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42話 戦争始まるも通常業務

 ドーソンが長い休暇を楽しんでいる間にも、宇宙の時間は先に進んでいく。

 その証拠に、SU政府が海賊の大規模討伐を宣言して大編成の宇宙軍艦隊を≪ハマノオンナ≫の活動宙域へと送り、TRはSUの大規模艦隊はTRに攻め入るためのものであると表明して大規模艦隊を送り出した。

 こうして、休戦中だったSUとTRは、再び戦争状態に突入した。

 戦争再開のニュースを見ながら、ドーソンはオイネと会話する。


「コメンテーターはTRの発言は言い掛かりだって言っているが、海賊を叩き潰すのに宇宙軍艦隊を差し向けるなんて、過剰戦力も良いところだ。海賊を倒し終わったら、TRの宙域まで進出する予定だったのは見え見えだろ」

『SUとしては、ここでTRを叩きたい理由があるんですよね』

「≪チキンボール≫を後援している企業への牽制だろ。件の企業は、あわよくば独立しようと考えているらしいからな」

『SUから独立しても良い事はないことを、TRを武力で叩くことで証明したいわけです』


 会話の中でもニュースは続いていて、SUとTRの艦隊は、≪ハマノオンナ≫の活動宙域の近くで戦闘になる見通しだという。


「海賊の私掠免状の発行主はTRだからな。海賊はTRに協力して、SU艦隊を共に叩くだろうな」

『大艦隊相手だと、海賊船は大した戦力になりませんよ。≪ハマノオンナ≫に送りつけた巡宙艦と駆逐艦も、数が少ないので焼け石に水でしょうし』

「なんにでも使い処はあるもんだ。正面で戦う戦力に使わなくたっていい」

『背面攻撃や補給路の寸断に使うってことですか?』

「居住衛星や惑星を脅かすだけでも、SU宇宙軍は対応しなきゃいけなくなる。対応に手勢を割けば割くほど、TRが優位になる」

『戦争は数、ですからね。前線から1隻でも多くの艦艇を引き離せれば、相対的な優位性を確保できるというわけですね』

「それにしても、戦争か。こちら側に獲物は現れて欲しいが……」


 ドーソンは≪ハマノオンナ≫とその活動宙域をモニター上に呼び出し、≪チキンボール≫活動宙域まで宇宙図を引き延ばす。


「オイネ。SU宇宙軍艦隊がどこを通るか、分かるか?」

『ちょっと待ってくださいね――ダメですね。≪チキンボール≫で、その情報は売ってませんし、来てもいないですね』

「なら順路を予想するしかないか。今まで手に入れた情報で、SU宇宙軍の拠点、生産工場、物資集積所の情報はあるか?」

『アマト皇和国が撃破し回収したSU艦艇にあったデータのものでよければ、ありますよ』


 オイネが表示してくれたデータから、ドーソンは≪ハマノオンナ≫と≪チキンボール≫の活動宙域に関係するものに限定した。その限定したデータにあるSU宇宙軍の関連施設の位置情報を、宇宙図上に光点として配置していく。


「これでよしっと――分かっていたことだが、TR支配宙域の近くに拠点が多いな。その拠点には生産工場はなく、離れた位置に別に作ってあって、前線へと輸送する形だな」

『TRに拠点を制圧された際、生産工場があったら、TRの戦力増強に繋がってしまいますからね。SU政府はそれを嫌がり、生産工場は国境から離れた位置に作ったんでしょう』

