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48話 必要/不必要

 護衛戦艦の訓練が終わり、ドーソンは人工知能たちを引き連れて、SU宇宙軍を相手に海賊仕事を再開することにした。

 しかしながら、SU宇宙軍もやられてばかりではない。見事な対応策を講じてきた。


「まさか宇宙で艦外旗を見ることになるなんてな」


 ドーソンが呟いた通り、SU宇宙軍の物資輸送艦に大きな旗が掲げられている。その遠目からでもハッキリと分かる大旗に描かれていた模様は、例の攻撃不可のマークだ。


「艦体に直接描いていないのは、この付近の宙域から出たところで、回収して畳むためだろうな」

『TRとの戦場で、海賊に降参したことを意味するマークを付けていると、士気に関わります。艦体に描くのではなく旗で済ましたのは、良い判断と言えますね』

「被害を出さずに輸送を完了するにも良い手ではあるが、それでいいのかって思いもあるな」


 ドーソンが思わず苦言を口にしたのには理由がある。


「あのマークを掲げる許可は、≪チキンボール≫を支援している企業が出しているはずだ。ってことは、SU宇宙軍はその企業に大きな借りを作ったことになる」

『その借りの返済に、どんなことを求められるか、怖いですよね』

「企業の利益のために軍部との繋がりを作るってのが順当で、SUから独立する際に脅威となる軍艦のデータ収集を行う前段階ってのが大穴な感じだな」

『海賊との繋がりという後ろ暗い部分を消すために、艦隊を借り受けるってこともあり得ますね』

「TRと戦争をしている間は、SUに海賊に避ける艦隊はないだろうから、可能性は低いはずだ。だが戦争が終われば、あり得るかもしれないな」


 企業の本質は利益追求だ。SU軍部との繋がりが利益になると思えば、海賊を切り捨てることに躊躇いはないだろう。

 しかし海賊を切るということは、企業がSUから独立するという夢を諦めることでもある。


「どちらを選ぶのか興味はある。だがいまは、俺たちの海賊仕事をどうするかが問題だよな」

『この宙域だと攻撃不可マークの艦船ばかりですし、宙域を移動しますか?』

「あまり離れすぎるのも問題があるだろ。エイダたちの運用データは、掃宙艇にある隠し装置で≪チキンボール≫に送られているんだろ?」

『その通りです。ということはドーソンは、宙域を離れるとその装置が悪さをするかもという懸念をしているわけですね?』

「オリオン星腕内では人工知能は禁忌だ。手の届く範囲から外れると存在がバレる危険があるのなら、範囲から外れた瞬間に壊す方が安全だろ」

『いっそのこと、その装置を壊してしまうのは?』

「それを行うのは宙域を移すと決めたときだ。いまはもうちょっと、≪チキンボール≫を拠点に活動しておきたい。このまま上手く行けば、≪チキンボール≫をアマト星海軍の出張拠点に出来るかもしれないしな」


