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91話 次への方針

 SU宇宙軍の最新鋭の艦艇たちから、ドーソンと率いている艦隊は無傷で逃げだすことに成功した。

 その後、安全な宙域に留まりつつ、ドーソンはオイネにバリア艦について調べるように指示を出していた。


「それで、情報はあったか?」

「いいえ。≪チキンボール≫、≪ハマノオンナ≫、そして企業にも照会をかけましたけれど、どこにもあの艦についての情報はありませんでした」

「海賊側だけでなく企業にもないのか。10隻も存在していたんだ。数があるぶん、どこかからか外に情報が漏れても良いと思うんだがな」

「情報が漏れていれば、企業が掴まないはずがないですよ。なにせSUから独立すると決めるには、SU宇宙軍の実力の把握は必要不可欠でしたし」

「SU宇宙軍の実力と、≪チキンボール≫の海賊の戦いぶりをみて、企業は独立することを選んだわけだものな」


 どこにも情報がないとなると、バリア艦はSU宇宙軍の秘匿艦艇ということになる。


「隠しておくべき艦を10隻も大盤振る舞いするってことは、バリア艦の情報を海賊に与えても仕方がないほどに、あの戦場には死んではいけない人物が居たってことなんだろうな」

「あのときの戦況を見ても、その可能性が高いですね」


 ドーソンの艦隊は、最初に突出してきたSU宇宙軍の駆逐艦と巡宙艦を破壊した。その後で、バリア艦を全面に押し出し、他の艦艇は後ろに隠れて、接近してくるようになった。

 SU宇宙軍の側の視点で状況を表すと、最初は海賊相手だからと舐めた行動を取り、意外な反撃を受けて怖気づき、鉄壁のバリア艦を並べて対抗することにした、と言った感じになるだろう。


「それほど大事な人物がいたのなら、海賊が来ると情報を与えておいたのだから、矢面に立たない場所に置いておけばよかったのにな」

「その重要人物が手柄を欲したのかもしれませんよ。もしくは、その人物に良い格好を見せたかった誰かかもしれませんけどね」

「なににせよ、俺の気遣いがフイになってしまった。こうなっては仕方がないな」


 ドーソンは状況を鑑みて、最初の方針を破棄することにした。そして直ぐに、新たな方針を打ち立てた。


「≪ハマノオンナ≫と戦っているSU宇宙軍の艦隊を横から撃つことにする。あちらは列記とした戦場だ。SU側にとって死んでほしくない人物は、出てきていないはずだからな」

「ではあちら側で、SU宇宙軍の人たちに情報を渡すわけですね」

「アマト星腕――いや、別の星腕に送り出した移民たちは、ほぼ全滅していると演説する」


 ここでドーソンは言葉を区切ると、通信関係の席に座っているベーラへと顔を向ける。


「演説するのは、俺じゃなくてベーラだ。頼んだぞ」

「えぇ~! ベーラがやるの~?」

「適任だからな。そのファッションショー用の躯体は、顔や体型の見た目を自在に変えられるんだろ。過去に送り出された移民の誰かの顔を真似して演説すれば、SU宇宙軍の連中にも響くはずだ」

「なるほど~。じゃあ、あまり近すぎない頃の移民団で、見目が良い感じの女性を選ぶわね~」

「人間は老いるからな。経過した年月を加味して、良い感じに老けさせてくれよ」

「もう、注文が多いんだから~。でも、楽しそうだからやっちゃう~」


 ベーラが自分の端末で移民団の情報を検索する。

 SU政府と宇宙軍が後押ししている事業だけあり、移民団がオリオン星腕から出発する直前の集合写真が時期ごとに直ぐに見つかる。

 その写真を見て、ベーラは誰に化けようかと品定めをしていく。

 そんなベーラのやる気に触発されたのか、コリィがおずおずと挙手する。


「あ、あの。演説の、原稿。自分が、書いてもいい、ですか?」

「俺が書こうと思っていたから、書いてくれるのなら助かる。でも原稿のチェックはさせてくれよ」

「も、もちろん、見せます。映像作品で、感動させてくれた演説を、参考に作るから」


 こうして次の方針が固まったので、ドーソンは味方の艦隊に通達を行った。特に戦艦≪百舌鳥≫は、今回初めて同道する相手なので、艦長のジンクとモニター越しに面会しての説明を行った。

