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4話 完成――特務私掠船≪大顎≫号

 四番乾ドックの作業機械が、SUから来た艦船の残骸を素材に、ドーソンが仮想画面上に作成した船を現実世界に構築していく。

 船体フレームが生まれ、各種装置が組み込まれていく様は、まるで食べつくされた焼き魚を逆回しで再生しているかのようだった。


「それにしても、作業が早いな」


 ドーソンが思わず呟いた通り、ドックの中で建造中の船は、もう半分出来上がっているように見える。

 その速さの理由を、ヒメナが語る。


「残骸にあった使えそうな装置や装備は、フルレストアされた状態で置かれてましたから。あとは設計に従って組み込めばいいだけ。それに作っているのが小型船で、作業行程は少ないですから」

「SUの装備をレストア済みって、解析作業の一環か?」

「それもありますが、ドックの人工知能たちが暇だって訴えるので、それなら修復作業をしていなさいと命じたんです。修復が終わると、また暇だと言うので、改良案と発展案を考えだすように命令し、問題ないようなら試作するようにとも命令しましたね」


 そこでヒメナは、そうだと手を打った。


「そんな暇潰しばかりの業務の中で、急に新たな船体の作成というやりがいのある大仕事が入って、人工知能たちは大喜びなんですよ。喜んで張り切って作業しているから、作業速度が良いんですよ、きっと」


 どうやらドックの人工知能は勤労精神に溢れているらしい。

 ドーソンが感心しようとして、ハタと気づく。


「おい。もしかして、船に組み込んでいる装置は、その改良済みのヤツじゃないだろうな?」

「えっ、ダメですか? ちゃんと性能は向上してまし、安全性は人工知能が判別済みですよ?」

「性能向上自体はダメじゃないが、仮にあの船を拿捕されて解析でもされたら、アマト皇和国の関与が疑われるんじゃないか?」

「平気ですよ。使っている素材は、すべてSUのもの。改造者の名前が入っているわけでもないので、皇和国の関与がバレる心配はありません。解析されたところで、性能の良いロットが当たったと思われるのが関の山ですよ」


 ドーソンは本当かと疑いかけて、技術下士官が問題ないと太鼓判を押しているのだからと納得することにした。


「それで、船はどれぐらいで出来そうだ?」

「そうですね。一両日後にはできそうですね。万全を期すなら二日頂けたらと」

「では48時間後に来ればいいな?」

「構いませんが、どこかにご用事で?」

「二日後にはアマト星腕からオリオン星腕に飛び出すんだ。満足に連絡も出来ないだろうし、育ててくれた孤児院に学校の卒業と直ぐに辞令が出て異動になったと連絡を入れておきたい」

「そういうことでしたら、特務少尉の表向きに就いていることになっている任務で伝えた方が良いでしょうね」

「俺の表向きの任務って、なんだ?」

「戦術戦略編纂部で、過去から蓄積され続けた戦術戦略を現代でも使用可能かを評価裁定する任務です」

「……聞くからに閑職だな」

「特殊任務に就く方の隠れ蓑のために作られた部署ですからね。本当に働いているのは、年金を受け取りながら働いているご老人が数人だと聞きますね。まあ、本当に戦術や戦略の評価をし直すのなら、人工知能に手伝ってもらえば直ぐに終わりますし」


 完璧に閑職な部署に、ドーソンは苦笑いする。


「そんな場所に入れられたと知ったら、俺の同期が歓喜するだろうな。生意気な孤児野郎が、将来真っ黒な場所に押しやられたってな」

「……特務少尉の同期は、非人格者ばかりなのですか?」

「皇族、公爵家、伯爵家の子息子女が一人ずついたからな。あいつらの太鼓持ちになって良い目が見たい、って考えの馬鹿がいたってだけのことだ。まともなヤツは、皇族の子息を筆頭にいないこともなかった」

「話の中にいた公爵と伯爵のお子様は、どうだったんです?」

「公爵子女は負けず嫌いで、俺に負ける度に公爵に泣きつきに帰っているって噂があったな。伯爵子息は早々に俺と皇族に次ぐ三番手を死守することに全力を傾けていた。まあ、どっちも根性なしだ」

