80話 突撃降下
敵最後尾を追いかけながら、≪雀鷹≫と味方艦隊はチクチクと砲撃していく。
その行動をした最初は、敵艦隊の最後尾は後方砲塔で反撃をしてきたが、それは直ぐに止んだ。
なぜかと言うと、≪チキンボール≫の地表に取り付くことを優先するため、敵艦隊が増速したからだ。下手な反撃で無駄使いするのではなく、全てのジェネレーターのエネルギーを推進装置を最大限に生かすことに集中したわけだった。
「こちらは追い立て役だから、急いで移動してくれるのに越したことはないけどな」
ドーソンは悠々と追いかけつつ、味方艦隊に砲撃続行を指示。幸いなことに、味方艦の砲撃がまぐれ当たりを起こし、敵最後尾の1隻が中破した。
その中破艦は最後の働きとばかりに進行方向を反転して攻撃しようとする素振りを見せた。
しかし、その場で回頭する艦など良い標的でしかない。
ドーソンは≪雀鷹≫の砲塔の一つを掌握すると、素早く敵の中破艦へ狙いを定めて荷電重粒子砲を放った。海賊になってから、長距離砲撃は散々に行ってきたので、楽々と命中させることが出来た。
戦艦級の砲撃を食らって、中破艦は爆散した。
「砲撃を続けて、敵を追い立てるぞ。そしてあわよくば撃沈させる」
ドーソンが敵艦を撃破したことに影響されたのか、味方の艦隊の砲撃の圧が増した。
3隻、新たに敵艦を沈めたところで、敵艦隊に新たな動きが起こる。
≪チキンボール≫の地表への降下を開始したのだ。
敵艦隊は戦艦と重巡艦を先頭に、舳先を≪チキンボール≫へ向けて、まるで衝角突撃するかのような勢いで降下していく。
「まだ≪チキンボール≫の防衛兵器の数が多い場所だっていうのに、無茶をする」
ドーソンが呟いた通り、≪チキンボール≫が砲撃を始め、濃い弾幕が敵艦隊へと殺到する。
敵艦隊からも砲撃が始まり、≪チキンボール≫の防衛兵器を少しでも減らして、安全に降下しようと頑張っている。
300隻近い敵艦隊の突撃降下の様子は壮観だが、ドーソンたちは見惚れているわけにもいかない。
「敵艦隊に砲撃を続ける。≪チキンボール≫の攻撃圏内には入るなよ」
ドーソンは忠告しつつ、味方艦隊に隊列の采配を行う。指示された通りに艦隊が動き、そして敵艦へと総攻撃が行われる。
≪チキンボール≫の地表からとドーソン率いる艦隊からの砲撃に晒されて、SU宇宙軍の艦隊に被害が出始める。
しかし敵艦隊は降下を止めず、やがて≪チキンボール≫の中距離砲撃圏内から近距離砲撃圏内へと進出した。
この瞬間、≪チキンボール≫に数多設置されている銃座が起動し、近づいてくる敵艦隊へと分厚い光に見えるような弾幕を展開した。
その光の中に敵艦隊は飲み込まれた。
だが敵艦隊の先頭は、その光を切り裂いて進む。戦艦と重巡艦が中心となり、その装甲で攻撃を弾き飛ばしているのだ。
≪チキンボール≫が2射、3射と攻撃を加えるが、敵艦隊の降下速度が落ちない。
「俺が予想した通り、≪チキンボール≫の近距離兵器では、戦艦級の装甲には通じないか」
ドーソンは歯噛みするが、しかし敵艦隊は無傷ではなかった。
敵戦艦と重巡艦は艦体は健在でも、艦の周りにある装備は全て破損してしまっている。砲塔や銃座にしても、赤熱していたり溶けかけていたりと、無整備で使うには怖い状態になっている。
そして戦艦と重巡艦の影に入れなかった巡宙艦以下の艦に至っては、その大半が装甲を削られて破壊されてしまっている。
それでも大半の敵艦が無事な様子で、降下していく。
その様子を見て、ドーソンはほくそ笑む。
「≪チキンボール≫には、まだお前たちに見せていない装備があるぞ」
ドーソンが呟いた瞬間、≪チキンボール≫の地表に変化が起こる。それは宇宙空間からでは目視で確認できない小さい変化で、≪チキンボール≫の地表に点々と穴が空いたのだ。
この穴は、ただの穴ではない。
宇宙魚雷の発射口――超近距離防衛用の兵器だった。
その発射口から魚雷が飛び出し、あと少しで≪チキンボール≫の地表に到達しようとしていた敵艦隊へと向かっていく。
行き成りの魚雷の登場に、敵艦隊も慌てたようで、砲塔や銃座を乱射して魚雷を撃ち落とそうと試みている。
しかし到達距離が短い至近距離では無類の強さを発揮するのが、魚雷という兵器だ。
瞬く間に敵艦隊へと殺到し、先頭を担っていた敵戦艦と重巡艦を発生させた爆炎の内に閉じ込めて溶かしてしまった。その後続も魚雷の餌食になる。
突撃降下を開始してからの一連の攻撃を受け、敵艦隊の数は半数ほどにまで激減。残り約150隻。
被害は甚大だが、ここまで来てしまっては引き返すこともできない。
敵艦隊は更に被害を出しながらも、無理矢理に≪チキンボール≫の地表に取り付いた。
100隻ほどまで艦隊の数が減少しながらも、敵艦隊から宇宙服を着た兵士たちが≪チキンボール≫へと飛び出し、白兵戦へと移行していった。