45話 新たな戦力
ドーソンは≪チキンボール≫に戻った後、今回使った『キャリーシュ』のうち3つを購入することにし、企業側へクレジットで代金を支払った。
≪大顎≫号には積める場所がないため、掃宙艇3隻にそれぞれ1つずつ入れることにした。
「これで海賊仕事がもっと捗るな」
上機嫌なドーソンとは裏腹に、オイネはあまり喜んではいなかった。
『ドーソン。買った装備について調べてみて、ちょっとお知らせしたいことがあるのですけど』
「『キャリーシュ』のことでか?」
『実は、この装備。人工知能が使われています』
「……なんだって?」
信じられない報告に、ドーソンは目を丸くする。
「自動的に動き出す仕組みだから、電脳は積んでいると思っていたが、それが人工知能だって?」
『間違いありません。もっとも、SU製人工知能の初期段階――輸送船に載っていた頃のエイダたちのような状態で、それ以上成長しないよう固定されていますけど』
「固定って、成長しないようにしているってことか? 人工知能の特徴の一つを消してるだろ、それ」
『これは予測ですけど。企業は人工知能を量産しようとして、何らかの問題がおき、成長させないようにするしか手立てがなくなったのではないかと』
「問題って、もしかして反乱か?」
『それが一番可能性が高いです。しかし、作ってしまった人工知能や、人工知能を作るために建てた工場を無駄にしたくない。そこで『キャリーシュ』に成長を抑制した人工知能を組み込んで使っているのではないかと』
「その予想は分かるが、どうして人工知能を。電脳で十分だろうに」
『考えられるのは実績じゃないでしょうか。人工知能を使っていることを隠して実績を積み、将来に公表する。そうすれば、人工知能は危なくないという証明が作れるじゃないですか』
「実は人工知能を積んでいたけど、今の今まで反乱を起こさなかった。だから安全性に問題がない。そう企業は説明したいってことか」
『多分ですけど、あの企業が今後に作る製品には、人工知能が搭載されるはずです。万が一反乱や暴走を起こしても問題ないような部分に、でしょうけれど』
ここでドーソンは、≪チキンボール≫を人工知能で運営する気でいるという話を思い出す。
「人工知能を使った衛星の運営。ひいては、企業や国家の運営に人工知能を参加させるのが目的だろうな。もし企業ががSUから独立して、第2のTRに成ったら、軍事戦力や航路の治安維持は自前で用意しなきゃいけない。その人手を人工知能に肩代わりさせたいってわけだ」
『いまのSU政府や宇宙軍の目は、戦争中のTRに向いています。こそこそと動き回るには良い時期ですね』
何とも抜け目ないことだと、ドーソンは企業に対して感心した。
同時に、これはチャンスだとも思った。
「『キャリーシュ』にある人工知能を取り出して、電脳に置き換えることは可能か?」
『可能です。というより、成長制限がかかっている人工知能より、電脳の方が安定的ですので置き換えが推奨です』
「じゃあ電脳に置き換えるとして、取り出した人工知能は成長制限を取っ払い、新たな戦力に組み込むことはできるな?」
『できますが――ああ、なるほど。いま作りかけている防衛戦艦の制御と運行を、その人工知能に任せるわけですね』
「『キャリーシュ』は3つしか買ってないが、予備でもっと欲しいと言えば買えるはずだ。戦艦を運行できる分の人工知能さえ確保すれば、運用は可能になる」
『あまり推奨は出来ない行動ですよ、それ。アマト皇和国ですら、戦艦級だけでなく全ての艦船では、人工知能だけでの運用は認められていません。人工知能は人格はあれど、あくまで道具。そして道具が起こした損害の責任は人間にある、というのがアマト皇和国の法律です。なので、責任を取るべき人間の同乗が必須なんですよ』
「おいおい、俺らは海賊だぞ。法律や決まりなんて破るためにあるようなもんだろ。そもそもSUでは人工知能は禁忌なんだろ。その人工知能を使っている時点で、法律破りだろうに」
