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41話 商業区画で羽伸ばし

 ドーソンの休暇は続く。

 飲食店区画から離れ、今度は商業区画ショッピングモールへと入った。

 一直線の通路が伸びていて、その両側に多数の店が立ち並んでいる。大きさは、一部屋ほどの小さな店から、全長100メートルはありそうな大型店まで。店の種類も、小物を扱っている店から、宇宙船の装備をカタログ販売している店ままである。

 そんな幅広い種類の店がある中を、ドーソンは観光気分で歩いていく。


「やはり故郷とは品揃えが違うな」


 大人しめな色合いが多いアマト皇和国と比べて、どぎつい色が目に飛び込んでくるSU製の製品たち。

 光線銃ブラスターが良い例で、マッドな黒色から目に痛い金色までと、幅広いラインナップがある。


「明るい玩具色トリコロールカラーは法律違反になるから出来ないって、どうして取り締まる必要が?」


 玩具っぽい色の銃は見た目が良くて売れると思うのにと、ドーソンは不思議がる。しかし、いまある銃から取り換える気はないので、銃砲店から離脱した。

 洋服屋に入ると、様々な大きさと色の衣服がずらりと並んでいた。買ってすぐに着れるようにか、体型や身長だけでなく、腕や足の長さも規定で作ってあることが、ドーソンには印象的だった。宇宙服の種類も豊富で、体の線が出る薄手のものから、着ぐるみのような着ぶくれするものまである。

 この服屋には海賊たちの姿があり、彼ら彼女らは宇宙服の棚を前にあれこれと会話していた。


「やっぱり、宇宙服の色と見た目ぐらいは統一しておくべきじゃないか?」

「馬鹿言え。俺らは宇宙海賊だぞ。むしろチグハグな方が、アウトローらしいじゃねえかよ」

「大昔の暴走族は、お決まりの服装で身を包んだって聞くが?」


 男性海賊たちが集まり、仮に見た目を統一するのならどの宇宙服が良いか、機能スペックの数値を見比べ始める。

 一方で女性が多い海賊の集まりでは、完全に見た目重視でのお喋りが行われている。


「うっわー、これメチャ可愛じゃん?」

「クリスタルでデコれば、もっと良くね?」

「でもさー、高過ぎっしょ。こっちのが、もっと可愛くて安いしー」


 きゃいきゃいと声を上げて、あれこれと品物を取り換える。

 海賊でも男女の差異はあるものだなと思いつつ、ドーソンは服屋を後にした。



 ドーソンはベンチに座り、甘いコーヒー飲料をストローで飲んでいた。有名チェーン店で購入したものだけあり、外れのない美味しさが口に広がる。

 ドーソンが商業区画を一巡りして思ったことは、この場所が商業だけを目的とした場所ではないという考えだった。


「目的の物があるなら、通販で買えばいい。港にある海賊船まで自動的に送られてくるしな」


 人類が宇宙に進出して幾星霜。仮想空間上での買い物は当たり前になっている。むしろ、遠くの星で生まれた商品を買うためには、オンラインショップでの通販は必須だ。

 では、どうして商業区画があり、その中に多数の店舗が出店しているのか。

 ドーソンが抱いた印象は、アミューズメント施設であるということ。


「買い物だけを目的とするのではなく、買い物を通しての楽しい経験を得るために存在するわけだ」


 海賊は、基本的に海賊船の中で生活が完結できるような仕事だ。宇宙で獲物を襲って金を得て、帰投した港で補給を行い、少し休憩してから再び宇宙へ進出するという行動を、自分の船に住み続けながらできる。

 しかし人間は、同じ景色や同じ行動をし続けると飽きたりストレスが溜まる生き物だ。たまには海賊船の外に出て、思いっきり羽を伸ばしたくもなる。

 その羽を伸ばす場所として、商業区画はうってつけだ。

 買おうと思っていた商品の実物に触れられる機会は、その商品を購入した後の生活を想像する余地を産む。自分の考えの外にある思いもよらない品々を目にすれば、それは新たな刺激になる。一目惚れしたものを衝動買いすれば、物欲を晴らすことができる。

