔術書院室長、アルティマ……彼女の名前にあやかって子供に名前を付ける帝国の臣民も多いと聞くが……)


「ここに子犬はいない。帰ってくれ」


 リルクはにべもなく断る。


「ふーん。さては……ねぇ、もしかして私にビビっちゃってるの? 仮にも帝国の第三皇子が年下の女の子にそれってどうなの? なんだかガッカリってカンジだなぁ」


(いや、こいつの目的は──僕だ。)


「年下の女? あいにく、それを確かめる術はないんでね。声なんて魔術でいくらでも変えられるからな。魔術で変えられる情報はあてにできないだろ?」


(まだ、まだだ。ぎりぎりまで力を入れるんだ!)


 リルクは精神を統一させる。


「…ふうん。開けてくれないなら無理やりにでも開けるだけだよ。いいの?」


 その時。


 ドア越しの相手がさらにノブを引く手に力を込めた。


(今だ!)


「キャっ!」


 リルクは急に力を抜いた。すると、相手は急に軽くなった手応えに対し、自らがかけていたドアノブを引く力の大きさによって後ずさりせざるを得なくなる。


(いけたぞっ!)


 その一瞬の隙を見逃さず、最高速で半開きの扉をするりと抜けて、そのまま駆け抜ける。


 なかばやけくそ気味に考えてのことだったのだ。うまくいったのが信じられないぐらいであったが──


「はははっ! お兄さん捕まえた!」


────がしり、と転倒したその人物に腕を掴まれた。そのまま体勢を崩され、転倒してしまう。相手は後ろに馬乗りになって、勝ち誇ったように言った。


「ねえ、哀れなお兄さん? 年下の女の子にいいようにあしらわれて、どんな気持ち?」


 どうやらリルクの策はお見通しだったようだ。


「ぐ、くそ! 離せ! ……なんだ!? 何が目的なんだ!?」


 叫びながら、リルクは疑問を抱いていた。相手がいつまでたっても殺そうとしてこないのだ。そればかりか、殺意も感じない。


(なぜすぐに僕を殺さない…? 甚振った後に殺すということか…?)


 また、もう一つ疑問がある。


(まだ子供なのか…いや、魔術で外見も変えたということか?)


 そう、相手は15歳にも満たないくらいの女の子だったのだ。しかし魔術師の中には幻影を見せるのが得意な魔術師もいると聞く。リルクはそう思考して、わずかな逃走への希望を逃すまいと気を引き締める。


「離せ!! くそが! 離せよぉ!!」


 冷静に思考しつつも相手の油断を誘うため、リルクは半狂乱で叫んで、自分の足を拘束している細木のような腕に手を伸ばすが────


「はーぁブザマブザマ! こんな年下の女の子に拘束されるなんて、ザコすぎでしょ!」


 相手は油断なくリルクの手を払いのけると、金属製の手錠で両手・両足を順番に拘束した。


「まったく。こっちに害意はないんだけどな」


(ならば僕を拘束する理由はなんだ!! この魔術師めが!!)


「黙れ魔術師ぃい! くっそ、はなせぇ!! はなせよぉおお!!」


 その時、空気が凍った。目の前の少女が放つ雰囲気が一変したのだ。


『あ? 黙って寝てろよ。クソガキが…』


 先ほどの彼女からは考えられないほど、冷たい意思を孕んだ言葉だった。放たれた彼女の言葉はそれに込められた強力な魔力のせいか、言葉それ自体が魔術的な力を持ち、リルクの意識を深い深い眠りへといざなった。


「……あ! ガキは私もか! てへぺろ。でもでもぉ、この天才魔術師アルティマ様を困らせるとは、まったくケシカランってモンよ!」


 少女が勝ち誇った表情で、得意げに小さな胸を突き出した。


 リルクの意識は既に闇の底に落ちている。


 少女は笑った。


「ま、なにはともあれ……これでようやく上質な素体が手に入ったね」


 帝国魔術書院。その組織を統括する室長に関する逸話はあまりにも多い。曰く、不老不死の魔術師であり、建国以来、魔術書院の奥深くで日夜研究に明け暮れている。曰く、一人で一国の全軍に匹敵する。曰く、そんなものは存在せず、帝国が強さをアピールするために勝手に言っているだけである────


 その魔術師の名は、アルティマと言った。

投稿してみて最近分かったんですが、意外と朝に読んでくれる方々が多いんですね!(^_-)-☆

そこでなんですが、今日から更新を一時間早めて7時にしたいと思います。よろしくお願いしますm(_ _)m

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