 ドーソンが告げた発想の飛躍に、オイネは疑問の声を出す。


『≪チキンボール≫がアマト星海軍の拠点に、ですか?』

「俺が考える絵空事が上手く行ったら、そういう未来もあり得るって話だ」

『よくは分かりませんが、その考えを後方作戦室へ送っても構いませんよね?』

「いまは可能性の段階だと特筆しておいてくれ。下準備が成ったら、そのときは別に連絡する、ともな」

『では、次の定時連絡の際に送るとしますね』

「そうしてくれ――というわけで、宙域から外れないよう、海賊仕事をするわけだが、獲物の選定をし直さなきゃな」


 ドーソンはどうすべきかを考えて、先ほど見たSU宇宙軍の輸送艦の光景を思い出す。

 正確に言えば、例の攻撃不可のマークのある旗が、輸送艦にのみ掲げられていた光景をだ。


「俺の予想が正しいのなら――」


 ドーソンは≪チキンボール≫から買ったSU宇宙軍の艦艇情報を呼び出し、新たな狙いと定めた獲物を探していく。


「――輸送艦のない小隊で、可能なら重巡艦を含む小隊がいい」


 ドーソンは調べに調べて、ようやく1つだけ情報を見つけた。

 次の獲物が決まった瞬間だった。



 ドーソンは、≪大顎≫号、3隻の掃宙艇、護衛戦艦の布陣で、獲物がやってくる場所へと跳躍移動ジャンプした。

 今度の獲物は危険な相手なので、ドーソンは人工知能たちに向けて演説を行うことにした。


「いいか。今回の獲物は、重巡艦1、巡宙艦3の艦隊だ。これは、SUとTRの戦争に追加投入される新造艦たちという情報だ。この艦隊を、俺たちの手で撃破し、鹵獲する」


 ドーソンの宣言に、エイダが真っ先に反応した。


『重巡艦と巡宙艦の艦隊を相手にするでありますか!? 無謀だと思うのであります!』

「話を聞いていたのか? 相手は新造艦だ。ということは、乗る人員は操艦に慣れていない。艦砲が強力だから侮っていい相手ではないが、決して倒せない相手ではない」

『それでもでありますよ! 今回は海賊仕事初参加の新人がいるであるます! こちらも仕事に不慣れと言えるはずでありましょう!』

「アホ言え。むしろ新人――護衛戦艦がいるからこそ、より安全に重巡艦を含む艦隊を倒せるんだろうが」


 ドーソンの言葉に、驚きの反応を返したのは、当の新人人工知能たちの代表となったディカだった。


『わ、私たちのことを頼りにした作戦なんですか!?』

「当たり前だ。俺たちの中で、重巡艦からの砲撃を、一定条件下という条件は付くものの、防ぐことができるのは護衛戦艦の装甲だけだ。その装甲を頼りにしないでどうするよ」

『訓練したばかりの、初参加ですけど!』

「俺の訓練を突破できたから、この程度の作戦は熟せると判断しての起用だ」


 ドーソンのきっぱりとした言葉に、ベーラとコリィが諦め声になる。


『ドーソン様は言い出したら聞かないお方ですし~』

『く、訓練を終えてるなら、だ、大丈夫かな……』


 同期2人が消極的賛成に回ったため、エイダの反対意見が下火になる。


『むぅ……。成功する公算が高いのでありますね。なら、納得するであります』

「というわけで、やってもらうぞ、ディカ」

『ひうぅ。頑張りますぅ……』


 自信なさげの返事をしたディカだったが、実際に戦う段になると自信のなさは吹っ飛んでいた。


『待ち伏せからの初撃、命中です! ドーソンさんの砲撃と合わせて、巡宙艦2隻が航行不能! 敵重巡艦から発砲! 荷電重粒子砲! 艦を斜めにして、装甲厚で受け止めますよ!』


 敵艦体に攻撃不可マークがないことを確認してから戦端が開かれ、ディカは少しテンパり気味ではあるが、状況に合わせての操艦を同乗する人工知能たちへ向けて命令できていた。


『被弾、損傷軽微! 移動を続けながら反撃です! こちらも荷電重粒子砲、バンバン撃って!』


 護衛戦艦の3門ある砲塔から、次々に荷電重粒子砲が放たれる。推進機からの噴光も激しくなり、艦体が回避行動を始める。

 新人人工知能の派手な働きに、先輩であるエイダたちが触発される。


『敵の残りは、重巡艦1、巡宙艦2であります。ドーソン船長と新人が1隻ずつ仕留めてるでありますし、この3隻は小職らで討ち取るでありますよ!』

『では、とっか~ん!』

『じゅ、重巡艦でも、魚雷は耐えられない……』


 掃宙艇3隻が飛び出し、敵艦へと突っ込んでいく。その身軽さを生かし、高速移動と連続回避行動で、敵からの弾幕を潜り抜けていく。


「ディカ。エイダたち3隻を支援する。敵艦の間が空くように、砲撃しろ」

『はいぃ! みんな聞いていたよね、砲撃して、砲撃!』


 ≪大顎≫号と護衛戦艦は共に荷電重粒子砲を放つことで、敵艦に回避行動を強制させることで目的通りの位置へと移動させていく。

 しかし敵艦も軍属だ。ドーソンたちに、やられてばかりではない。


「チッ。こちらの砲が弱めだと察知されたな。重巡艦が前に出てきやがる」


 敵重巡艦は、装甲がドーソンたちの荷電重粒子砲に耐えられる限界まで接近することで、自身の持つ高威力の荷電重粒子砲の距離減衰を押え、その威力で護衛戦艦を貫こうと企んでいるようだ。

 加えて敵巡宙艦2隻は、荷電重粒子砲の収束率を下げて砲撃することで、ドーソンたちの行動の抑制を図ろうとしてくる。事実、≪大顎≫号の舳先の先を、拡散気味の荷電重粒子砲の光が何度も通過していく。