「辛辣ですね」

「皇族の息子――アカツキって名前なんだが――あいつが全力で競い合う俺の存在を有り難がるほどに、張り合いがなかった奴らだったのは確かだぞ」


 ドーソンがアカツキの名前を出すと、ヒメナの目がくわっと見開かれた。


「皇族のアカツキ様って、今上皇のお子様じゃないですか! ドーソン特務少尉は親しいので!?」

「親しいというか、主席と次席を競った仲だから、喧嘩相手に近いな」

「いいなー、同期いいなー。アカツキ様の麗しいご尊顔。私も間近で拝見したいものです」


 どうやらヒメナは、アマト皇和国の国民に多い親皇族派の人間らしい。

 ドーソンとしては、皇族だからと親しみを覚える気持ちは分からない。だが、アカツキに関しては実力を認めているので、彼を尊がることには同意することができた。


「アカツキは大戦艦≪奥穂高≫に異動が決まっていたはずだ。このドックで勤務する伍長が合う機会は――大戦艦≪奥穂高≫がドックで整備に入る際に、艦から下りる姿を見ることが出来るかもしれないか?」

「よっし。大戦艦≪奥穂高≫ですね。このワゴヤマにあるドックのどれかに入っても分かるよう、チェックしておきます!」


 アカツキの情報を渡したこともあり、ヒメナは船建造作業の監視を快く引き受けてくれた。

 ドーソンは遠慮なくドックから出ると、宇宙ステーションの一般解放区へと向かい、孤児院へと連絡を取ったのだった。



 孤児院の院長に、士官学校卒業と表向きの任務地を教えた後、ドーソンはステーション内の宿泊施設で二泊した。

 その二泊の間に、ドーソンの同期が軍艦や宇宙船に乗り込む姿を、ステーション内で見ることがあった。

 軍艦は大戦艦から駆逐艦まであり、新米士官がそれぞれに乗艦後はステーション周辺で盛大な観艦式が行われ、その後に各任地へと出航していった。

 一方で宇宙船は、アマト星腕にある星々や人工居住衛星のどれかへ、他の一般乗客と共に出発した。

 この時点で、ステーションに出くわして見ていた人も理解している。軍艦に乗れた人は優秀で、宇宙船で運ばれる人は落ちこぼれなのだと。


「そういう視点で見ると、アマト皇和国の本星で勤務できる軍人も、一応はエリートなんだよな」


 むしろ人によっては、危険が全くない本星勤務の方を喜ぶだろう。たとえ、以後は活躍の場に恵まれず、今以上の出世が望めないとしても。


「そんな人生、俺は御免だけどな」


 ドーソンは、孤児院での教育で、優秀な者は上に立つべきだと教えられてきた。そのため安全な場所で才能を腐らせるよりも、危険な場所であっても才能を十二分に生かせる場所を欲する性格に育った。

 そんな性格のドーソンにしてみれば、仮に本当に本星での事務勤務を命じられたら、異動願いないしは退職願いを出していただろうことは疑いようがなかった。


「そんなことよりだ、早速俺の船を見に行くとしよう」


 ドーソンはトランクを持ち、再び4番の乾ドックへと向かった。

 ドックに入ると、監視用の窓の向こうに、黄色で塗装された船が鎮座していた。小型船のため、超大型船も建造できるドックの広さに比べたら、ちんまい姿ではある。しかし仮想モニター上で構築した姿と比べると、実物特有の迫力に溢れていた。

 モニター上だとでっぷりとした姿に見えたが、実物では骨太で堅牢さを思わせる逞しい姿形をしている。突き出た顎の部分は、芋虫の顎のようなギザギザの開口部になっていて、他の船に噛つくことが出来そうな凶悪さが伺える。船体後部にある推進装置は大きくて力強そうで、船体装甲も綺麗に整えられて黄色に輝いている。

