88話 やるべき行動
ドーソンはオイネと共に、≪ハマノオンナ≫と闘争を行っている、SU宇宙軍艦隊について調べていた。
すると、意外な事実が判明した。
「こちら側の艦隊には、有名人の子息子女が多く乗っているようだな」
「艦隊司令もSU政府の主流派と繋がりがある人物ですし、放蕩物資満載な例の輸送艦も後方部隊に控えてますね」
「海賊船相手なら軍用艦艇が被害を受ける心配は要らないから、戦争に参加したという箔付けで、こちら側へ出陣しているってところだな」
「それでも、最前線部隊は出生卑しいとか不良や無能と評価された人物が配置され、乗せられている艦艇もかなりの旧型艦なのを見るに、きっちり余剰艦と余剰人員の破棄を狙ってはいるようですよ」
海賊相手だからと油断しているのなら、ドーソンがそのSU艦隊を後ろから叩けば、面白いほどの戦果を上げることが出来るだろう。
しかしその行動は、主要人物を殺されて怒るSU宇宙軍からの報復を招く結果に繋がる。
ドーソンの任務は、SU政府から未来永劫に渡ってアマト星腕に進出しないという確約を貰うことだ。
目先の戦果に目が眩んで、SU政府と宇宙軍の主流派から目を付けられる真似をしてしまっては、その交渉の席を設けることすら難しくなるかもしれない。
「地球のある太陽系から離れた宙域に配置されるような、居なくなってもいい人材なら、海賊の餌食になろうと気にする事はないのは、俺の今までの海賊活動で証明されているけどな」
「それに、今回のドーソンの目的は、SU政府と宇宙軍から要らないと判断されている人たちを捕らえて、捕らえた彼らに政府と宇宙軍から謀殺されそうになっているという事実を伝え、反SU勢力の中核になってもらう事ですからね。SU内で身分の高い人物を襲う必要性が薄いですよね」
その目的を考えると、≪ハマノオンナ≫を襲っているSU艦隊の後方を脅かすのではなく、≪ハマノオンナ≫と共闘して前線で戦うことが望ましいはある。
だが、問題ある。
「≪雀鷹≫と護衛戦艦を含めて、艦隊の数は50隻。手痛い打撃を与えるには十二分の戦力だが、≪ハマノオンナ≫がある宙域からSU艦隊を全て追い出すには力不足だ」
「力不足だと感じさせるのは拙いんですよね。少なくとも捕らえた人たちには、SU艦隊に対抗できる力があるのだと、そう思わせないといけないんですから」
全てを都合の良い方向へ動かす方法は、模索するだけでも難しい。
ドーソンとオイネがいる≪雀鷹≫のブリッジには、他の乗員も勢ぞろいしているが、2人の会話を聞いていてもアイデアを出すことは難しいといった表情をしていた。
しかし、それは仕方がないこと。
この場では、ドーソンしか士官学校の教育を受けていない――軍事的な作戦立案能力を鍛える場を体験していないのだから。
ドーソンは考えに考えて、あまり使いたくない搦め手を使うことにした。
「オイネ。ジェネラル・カーネルと企業を経由して、≪ハマノオンナ≫と戦っているSU艦隊に情報を伝えることはできるか?」
「例の企業は、SUから脱退しましたけど、経済的な取り引きは続けたいと考えていますからね。SU政府や宇宙軍に有益な情報なら、後の付き合いへの手土産として渡しても変ではないでしょうね」
「なら、巡宙艦を揃えた海賊が、部隊の後方を脅かそうとしているという情報なら、ちゃんと伝えると思うか?」
「それは伝えるでしょう。後方部隊には重要人物やその関係者が乗っているんです。そこを襲撃されるという情報は、SU政府と宇宙軍にとって値千金のはずですから」
「なら、ジェネラル・カーネルから企業へ伝えて貰おうか。俺たちが襲うであろう大まかな日時も含めてな」
ドーソンの大胆な発言に、オイネは反論もなく従うが、話を聞いていたキワカは理由が分からないと声を上げる。
