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44話 新装備

 SUとTRの戦争は様子見の状態が続いている。そうSUのニュース番組で流れている。

 この膠着状態は、SUとTRの双方の目的意識の違いからくるものだと、ドーソンは見ていた。


「SU宇宙軍としては≪ハマノオンナ≫と海賊を倒したいだけで、TRと本格的な戦争をしたいわけじゃない」

『TRの方も、SUが動いたからと対応しただけの、突発的な状況ですからね。SU宇宙軍を撃破するだけの準備は整っていないでしょう』

「つまりは、お互いに戦力を減らしたくないが、かといって目的を果たしていないから休戦を呼びかける段階でもない。だから膠着するしかないって状況なわけだ」


 ドーソンが受けた任務としては、この膠着状態こそが望ましい。

 戦争状態が続けば続くほど、SUの艦隊がアマト星腕に来る機会を失わせることに繋がるのだから。

 だがドーソンは、ここら辺でアマト皇和国が優位になる一手が欲しいと、特務少尉という立場から考えていた。


「やっぱり俺一人では、SUの経済に混乱を起こすにも限界があるな。手勢を招く――海賊を集めるにしても、アマト皇和国から応援を呼ぶにしても、拠点が必要だ」

『≪ハマノオンナ≫や≪チキンボール≫のような、ですか?』

「そこまで立派なものは用意が難しいだろ。でもせめて、星腕宙道の道々にある休憩用の衛星ぐらいは欲しいな」

『一時休憩と補給が出来る場所を作りたいってことですね』

「一時休憩だろうと集まれる場所を作れれば、留まる人も出てくる。それが海賊なら、周辺宙域の治安を悪化させられる。治安が悪化すれば、SUの経済に悪影響を出せる」


 ドーソンの考えは真っ当ではあったが、無視できない点がある。

 それをオイネは指摘する。


『拠点を作るとしても、先に運営するための人員の確保が必要ですよ。でも、その人員がいないから拠点を作ろうと考えているわけですよね。矛盾してませんか?』

「……言われてみれば、そうだな。うーん、上手くはいかないか」

『アマト皇和国に応援を頼みます?』

「新米士官の俺一人を送り出すぐらいだ。応援を頼んだところで、来ちゃくれないだろ」

『じゃあ、海賊を集めるしかないのでは?』

「人工知能3人のことがある。SUとTRでも人工知能は禁忌だぞ。海賊たちに知られるわけにはいかない」

『八方手詰まりですね』

「そうそう上手くはいかないってことだな。大人しく海賊仕事に精をだすことにするか」


 ドーソンはデータを呼び出し、次の獲物の選定に入る。


『次の獲物は、また輸送艦ですか?』

「防衛戦艦作りには、多くの資材がいるからな。輸送艦を襲えば、かなりを賄える」

『あの話、本気だったんですか?』

「次の動きに移行できなくて暇だからな。趣味と実益を兼ねてだ」

『いやまあ、戦艦級の艦が1隻あれば心強いのは確かですけど――それこそ、輸送艦を奪ってくるつもりなら、運搬役の海賊を雇っては? 前の襲撃では、かなりの数の艦を放置することになって勿体なかったですし』

「確かにそうだが――仕方ない、≪チキンボール≫の支配人に伝手をお願いするとしよう。正直、俺の呼びかけで海賊が集まる気がしない」

『そうですか? ドーソンの海賊の活躍は大したものです。声をかければ喜んで集まってくれると思いますよ?』

「さっきも言ったが、人工知能3人のことがある。その辺の事情を分かっている支配人なら、融通の利く人員を都合してくれるはずだ」

『そうでしたね。でも、海賊が来ますかね?』

「支配人と企業が繋がっているから、企業から派遣される人員が来るかもってことだろ。倒したSU艦艇を運んでくれるのなら、海賊であろうとなかろうと、どっちでも構わない」

