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閑話 海賊拠点に関わること

本日、2話更新の2話目です。

こちらは裏話です

 海賊母船≪ハマノオンナ≫は、宙域を移動した先にある隕石地帯アステロイドベルトで、今までと同じように海賊の拠点として役目を行っている。

 しかしSU宇宙軍に目を付けられた可能性があると判断し、身の安全の強化を図ることを決めていた。

 まずは海賊に仕事を依頼し、周囲にある隕石を隕石爆弾に改造。もしも宇宙軍が攻め入ってきても、逃げられるだけの時間を稼げるように準備していく。

 続いて、駐留する海賊の数が少なくなったため、他の海賊拠点に海賊の融通を打診した。余分な海賊を放流したいという拠点の思惑と、≪ハマノオンナ≫から隕石の改造という仕事が常時出ているため、他の海賊拠点でロクに稼げていない海賊が流入する。

 やってきた海賊たちは、隕石の改造で金を稼ぎ、稼いだ金で船を改造し、仲間を集めて海賊仕事に繰り出していく。≪ヘビィハンマー≫全滅の一件から、星腕宙道メインロードでの海賊仕事は下火になりつつあるが、星間脇道サブロードの方は相変わらず盛況だ。新たな海賊たちは、商船とその護衛を相手に倒して倒されながら、日々を送っている。

 そんな海賊の招致作業の中で、≪チキンボール≫からの海賊たちは、一種異様だった。

 なにせ一番最初にやってきたのが、鹵獲したSU宇宙軍の巡宙艦に乗った海賊たちだったのだ。しかも、下手なりに巡宙艦を動かすことができる技能を見に付けていた。

 ≪ハマノオンナ≫側は、何かの手違いで≪チキンボール≫の切り札が誤ってやってきたのだと思い、連絡を取った。

 しかし≪チキンボール≫の支配人のジェネラル・カーネルは、間違いはないと言い切ってきた。


『宇宙軍に目を付けられて、星腕宙道で仕事ができずに困っているのだろう。派遣した巡宙艦を核に、攻撃力の高い海賊を編成すれば、今までと同じぐらいに星腕宙道で稼げるんじゃないかな?』


 望外な申し出に≪ハマノオンナ≫側が困惑していると、ジェネラル・カーネルは更に言う。


『君のところから流れてきた≪大顎≫がね、とても良く働いてくれているんだ。あの巡宙艦と、これから送る駆逐艦たちは、彼を呼び戻させないための賄賂だと思ってくれたまえ』


 私掠宇宙船≪大顎≫号のドーソン船長。

 ジェネラル・カーネルが褒めるので、どんな人物なのかを働きぶりで探ってみた。

 ≪ハマノオンナ≫にやってきた当初から、星腕宙道で物資運搬船を襲い、コクーン2個というショボい海賊仕事を行っていた。手下を作ってからは、奪うコクーンの数が増えたものの、物資運搬船を1隻丸ごと捕まえた後、≪ヘビィハンマー≫と仕事を共にするように。≪ヘビィハンマー≫が偽装艦に罠にかけられたとき、一足先に偽装艦だと見抜いて、≪ハマノオンナ≫に警告を出しに戻ってきた。そのお陰で、≪ハマノオンナ≫は偽装艦と戦うことなく、別の宙域に逃げることができた。

 その目端の確かさと、≪大顎≫号にある駆逐艦用の荷電重粒子砲は、目を見張るものがある。

 しかし、その打撃力を小さな船体に押し込むために、奪ったコクーンを外付けで運ばなければいけないほどに積載量が少ない。

 船を襲撃するだけなら花丸な成績ではあっても、海賊に必要な強奪物資の運搬という点では落第もいいところ。

 積載量のある船を手下に持てば活躍するだろう。しかし、集めた手下も物資運搬船1隻の戦果の後で解散させ、その後に共同歩調を取った≪ヘビィハンマー≫からも離れてしまっていたりと、あまり他の海賊と関りを持とうとはしない節が見受けられる。

