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アサシンと踊る -2

 リルクは、ただ悲しかった。留まる所を知らない治安の悪化。救われない人民。魑魅魍魎が跳梁跋扈する宮廷。


「権力闘争? それがそんなに大切か! 祖国の行方より大切な物など存在し得るのか!? 政治の中枢がこんなことでは! こんなざまでは!! このままで帝国に未来はない! こんなことをしている場合ではないというのに何故誰も気づかない! この佞臣(ねいしん)どもめ!」


 ドン、と石レンガの壁を殴った。拳から滴り落ちる鮮血が、足元にポタポタと水玉模様を描く。


 狭い部屋の中心には寝台が置かれており、壁には錆びた首枷が取り付けられている。おそらく拷問部屋だったのだろう。


 かつては残虐な行為が行われていたであろうこの場所が、今では皇子の生命を守っているのだから、世の中何が助けになるのか分からないものである。


 リルクにとっては幸いなことに、この城には呆れるほど沢山の隠れ場所があった。それらは大抵、魔術的なギミックで隠されており、並大抵のことでは見つからないだろう。リルクはこれらを有効に使うことで、なんとか敵の目を誤魔化すことが出来ていた。


「各々が勝手に後ろ暗い事をする目的で作ったんだから、そのせいで僕を見つけられないのは自業自得だ」


 リルクは「ざまあみろ」と独り言ちる。


 帝城は広大である。更に、これまでの数多くの貴族・皇族たちが築いてきた隠された多くの部屋や通路。


「どんな暗殺者でも、この広い帝城の中から僕だけを探し出すなんて無理だろうな」


 リルクは肩の力を抜き、ほっと溜息をひとつ吐いた。壁に背を預け、これからどうしようかと思案に耽る。


 しかし疲労のせいかどうにも考えが纏まらない。それに、どうにも脚に力が入らない。いつのまにか、ずるずると滑って尻もちをついていた。


 とうに、彼の体は限界を迎えていた。訪れた睡魔は彼の意識をいとも容易く奪っていった。










 今代の皇子、皇女は粒揃いと言われる。それはリルクの異母兄姉(けいし)である皇子・皇女が皆、(ことごと)天稟(てんぴん)に恵まれているからだ。


 ───一方で、リルクはというと。


 末子として生まれてきた彼には、なにか特筆した才能と呼べるものは無かった。


 一般的に見ればリルクは魔術でも剣術でも何に対しても高い水準でそれを熟すことが出来る。だが、各々が特定の分野に傑出した才能を持つ他の兄姉と比べれば見劣りするのは当然のこと。結果として、リルクは落ちこぼれ皇子のレッテルを貼られ、他の皇族はもちろんのこと貴族たちからも軽んじられている。


 魔術というものは、誰しもが扱える技能だ。

 だが、術式の展開速度、維持時間、魔力量、出力限度など。魔術の運用という面で見れば、生まれ持った才能が大いに関わってくるということは、如何(いかん)ともし難い事実であった。


 けれど、彼はめげずに鍛錬を積んだ。暇さえあれば剣を振り、常に魔力を感知し続けた。ひとりでふらりと図書館へ赴き、知識を収集することにも余念がない。


 魔力量そのものは人並み以下。これは生来の物なので変わることが無かったが、魔力の操作、感知だけなら一級品と呼べるほどになるまで上達した。


 ───そして、長きに渡る鍛錬の末に研ぎ澄まされたその感覚は、彼を裏切らなかった。


 すっかり眠りこけていたリルクは、それでも周囲に拡散された自身の魔力によって、敏感に違和感を感じ取った。


 ───この微細な魔力の波は…


 魔力には特定の波長がある。その波長はその魔力の主に固有のもので、常に周囲に向けて発されている。


 そして、普通、魔力は体内で循環している。しかし体外に働く魔術の場合は魔力を体外に出して操作する必要があり、その際、魔力と所有者の間は魔力回路──糸のように細くまとめ上げられた魔力で繋がっている。


 リルクは魔力回路がないか探ってみるも、周囲にそれと分かるようなものはない。


 ならば、誰かの魔力が残留しているだけか、とリルクは考える。


 しかし、どことなく不自然さがあった。


 その"違和感"のもとを解明するため、リルクは更に魔力感知へ意識を集中させる。


「くそ、なんなんだ、この違和感は。確かに何かあるんだ…」


 しかし、その違和感の正体が何であるのかが掴めない。


「残留魔力でないとしたら、それは…魔力回路…魔力、回路…」


 リルクは天啓的な直感で、ある可能性を見出す。


「回路は、可能な限り細くして、気取られないようにすることも出来る」


 しかし、それならば魔力感知を極めたリルクにとって見つけるのは造作もない。


「だが逆に…可能な限り、薄く、太くすれば?」


 余りにも微細な魔力がそれとなく周囲に広がっている。それだけならば、一見して魔力回路だとは分からない。大抵の人や、ある程度の実力を持った魔術師さえも自然な残留魔力と勘違いしてしまうかもしれない。


「ならば、この魔力の主は相当な手練れだ」

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