『ドーソンが良いのなら、良いですけど……』


 オイネには何か懸念があるようだが、ドーソンに忠告しないのは、その懸念が当たった際の危険性が低いという証拠でもある。

 ドーソンは自分が見落としている物がないかを改めて考えたが、特に気にするべきことは思い当たらなかった。



 ≪チキンボール≫の支配人に相談を行ったところ、直ぐに運搬のための手勢を送ってくれることになった。

 ただし≪チキンボール≫の中にはいないため、現地集合ということになった。


「オイネが予想したように、送ってくれたのは企業の息がかかった船だろうな」

『海賊なら、相談をした時点で≪チキンボール≫にいなくても、いつかは帰投してきますから、現地集合にする意味がありませんからね』


 ドーソンとオイネが喋っていると、付近の宙域に船団が跳躍してきた。

 船の数は10隻。大型の輸送船が2隻と小型作業艇が8隻という、不思議な編成だった。

 ドーソンはその船団を見て眉を寄せ、仮面を被ってから船団へと通信を送った。

 するとすぐに通信が繋がり、≪大顎≫号の物理モニターの画面に、白髪交じりの頭髪をキッチリと整えたスーツ姿の男性が映し出された。

 企業人を隠そうとしない姿に、ドーソンは少しだけ呆れた。


「あー、こちら私掠船≪大顎≫号、船長のドーソンだ。そちらは俺の応援ってことでいいんだよな? 違うっていうのなら獲物にするが?」

『はい。こちらは運搬船≪メイク・マニー≫。≪チキンボール≫の支配人様からの要望にて、貴船を手助けするためにまかり越してございます』

「俺が要求したのは、SU宇宙軍の艦艇を運ぶための人員だが、お前のいる船団が、それだと?」


 暗に船種が合っていないではと告げると、企業人がビジネススマイルで否定してきた。


『いえいえ、これでいいのです。我が社の新製品は、この船団でこそ威力を発揮しますので』

「新製品だと?」

『はい。我が社としましては、海賊の方々と良い関係を続けたいと考えておりまして。海賊の方々の仕事に役立つツールを作るべく、新規事業を立ち上げまして。今回持ってきたものは、その事業肝入りの新製品なのです』

「大層な自信があるようだが、どんな風に使う品だ?」

『簡単に申しますと、大型艦が無い海賊でも、超大型の物資輸送コクーン船を拠点まで運べる装置です』


 中々に興味深い製品情報に、ドーソンは詳しく知りたくなった。


「そちらの船団を見るに、大型船か小型作業船専用の装置という事か?」

『いえ。今回の商品は、船に巻き付ける縄のようなもので、それに推進と跳躍装置が備わっているものです。運搬船はその装置の運搬を、作業船は巻きつける作業を行うために連れて参りました』