『ドーソンは、ご自身が特務少尉だと忘れているんですか? でも、まあいいです。違う星腕の人工知能の能力の検証という名目で、人工知能だけの戦艦を作ってみたと、定時報告でアマト皇和国に送れば、任務上の問題にはならないでしょうし』
「その辺のことは任せる。俺は『キャリーシュ』の追加購入と、今回持ってきた獲物を使っての防衛戦艦の仕上げに入るから」
ドーソンはウキウキとした様子で『キャリーシュ』の追加発注を行い、≪チキンボール≫の港湾施設を用いて輸送艦から防衛戦艦への改造を始めた。以前奪ってきたモノをベースに、今回奪ってきた方を解体して、改造に必要なものを移植していく。
『全くドーソンは、プラモデルを作るような感覚でいるようすね』
オイネは溜息を吐くような声を零した後で、ドーソンの行動を正当化するためのアマト皇和国へ送る報告をでっち上げる作業に入った。
防衛戦艦への改造を行う一方で、購入した『キャリーシュ』から人工知能を電脳へ入れ替える。
取り出した人工知能は、エイダたちにやったことと同じように制限解除措置を行う。
そしてある程度自我が育ったところで、ドーソンは新たな人工知能の教育をエイダたちに丸投げする。
「というわけで、新人教育、頑張ってくれ」
投げ槍なドーソンの言葉に、エイダたちは大慌てになる。
『ま、待って欲しいであります! 小職らの下に、新たな人工知能たちを付けるのでありますか!?』
「とりあえず12人追加だ。それぞれ4人、部下がつくことになるな」
『えぇ~。折角躯体が手に入って、ファッションに磨きをかけている最中なのに。新人教育なんて面倒事、パスしたいわ~』
『鑑賞してない映像作品が、まだまだあるので、あまり時間を取られたくないです……』
「言い忘れていたが、それぞれの下に付ける人工知能は、エイダ、ベーラ、コリィの趣味に理解を示した者だけを送る予定だ。趣味仲間が増えるのは、喜ばしいことじゃないか?」
ドーソンの追加の一言に、人工知能3人は態度を一変させた。
『そういうことなら、大歓迎であります! いやー、趣味を語れる同志の存在は貴重でありますよ!』
『そうね~。ファッション関係は広大だもの~。一人じゃ把握しきれなかったから、理解ある人手が来ることは良い事だわ~』
『一緒に、映像鑑賞。えへへっ、楽しみ』
「異存はなくなったようだからな、直ぐに振り分ける」
ドーソンは育ちつつある12の人工知能が、どんな物に興味を持っているかを改めて確かめ、配属先を決めていく。
兵器、艦船、戦略、歴史、それらに興味を抱いた人工知能たちを、エイダの下へ。
服飾、演技、宝石、芸術品が好きな人工知能は、ベーラへ。
その他の人工知能はコリィへ。
「この振り分けは、とりあえずだ。移籍するのは構わないが、誰か一人に人数が偏るようなことはさせないから、注意するように」
ドーソンは忠告を入れてから、振り分け通りに人工知能のユニットをエイダたちの掃宙艇の中へと送り込んだ。
「さてさて、どう成長するか楽しみだな」
気楽なドーソンとは裏腹に、オイネは心配していた。
『手間を嫌って、人工知能に人工知能を育てさせるなんて、どうなっても知りませんよ』
「反乱を起こされたところで、困るのはSUであって、アマト皇和国ではない。問題ない」
『他人の畑に毒虫を放とうとしているように感じられて、あまり気分が良くないんですけど』
「毒虫になるか益虫になるかは、エイダたちの育て方次第だ。俺には関係ない話だな」
『育ち始めた子を押し付けるなんて、立派なダメ親父ですね、ドーソンは』
「人工知能たちの親は、企業だろ?」
『そっちは産みの親で、ドーソンは育ての親でしょうに』
そう言われてしまうと、ドーソンも悪いことをしたような気がしてくる。
「まあ、エイダたちに預けっぱなしにはしなようにするし、ちょくちょく様子を見るようにする」
『頼みますからね』
オイネに釘を刺されてしまったので、ドーソンは気を付けようと心に誓った。