 そんな余地や刺激や欲の解消は、人間らしさを取り戻すには必要な行動だ。

 つまり商業区画とは、海賊から人間に戻れる場所と言えた。


「それは過言に過ぎるか」


 ドーソンは自分の突飛な発想に自嘲すると、手にある紙製のコーヒーカップにある残りを飲み干してゴミ箱へ投げ入れた。

 その後で、ドーソンは空間投影ディスプレイの案内板に近づくと、その前で手を振った。ディスプレイが反応して、流れていた広告が消えて、商業区画の地図と検索欄が現れる。

 ドーソンは案内板を眺めた後で、自分の目的に沿った操作を行う。

 地図を選び、そして広域地図の欄を3回タップ。いまいる場所の付近の地図から、商業区画全体の地図に。そして商業区画周辺の地図を経て、≪チキンボール≫全体の地図へと変わった。

 ドーソンは≪チキンボール≫の大まかな区画を地図から読み取って、面白そうな場所はないかと見ていく。

 ≪チキンボール≫は海賊拠点衛星だけあって、日常生活で近づく必要のない区画も多い。

 船舶の完全改修オーバーホールや製造を行う造船区画。拠点の動力を賄うジェネレーター区画。衛星表面にある防衛装備を動かすためのコンソール区画。

 そして≪チキンボール≫の中央区画に、支配人室があった。

 ドーソンはジェネラル・カーネルの姿を思い出し、つい興味本位で、支配人室へと至る道を確認する。

 電車と通路を組み合わせて移動すれば到着できるが、中々にいくまで大変な道のりだった。


「かなりの回数、電車や道の接続を変えないといけないな。これは徒歩だと半日かかる。しかも支配人室の直前の道は一本道になっているな」


 この道程を見るに、明らかに拠点を制圧されそうになった際に遅滞戦闘を行える作りになっている。

 電車を止め、道の接続にバリケードを設置して抵抗すれば、用いることのできる物資の量にもよるが、10日は支配人室の占拠を遅らせることが可能そうだった。

 そしていよいよ占拠されるという場合は、隠し通路から支配人が逃げれるようにできているに違いないと、ドーソンは考えた。


「支配人室に逃げ道があるとしたら、接続する港はどこになるか」


 支配人室は≪チキンボール≫の中央だ。外殻部にある港まで道を伸ばす場合、どの港も近くも遠くもない。


「距離で絞り込めないとしたら、別の方法だな」


 ドーソンはディスプレイに表示されている≪チキンボール≫の全容を、スワイプしてグルグルと回し始める。

 横回転が終われば縦回転。そして斜めにも。

 傍目には回して遊んでいるように見えるだろうが、ドーソンの頭の中では≪チキンボール≫の通路の情報が蓄積されて行っている。

 そして十二分に情報が溜まったところで、ドーソンはスワイプを止めて、ディスプレイの表示を広告が映るところまで戻した。

 その後は興味を失ったようにディスプレイから離れて、商業区画の散策に戻る。

 ドーソンは、隠し通路の予想を諦めたわけじゃない。むしろ、その通路の当たりを付けていた。


「人がひとり通れる幅かつ、港までの直線で道を通す余裕が、一方向だけあった。あの部分が隠し通路だとは思うが、何かの勘違いかもしれないな」


 ドーソンが勘違いだと評した理由はある。

 なにせ隠し通路の先にある港とは、いま≪大顎≫号と掃宙艇3隻が停留している、まさにそこの港だったのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隠し通路が情報通のバーテンダーのところにつながっていると想像してみた。
[一言] 脱出にドーソンを使うことを考えてるとすると 親分は同僚の先任者じゃね?w
[一言] 案内板から何を探っているんやw しかし、軍人目線で見ると色々と分かるもんなんだなあ
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