「なるほど。その商品さえ巻いてしまえば、獲物の推進装置やジェネレーターを壊してしまっていても、船で曳航する必要はなくなるわけだ」

『商品自体に運搬能力があるため、手勢を割いて運搬するという作業が不要になりますので』


 中々に良さそうな商品に、ドーソンは乗り気になる。


「話を聞く分には使えそうだな。だが、高いんだろ?」

『それはまあ、それなりには。ですが、大型船を購入するよりは遥かに格安ですし、使い捨ての装置でもありません。かなりの買い得だと自負しております』

「商品の性能は、実際にやって証明してくれ。実戦証明コンバットプルーフ付きなら、海賊は見逃さないだろうからな」

『はい、それはもう。ですがそのためには、貴方様の腕前に期待するところもありわけでして』

「心配するな。きっちりと獲物は仕留める。今回はお客さんがいるから、簡単な獲物にしたしな。直ぐに終わる」


 ドーソンの宣言通りに、この宙域近くに跳躍してきたSU宇宙軍の輸送艦小隊を、ドーソンと人工知能3人は瞬く間に倒し終える。

 不意打ちが成功するのなら、駆逐艦3隻と輸送艦1隻など、ドーソンたちにしてみれば簡単な相手でしかない。


「じゃあ、運搬してみてくれ。行き先は≪チキンボール≫だ。わかるよな?」

『ええ、はい、お任せください』


 ドーソンたちの鮮やかな手腕を見て恐ろしくなったのか、企業人の顔色が青白い。

 彼の恐怖が他の船にも伝播したのか、船団の作業はテキパキと行われる。

 まず輸送船の船体から、戦闘機大に超巨大化した蓮根――ないしは、プールの間仕切りに使う『浮遊ブイ』のようなものを、作業船が取り出していく。


『あれが我が社の新製品。便宜上『キャリーシュ』と呼んでいます。運搬キャリーするリーシュを合わせた造語ですね』


 作業船は、その『キャリーシュ』を掴んだまま移動し、ドーソンたちが撃破した輸送艦へと巻き付けていく。

 かなり『キャリーシュ』は長く、輸送艦に1回りを越えて巻き付けている。しかし駆逐艦には3回り以上巻いているのを見るに、作業手順通りらしい。

 『キャリーシュ』を巻き終わると、作業船は退避し始める。

 そして付近に船がいなくなったところで、輸送艦と駆逐艦に巻かれた『キャリーシュ』にある浮遊ブイに似た部位から推進光が放たれた。

 一つ一つの推進機の推力は大したものではないが、『キャリーシュ』一組に多数が組み込まれているため、直ぐにかなりの速さになる。

 そして艦の舳先が、遥か遠くにある≪チキンボール≫の方向に向いたかと思うと、直ぐに跳躍した。

 

「ほう。ちゃんと動くもんだな」

『それはもう。我が社の自信作ですので』

「だが今の光景を見るに、『キャリーシュ』とやらは小型の推進装置、エネルギー充填装置、跳躍装置を組み込んだ製品だな。だがエネルギー消費を考えたら、跳躍は一度が限度なんじゃないか?」


 ドーソンの指摘に、企業人の顔が固まった。


『でもしかし、充填していただければ、もう一度使えるようになりますので』

「つまり≪チキンボール≫から跳躍1回分の距離までしか、実質的には使えないってことだよな?」

『それは、その通りでございます……』


 指摘に萎れる支配人だが、ドーソンは口調とは裏腹にかなり評価していた。

 少し欠点はあるものの、巻くだけで運搬が出来るという利便性は強いと感じたのだ。


「この商品は販売したら、海賊たちに売れるだろうな。事実、俺は欲しい。運搬が手間で手間で仕方がなかったからな」

『え、あ、はい! ありがとうございます!』

「≪ハマノオンナ≫へ売ることも考えたらどうだ。あっちは隕石地帯を利用しているからな。『キャリーシュ』は隕石を運搬するのにも使えるだろうから、売れると思うぞ」

『なるほど! 良い情報、ありがとうございます! 検討させていただきます!』


 ドーソンは≪チキンボール≫で『キャリーシュ』を買うことを約束して、企業船団とはこの場で解散とし、それぞれ別方向へと跳躍した。

 これは海賊と企業との繋がりを隠すためもあったが、『キャリーシュ』で跳躍した輸送艦と駆逐艦の跳躍の痕跡をかき乱すため、別々の方向に跳躍する船が多ければ多いほど良いとの判断でもあった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後らへんの企業人がひとつ支配人になってますね
[良い点] 成り上がりっぽいストーリーで面白い [気になる点] 主人公がこんなに頑張って成果も出しているのに、本国から一切の評価を得られてなさそうな所(そういった描写が一度もないので)。このまま成り上…
[一言] 隕石とは、惑星間空間に存在する固体物質が地球などの惑星の表面に落下してきたもののこと 。by Wikipedia とあるから宇宙空間にあるのだから小惑星では?
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