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61話 チビ戦艦、未だ建築中

 エイダたちへのお土産を買い終えて以降、ドーソンとオイネは暇な時間を過ごすしかなくなった。

 なにせ、チビ戦艦も建造中で、その戦艦に乗り込む人員の選定も終わっていないため、ドーソンが行える業務がない。

 そのため、ドーソンは暇つぶしをするしかなかった。

 宇宙ステーション『ワゴヤマ』のホテルの室内で電子書籍を読んでみたり、ホテルのジムで汗を流してみたり、アマト皇和国の本星に降りて観光してみたり、軍施設で発砲訓練やチビ戦艦用の操艦練習や艦隊シミュレーションしてみたりした。

 オイネは、ドーソンのそんな行動について回り、何が面白いのか常にニコニコしていた。

 そんなこんなで、ドーソンたちがアマト皇和国の本星に戻って1ヶ月の時間が過ぎた。

 予定では、この1ヶ月間でチビ戦艦が出来るという話だったので、ドーソンとオイネは『ワゴヤマ』の4番ドックへとやってきた。


「申し訳ありません。未だ、建造は8割しか完成してません」


 ヒメナの言葉に、ドーソンは肩を落とす。


「急がせて1ヶ月と聞いていたから覚悟していたが、どうして建造が遅れているんだ?」

「それが、そのー……」


 言葉を濁すヒメナだったが、言い辛そうに理由を語った。


「実は設計図に拙いところがありまして。それをドックの人工知能たちが許せなかったらしく、適宜修正を行いながら建造を行っていたようでして」

「新設計の戦艦だから設計図が洗練されていないこともあるだろうが、勝手に修正を加えて良いのか?」

「良くはないのですが、ですが戦艦の性能は搭乗する人員の命に関りますので、設計図通りに『手抜き』することを人工知能たちは嫌がるんです」

「修正できる部分を直さずにいることが、手抜きだと感じるのか?」

「人工知能たちは仕事に誇りを持ってますから。それに、もともと作業期間を1ヶ月で終わせるのは難しいことは分かっていたので、納期が明確に設定されていなかったのが災いしている部分もありまして」

「事情はわからなくはないが……」


 ドーソンは、更なる暇つぶしをしないといけないのかと落ち込みかけて、そう考えるのはいけないことだと思い直した。


「いや。良い戦艦を作ってくれようとしているんだ。その働きに感謝しないといけないな。だが、修正点を加えた後の、実際の戦艦の設計図もちゃんと作っておいてくれよ。前の設計図と違い過ぎて、後で修復できなくなったら本末転倒だしな」

「その点は大丈夫です。修正される度に設計図が更新されてますので」


 ヒメナが請け負ってくれたので、ドーソンは心配することを止める。

 しかし1ヶ月で8割完成ということは、残り2割では8日前後の作業時間が要る計算になる。

 その空き時間をどうしたものかと、ドーソンは考えようとして、はたと思い出す。


「戦艦に乗る人員の選定は終わっているのか?」


 ドーソンの問いかけに、ヒメナは空間投影型のモニターを呼び出して画像を表示させる。


「後方作戦室からの人員2名は決まってます。これが、その人たちです」


 画面に映し出されたバスとトップ写真は2種類。

 1つは、名前がヒトカネ・イーワ。いつ退役してもおかしくはない年齢の、総白髪で皺の多い年配の男性。階級は軍曹。来歴は複数の艦で艦体修復の任務に就き続け、長年の働きが認められて軍曹の階級へ。退役間近な年齢であることを理由に、後進へ居場所を譲って後方作戦室へと異動した。

 もう片方の名前は、キワカ・チョスガブ。年齢は18歳。男性と性別表記はあるが、顔つきはボブカットの美少女にしか見えない。幼年学校上がりの新兵で、階級は1等兵。来歴は1つの駆逐艦でレーダー手を任じられた後、1年も経たずに後方作戦室へ。異動理由は、駆逐艦の女性艦長に性的セクハラを受けたため、一時避難先に後方作戦室が適していたからだとある。


「修復官とレーダー手か。中々に良い人材だな。この2人で本決まりか?」

「この2人で、決定です。どちらも、オリオン星腕に出向することを受け入れています」

「退役間近な老人と、前途有望な若者がか?」

「本当ですよ。ヒトカネ軍曹は奥さまを亡くされ、退役で息子夫婦に世話になるわけにはいかないと、現役続行を望んでいました。オリオン星腕への出向は特務ですから、任務に就いているかぎり年齢による退役は期限延長されます」

「キワカ1等兵は?」

「可愛らしい美男子の彼は、幼年学校時代から男子にも女子にも体を狙われることが多かったようです。配属先の駆逐艦艦長も、その美貌にコロっと参ってしまって、職権を用いてイタズラをしようとしたところを、駆逐艦に搭載された人工知能の告発で未然に阻止できたようです」