 自分が大まかに設計した船という評価を差っ引いても、ドーソンはこの船を大変に気に入った。

 ドーソンが船に対し感動に近い思いを抱いていると、ヒメナがすすっと近寄ってきた。


「特務少尉。どうです、出来栄えは」

「ああ、文句なしだ。これほどの船をくれるとあれば、任務に身が入らないわけがない」

「良かったです。お褒めの言葉は、ドック内の人工知能たちにもお願いします。マイクはこちらです」


 ヒメナが差し出してきたマイクを手に取り、ドーソンはドック内へと声を放つ。


『人工知能たち、よくやった。素晴らしい仕事だ。俺のボキャブラリーでは、今の心情を表すことが出来ないほど、感動に打ち震えている』


 ドーソンの言葉を受けて、人工知能たちは照れでもしたのか、褒められたこそばゆさを堪えるように、作業機械たちがもぞもぞと動いている。

 その仕草を、ドーソンは喜びによるものだと思うことにして、ヒメナに向き直る。


「あの船に乗り込んだら、いよいよ私掠船での海賊任務の開始ということでいいんだな」

「はい。でも任務の前に、船の受領の印と、船の名前を付けてもらえませんか」


 ヒメナが呼び出した空間投影モニターには、拇印を押す場所と、船の名前を書く欄が設けられていた。

 ドーソンは親指で拇印を押し、船の名前は少し考えてから書いた。

 パッと見でも目を引く船で一番の特徴から――≪大顎≫号。それがドーソンの乗る私掠船の名前となった。


「≪大顎≫号ですか。てっきり、こぶ鯛にするかと思ったのですが、予想が外れましたね」

「実物を見る前なら、それでもよかったけどな。実物を見たら、鯛とは思えなくなった」

「そうですか。さて、これで特務少尉に船を受け渡したことになりましたので、早速乗り込んでオリオン星腕へと出発してください。まず目指すのは、TRトゥルー・ライツの星域です。航路図は船の制御系に入れた人工知能に教えてありますので、それを参照してください」

「了解した。では、ドーソン・イーダ特務少尉。私掠船≪大顎≫号に乗り、任務を――」


 ドーソンは、高まった気分のままに任務を宣言しようとして、途中で止めた。そしてヒメナに半目を向ける。


「待て。船体の制御系に人工知能を搭載したのか。入れる隙間がないと思ったし、ブリッジに使った戦闘機のコックピットにプリセットされている無人格電脳プロセッサで十分と思って、設計だと入れてなかったぞ?」

「ああ、はい。お忘れの様でしたので、ブリッジの航路装置に組み込む形で入れました。基本人格は、軍用の診断ソフトで特務少尉の性格と相性が良いものに設定していますから、安心してください」

「法律は知っていたが、オリオン星腕で活動する海賊船だし、あれぐらいの小型船なら一人で運用できるから、人工知能なんて要らないと思ったんだ。だから無理に入れようとしなかったんだが?」

「そうだったんですか。でもダメですよ、特務少尉。アマト皇和国の航宙法では、どんなに小さい船であっても、制御系に人工知能を入れないといけないんです。それは軍船でも海賊船でもです。このステーションからオリオン星腕に入るまでは、アマトの法に従っていただかないと」

「それはその通りなのでぐうの音も出ないが――ちなみに、どこにどうやって入れた?」


 ヒメナが船の何処にいれたかをモニター上に映してくれた。宇宙戦闘機のコックピットを流用したブリッジ。その根底部分の構造配置を整理して、船体制御用の人工知能を組み入れる隙間を作り出したようだった。

 ドーソンが見ても、診断ソフトを走らせても問題がないと出てしまっては、これ以上の抗議はできなかった。


「設計にない物を組み込む際には一報を入れて欲しかったが、こちらの失敗を訂正してくれたのだから、謝罪と礼を言うべきだな。助かった、ありがとう」


 ドーソンは自分の設計の不備に非があるとし謝罪し、ヒメナはいえいえと笑顔で返した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 皇国の関連を疑われたくないからSUの技術で作った船に、SUでは一般的でない(冒頭で嫌いとまで言ってましたが)AIを搭載するの、本末転倒では?
[一言] かなり好みなストーリーなのに誤字がやや多めなのがちょい気になります。
[一言] 暇を持て余した人工知能たちかー 試作までしか許されてないみたいですが新たな船体を常日頃から作ってもいいとか言われてたら魔改造宇宙船博覧会になってそうだなあw
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