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67話 活動再開

 戦艦≪雀鷹≫に乗り込み、護衛戦艦を伴って、ドーソンはSU宇宙軍の艦艇小隊を襲撃した。

 目的は、≪雀鷹≫で実戦経験を積むこと。そして≪雀鷹≫に乗らないことを宣言した、エイダの乗艦を確保するためだ。

 SU宇宙軍の艦艇小隊を倒すこと自体は、大した問題もなく終了した。

 ≪雀鷹≫の運用に問題はなかったし、護衛戦艦の戦い方も上手くなっていたし、エイダ用の巡宙艦も拿捕できた。

 そんな中で、あえて問題があった場所を探すとすると、それは≪雀鷹≫の主砲の威力だった。


「正式な戦艦級の大砲だと、あんなに威力が出るんだな」

「拿捕するために手加減しようと低収束度で荷電重粒子砲を放ってみたら、巡宙艦1隻が全壊してしまいましたね」


 ドーソンの呟きに、オイネが自身の躯体の表情を苦笑いに変える。

 そう、≪雀鷹≫の主砲から放たれた荷電重粒子砲は、発射直後から末広がりの円錐状に広がりながら宇宙空間を突き進み、SU宇宙軍の巡宙艦1隻を飲み込む形で直撃。重巡艦以下の砲なら敵艦の表面を炙るだけで済んだはずだった。しかしアマト皇和国製の戦艦用の威力は桁違いの破壊力を発揮し、巡宙艦を熱し溶かしてしまったのだ。

 この事実を目にして、ドーソンは巡宙艦の確保を護衛戦艦に任せることにして、≪雀鷹≫は他の敵艦を殲滅することにした。

 その結果、確保した巡宙艦以外の敵艦は、≪雀鷹≫の馬鹿げた主砲の威力によって宇宙の藻屑に成り果てた。


「戦艦は敵を撃破するには最良だが、拿捕を考慮すると途端に使い難くなるな」

「戦艦という艦種名の通り、敵艦と戦うための艦艇ですからね。拿捕が苦手なことは仕方がないですよ」

「そうなると、エイダが巡宙艦に乗ると表明したのは良かったな。護衛戦艦と合わせて、敵艦を拿捕できる艦が2隻になるからな」


 ドーソンが褒めたようなことを言ったところ、傍らに戦闘用アンドロイド姿で立つエイダが胸を張った。


「戦闘ユニットを構成する際は、単一構成も悪くはないでありますが、別類を組み合わせて多用性を重視するべきであります」

「艦艇で小隊を組むときも、駆逐艦と掃宙艇や巡宙艦と駆逐艦だったり、重巡艦と巡宙艦との組み合わせたりと、同一艦種だけの構成はしないものだからな」

「拿捕した巡宙艦に自分が乗れば、小型戦艦1,護衛戦艦1、巡宙艦1と、バランスが良くなるでありますよ」


 エイダが巡宙艦を希望したのは、艦隊編成のことを思ってのことだったのかと、ドーソンは感心した。

 しかし、その感心は長く続かない。

 エイダだけがドーソンに褒められたことが気に食わなかったのか、コリィがエイダの思惑を語ったのだ。


「ご、ご主人。エイダは、趣味の武器のため、自分の艦が欲しかったんだ」

「趣味のため?」

「艦の個室は、せ、狭いから。武器を多く、集められないから」

「なるほど。自分専用の艦艇を持てば、艦の備品を好みのモノに揃えられるものな。アンドロイド用の武器にしても、艦の装備に必要だからと、大量に揃えることだってできる」


 ドーソンに思惑を言い当てられ、エイダは困った様子になる。


「そういった考えがなかったとは言わないでありますが――ダメ、でありますか?」

「いや、ダメじゃないぞ。エイダに与える艦だ。海賊艦になるのだから、好きに改造すればいい。ただし、巡宙艦を修復した後での改造費用はエイダの口座からの持ち出しになるからな」

