81話 白兵戦
SU宇宙軍の艦艇から出てきた、白兵戦用の人員は兵士とアンドロイドを合わせた2万ほどが、≪チキンボール≫の地表部を走る。
しかし2万の数が、全て同じ方向に走るわけではない。
彼らは四方に分かれ、≪チキンボール≫の内部に入るための方法を探し始めた。
「一刻も早く中に入れなければ、艦砲射撃の餌食になるもんな」
ドーソンは呟くと、≪雀鷹≫の主砲と銃座の照準を≪チキンボール≫の地表――SUの兵士とアンドロイドが居る場所へと向ける。
そして砲撃――するまでに、主砲の砲口が別の方へと位置を変える。
「そして、こちらの艦隊が地表の兵士を狙わないよう、そちらの艦隊が抑えにくるよな」
ドーソンは予想していたと言葉を口にすると、地表から砲撃しようとしているSU宇宙軍の艦艇へと、≪雀鷹≫の主砲を発射する。荷電重粒子砲の一撃で、敵艦は大破爆散した。
他の敵艦からの反撃が来るが、ドーソンは≪雀鷹≫を回避行動と引き撃ちをさせつつ、次々に敵艦を撃破していく。
「味方艦隊に通達。5隻、地表の敵兵を砲撃と銃撃で焼け。≪チキンボール≫の防衛兵器に、なるべく当てるなよ。残りの艦は敵艦隊との砲撃戦だ」
ドーソンの命令が行き渡り、≪雀鷹≫と護衛戦艦が最前線に立って装甲で敵の砲撃を弾き飛ばしながら、他の味方と共に敵艦隊へと砲撃を行う。
敵艦隊は≪チキンボール≫の防衛兵器の間を縫うように航行し、どうにか被害を受けないようにと立ち回る。
敵艦隊が地表から宇宙空間に上がらないのは、下手に戦闘しながら高度を上げてしまうと、≪チキンボール≫の防衛兵器の餌食になりかねないから。
現にいま、地表から少し離れてしまった敵艦の下に≪チキンボール≫の魚雷発射口が開き、その発射口が至近の爆発の反動で破損することと引き換えに、その艦を完全破壊してみせた。
しかし艦底を地表に擦りつけるぐらいに低空を保たれてしまうと、この魚雷発射口は開かない。射出口に障害物があると開かないよう、セーフティーの設定があるからだ。
「マニュアル操作でセーフティーは解除できるが、臨機応変さに欠けると評価されているゴウドに、それは高望みのし過ぎだしな」
ドーソンが渡したマニュアルにも、ゴウドには戦況に合わせたマニュアル作業は難しいと判断し、解除の仕方は載せていない。
敵を倒せる機会の損失ではあるものの、ドーソンはそこまでやる必要性を感じていなかった。
なにせ、敵が白兵戦を仕掛けてくれることが、ドーソンの狙いだったからだ。
「エイダ。敵兵の対処は任せるぞ」
『了解であります! 戦闘用アンドロイドと工兵ロボット部隊が、対処に当たるでありますよ!』
通信越しにエイダが返事を行い、そして律義なことに実況映像までが送られてくる。
エイダが映す光景には、≪チキンボール≫の地表と内部とを分ける隔壁があり、それが火花と共に外から切り開かれようとしていた。
それから間もなく隔壁が破壊され、エイダと同じ躯体の戦闘用アンドロイドと戦闘装備の宇宙服を着た人たちが入ってきた。
敵の侵入を視認した瞬間、エイダが叫ぶ。
『全力射撃でありますよ!』
エイダの手にある回転銃身式光線銃が唸りをあげ、目もくらむような光線を入ってきたばかりの敵へと連射し始める。エイダが率いる他の戦闘用アンドロイドと工兵ロボットも、それぞれの武器で攻撃を行う。
あっという間に敵のアンドロイドは破壊され、その陰に隠れようとしていた敵兵も穴だらけになった。
しかし敵も列記とした兵士だ。待ち伏せがあると知った直後、隔壁の先へ入った仲間の被害を無視し、爆発物をいくも投げ込んできた。
『手榴弾であります!』
エイダの叫びに、近くにいた工兵ロボットたちが素早く反応した。ロボットたちは投げ込まれた爆発物に突進すると、身を挺して爆発から味方を守ってみせた。
その直後、破壊された隔壁を通って敵兵が突っ込んできた。爆発で混乱を起こし、それに乗じて橋頭保を確保するという、よくある手順通りの戦い方だった。
しかし進んで犠牲になった工兵ロボットのお陰で、エイダたちには被害も混乱も起きていない。
エイダたちは狙い澄まして入ってきた敵を撃ち、その全てを破壊した。
『また爆発物を投げ込まれると面倒であります。出入口を確保するでありますよ!』
エイダの命令に、味方のアンドロイドとロボットが動き、破壊された隔壁を挟んでの銃撃戦が開始された。
交戦が始まって直ぐに、工兵ロボットが破壊された敵兵と敵アンドロイドの体を隔壁の向こうに積み上げて、防塁代わりに使う。
敵側は戦線を突破したいという思いが強いのか、積まれた仲間の死体などお構いなしに、射撃を連続させている。
しかし、この場所に固執したことが、敵側の敗因となる。
なにせ足を止めての撃ち合いなど、上から狙うには良い的でしかない。
ドーソンに命令を受けていた巡宙艦の1隻が、3門の荷電重粒子砲を一斉射させ、一塊になっていたSU宇宙軍の兵士とアンドロイドの大半を蒸発させた。
焼け残った敵兵もいるにはいたが、至近で食らった砲撃の熱波と衝撃によって宇宙服が破損している。長くは生きられない。
あっという間に敵兵が片付いたことに、エイダは少し不満そうだ。
『あー。工兵ロボットは、ここの隔壁を修理するでありますよ。その他は、小職と共に別の場所から入ってこようとしている敵を出迎えるでありますよ』
工兵ロボットが数体、通路の脇に隠していた装甲材を持ってくると、破壊された隔壁に溶接し始めた。
その作業を横目に、エイダとその手勢は別方向へと走りだす。そしてやってきたのは、≪チキンボール≫の中を駆ける電車。
この電車に乗り、内部に入って来そうな次の敵兵たちの元へと移動する。
そういったエイダの様子を画面越しに確認して、ドーソンは味方艦に通信を飛ばす。
「エイダが敵兵の第一波を防いだ。これで、敵艦隊が≪チキンボール≫の隔壁を砲撃で破壊して、地表の部隊を中に入れようと動く可能性が高まった。敵艦の中に、あらぬ方へ砲口を向け始めた艦を見つけたら優先的に狙え」
ドーソンは敵艦と地表の敵兵との連携を阻害することを念頭に、砲撃戦を続行させる。