「どうして、わざわざ僕たちが不利になるような情報を伝えるんですか。あの企業からの覚えを目出度くするためですか」
不明な部分を質問してくること自体は、ドーソンは気にしていない。
しかし反論が何時もキワカからしか出てこないことが、少しだけ気になった。
いや、キワカが反論してくることは、彼が以前に女性艦長から性的な悪戯を受けた経験から、上官に対して心理的な警戒を抱いているからだと理解ができる。
その他の面々が、どうして反論してこないのか。
ドーソンがキワカ以外の姿を見やると、ヒトカネはモノを考えるのは自分の職務じゃないと我関せずの表情で、ベーラは作戦のことは興味ないと衣服のカタログに目を通していて、コリィは話を確りと聞いてはいるものの表情にドーソンへの信頼がある。
これでは反論してこないわけだと、ドーソンは肩をすくませながら納得しつつ、理由を説明していく。
「SU宇宙軍に情報を流すことは、利点が多いんだ。まず、≪チキンボール≫が企業に恩が売れる。次に、企業が政府と宇宙軍に良い顔をできる。更に、宇宙軍は事前情報で有力者に被害を出さなくて済む。最後に、俺らもSU宇宙軍と本格的な戦争状態に移行する心配がなくなる」
「企業にまつわることは分かります。襲撃情報があれば、敵艦隊の被害が減るのもわかります。本格的な戦争を回避するためという点は、どういう意味ですか?」
「さっき言った通りに、SU宇宙軍は重要人物の被害を嫌っているものの、不要人員と艦艇を処分したがっている。そんな相手が、詳しい日時がある襲撃される情報を掴んでみろ、これ幸いと被害担当の艦と人員を配置するだろ」
「重要人物は守られて、要らないモノは処分できる。だからSU宇宙軍は反感を抱かないと?」
「加えて、俺たちの目的にも合致する。SU宇宙軍が不要と判断した人と艦を確保して、反対勢力に仕立て上げるという、その目的のな」
「……そう上手くいくんでしょうか」
キワカは納得しきれていない表情だが、かといってこれ以上の反論や代案があるわけでもなく、口を閉ざした。
その代わりかのように、コリィが挙手した。
「そ、その理由だと、企業に情報を流すの、ジェネラル・カーネルじゃなくて、ゴウドのオジサンの方が、いいんじゃ?」
コリィに指摘されて、ドーソンはハッとした。
「そうだな。ジェネラル・カーネルは民間軍事会社の社長になるから、≪チキンボール≫の新支配人がゴウドになる。≪チキンボール≫が企業に恩を売るなら、ゴウドが伝えた方が良いよな」
当たり前の道理に、ドーソンはどうして自分が思い至らなかったかを考えて、その理由をすぐに把握する。
「ゴウドに情報を伝えてもらうには、原稿が必要になる。変な返しを企業側からされた場合、不必要なことまで言いそうだからな」
「そ、その点は、アイフォさんに、手伝ってもらえば、いいかなって」
「そうだな。あの人は、もともとゴウドの補助役なんだ。働いてもらえば良いか」
ゴウドとアイフォの並びを見て、企業側はどう判断するだろうか。
「神輿に担がれた無能と、無能を裏から支配する女傑――って思ってくれたら、楽でいいんだが」
ともあれ、やるべきことは固まった。
そうドーソンは思って活動を再開しようとしたところで、オイネから思いもよらない報告がきた。
「アマト皇和国から通達がきました。援護の人員と艦隊を送ると」
新たな戦力が来ることは喜ぶべきだろうが、ドーソンはあまり素直に喜べない。
当初はドーソン1人を後方作戦室が送り出しての行動だったものが、成果をあげたところで貴族派からゴウドたちが出向してきた。
その例を考えると、追加で派遣してくれる艦隊には裏の目的があるんじゃないかと、ドーソンは思わずにはいられなかったからだ。