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39話 獲物なし

 ドーソンは、人工知能3人と共に海賊仕事に精を出した。

 そして精を出し続けた結果、拙い事態になった。


「……獲物がない」


 そう、海賊仕事で狙うべき相手がいなくなってしまった。

 もちろん、宇宙空間を航行する艦船がいなくなったわけではない。

 しかし≪チキンボール≫を中心に活動できる範囲内を航行する艦船、その現状の全てに攻撃不可のマークが描かれていると、得た情報に記載があった。


『ドーソンが張り切って狩り過ぎましたね。マークがない艦船が強力な海賊に真っ先に狙われると知れ渡って、宇宙軍も一般船も挙ってマークを入れましたから』

「一般船は良い。だが宇宙軍の艦艇が海賊にビビッてマークを入れるなんて、普通はあり得ないだろうが」

『SU宇宙軍と政府の方も、色々と思惑があるようですよ。それこそ、不用意に艦艇を失うわけにはいかないのでしょう』

「つまりは戦力を失うわけにはいかないってことは当然の考えだが、海賊に一時的に白旗を上げる真似をしてでもってのは異常じゃないか?」

『そうですね。艦船1つの喪失すら気にする事態となると、考えられることは戦争でしょうか』


 オイネからの意外な予想に、ドーソンは片眉を上げる。


「SUが戦争の準備をしているって、どことだ? アマト皇和国へ進出する艦隊は、解散したんじゃなかったか?」

『アマト皇和国のあるアマト星腕へ行くためではないでしょう。TRか≪ハマノオンナ≫の海賊相手か、そのどちらかじゃないかと』

「SUと敵対しているTRは分かるが、≪ハマノオンナ≫はどうしてだ?」

『≪チキンボール≫から≪ハマノオンナ≫へ、駆逐艦や掃宙艇が続々と贈られています。その全ての艦艇が暴れているとなると、宇宙軍が大規模艦隊を派遣しても変ではないはずです』


 オイネは予想と共にニュースをモニター上に表示する。

 それは≪ハマノオンナ≫所属の海賊たちが活動する宙域において、多数の商船の被害が出ているという記事だった。新しい記事の中には、富裕層の乗る豪華客船が拿捕されて、膨大な身代金をSU政府に求めているというものもあった。


「派手に暴れているな。駆逐艦や掃宙艇が沢山あるんだから、これぐらいのことは出来て当たり前だが」

『艦艇に乗っているのが海賊と考えれば、よくやっていると思いますよ。まあ、たっぷりと駆逐艦や掃宙艇があるなら、艦隊を大きく組んで仕事しろと意見したくなりますけどね』

「意外と、駆逐艦の編隊は難しいからな。俺は士官学校のシミュレーションでしかやったことないが、同型艦で揃えても艦の速度を合わせるのだけでも難しかった」

『核融合ジェネレータのエネルギー産出量と推進装置の出力は、艦によって差異がありますからね。だからこそ、アマト皇和国の星海軍伝統の一糸乱れぬ艦隊運動は至難の技なんです』

「オイネのような人工知能のアシストがあるから、大昔よりかは楽になったとは聞くけどな」

人工知能わたしたちが主体となって艦を操っても、意外と艦隊運動をピタっと揃えることは難しいんですよ。行動予定と速度計を確り見て動かしているはずなのに、なんだか微妙にズレるんですよ。人工知能は呼吸をしませんから、息を合わせることができないんだろう、なんて戯言が繰り出されるほどで』

「人工知能の補助に、人間の勘働きを加えることで、乱れのない艦隊運動ができるってことか」


 ドーソンは人間と人工知能の差異に感じ入ったものの、そんな話をしたかったわけじゃないと思い出す。


「襲える船がないんじゃ、海賊仕事はできない。幸い≪チキンボール≫の活動宙域の治安が悪化しているから、特務少尉としての任務は果たしていることにはなっているのが幸いではあるが」

