70話 次なる1歩
SU支配宙域に、SUへの反対勢力を多数作る。
文字面は単純そうに見えるが、これが難事だということは、そう目標を掲げたドーソン自身は分かっていた。
「1つずつ地道に行くしかないな」
「地道にって、なにをどうするんですか?」
オイネの疑問の声に、ドーソンは立てた予定を口に出す。
「まずは≪チキンボール≫を支援する企業と、その企業が経済的に支配している宙域を、SUから独立させる。この企業は、海賊と繋がってでもSUから独立しようと考えているようだからな。比較的簡単に独立してくれるはずだ」
「確かにそんな予兆はありましたけど、SUとTRが戦争を始めてからは、件の企業は様子見をしているように見受けられますけど?」
「そういえば、その企業の影響が大きい宙域を通る商業用の物資運搬船だけでなく、SU宇宙軍の輸送艦にも、攻撃不可のマークを貼り付けさせるような真似をしていたな」
「その企業の行動があったから、我々は≪チキンボール≫から少し離れ、件の企業の影響が少ない宙域で海賊活動をしているんです。そういう事情を考えると、企業が独立したいと今でも感がているかには疑問があるのでは?」
「それはどうかな。俺の考えでは、企業がSUから独立することは決定事項のはずだ。ただ、戦争でTRがどんな未来に向かうかで、対応が変わるだけだと思うぞ」
「独立は決めていて、どう独立するかを決めるために様子見していると?」
「ああ。TRがSUと善戦すれば、企業はTRと同盟を結び、共にSUに対抗しようとするだろう。逆にTRが不甲斐ない戦争しかできないようなら、企業は独立独歩の道を行きつつ、SUに不満を持つ人達をオリオン星腕中から集めにかかる。そうなるはずだ」
ドーソンの自信ありげな口調に、会話をしていたオイネだけでなく、≪雀鷹≫のブリッジにいる乗員も、そうなるんだろうなと納得してしまう。
「では、企業が独立する際に我々はどう行動すると良いと、ドーソンは思っているんです?」
オイネの続いての疑問に、ドーソンは少し考え込む。
「そうだな。企業に戦力の提供を出来るようにすることが最適だろう」
「戦力ですか?」
オイネが疑問の声を上げるが、これは仕方がない事だろう。
なにせドーソンたちの戦力は、≪雀鷹≫と護衛戦艦に巡宙艦が1隻ずつ。1つの星腕を支配する国家から独立しようとする企業へ提供する戦力だとは、とても言えない。
その懸念を払しょくするように、ドーソンは考え方が違うのだと説明する。
「俺たちの戦力を、そのまま与えるわけじゃない。それ以外の方法で、企業の戦力を拡充させようというしているんだ」
「どうやってですか?」
「企業がやろうとしている戦略に乗っかるんだ。その戦略のノウハウを、俺たちは持っているからな」
「戦略――もしかして、人工知能を用いた艦艇の運用ですか?」
「その通り。エイダ、ベーラ、コリィ、そして護衛戦艦のディカたちの製造元は、その企業だ。どうしてオリオン星腕では禁忌な人工知能を作ったのかと考えたら、SUの戦力に対抗するためという考えが自然だ」
ドーソンの予想に、オイネも同意する。
「エイダたちの掃宙艇を運用するデータを取っていましたね。そして『キャリーシュ』に人工知能を搭載させていたのも、推進装置と跳躍装置の稼働を任せる人工知能を作るためのデータ取りというわけですね」
「まあ、データは取れても、あまり上手く活用できてはいなさそうだけどな。順調に人工知能を艦艇に搭載できているのなら、企業は戦争の様子見をすることなく独立しているはずだからな」
「人工知能の育成に失敗していると?」
「多分だが、集めたデータを突っ込むことで、完成された人工知能を作ろうとして、失敗し続けているんだと思う。無人格の電脳なら、この方法で楽に作れるからな」
「失敗の原因はそれだけではないでしょうね。当初のエイダたちが機能制限を受けていたのを考えると、企業は人工知能の暴走や反乱が起きないよう神経を尖らせていることがわかります」
「大昔に人工知能が反乱したから、操作せないようにって措置したがっているわけだ。俺からすると、禁忌である人工知能を使うと決めたのなら、多少の危険には目を瞑って、人工知能の能力を十全に発揮させようと試みるがな」
「企業としては、損益を考えると、人工知能の暴走や反乱は困るんでしょうね。禁忌の技術を使うからには、その技術が安全であると証明できないと、独立への支持を集められないでしょうから」
「理由はどうあれ、企業が人工知能を上手く開発できていないのなら、こちらから提供してやればいい。もちろんSU製の人工知能をな」
ここでようやく、ドーソンがどういう風に企業に戦力を提供するかの話に繋がった。
「エイダたちの人工知能ユニットの複製は、製造を≪チキンボール≫内でやればいい。人工知能が多数居るアマト皇和国流の育て方で、人工知能の人格形成を助けてやれもする」
「エイダたちの人格の根底をコピーし、それを基礎人格の核にすれば、素早い人格形成が出来ると思いますしね」
「反乱にしたって、防止策はいくらでもとれる。そもそも、人間が人工知能に対して奴隷のような扱いをしたからこそ、昔のオリオン星腕では反乱が起きたんだ。そういう扱いをしなければ、問題はないはずだ」
「事実、エイダたちは地獄の猛特訓を受けたのに、ドーソンに反抗する素振りはないですしね」
オイネの言葉を耳にして、エイダ、ベーラ、コリィが順に口を開く。
『訓練内容は厳しいものでも、扱いは不当ではなかったでありますし』
「ちゃーんとベーラたちの実力を伸ばそうとしてくれてたし~」
「た、大変だったけど、必要なことだったと、分かってる」
3人の意見はまさに、不当な扱いをしなければ悪感情を持たれないという好例だった。
「とまあ、人工知能の扱い方のマニュアルも作っておけば、企業側から不満がでることはないだろ。奴隷扱いできる存在が欲しいのなら、無人格電脳があるわけだしな」
ドーソンの説明に、ブリッジにいる全員が納得した。
理解が得られたところで、ドーソンは≪チキンボール≫に帰投してから直ぐにジェネラル・カーネルに連絡を繋げて、企業へ人工知能の納品を打診するよう要請した。