43話 輸送艦の中身
ドーソンは、SU宇宙軍の輸送艦を売らずに、その中身を一つ一つ確認する作業を始めた。
その作業の中で見えてきたのは、SU宇宙軍の戦争に対する杜撰な考えだった。
「荷電粒子砲用の液化重粒子、徹甲弾、魚雷、そして砲や機銃の予備。人造食料用のフードカードリッジ、水、医薬品、甘味菓子、宇宙服や軍服などの衣服類。ここまでは分かるが、なんで艦の中にカジノと酒場が作ってあるんだ」
『軍用麻薬に性交用躯体もありますね。艦艇の乗組員の精神を保つために有用なのは確かですけど、種類と量が異様に多いですね』
「しかも麻薬も躯体も、入室制限区画にあるときた。入室条件は大佐以上の階級ってことは、お偉いさん用なわけだ」
『艦隊の指揮官級を薬とセックスに溺れさせようとするなんて、実はこの艦、SUの工作艦の可能性はありませんか?』
「艦の内部データも、艦長や運行責任者もSUの軍人だって調べがついただろ。その可能性はあり得ない」
つまるところ、SUの偉い軍人たちは戦争を娯楽の延長としか考えていないと、補給艦の中身が語っていた。
「実際の先頭は下々の者に任せ、上役たちはカジノと酒場で優雅に戦場観戦ってわけだ。虫唾が走るな」
『酒と麻薬を自ら摂取しようとしているなんて、愚かさ極まれりって感じですね』
「用法外使用、って言葉を付けとけよ。酒も薬も、適切に使えば人の役に立つものだからな」
ドーソンは輸送艦の内容物を知り、どうしたものかと頭を悩ませる。
「全ての輸送艦にカジノと酒場があるとは思えない。何個も必要になる類の場所じゃないからな」
『つまりドーソンは、外れの輸送艦を引いたってことですね』
「嬉しそうに言うなよな。しかし、輸送艦を叩いたところで、嫌がらせにしかならないのが分かってしまったな」
『少しでも多くの物資を詰め込みたいはずの輸送艦に、SUはカジノと酒場を作っています。その場所を作れる余裕があるほど、補給物資は十二分にあると考えた方が良さそうです』
「補給物資を脅かすことで、SUの戦力低下を招かせ、TRの戦争を長引かせる。この構想は、成し得ないってことになる」
『他の海賊も、ドーソンと同じように補給隊を狙って攻撃しているようですけど、こちらはあまり成果が上がってませんね』
「巡宙艦と駆逐艦を使う海賊もダメだったってことか?」
『その海賊だけしか戦果がないんです。それに戦果といっても、輸送隊の護衛の駆逐艦をいくらか撃破しただけで、輸送艦の撃破はごく少数に留まっています』
「敵の補給を叩いて疲弊させるって戦法は、SF小説のようには上手くいかないな」
『SUの補給線は何本もありますし、物資集積拠点や生産工場からの距離も短いんです。補給を叩く作戦が上手く行かない条件が揃ってますし』
小説であれ物語であれ、敵の補給を叩くことが有効なのは、敵の補給線が伸びきっていて数が少ない場合に限られるもの。
その状況ではない今、海賊がSUの補給線を襲ったところで、巨大戦艦に拳銃を撃つようなものでしかない。
ドーソンは現状を理解し、そして考えを変えることにした。
「SUに打撃を当たることを考えることは止めて、俺たちの利益にするための襲撃に切り替えるべきだな」
『こちら利益、ですか?』
「そうだ。この輸送艦は、武装こそ貧弱だが、装甲は一般的な戦艦並みにある。そして多数の砲や機銃の予備に、弾もたんまり抱えている。改造すれば、正規の戦艦とまではいかないまでも、かなり協力な戦闘艦を作れそうじゃないか?」
ドーソンの発言を受けて、オイネは直ぐに改造案を作成してモニターに表示させた。
『不要な場所を取っ払い、ダメージコントロール用の隔壁を入れ、武装を施してみました。でも、あまり有用とは言えませんね』
「戦艦とまではいかなくても、重巡艦ぐらいの性能はありそうだが?」
『船足が遅いですから、拠点防衛用にしか用いれません。それに人員も足りません。電脳躯体を入れて嵩まししても、命令する人間が要ります』
「人員不足か。エイダたちのようなSU製人工知能を導入するのは――いや、止めた方がいいな」
『そうですね。SU製人工知能たちにアマト皇和国のことを知られるリスクは、無視できません』
「知られるわけにはいかないから、オイネは直接的に会話をしていないわけだしな」
『あの子たちの掃宙艇には、あの子たちの成長を観察する装置が内臓されてますからね。あの子たちが秘密にしようとしても、装置の記録でバレてしまいますから』
「その装置を取り外したら、それはそれで面倒な事態になりそうだからな。最悪、人工知能たちを回収されて研究分析に回されるかもしれない」
人工知能の記録を取られていると知っていても、それを放置することが一番の身の安全に繋がっている。
皮肉な話ではあるが、ドーソン一人で出来ることには限りがあるため、助けてはやれない。
「……そういえば、エイダたちが求めた躯体は届いたのか?」
『ベーラとコリィのものは届きましたね。ファッションショー用は数がありますし、オーダーメイドは作成するだけで済みますから』
「エイダが欲しがっている戦闘用は?」
『SUとTRが戦争状態に入りましたから、軍事物資の取り扱いが厳しくなって、流通がストップしてしまっているようです』
「なんとも運がない。この輸送艦にはなかったか?」
『戦闘用アンドロイドは物資の中にありますけど、エイダが求めていた高級品ではありませんね。SU軍で正式採用されている、一般的なものです』
「他二人が持っているのに、一人だけないのも座りが悪い。一先ずの措置と断って、要るかどうかだけを聞いてみるか」
ドーソンがメール通信で聞いてみると、エイダから『間に合わせとして頂きたく思うであります。そして輸送艦の物資を使って、アンドロイドを強化する許可を求めるであります』と返信がきた。
ドーソンは使う物資のリストを出せば改造は認めると送ると、直ぐにリストが改造案と共に送られてきた。
「戦闘用アンドロイドと追加装甲を一式。光刃斧3丁。回転銃身式光線銃1門と専用の外付けの小型ジェネレーターユニット1個。腕部内臓型の電気銃が1丁に腕力強化ユニットを1つ。高速推進用のジェットパックを1式。どれも型番指定での注文とは、拘りがすごいな」
『リストの兵器は、ちゃんと輸送艦の物資の中にあります。物資の中で良いカタログスペックのものを選んでいると評価できます』
オイネのお墨付きも出たことだしと、ドーソンはエイダの要求に許可を出したのだった。