『不労で任務の成果が入ってくるんですから、いっそ長期休暇しては?』

「休暇か……。まあ、そうするしかないな」


 ドーソンは仮面を付けると、人工知能3人に通信を繋げる。

 そして獲物がいなくなった現状を伝えた後で、長期休暇を行うことを告げた。


「というわけで、お前らも休みを取るといい」


 そのドーソンの言葉に、人工知能3人は困惑した。


『あの、ドーソン船長。小職らは休暇を貰ったところで、あまりやることがないのであります』

「ないってことはないだろ。エイダは軍事関係、ベーラは芸能関係、コリィはサブカル関係に興味があるんだろ。その情報を余すことなく仕入れる時間ができるぞ」

『えっ、どうして小職の趣味を知っているんでありますか?』

『もう、ドーソン様。個人の趣味趣向を覗き見はダメですよ~?』

『えっと、その、サブカルが好きというか、興味深いというか、見てて楽しくなるというか、あのそのあの……』


 人工知能3人の地雷を踏んだことに、ドーソンはようやく気づく。


「おっと、悪い。お前たちの人格形成のところをモニターしていたときに知ったんだんだが、あえて口に出すことじゃなかったな」

『いえ、別にいいであります。考えようによっては、大手を振って情報を仕入れることが出来るようになったわけでありますし』

『そうね。船を待ち伏せているときは流石にダメだけど、曳航しているときとかの暇な時間を趣味に当てたいって常々思ってたし~』

『ちゃんと仕事はします。でもこれで、録画溜めしていた映像作品の消化が捗ります……』


 ドーソンは現金なものだと苦笑いして、話を元に戻すことにした。


「それで休暇の話なんだが」

『はい。趣味の時間に充てさせていただくであります!』

『オリオン星腕には多数の星々に独自の文化が花開いているし、流行は日々移り変わるから、芸能や美容関係って追っても追っても追いきれないの~』

『ふへっ、時間ができたら見ようと思っていた、全264話の作品を一気見します』


 どうやら有意義に休暇を過ごす案があるようで、ドーソンは安心した。

 しかしコリィの次の呟きを聞いて、ドーソンは目を丸くすることになる。


『モニターに映像作品を投影して、アンドロイドの眼球と聴覚を通して鑑賞するの、いまから楽しみです』

「……コリィは、わざわざそんな方法で映像を見るのか? 人間やアンドロイドじゃないんだ。内容を知るなら、直接データから読み取れるだろ?」


 ドーソンは人工知能ならそれが出来ると思っての発言だった。だが、コリィには許せない発言だったようで、とても珍しいことに怒った声を出してきた。


『ぜんぜん分かってない。映像作品は、人間が目で見て耳で聞いて鑑賞するように作ってある。真に映像を楽しむのなら、人間と同じ方法で鑑賞しなきゃいけない。データで読めばいいとか、倍速再生で観ればいいとか、そういうのは作り手を冒涜する発言』

「そ、そうなのか。不勉強で申し訳ない」

『分かればいい、です』


 コリィは主張が通って満足そうな声になる。

 ドーソンは、コリィの拘りを知って、ふと思ったことがあった。


「コリィは『アンドロイドの眼球と聴覚』と言っていたが、乗り移れるアンドロイドを購入したのか?」

『えっと、言葉通り、眼球と聴覚装置だけ、買いました。体は買ってないです』

「どうしてだ? アンドロイド一式買うだけのクレジットは、お前たち専用の口座にあるだろ?」


 ドーソンが理由を尋ねると、コリィはおずおずとあるデータを渡してきた。それはアンドロイドのカタログだった。


『映像作品の中には『肌で楽しむ』ものがあって、それで皮膚感覚のあるアンドロイドはとても高いんです』


 ドーソンがカタログを確かめてみると、体全体に触覚があるタイプは無いタイプに比べて3倍ほどの値段の差があった。

 人工皮膚に極小の感覚素子を大量に埋め込むのだ。その手間の分だけ高額になって当たり前である。


「皮膚感覚のあるアンドロイドを買うために金を節約しているから、眼球と聴覚だけで我慢しているってわけか」

『音声を重視していない映像作品なら、目と耳で十二分に楽しめます。他はあっても無駄遣いです』

「なるほどな」


 ドーソンはカタログを見て、次に人工知能たちの口座のクレジット、そしてドーソンの海賊口座のクレジットを確認する。


「よし、わかった。良く働いてくれているし、皮膚感覚のあるアンドロイドを、俺がプレゼントしてやろう」

『えっ、あの、ええぇ?』

「なんだ、要らないのか?」

『い、要ります! 要りますけど、本当に?』

「嘘は言わない。それで、どのアンドロイドが良いんだ? 容姿はどうする?」

『そ、それなら、えっと、このアンドロイドが、買えたらいいなって考えてました』


 コリィが求めるアンドロイドは、フルオーダーの超高級品だった。

 ドーソンは、そのあまりの値段を見て、仮面の内の顔が引きつりを起こした。その値段で≪ハマノオンナ≫で食べたヌードルが何十万杯食べられるかを考えそうになり、急いで止めた。

 そして、口座にあるクレジットなら余裕で払えるし、新造船を買うよりかは安いのだからいいじゃないかと、そう考えることにした。


「分かった。それを買って贈る。フルオーダーなんだから、容姿も拘り抜けよ」

『は、はい! ありがとうございます! 大事にします!』


 ドーソンはフルオーダーアンドロイドが買えるクレジットを、人工知能用の口座に移し替えた。

 するとエイダとベーラからも物言いが入った。


『コリィだけズルいであります!』

『そうよ~。特別扱いはしちゃダメでしょ~』

「……なんだ。お前らもアンドロイドが欲しいのか?」

『戦闘アンドロイドを欲しいと思っていたところでありますよ! 装甲と内臓武器がマシマシなやつであります!』

『顔と体型をある程度変えられる、ファッションショー用のアンドロイドが欲しいの~。ちょーっとお高いのよね~』


 エイダが出してきたのは、SUの軍用アンドロイド。体長が2メートルあり、体表は鎧のような装甲で覆われている。ドーソンが幼い頃に見た特撮にあった、孤独に悪と戦う正義の改造怪人の容姿に通じるものがある。

 ベーラの欲しがるアンドロイドは、一見すると表面がつるりとしたマネキンのような姿だった。しかし変化例と載っている画像は、マネキンの見た目からどうやって変化するんだと思わせるほどに多種多様。そして憧れの芸能人を誰でも目の前に再現可能と謳い文句が載っている。

 そのどちらのアンドロイドも、製造コスト自体は量産品なので高くはないようだが、業界の外での流通が限られているためにプレミア価格となっている。

 奇しくも、フルオーダーのアンドロイドと似たり寄ったりの値段らしい。

 コリィに買っておいて、他には買えないとは言えないため、ドーソンはそのアンドロイド分のクレジットも人工知能用の口座へと移した。

 ≪大顎≫号の改造以降から海賊仕事で大分溜めていたドーソンの口座のクレジットは、これで大部分が消失することとなったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 部下(従業員)3人への充実した福利厚生!? [一言] 地域限定(海賊版)クレジットだから貯めても仕方ない仕方ない(笑)。(i_i)\(^_^) 主人公も何か趣味に大金を使って欲しくなります…
[一言] なるほど、アンドロイドの身体を得た3人は性的使用目的を購入して18禁なろうモードに殴り込みをかけるわけですね。 はぁはぁはぁ
[良い点] 定期的にお金なくなっちゃうね! [気になる点] これから長期休暇に入ろうかって時に素寒貧になっちゃった…
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