「生産工場が離れているということは、物資輸送をしなけりゃいけないってことだ。つまり、つけ込める隙があるってわけだ」

『TRに協力する海賊は、その輸送を狙うというわけですね』


 オイネの言葉に、ドーソンは肩をすくめる。


「他人事のように言うなよ。俺も、その輸送隊を狙う気でいるんだからな」

『そうだったんですか? では、いまから≪ハマノオンナ≫に移動するということですか?』

「いいや。≪チキンボール≫の活動宙域を通る輸送隊に限定して襲う。例のマークがないことを期待しながらだけどな」

『マークがあった場合は、どうするんです?』

「その場合は、仕方ない。休暇に戻るか、さもなきゃ傭兵船を襲うかだな」

『傭兵と戦うのは、あの子たちの訓練のためですか?』

「そうだ。あの人工知能3人も、いつまでも暇つぶしは出来ないだろうからな」


 ドーソンは、SU宇宙軍の輸送隊が通りそうな場所を探し、襲撃地点を割り出していく。

 そうしていくつかの候補を作ったところで、エイダ、ベーラ、コリィに休暇の終わりを告げる通信を送ることにした。



 ドーソンと人工知能3人が襲撃地点で待ち伏せていると、とうとうSUとTRの戦争が再開された。

 障害物のない宙域で、SUとTRの艦隊が睨み合いを始め、やがて徐々に接近し、攻撃可能距離に達した瞬間に双方が艦砲を放ち始める。

 荷電重粒子砲の光の交換が行われ、双方の陣営にいる不幸な艦艇が爆発四散する。

 攻撃は続行しながら、双方が別の種類の艦隊運動を行う。SU側は長期戦を想定した防御の厚い陣形になり、TR側は少しでも敵を削ろうという攻撃性の強い陣形へ。

 ここまで、攻撃は長距離砲撃用の荷電重粒子砲だけで、実体弾や魚雷や戦闘機の登場はない。それらを使える距離にならないのだ。


「SU側が上手いな。長期戦を狙って、戦力を減らさないように立ち回っている。広大な宙域からの補給を期待して、消耗戦で勝とうとしているな」

『でもTR側には勢いがありますよ。ニュース映像から見える撃破数は、TR側が勝っています』

「勝っていると言っても、数十隻ぐらいの差だろ。その程度の差は、艦隊の規模が万を越えている艦隊同士だと、一瞬にして覆る」


 小一時間ほど撃ち合った後、両陣営はお互いに距離を少し取る。消耗した物資の補給と搭乗員の休息、そして損傷した艦艇の修理のための時間だ。


「このタイミングでTR側が突っ込めば、与える被害を拡大できそうだが――いや、ダメだな。SUの無事な艦艇が最前線で睨みを利かせている」

『TR側は不意打ちできないと悟って、全ての艦で休息と補給を行い始めましたね。あえて隙を見せることで、SU艦隊を引き寄せて叩く戦法でしょうか』

「それもあり得るが、SU側が長期戦を狙っていると見取って、補給時間中での進出はないと判断しての全隊補給なのかもしれない」

『ドーソンのその予想が当たっているなら、かなりの度胸ですね』

「ギャンブル性の強い行動だから、真っ当とは言い難いけどな。少なくとも士官学校じゃ、悪手に認定される行いだ」

『でもドーソンは評価しているんですよね?』

「相手を警戒する艦を残すと、どうしても疲弊する艦と搭乗員が残ってしまう。その疲弊した艦艇は、後の戦況に悪影響を与える存在になり得る。疲労が溜まるとミスが起こりやすくなるし、戦場では1つのミスで負けることもある。だから全隊休息は、その悪い可能性を潰せる良い手だと、俺は思う」

『では良い手なわけですね?』

「効果は確かにあるが、俺には実際にやる度胸はないな。危険が高過ぎる」

「もう! 評価しているのかしていないのか、どっちなんですか!」


 ドーソンがオイネとの会話を楽しんでいると、標的にしていたSU宇宙軍の輸送隊が跳躍して出てきた。今回はドーソンの予想通りの場所での出現だ。

 ドーソンは、その輸送隊に攻撃付加のマークがないことを確認すると、どれを撃沈しようかと照準で狙っていく。

 輸送隊は、軍用の超大型の物資輸送艦が3隻と、護衛の駆逐艦が5隻。

 これが民間船を相手にする場合なら、真っ先に駆逐艦を狙って排除し、その後で輸送船を叩く。

 しかしそれは、民間の輸送船には武装がないという前提での話。

 軍用の物資輸送艦は、軍艦に近い外壁装甲を持ち、接近する艦船を追い払う熱線砲の銃座を多数抱えている、立派な戦闘艦だ。

 厚い装甲と弾幕があるため、むしろ駆逐艦よりも手強い相手といえる。


「先に狙うべきか、後で狙うべきか……」


 ドーソンは考え、輸送艦を後回しにすることにした。

 そうした理由は、ドーソンが≪大顎≫号の荷電重粒子砲で駆逐艦の1隻を貫いたとき、判明することになる。

 ドーソンが狙った駆逐艦は、放たれた荷電粒子の白い光に貫かれた直後、付近の補給艦の装甲を焼くほどの大爆発を起こした。駆逐艦が抱えていた宇宙魚雷に荷電粒子が命中し、大爆発を起こしたのだ。

