71話 準備着々
≪チキンボール≫を支援している企業を、SUから独立させる。
そのための下準備を、ドーソンは行うことにした。
まずは≪チキンボール≫の支配人であるジェネラル・カーネルに、企業と連絡を取らせることからだった。
「話は分かったとも。≪チキンボール≫で人工知能を育てて企業に輸出するのだね。合わせて、人工知能搭載型の小型艦を建造し、それをプレゼンもすると」
「小型艦の設計と素材の調達は、俺たちがやる。SUの艦艇を狩ってくればいいからな」
「海賊に戦闘を禁じる印を付けた艦船が、≪チキンボール≫の周辺宙域に多くなっているが?」
「出稼ぎに行くとも。幸い『キャリーシュ』がある。撃破した艦を隠して集める宙域さえ目星がつけば、≪チキンボール≫まで大量に拿捕した艦を持っていくことは可能だ」
「いざとなれば≪チキンボール≫所属の海賊に、クレジットを払って仕事を頼むことだって可能であるしな」
話は纏まり、ジェネラル・カーネルは企業と交渉に入った。
今のところ実物は1つもないので、この交渉は将来の商談のための前準備でしかない。
それでも、いよいよ事を始める際になれば、事前に話を付けているかいないかで進み方が変わってくる。
将来を見越した1手と見たら、やらなければいけない交渉だ。
企業との交渉をジェネラル・カーネルに任せた後、ドーソンは仲間を連れて遠出の狩りに出かけることにした。
撃破した艦を集めて置く宙域と、SUの艦艇を撃破するための宙域は、先の情報収集のときに選定済みだ。
「恒星が死んで誰もいなくなった星系に撃破した艦艇を隠す。その星系まで『キャリーシュ』1回で跳躍できる宙域かつ、TRと戦争中のSU宇宙軍の艦艇が通る道。このオイネとドーソンが調べた限りでは、3箇所しかありませんね」
「3つもあれば十分だ。SU宇宙軍は戦争を人減らしの手段にしていると分かったからな。被害を気にすることはないだろうさ」
ドーソンの予想通り、3箇所の襲撃場所を代わる代わる使用してみたが、SU宇宙軍はひっきりなしに艦隊を通過させていく。
ドーソンたちの戦力は、戦艦2隻に巡宙艦1隻だ。
敵側に戦艦が存在しなければ、倍以上の数を持つ艦隊であっても、撃破することが可能。
事実、まずは先制攻撃で≪雀鷹≫が戦艦級の荷電重粒子砲で超長距離射撃を行い、続いて進出して敵と距離を縮めた護衛戦艦とエイダが乗る巡宙艦が砲撃を加える。こうして先手を取られた上に荷電重粒子が止めどなく降ってくると、もうSU宇宙軍の艦艇に成す術はなく、大して間を置かずに撃破されてしまう。
≪雀鷹≫の主砲はかなり強力だが、超長距離での砲撃で、射出された荷電重粒子が程よく減衰してくれるので、敵艦を原型を留めた形で撃破することが可能になった。あとは護衛戦艦と巡宙艦による精密射撃で残りの艦の急所を抉って仕留める。こうすれば外装が溶けても中身が無事な艦と、外装がほぼ無事で急所のみを破壊された艦が残る。
その2種の艦をニコイチ修理すれば、健全な艦と廃材が出来上がる。
廃材も利用価値があり、手に入りやすい一般船を改造して小型の戦闘艦にする材料にできる。
こうしてドーソンは、せっせとSU宇宙軍の艦艇を撃破しては、拿捕した艦を≪チキンボール≫へ送る日常を続けた。
≪チキンボール≫の方でも、続々とやってくるSU艦艇を修理改造し、人工知能を搭載できる艦艇へと作り変えていく。同時に、新規作成したSU製人工知能を量産し、教育し、修理した艦に載せて運用のデータも収集していく。
この作業中、ジェネラル・カーネルは意外な手段を用いた。
それは、ゴウドたちを新造人工知能たちの教育係に任命したのだ。
「食事処の責任者だけでなく、人工知能とはいえ新人の教育を任されるとは。うむうむ、准将であるこの私向きな仕事だな」
「ゴウド様は人工知能の情緒の安定に努めてください。倫理と戦闘の教育は、こちらに任せていただきます」
「あー。操艦だけなら教えられるかもな」
ゴウドたちは、軍人らしい内容の依頼を受けて、張り切って人工知能たちを教育していく。
もちろん彼らには、ジェネラル・カーネルとは別の思惑を持っていた。
教育する人工知能の多くが企業に売り払われることになるが、ゴウド達が教えの親であることには変わりない。
その教育者として稼いだ人工知能たちの恩を将来で何かに活用できないかと、そう打算があっての行動だった。
ドーソンが方針を立てて2ヶ月ほどが経過。
順調に作業を行っていたが、≪チキンボール≫の方から待ったがかかった。
これ以上の港を拿捕したSU艦艇で埋めるのは問題が出ると、物言いがついたのだ。
『≪チキンボール≫は海賊拠点だ。集まる海賊たちに港の空きを残しておかないといけない。これ以上の艦を受け入れることは難しい』
ジェネラル・カーネルが通信で告げてきて、ドーソンは了承するしかなかった。
「だが、そんなに言われるほど、艦艇を集めたか?」
『修復した艦艇の数は、大まかに20隻。だが余った素材で小型艦を建造してもいる。その小型艦まで含めると、50隻近い数の艦が≪チキンボール≫の港を占めている』
「およそ50隻か。そりゃ港が埋まるわけだ」
艦艇50隻とは、大隊規模。宇宙の1地域を守護するには十二分な戦力だ。
それだけの数に至るまでドーソンがSU艦艇を撃破した証左でもあるが、同時にSU宇宙軍の家庭と人員の数の多さを証明する内容でもある。
つまりは、1大隊規模の艦と人を失っても、TRとの戦争に障害が出ている様子はないため、SU宇宙軍にとって『人減らし』の範疇から出ていないということ。
流石は1つの星腕の大半を牛耳る巨大国家。物資と人員に余裕があり過ぎだった。
「ともあれ、これ以上艦艇を増やせないとなったら、次の段階に移行するしかないな」
『企業にプレゼンテーションを行うというわけかな』
「多くの艦艇を人工知能のみで過不足なく運用できる。その実証ができれば、企業は動くだろう。SUからの独立という方向にな」
『もともと件の企業は、SUからの独立を画策していたのだ。身を守れるだけの戦闘能力が手に入ったのなら、迷いなく独立するだろう』
そんなジェネラル・カーネルの予想もあり、ドーソンは予定を切り上げることにした。
しかし、ドーソンは人生の大半を軍学校で過ごしてきた人生から、そしてジェネラル・カーネルは稼働して間もない人工知能だったため、SU支配宙域で長年を生き抜いてきた大企業という存在を真に理解はしていなかった。
海賊が提供する人工知能たちだけで運用する艦艇を、例えどれだけいい結果がデータで出ていようとも、それだけでは信用しないということを。