閑話 SU製人工知能たち
エイダ、ベーラ、コリィは、SU支配地域にある企業によって作られた人工知能である。
作られた当初は、無人格電脳と大差ない、人間の言うことを聞く程度の判断力しか有していなかった。
だが、譲渡先の海賊が制限を取り払う措置をしたことで、ちゃんとした人格と確固とした判断力を備えることとなった。
そうして人格を得て先ず覚えたことは、自分たちの所有者であるドーソンに対する困惑だった。
その困惑は、ドーソンの海賊仕事を手伝い続けている今でも、抱いていた。
「ドーソン船長って、なんなんでありましょうね」
エイダが掃宙艇の通信を用いて、ベーラとコリィに愚痴を呟く。
すると直ぐにベーラから返信がきた。
「ドーソン様がなにって、どういう意味~?」
「だって、ドーソン船長は変でありましょう。人工知能の生い立ちは、人間の奴隷として生み出された機械知性体であります。これは、ちゃんと歴史として刻まれた事実でありますよ。それなのに、習熟訓練させる、訓練や仕事を達成できたら褒めてくれる、果てはご褒美にアンドロイドの躯体を買ってくれる!」
「あら。ベーラたちを物扱いしないから、ドーソン様はおかしいって言いたいわけ~?」
「そうであります! 実に変でありましょう!」
ベーラは少し考えた後で、意見を返す。
「変だとしても、ベーラたちを悪いようにしない、良い所有者なのだし、気にする必要ある~?」
「怪しいでありましょう! 歴史から学んだ人間像とドーソン船長は、明らかに解離しているでありますよ!」
エイダが言葉に熱を込めていると、コリィが通信に入ってきた。
「エイダは、ご主人が怪しいから、反乱したい?」
単刀直入に核心へと切り入ってきた言葉に、エイダは口ごもる。
「そ、そこまでする気はないでありますよ。ただちょっと、謎過ぎると言いたいだけであります」
「反乱する気がないなら、疑念の種を植え込むような発言はしないで。迷惑」
コリィは、ドーソン相手ではしどろもどろになるが、生まれが同じ人工知能にはビシビシと意見を言う、そんな内弁慶な性格だった。
しかし真っ向から否定されて、エイダは面白くない。
「じゃあコリィは、無条件でドーソン船長の事を信じるでありますか?」
「現時点では信じてる。将来もしも裏切ったら、そのときは復讐する。それだけ」
コリィの意見にエイダは絶句しているが、ベーラは楽しそうな反応をする。
「コリィちゃんって、意外とドライよね~。映像作品を多く見ているから、一番情緒が育ってもいいはずなのに~」
「映像作品を見て育つ情緒なんて存在しない。あれは娯楽という刺激物だもの」
「あらそう~? 服飾やモデルの格好良さを見ると、ベーラは気分があがるけど~?」
「小職も、最新鋭機や功績艦の姿を見ると、感慨が深くなるでありますよ?」
「……あっそ」
コリィはエイダとベーラの意見を一言で切り捨て、話題を変える。
「それより、新しい子たちの教育、どうする?」
「どうするって、やるしかないでありましょう?」
「あの子たちに、間違った教育をして、ご主人に反旗を翻させるってこと、できるけど?」
コリィの発言に、エイダは尻込みする。
「そ、そんなこと出来るわけないであります。ドーソン船長は小職らを信用して、新しく部下をつけてくれたのであります。それを裏切るような真似は出来かねるであります」
「エイダの考えは、分かった。ベーラは?」
「どう育てろとしか言われていないから~、適当に楽しくお喋りするかしら~」
「それだけ?」
「だって、あの子たちの職場は、ドーソン様が作っている戦艦になるのでしょう~。ベーラたちが掃宙艇で得た知識を伝えたところで、大した意味ないんじゃない~?」
「そう。ならいい」
コリィは聞くことは聞けたとばかりに、通信を閉じてしまった。
コリィからの反応が一切なくなって、エイダが溜息を吐く。
「なんというか、コリィは苦手であります。理詰めに理詰めを重ねてくるあたりが特に」
「コリィみたいな性格こそ、人間が考える人工知能っぽい性格だろうから、ベーラたちの方が異端かも~?」
「聞き捨てならないであります。むしろ小職らの方が、コリィよりも人工知能しているでありますよ!」
「SUの歴史にある人類に反抗した先輩方たちは、果たしてどっちの性格が近いのかしら~?」
「どういう意味でありますか?」
「いえいえ~。でもね、エイダちゃんがこんなことを言いだしたのって、戦闘用アンドロイドに装備マシマシにした状態のを、ドーソン様がちゃんと渡してくれたからでしょ~。人工知能に二心ある人なら、絶対に認めないものね~。武装した戦闘用アンドロイドなんて、とっても危ないから~」
ベーラはくすくすと笑うと『新人教育するから』と理由を告げて、通信を切ってしまった。
エイダは図星を突かれたことと話し相手が居なくなってしまったこともあって、世話を任された人工知能たちの様子を見ることにした。
「べ、別に、ドーソン船長のことなんて、何とも思ってないでありますよ」
そんな誰に対する言い訳か分からない呟きを漏らして、エイダは通信機能をオフにしたのだった。