 突然僚艦が大爆発したことで、輸送隊は少なくない混乱を起こしている。

 続くドーソンの第二砲撃で、再び別の駆逐艦が大爆発を起こすと、3隻の輸送艦は最大船速で逃げようとし始める。しかし、超大型の艦体では即時に速度を上げることはできない。

 急いで離れようとする輸送艦と、不意打ちから立ち戻って戦おうとする護衛の駆逐艦とで、意識の差が生まれる。意識の差は艦隊の形を歪なものにし、艦同士の連携に齟齬を発生させた。

 その瞬間を狙いすましたかのように、エイダとベーラとコリィが跳躍接近で突撃した。砲撃した≪大顎≫号の方に注意が向いていたため、その反対側から跳躍突撃してきた掃宙艇3隻に、輸送隊は反応しきれていない。


『吶喊、であります!』

『はーい、大人しくやられてね~』

『狙って、撃つ』


 人工知能3人が狙った先は、大型輸送艦それぞれ1隻ずつ。

 輸送艦は銃座から熱線砲を乱射して追い払おうとするが、遅きに逸していた。すでに掃宙艇のキルゾーンに捉えられてしまっている。

 それぞれの掃宙艇から、魚雷が2発ずつ発射された。魚雷が突き進む先には、輸送艦の推進装置とジェネレータが配置されている箇所がある。

 魚雷が当たるまでの短い時間の中、銃座を集中させれば、どちらか一方を破壊することは可能だったかもしれない。

 しかし推進装置であれジェネレータであれ、そのどちらかでも壊されたら、艦としては致命傷になる。

 どちらを落としても致命傷は避けられないからか、どの3隻の輸送艦も迫る魚雷を2発とも熱線砲で撃ち落とそうとして、結果的に両方の魚雷を食らう羽目に陥った。


『大物は狩り終わったであります! 次は小物の掃討でありますよ!』

『支援砲撃で追い回す役をやるわ。一時的に2対3の状況になるから、二人とも気を付けてね~』

『平気、だよ。ご主人ドーソンが、もう1隻倒して、2対2になるから』


 通信から聞こえてくるコリィの発言に、ドーソンは苦笑いを浮かべる。


「俺のやることが分かっているようで、頼もしい限りだな」


 ドーソンは≪大顎≫号で遠距離砲撃を行い、駆逐艦をまた1隻破壊した。大爆発を起こす意味はないので、ジェネレーターを撃ち抜いての機能停止とした。

 その後の戦闘は危なげなく終了し、ドーソンたちは半壊の大型輸送艦3隻と駆逐艦3隻が、この日の収穫となった。


「しかし輸送艦は推進装置を壊してしまったから、運搬できないな」


 ここでドーソンは決断を迫られる。

 ≪大顎≫号と掃宙艇3隻の4隻がかりならば、大型輸送艦1隻または駆逐艦3隻を≪チキンボール≫まで持って帰ることができる。

 そしてどちらを選ぶべきかを延々と考える時間はない。あまり時間をかけると、SU宇宙軍の救援がやってきてしまう。


「ここは輸送艦にしておくか。どんな物資を運んでいるのか興味もあるしな」


 ドーソンは輸送艦の中でも一番損傷の少ない艦を持って帰ることに決める。他の2隻は倒した駆逐艦が持つ魚雷を自爆させ、その爆発に巻き込ませる形で物資ごと完全破壊した。

 その後、≪大顎≫号と掃宙艇3隻で輸送艦に接続すると、推進装置と跳躍装置をフル稼働させて、えっちらおっちらと≪チキンボール≫へ運んでいく。もちろん、SU宇宙軍に追われないよう欺瞞は忘れずに。

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― 新着の感想 ―
[一言] エイダにはガンプラ的なものを進めてみたらどうだろう
[気になる点] 輸送艦強奪はご開帳する時が楽しみ(*´ ꒳ `*)
[気になる点] 巡洋艦落とせるドーソンがいるのしってるくせにそれより明らかに弱い補給艦隊マークなしで出すかとアホすぎない??
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