「そこは分かっているでありますよ。むしろ、自分のお金で自分の好みに買い物したり改造したりすることが、趣味の喜びの1つでありますから」


 ウキウキしているエイダに、ベーラがニンマリと笑みを向ける。


「エイダちゃんが艦を倉庫代わりに使うのなら、1部屋をベーラの衣装用クローゼットにしてもいいかな~?」

「うえぇ!? ベーラの衣服を預かるのでありますか?」

「ダメかな~?」

「預かるだけなら構わないでありますが、型落ちの武器が見向きされないみたいに、流行外れの服は着なくなるものでは?」

「服の流行って、必ず時代が一回りするものだよ~。ちゃんと残しておけば、後で流行の最先端に乗れるんだから~」

「……その時代がくるまで預かるとなると、1室では足りないような気がするでありますな」


 ドーソンたちが何時もの調子で掛け合いしていると、やおら吹き出し笑いが聞こえた。

 発生源は、キワカだった。


「申し訳ありません。でも、皆さんが楽しそうで、思わず」

「その通り。いやあ、これほど楽しい会話があるブリッジは、他にはないでしょうよ」


 艦を何度も渡り歩いてきたヒトカネが同意したことで、ドーソンは気になった。


「他の艦でも会話ぐらいはするだろ?」

「会話はあっても業務関係のものが多かった。あとは就業中の私語厳禁という艦もあった」

「艦長が会話内容に難癖をつけて、部下にセクハラをしてくる艦もありますし」

「なんだか軍艦勤務は、つまらなそうでありますね」

「仕事なんだから、つまらないのが、普通」

「あら~。仕事でも楽しいものは一杯あるけど~?」


 艦での戦闘を終えたことで関係が少し強化されたのか、ドーソンたちは会話を重ねていく。

 その様子を通信で聞いていた護衛戦艦――その艦長であるディカは、疎外感を得ながら、拿捕した巡宙艦に『キャリーシュ』を巻く作業を粛々と行った。



 ≪チキンボール≫への帰り道、ドーソンは護衛戦艦のディカと会話をしながら戻っていた。

 そして≪チキンボール≫の周辺宙域に着いたとき、ディカが疑問の声を上げる。


『あれ? おかしいですね』


 ドーソンがレーダー観測を任せていたキワカに視線を向けるが、横の首振りで返答がくる。

 

