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アサシンと踊る - 1

 ファーファイル帝国第三皇子リルク・ド・フォン・デ・ファーファイルは決意した。必ずや、この国の政治の中枢に、帝国という大樹の幹に巣食う害虫どもを排除せん、と。


 かつて群雄割拠の大戦争時代を制した名も無き英雄は、帝国という強大な国家を一から築き上げた。


 もともと小国に過ぎなかったファーファイルは、各地での戦乱に次々と勝利し、半世紀の内に二百倍以上にまで版図を拡大した。


 以来、有象無象に埋もれた王国の一つから帝国へと駆け上がったファーファイルは千年もの間、泰平の世を謳歌することとなる。


 ……が、形ある物はいずれ滅びゆく運命である。それは国家でさえも例外ではない。


 富を求め、権威を高めることに余念がない王侯貴族。


 行き過ぎた愛国主義者らがやれ戦争だ、やれ征服だなどと声高に叫び、半ば暴走状態にある軍部。


 そして、政治に一切の関心を示さず、象牙の塔に籠り、己が欲望のまま研究を続ける魔導書院の魔術者たち。


 もはや帝国という名の果実は、腐り落ちる寸前であった。






 


 深紅の初月が見下ろす先は、ファーファイル帝国は帝都の、その中心、帝城。


 誰もが寝静まる深い深い夜の静寂(しじま)


 しかし、そんな静寂を切り裂く剣戟の音が突如鳴り響いた。


「まったく、次から次へと……キリがない」


 リルクは奇襲を受けていた。相手は、黒ずくめの装束に身を包んだ者たち。


 彼らは人を殺すためだけに生まれてきた者たち。見合った対価さえあれば、どんな人物の殺害も厭わない。


 所謂、暗殺者である。


「全くタチの悪い奴らだ……!」


 彼らは任務を遂行することしか考えない。


 仲間の命も、そして自分の命まで省みずに、ただ、戦う。それは幼い頃からの教育、否、洗脳によるものだ。彼らは生まれてから暗殺と任務遂行のため以外のことは教えられない。ほんとうに、その為だけに生まれてきた者たちなのだ。


 剣を一閃する。それだけで数人の体が上下に分断され、切断面から夥しい量の血が噴出した。


 リルクは多少の同情を覚え、しかしその必要はないと即座に頭を振る。この者たちは、紛れもなく自分の命を狙ったのだ。それ相応の報いを与えてやらなければならない。


 ──それが、支配者たる皇帝の血を分かつ者の、義務というものだ。


 しかし、そうは言っても……少年はまだ、幼かった。皇族としての矜持はいまだ脆弱にであり、その過酷な義務をしっかりと背負い込むには至っていない。


 少年の胸中には、確かに微かな罪悪感が燻っていた。


「飼い犬如きが! どこの手の者だ! ここが皇帝陛下の御座す帝城だと分かっているのか!?」


 とは言うものの、皇帝の居城だなんだというのは今更の話である。リルクはもう何度も暗殺者に襲われているし、もっと言えば帝城という場所自体、常に陰謀が渦巻く伏魔殿なのだから。


 暗殺者が雇い主を吐くことはない。捕らえて拷問したとしても無意味だ。神経すらも弄ばれた彼らの身に、拷問など意味を成さない。


 もっとも、雇い主が判明したところで、リルクはそれをどうこうできるほどの権力を持っていないのだが。


 リルクはその事実に歯噛みする。


 斬っても斬っても、湧き出すように敵が現れる。


「はは…どんだけ金を払ったんだか。僕なんかの命のために。ほんと光栄だね!」


 肩で息をするリルク。かなり苦しい状況だが、冗談を吐いて笑い飛ばす。


 リルクはこれまで幾度となく刺客に追われ、その都度逃げ切ってはいる。


 しかし、一度にここまで大量の暗殺者と対峙したことはない。


「ついに、本気で僕を殺しに来たか…」


 狭い通路を抜け、小さな中庭のような場所に出る。そこには伏兵がいたが、リルクは難無く対処する。


「魔力がダダ漏れだ。出直してこい」


 口では余裕そうに言うものの、リルクの体力と精神は摩耗する一方だった。


 なにせ、量が量である。囲まれれば一貫の終わりなのだ。常に周囲に気を配りつつ、背後の敵と戦い、逃げ続けなければならない。 


 二手に分かれる道があり、ほんの一瞬、どちらへ進むか逡巡する。


 しかし、行くと決めた道の先から追手の暗殺者が二人走ってくる。どうやら先回りしていたらしい。


 リルクは突き進むことにした。


 向かってくる暗殺者はまず苦無(くない)を投げてくるが、リルクはそれを短剣で弾く。そして流れるがごとく洗練された動きで、そのまま斬りかかった。


 すかさず暗殺者も短剣で防御する。攻撃と同時にリルクは今しがた弾いた苦無をもう片方の手で掴んでいた。


「あばよっ!」


 掛け声と同時に突き出された苦無は暗殺者の胸に吸い込まれていく。が、そこは暗殺者も歴戦の猛者。


 至近距離での一撃だったが、暗殺者は驚くべき反射神経でもう片方の腕を胸の前に出し、骨を使ってこれを食い止める。


 暗殺者はほっとしたのか、一瞬間緊張の糸をほぐしてしまった。


 そこを見逃さないリルクではない。


 リルクは剣を押し込むと、暗殺者が慌てて剣に力を込めるのを確認する。そして、力が込められたその瞬間、剣を引いた。


「甘えよっ」


 掛け声。一閃。


 リルクは暗殺者の首を斬り落とそうとする。


 首が落ちると同時、暗殺者は何を思ったか腕を持ち上げ、拳をリルクに向けた。


 その黒衣の袖下に何があるのか理解する間もなく、リルクは回避動作に移る。


 しかし、遅かった。


 放たれた銃弾の雨はリルクを蜂の巣にすることは無かったが、弾のひとつが肩の肉を掠め取っていった。


「チッ……ぬかった。とんだ冥途の土産だな……」


 この状態で戦っても長くは保たないだろう。もはや絶体絶命の局面。が、しかし思わぬ僥倖があった。背後に迫っていた暗殺者たちがリルクの代わりに蜂の巣になったため、リルクの逃亡に若干の余裕が生まれたことだ。


 この機を逃すまいと、リルクは帝城の闇に身を忍ばせた。

皆さんお元気ですか? 私はつい夜更かししちゃって寝不足になりがちなので改めないとな~って思ってるところです! 皆さんも睡眠時間ちゃんと取ってくださいね(^_-)-☆

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