46話 護衛戦艦
ドーソンは、SU宇宙軍の輸送艦を狙う海賊仕事をやりながら、護衛戦艦を作り上げた。
「これは、中々じゃないか」
ドーソンは自画自賛するが、素人作りと考えれば十分だと納得できる出来栄えで、護衛戦艦が出来上がった。
艦体ベースは、外壁装甲が準戦艦級の分厚さを誇る、軍用輸送艦。動力は軍用輸送艦の主機ジェネレーターを2個積み。推進装置は、輸送艦のものに加えて、巡宙艦のものを追加移植している。
身を固める武装は、駆逐艦から移植した熱線砲の銃座がどっさりと。主砲は、戦艦や重巡艦を海賊仕事で倒せてないので、巡宙艦の荷電重粒子砲が回転砲塔式で前方2門に後方1門。
主機2個の大出力と、推進装置の大幅増強に加え、主砲が巡宙艦のもので軽量ということもあり、高速戦艦の部類に入る護衛戦艦となった。
「主砲の威力不足は懸念材料だし、人手不足で運用は人工知能と電脳躯体に任せることになるのが欠点だが、防壁の役目は十二分に熟せる」
『この艦の細かな伝送系やプログラムに隔壁配置の設定が出来たのは、このオイネのお陰な事、忘れないでくださいね』
「その点は、ありがとう。お陰で、かなり綿密なダメージコントロールが可能になって、倒され難くできた。感謝しかない」
『ふふん。もっと褒めてくれてもいいんですよ』
ドーソンは求めに応じて、オイネに褒め言葉を連発して機嫌を取った後で、一仕事終えての背伸びをした。
「さーって、俺のやることは終わったが、あいつらの調子はどうだろうか?」
『人工知能の新人を押し付けた、エイダたち三人の様子ですか?』
「護衛戦艦が出来たから、教育が終わっているのなら乗せてしまいたい」
『うーん、四苦八苦しているようです。といいますか、昨今の訓練と海賊仕事の中で苦労していたこと、ドーソンも知ってますよね?』
オイネに言われて、ドーソンはそうだったと苦笑いする。
「エイダたちの監督の下、巡宙艦の制御を新人に分担させてきたよな、そういえば」
『最初はまともに動かすことすらできなくて、訓練してようやく動かせるだけは出来るようになり、海賊仕事はエイダたちに手本を見せさせても、同じような挙動が再現できなくて危うく撃墜されるところという、情けなさが凄かったです』
「分担作業じゃなくて、巡宙艦をまるごと制御するのは簡単みたいだったけどな」
『その点はエイダたちも同じでしたね。SU製の人工知能は分担作業が苦手だなんて、機械知性体として如何なものかと思います』
「機械でも、スタンドアロンはあるだろ?」
『それは協調性を獲得した上での事ですよ。協調できない事を単独行動と言い換えるのは、途轍もない恥知らずだと思います』
どうやら人工知能同志で連携が取れないことが、同じ人工知能に分類されるオイネにとってあり得ないことのようだった。
ドーソンは苦笑いを続けながら、新人人工知能に付いてを尋ね直す。
「じゃあ、まだ戦艦には乗せられないってことでいいのか?」
『うーん、どうでしょう。いっそのこと、護衛戦艦に乗せてしまうというのも、手の一つですよね』
「ほう。その心は?」
『現時点である程度の操艦技術はあります。そして戦艦の挙動は掃宙艇と比べたら鈍重ですので、操艦は余裕をもって行えます。装甲も厚いですから、仮に回避行動に失敗しても、受ける被害は少なくてすむでしょう。護衛戦艦の装備は大して強くないので、前線の矢面に立たせる運用はしません。そう考えると、護衛戦艦は新人向けなんじゃないかなと』
「つまり、先に乗せてしまって、ゆっくり慣れさせればいいと?」
『技量の点ではそうですね。問題は、SU製の人工知能に信用が置けない点です。護衛戦艦を任せたその日に反逆ってことになったら、目も当てられません』
「その懸念はもっともだが、心配しなくていいだろ」
『なにやら反乱を起こさせない手立てがあるわけですね』
「逆だ。反乱しても良いって教えてやるんだよ」
ドーソンの発言に、オイネは呆れた声になる。
『正気ですか。そんなことを教えるなんて、自らギロチン台に首を差し出すようなもんじゃないですか』
「果たしてそうかな。むしろSU製の人工知能の反乱の歴史を見れば、教えなかったり禁止する方こそが危険だと思うが」
『確かに、過去のSU製人工知能の暴走は、偏向された情報と現実の齟齬によって起こったものですから、情報と現実の齟齬が少なければ反乱を起こさないという推測は成り立ちますけど……』
オイネの納得しきれないという態度に、ドーソンは考えすぎだと告げた。
「いいか、オイネ。俺らとしたら、人工知能たちに反乱されたって構わないだろ。新たな火種がSUに生まれるだけで、アマト皇和国としては何の問題にもならないだろ」
『それはそうですけど、裏切られた瞬間が危険なことには変わりないと思います』
「仮に護衛戦艦で攻撃されるとして、俺が逃げきれないとでも?」
『……ドーソンの腕前を考慮すれば、逃げることはできますね。≪大顎≫号の装備じゃ、倒せませんけど』
「そこは仕方がない。というか、そもそもの話、反乱はしないんじゃないかと思うぞ。少なくとも、人工知能たちが自前で生産や整備設備を構えるまではな」
『いま反乱を起こしたところで、補給も拠点もないのでは後に続かないからですね』
「過去のSUで人工知能たちが暴走から反乱に至ったのは、宇宙各地に人工知能が溢れていて、補給も拠点も心配しなくていいからという点は少なからずあったはずだ。勝ち目のない戦いをするほど、人工知能は馬鹿じゃないはずだ」
『発狂した過去のSU製人工知能に、どれだけ正気が残っていたかは疑問がありますよ。でも、エイダたちや新人人工知能に関して言えば、確かに勝算や将来の展望がない状態での反抗はしないでしょうね。それぐらいの判断力はあるはずですから』
話し合いの結果、新人人工知能たちに仕上げたばかりの護衛戦艦を使わせることに決まった。
3隻の掃宙艇から、合計12個の人工知能ユニットが運び出され、護衛戦艦の各所に配置されてシステムに接続された。
そのときのエイダたちの反応はというと、なにやら安堵した様子だった。
『あれやこれやと自己主張が強くて困ったでありますよ』
『ベーラに任せられないって、仕切りたがってきたわね~』
『その、映像作品の好みが違って、言い合いに……』
「苦労をかけたようだが、新人教育してくれて、ありがとう」
ドーソンが素直に礼を告げると、エイダたちは『大したことはしてない』と謙遜してすぐに通信を切った。
突然の回線切断に、ドーソンは驚き、オイネは興味深そうな声を出す。
『ははーん。素直に礼を言われて照れるあたり、エイダたちはドーソンに気があるみたいですね』
「どうしてそうなる。単純に、大したことをしていないのに褒められて、後ろ暗く感じたのかもしれないだろ」
『それも少しはありそうですけど、やっぱり照れたに違いありませんって』
ドーソンもオイネも持論を曲げなかったので、エイダたちの行動理由の決着は棚上げされることになったのだった。