 ちゃんと説明されたことで、ジンクはドーソンへの不満を抱かなかったようだった。


『状況は理解した。それにしても、先ほどの壁のような敵艦は、出来ることなら拿捕して解析したいところではある』

「俺も同意見だ。あれほど硬い障壁を張れる技術、是非ともアマト皇和国へ送りたい」

『方針に追加するか?』

「いや。余裕があればと注釈するぐらいで済ましたい。あまり欲張ると、いい結果がついて来ないものだ」

『それもそうだな。貴殿が行う演説で、敵の兵士が離反を起こし、例の敵艦を連れてくると最上だな』

「最上だが、ありえないだろ。秘匿艦を任されている人員だ。SU宇宙軍の中でも重用されているに違いない」


 軽い締めの会話の後で、ドーソンはジンクとの通信を終えた。

 艦隊は≪ハマノオンナ≫がいる宙域へと移動中で、ベーラもコリィも作業は済んでいない。周辺の様子はキワカがレーダーで確認しているし、機関の調子はヒトカネが絶えず見ているし、万が一の事態が起こってもオイネが警告してくれる。

 ドーソンはやる事のない気を抜ける時間を得たので、暇つぶしにSU宇宙軍のバリア艦をどうやって拿捕するかに思考を割くことにした。



 ≪ハマノオンナ≫がSU宇宙軍と戦っている宙域へと、ドーソンの艦隊はやってきた。

 その場所は、通常の宇宙空間と隕石地帯との境。

 隠れる物がない宇宙空間には、SU宇宙軍が。隕石地帯の中には、海賊たちが布陣して――いや、SU宇宙軍は布陣しているが、海賊たちは隕石と隕石の間に隠れ潜んでいた。


「SU宇宙軍が隕石地帯に入ってきたら、海賊側は海賊船での攻撃に加えて隕石による質量攻撃を行っているようだな」


 推進機で押し出せば、隕石で攻撃できる。陰に隠れれば、隕石は砲撃の盾になる。そして宇宙空間にもともとあった物体なので、推進機を付けないものは無料ただも同然で、個数は無数にある。

 軍に比べて物資が乏しい海賊側にしてみれば、これほど安くて大量にあって使える攻防一体の兵器は他にない。


「不用意に入っても押し返されるだけとわかっているからか、SU宇宙軍の攻撃もおざなりだな」

「隕石地帯の外から砲撃をパラパラと放っているだけですね。あれでは、隕石に隠れる海賊船は1隻も沈められないでしょうね」

「ちゃんと働いてはいると見せるための攻撃だ。戦果を期待はしていないんだろうさ」


 ドーソンはオイネとの会話を切り上げて、ベーラに目を向ける。ベーラの姿は、普段のものとはうって変わり、中年女性の風貌に変わっていた。

 今から20年ほど前にアマト星腕へ送り出された移民団にいた、当時十代の少女が生きていて成長した場合の姿を模しているのだそうだ。


「そっちの準備はどうだ?」

「バッチリ~。演説の内容も、頭の中に入っているよ~」


 声も普段と違い、歳を経て落ち着いた女性特有のものになっている。口調だけは元のベーラのものなので、見た目と声との違和感が凄い。


「コリィが作った原稿は、中々にいい出来だったんだ。ちゃんと演じてくれよ?」

「もっちろん~。大船に乗った気持ちでいて~」


 ベーラの準備が整ったのを確認して、ドーソンは率いる艦隊を動かす。

 狙うはSU宇宙軍の布陣の横腹だ。

 そこを先ず一突きして混乱を与えてから、ベーラの演説を流すことにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] どんな人物が戦場に来ていたのやら ドーソンがちょうど働いてる時に来なければなあ
[一言] バリア艦で要人座乗艦が鉄壁ならば官僚機構の上層部は硬直化待ったなしでしょうね。 権力者死なないのも考えものです。
[気になる点] これ、全滅したならどうやって帰ってきた?となるような気が……
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