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83話 通路での防衛戦

 放棄されたSU宇宙軍の艦艇を、ドーソンは≪雀鷹≫の主砲で破壊していく。

 その間、≪チキンボール≫の通路にある監視カメラの映像から、現在の戦況を読み取っていく。

 通路の各所に作られたバリケード。

 エイダや海賊たちは、そこに工兵ロボットや電脳のアンドロイドと籠って、SU宇宙軍の兵士たちと戦闘している。

 特にエイダの場合、敵が大勢集まりやすい場所に作ったバリケードを選んで籠り、自前の武器で押し止めているようだ。


「エイダや海賊が合流した場所は抵抗できているが、工兵ロボットと戦闘用アンドロイドだけの場所は突破されているな」


 切り替えた映像では、工兵ロボットと戦闘用アンドロイドの編成で守らせていたバリケードが、SU宇宙軍の兵士たちによって突破される光景が映されている。

 人員は有限だ。重要な施設やそこに直通する場所はエイダや海賊たちを配置し、施設がなかったり重要度の低い通路はロボットとアンドロイドに任せていた。

 どうやら敵は、エイダや海賊たちが指揮する手強い場所を避け、突破しやすいが遠回りになる通路を選んで移動しているようだ。


「少数精鋭で遠回りの道を進み、練度の低い大勢でエイダと海賊たちを足止めする。悪い手ではないな」

「ドーソン。余裕そうに言ってますけど、危ない状況じゃないんですか?」

「そこまで言うほどの状況じゃない。敵部隊が入り込んでいる部分は、≪チキンボール≫にある通路の20分の1もない。そして重要な施設は、1つも落とされていない。まだまだ様子見を続ける時間はある」

「その時間を有効活用して、敵の移動手段を奪っておくわけですね」

「決死の覚悟で艦艇を放棄してまで≪チキンボール≫の中に入ってくれたんだ。その気持ちを汲んで、艦艇は全て使い物にならなくしないとな」


 ≪雀鷹≫が率いる艦隊は、的確にSU宇宙軍の艦艇の急所を艦砲で抉っていく。

 そして間もなく、100隻近くあった敵艦艇の全てが、航行不能となった。

 さて次の段階に移ろう、そうドーソンが考えたと同時に、通信が入ってきた。


『ドーソン艦長。どど、どうすればいいのかね!? こうまで敵に入り込まれてしまうと、手引書を用いての対応が難しいのだが!!』


 ゴウドの泣き言に、ドーソンは出そうになった溜息を飲み込んだ。


「エイダと海賊が率いている場所は、任せてしまえばいい。その他の場所に関しては、こちらの手が空いたから、指揮の一部を預からせてもらいたい」

『なるほど、いいとも! では、どの場所の部隊を指揮してくれるのだね!』

「それでは――ここの部隊を預かることにしよう」


 ドーソンが示したのは、あと少しで会敵しそうな、ロボットとアンドロイドが50体ほどの編成部隊だった。

 ゴウドは、ドーソンが部隊の1つを掌握したのを見届けると、嬉々とした表情で通信を閉じた。

 ドーソンは≪雀鷹≫の艦長席に体を預けながら、新たな空間投影型のモニターを展開する。いま預かった部隊を動かすため、ロボットとアンドロイドに画面を通して指示を出していく。


「オイネ。操艦を頼む。生き残っている味方艦隊は、再び北極と南極上に展開しておいてくれ」

「≪チキンボール≫の港に入らないのですか?」

「敵が白兵戦でこちらを混乱させて宇宙へ向ける目を逸らさせ、その間に別動隊が≪チキンボール≫を強襲する、という可能性がなくはない。用心のためだ」

「用心のし過ぎだと思いますけど、でも艦隊が港に入ったところで、敵兵を倒す手助けは出来ませんしね」


 ドーソンが率いている艦隊は、殆どが人工知能で動かしているもの。人員と言える存在は≪雀鷹≫の乗員だけ。

 その≪雀鷹≫の乗員にしても、ヒトカネは老整備士でキワカは少女のような見た目から荒事には向いてなさそう。ベーラもコリィも、操艦関係は上手でも、白兵戦の経験はないし躯体も戦闘用ではない。

 そうなると、敵兵士と銃火を交えられそうなのは、ドーソンとオイネだけとなる。

 たった2人を戦線に投入するぐらいで変わるほど、敵兵の数は少なくない。

 つまるところ、ドーソンたちが銃を手に参戦したところで、意味が薄いわけだ。

 そうした効果が薄い手段を用いるぐらいなら、万が一の負け筋を消すための行動に移ったほうが建設的だった。


「さて、では防衛させてもらおうか」


 ドーソンが指揮を受け継いだロボットとアンドロイドの部隊は、やってきた敵兵をバリケード越しに押し止めることに成功した。

 敵は爆発物を投げ込んでバリケードを破壊しようとしてくるが、ドーソンが専用に命令を下した工兵ロボットの射撃により爆発物は向こう側へと撃ち返された。

 敵兵が急いで後退する間に爆発物が破裂。敵側だけに大きな被害を出した。

 ここでようやく、敵側もロボットとアンドロイドの部隊なのに動きが良いことに気づいたらしい。

 敵は慎重さを取り戻し、銃撃戦での突破を試みようとしてきた。

 膠着状態となったが、敵の銃火の調子が変だと、ドーソンは気づく。

 なぜか、ドーソンが指揮する部隊の中にあるアンドロイドを集中して攻撃しているようなのだ。


「アンドロイドの中に、指揮する個体がいると考えているんだろうな」


 敵がそう考える理由に、ドーソンは心当たりがあった。

 それは未だに敵が大勢やってくる場所にて、高笑いと共に武器をぶっ放しているエイダだ。


『ははははは! 彼我の火力の差に絶望しろでありますよ!』


 画面越しに見る、その敵に声をかけながら射撃する姿は、差し詰め自らが防衛部隊を指揮していると示しているよう。

 そしてエイダの姿は、SU製の戦闘用アンドロイドを多少カスタムしたようなもの。

 以上の事から、敵が『海賊のアンドロイドは部隊を指揮する能力がある』と誤解する下地は、エイダの所為なわけだった。


「そういう誤解があるのなら、利用すれば味方の被害が減らせるな」


 ドーソンはアンドロイドの一体に、まるで人間が指揮しているかのような、身振り手振りを行わせる。

 すると、馬脚を露したなとばかりに、敵からの攻撃がそのアンドロイドに集中した。

 アンドロイドは、ドーソンの命令通りに、バリケードの裏に隠れながらも指揮する素振りを続ける。それで敵の誤解が深まり、より一層攻撃が厚みを増してやってくる。

 そうして銃火が一点に集中している間に、他のロボットとアンドロイドが敵兵に銃撃を与えていく。

 敵は、例のアンドロイドを倒せば部隊の指揮が落ちてバリケードが突破しやすくなると思っているのだろう、被害を度外視してまで攻撃を集中させている。

 全く無駄な敵の行動に、ドーソンはほくそ笑みながら、防衛の指示を続けていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 要塞内監視カメラで戦場を俯瞰できるドーソンと、戦場の霧で手探り状態を強要される敵軍 敵の指揮官は端末装置をハッキングして監視カメラを潰すとか考えつかない辺り、目の前のことに手一杯なんやろな…
[一言] そこですぐに指揮権を渡せるゴディはすげぇよ…
[一言] 攻め込まれてるってーのにエイダ過去イチ楽しそうだなあw
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