「なにか異常事態か? こちらでは何も観測してないが?」

『いえ。こちらの話ですよ。≪チキンボール≫にいる人工知能たちからの相談のことなんです』

「変な相談を持ち掛けられているのか?」

『それが、相談件数が何時もより少ないんです。調べてみると、特定の場所に勤務している人工知能だけ、相談をしてこないんですよ』

「相談が少ないことは良い事だろうけれど、ある場所だけな点が気にかかるわけか」

『はい。しかもその場所というのが、飲食店街フードコートなんです。海賊さんたちと関り合うから、常に相談が持ち込まれる場所のはずなんですけど』

「それは気になるな。その場所にいる人工知能たちと通信は繋がるか?」

『繋がりますけど、どの子たちも『問題なし』と返答するだけです』


 気になる事態に、ドーソンは確かめる必要性を感じた。


「≪チキンボール≫帰投後、直ぐに飲食店街へ向かうことにする。エイダは護衛で連れて行く。その他は≪雀鷹≫で待機――」


 ドーソンが指示出ししていると、キワカがスッと挙手した。


「なにか意見が?」

「はい。僕も連れて行ってください」


 唐突な宣言に、ドーソンは思わずキワカの体型を見つめてしまう。

 キワカは、その細面もあって、実に少女然とした姿形をしている。荒事に突っ込めるようにはとても見えない。


「……連れて行くのは構わないが、戦えるのか?」

「もちろんです。僕はあの日から、今度は自分自身を守れるようにと、訓練に励んできました!」


 セクハラ事件を切っ掛けに、戦えるようになったとの言葉に、ドーソンは受け入れるしかなかった。

 それにドーソンは、何となく飲食店街で荒事になる可能性は低いと考えていた。

 飲食店街の人工知能たちが『問題なし』と報告している点と、ディカが寄せられた相談の中から荒事関係の話が出してこなかった点から、そう感じていた。

 だからキワカを連れても問題ないと判断した。


「よし。エイダとキワカを連れて、飲食店街へ向かうことにする」


 ドーソンとキワカは仮面を被り、エイダは手持ちの武器の確認に入る。

 そして≪雀鷹≫が港に着くと、3人で飲食店街へと向かって走り出した。

 電車に乗り、飲食店街入口の駅で下車すると、1機の工兵ロボットが近寄ってきた。


『ドーソンさん。私もこのロボットの目を通して、事態を確認しますね』


 工兵ロボットを動かしているのは、ディカだ。護衛戦艦は≪雀鷹≫から遅れて港に入ったため、飲食店街の確認しに来るのが遅れたと弁明があった。

 こうして4人で飲食店街に入ると、異常事態が起こっているはずなのに、実に平和な光景が広がっていた。

 飲食店街に集まった海賊たちは、有名チェーン店の料理を楽しげにパクつき、他愛のない話に興じている。

 食べ零しや飲み零しで床が汚れると、すぐに掃除ロボットがやってきて、機械音声で零した海賊に注意を行う。

 提供される飲食物に欠品はなく、誰かが暴れていたりもせず、ロボットに偽装している人工知能にハッキングを試みている輩もいない。

 とても穏やかな日常が、飲食店街には広がっていた。


『これは確かに『問題なし』な光景ですけど、あの子たちからの悩みの減少に繋がっているかというと……』


 ディカの疑問がドーソンの耳に入ったと同時に、ディカといる場所とは別方向から声がかけられた。


「おー! ドーソン特務――ドーソン君じゃないかね。食事をしに来たのかね? それともテイクアウトで艦内で食べるのかね?」


 その声は、港で別れたきりだった、ゴウドのもの。

 ドーソンが声の方向に目を向けると、そこには確かにゴウドがいた。ただし見に付けている衣服が、清掃員のものになっていた。そしてやたらと似合っていた。


「ゴウド、さん。貴方はどうしてここに?」

「ん? そりゃあ、もちろん仕事だとも。この飲食店街の責任者かつ清掃統括者として、働いているのだよ」


 ゴウドの言葉に、ドーソンは目が点になる。

 ゴウドは『≪チキンボール≫の支配人に成り代わる』と考えていたはずなのに、どうして飲食店街の責任者になっているのか、それが分からなかった。

 しかしディカは、ゴウドが責任者だと知って、納得したようだ。


『ゴウドさんが相談に乗ってくれるから、私に相談が来なくなったんですね』

「おや君は、ここの前任の責任者かね? そうだ。色々と相談されて、それを次々に解決してみせたとも。なっははは!」


 ゴウドが笑い声をあげると、その背後にスッと人影が現れた。

 ドーソンが警戒しながら目を向けると、ゴウドの腹心のアイフォだった。その服装は軍服――に近い、警備員のものだった。


「ゴウド様。作業指示が滞っていますが?」

「おお、アイフォ。すまない、すまない。ついでにドーソン君には教えておくが、アイフォはここの警備責任者になった。基本的に酒の提供のある場所で仕事しておる。ジーエイの奴は、電脳のない港での機械作業員になった。覚えておいてくれ」

「仕事に戻りますよ、ゴウド様」

「分かっているとも。ではな!」


 ゴウドは楽しげに、アイフォは何時もと変わらない様子で、飲食店街の仕事に戻っていった。

 ドーソンは離れていく2人の様子を見て、肩をすくませる。


「あー。何も問題はなさそうだな。エイダとキワカは出張らせたのに、やることがなくて申し訳なかった」

「装備の試し打ちが出来ると思ったのに、出来なかったでありますよ」

「あははっ。何事もないのなら、よかったですよ」


 完全な無駄足に終わってしまったが、折角飲食店街に来たのだからと、有名チェーン店の飲食物を買い込んで≪雀鷹≫の食堂まで運ぶことにしたのだった。


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― 新着の感想 ―
 こう言う時には、ゴドウ やっぱり有能。
[一言] ゴウドさん達も訛り対策してんのかな?まあ仮面にする必要はないんだろうけど。
[一言] 部下に慕われてる描写あったけど、面倒見がいいんやろなぁ。
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