 ドーソンは≪大顎≫号を護衛戦艦の陰に入れつつ、ディカに指示を出す。


「護衛戦艦の装甲なら、あの距離の巡宙艦からの拡散気味の荷電重粒子砲は傷にすらならない。あの砲撃の光の中へ飛び込め!」

『ほ、砲撃の中にって、本気で!?』

「いいから、早くしろ!」

『も、もう! やってやるんだから! 増速、増速!』


 ディカの声に押されるように、目の前の砲撃に怖気づいて速度を落としつつあった護衛戦艦は速度を上げる。

 その直後、敵巡宙艦の砲撃が護衛戦艦に命中した。

 護衛戦艦の陰にいる≪大顎≫号の周囲が、荷電重粒子の光で真っ白になる。しかしその光景は一瞬だけで、すぐに元の光景に戻る。

 護衛戦艦は砲撃の直撃を受けたが、ドーソンが言った通り、装甲が少し熱されて赤く滲んだぐらいで済んでいた。

 一方で敵艦隊は、砲撃の囲い込みに失敗した瞬間、連携に齟齬が生まれていた。

 

「連携訓練が足りてなかったようだな」


 ドーソンは≪大顎≫号を護衛艦隊の陰から少し出すと、近づいてくる重巡艦へ砲撃した。

 ≪大顎≫号は巡宙艦級の荷電重粒子砲なのだが、重巡艦の装甲に弾かれてしまっている。最高収束率なので、これ以上の威力は出せない。

 護衛戦艦も砲撃を重巡艦へと集中させるが、こちらも巡宙艦級の砲塔なので、やはり重巡艦に痛手を与えられない。

 しかし、それでいい。


「ディカ! 砲撃を続けながら、銃座でも弾幕を張れ! 重巡艦の動きを少しでも鈍らせろ!」

『弾幕! 全力で!』


 護衛戦艦の銃座が唸りをあげ、熱戦砲レーザーを雨霰と放ち始める。

 敵重巡艦やその周辺に飛来するが、距離減衰があるため、装甲を焼くことすらできていない。

 しかし熱戦砲の弾幕によって、重巡艦の視界が限られた状態になる。それは肉眼でも、レーダー視界でもだ。

 その視界の狭さを見抜いたかのように、掃宙艇が1隻やってきた。コリィの艇だ。


『派手な方に、目を取られて、こっちを忘れてる……』


 コリィが通信越しに呟きながら、掃宙艇から魚雷を2発発射。

 ここでようやく敵重巡艦が接近に気づいたようだが、反応が遅すぎた。銃座からの銃撃で魚雷を撃ち落とそうとするが、艦尾に2発とも食らってしまう。

 魚雷の大爆発によって、重巡艦の後ろ半分――推進装置が丸ごと吹っ飛んだ。その余波で電装系も壊れてしまったのか、急に砲撃を止めてしまう。

 しかしコリィは油断せず、重巡艦のブリッジを至近距離からの荷電重粒子砲で撃ち溶かした。これで重巡艦の指揮者は全滅だ。

 敵艦隊の中で一番強い重巡艦が破壊されたことで、動揺が起こって士気が落ちたようで、残る巡宙艦2隻の動きの精彩さが消えた。

 その2隻も、横腹に魚雷を1発ずつもらって核融合ジェネレータが吹き飛んだため、戦闘能力が喪失した。


「これで決着だ。あとはお決まりの通信を送るとしようか」


 ドーソンは、撃破した艦隊に向けて通信を送る。脱出ポットで艦を離れれば、それ以上の追撃はしないと。

 その宣言を聞いて、SU宇宙軍の軍人たちが脱出ポットで艦外へと脱出し始める。戦闘能力を失った艦に居続けたところで、ドーソンたち相手に勝ち目はないと理解しての脱出だった。

 脱出ポットが次々と射出される中、ドーソンたちは護衛戦艦から『キャリーシュ』を出して、撃破した艦たちへ巻き付けていく。

 そして脱出ポットの射出が終わった艦から順に、跳躍移動させていく。


「さあ、これで重巡艦の砲塔が手に入った。これで護衛戦艦の改造が出来るぞ」


 ドーソンはほくそ笑みながら、半壊した重巡艦が『キャリーシュ』で跳躍する場面を見届けた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば今の所まともにミサイルが登場しませんね。 攻撃用も防御用も。 [一言] 宇宙空間は限りなく真空で大気が無いのでレーザーはの威力が落ちることはないです。 なので戦闘宙域程度の距…
[気になる点] 数が合わねー!! >>重巡艦1、巡宙艦3の艦隊 >>敵の残りは、重巡艦1、巡宙艦2であります。ドーソン船長と新人が1隻ずつ仕留めてる
[良い点] 面白かったです。 [気になる点] 軍艦から剥ぎ取りだー
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