「それとオリオン星腕への出向と、どうつながるんだ?」

「キワカ1等兵は、自分の体を狙わない上司であることと、人工知能が多く活躍する部署への配置を希望していました。その希望が通るのなら、どこでも良いと。オリオン星腕の≪チキンボール≫では多くの人工知能が活動してますし、ドーソン特務中尉は美男子の肉体に興味はないでしょう?」

「俺を好いてくれてもいない相手の体を、どうこうする気はないな。相手がたとえ、二度と目にかかれないような絶世の美女だったとしてもな」

「そうでしょうね。なにせ、この私が丹精込めて美少女に作り上げたオイネの躯体が身近にあるのに、性的な事を行っていないようですし」


 ヒメナの言葉を聞いて、ドーソンは思わず睨んでしまった。


「おい。オイネの躯体が必要以上に美少女なのは、ヒメナ伍長の趣味以上に、俺が性的にだらしないかを調べるための試験のためだったのか?」

「見抜かれました通り、私の考える一番可愛くて強い躯体を作ることと、キワカ1等兵が安心してドーソン特務中尉の下で働けるかを調べるためですね」


 事情を知って、ドーソンは文句を言おうとして、しかし止めた。

 事情はどうあれ、オイネが自分の躯体を好んでいることを、ホテルの部屋での生活で共に暮らして把握していたからだ。


「まあいい。この2人に会う事はできるか?」

「しばらくは無理ですね。ヒトカネ軍曹は、有休を使って遠方へ赴任することを、別星系で暮らす息子夫婦に伝えに行ってます。キワカ1等兵については、軍法会議でセクハラ艦長の処遇が近々結審されるんですが、それまでは証人保護が適応されてますので」

「それなら仕方ない。じゃあ、他部署から来るっていう、他3人については?」

「噂の段階で良いのなら、情報はありますよ」


 ヒメナがモニターを操作して、3人の顔写真を表示した。


「階級順に、ゴウド・ムジコ准将、アイフォ・ニイミ中佐、ジーエイ・イケヅク中尉です」


 ゴウド准将は、口髭と顎先に髭のある恰幅の良い中年男性。高位貴族出身のものの継承権は低い。経歴は補給艦の艦長から平和な場所を守る守衛艦隊指揮官を経て、物資集積衛星の司令となっていた。

 アイフォ中佐は、鋭利な目つきが特徴の30代の女性。ゴウド准将と経歴が全く同じなので、ゴウド准将の側近だと分かる。

 ジーエイ中尉は、温和そうなタヌキ顔の20代後半の男性。駆逐艦と巡宙艦の操舵手を歴任し、アマト星腕へ進出してきたSU艦隊との戦いで乗艦が活躍。操艦による功績が大として、少尉から中尉へと昇進した。その後、ゴウド准将が司令を務めていた物資集積衛星所属の補給艦の1つの操舵手になり、やがてゴウド准将の乗艦の操舵手を務めるようになった。


「この来歴を見るに、3人とも出世の主流から外れた窓際って感じだな」

「後方作戦室が収集した情報でも、貴族派と軍務派が共に推薦できる生まれと経歴の割に、居なくなっても別に困らない人材とのことです」

「オリオン星腕に送り出したところで派閥は痛くも痒くもないが、≪チキンボール≫での活動で上がった功績を派閥の手柄にもできる。ローリスクでハイリターンを期待できるってわけだ」

「ゴウド准将ご自身は、オリオン星腕への出向を拒否したがってますけど、まあ認められないでしょうね。≪チキンボール≫は要塞衛星ですから、アマト星海軍の規定では責任者に将官が必須ですので」

「奪い取った海賊拠点の責任者に、ゴウド准将を据えようって?」

「後方作戦室ではそう思ってませんが、貴族派と軍務派はそう考えているようですね。拠点の責任者になれば、必然的にドーソン特務中尉の上司に成れますし」

「企みは立派だが、実現できるとは思えないな」

「特務中尉が従わないから、ですか?」

「俺の場合は、いざとなったら≪チキンボール≫から離れて海賊活動したっていいしな。でもそれ以上に、ポッと出の拠点の責任者を、海賊が認めるとは思えない。≪チキンボール≫を保守してくれている人工知能たちもな」

「ゴウド准将たち3人は、≪チキンボール≫に行ったところで何もできないと?」

「まずは支配人の手下って扱いで≪チキンボール≫に馴染むところから始めれば、受け入れられるとは思うぞ。そんな真似を、准将閣下が認めるかどうかは知らんが」


 ドーソンは言いながら、3人の顔写真を見続ける。

 ヒメナは噂と言っていたが、これほど使い潰しにしても惜しくない人材は滅多にいない。きっと本決まりになると、そう確信しながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴルドムジ…おっと見間違い。
[気になる点] 男に手出すかの試験が女性型アンドロイドって意味あるのか? ドーソンに独自行動権があるのか? [一言] 誤射や多少手荒な再教育フラグが立った気がする。 最前線にこの人事はちょっと‥無能…
[良い点] 面白かった [一言] 高位貴族出身のものの継承権は →高位貴族出身であるものの
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