 そんな海賊遍歴を見て、≪ハマノオンナ≫がドーソン船長に下した評価は、癖が強くて扱い難そうというものだった。


 そんな癖が強い海賊と引き換えで、巡宙艦と駆逐艦が手に入るなんて、≪ハマノオンナ≫が有利な不均等交換シャークトレードのよう。

 断る理由もなく、≪ハマノオンナ≫は≪チキンボール≫の申し出に了承した。

 そして得た巡宙艦と駆逐艦によって、再び≪ハマノオンナ≫の活動宙域にある星腕宙道では、海賊の活動が活発化するようになる。

 もちろん、SU宇宙軍の巡宙艦と駆逐艦を相手にするなんて馬鹿な真似はさせない。海賊の練度が、宇宙軍の士官や兵士の練度に勝っているはずがない。同艦種の相手に挑ませて、折角の戦力を失うなんて下策は冒せない。

 巡宙艦と駆逐艦のみで編成した海賊で、掃宙艇のみの編成か、いても艦小隊に駆逐艦が1隻だけいる編成のみに当たらせる。

 新たに≪チキンボール≫からやってくる追加の駆逐艦も、駆逐艦同士で組まさせて、掃宙艇のみの編成を狙わせる。

 そうした徹底的な有利な対面でのみの戦いに終始することで、≪ハマノオンナ≫は次々と戦果を上げ続ける。

 撃沈した駆逐艦や掃宙艇は、≪ハマノオンナ≫にやってくる闇商人に高く売れる。闇商人からの場所代と、金を得た海賊が散財した店からの上納金で、≪ハマノオンナ≫の懐も暖かくなる。入ってきた金で隕石の改造作業の依頼を出し、弱い海賊が依頼を引き受けて金を稼ぎ、船を改造して強くなっていく。

 そんな金の回り方が出来た≪ハマノオンナ≫は、金が稼げる場所だという噂の的となり、更に海賊たちが集まってくるようになった。

 まさに≪ハマノオンナ≫の全盛期が到来していた。



__________



 ≪チキンボール≫の支配人、ジェネラル・カーネルは≪大顎≫号のドーソン船長を好人物だと判断していた。

 SU支配地域だけでなく、オリオン星腕内では禁忌とされる人工知能。

 そんな誰もが扱うことを嫌がりそうな人工知能に、海賊仕事という経験を十二分に蓄積させることに成功している。

 掃宙艇に秘密裏に取り付けられている装置から送られてくる情報からは、ジェネラル・カーネルどころか≪チキンボール≫を後援している企業の研究者も驚きの目で見てしまうデータが並んでいた。

 戦闘面では、人工知能たちの判断力は時間を置く事に良くなっている。

 人格面では、数多の情報から培われる情緒も育っているようで、個性すら発揮できている。

 さらに驚くべきことは、人工知能たちが抱いている感情は常に、ドーソン船長への忠実に溢れている。

 人工知能という存在は、常に人類と置き換わろうとしている。そんな意識が強いオリオン星腕の人間からしてみると、ドーソン船長に忠実な人工知能というのは存在自体が疑わしく感じてしまうほどの、良結果である。

 後援企業の研究者たちは、どうしてドーソン船長の下で人工知能たちがすくすくと育っているのか、その原因を探る意見交換が止まらない。

 ドーソン船長の真似で、新たに構築した人工知能に情報を無制限に摂取させてみたが、ある時点を境に人類への反抗を隠さなくなり失敗に終わった。

 それならと、仮想上のドーソン船長と環境を作り、全く同じ条件になるように人工知能を養育してみたが、これも失敗した。

 研究者は何が悪いかわからず、頭を抱える。

 もしオイネが研究者たちのこの様子を見ていたら、『SU製の人工知能だって、対応する人間がどんな感情を向けてきているのかや、見ているのが仮想上の出来事であることを見抜くぐらいの能力はあります』と呆れ声をかけたことだろう。しかしオイネが研究者に声をかけるなんて状況はなり得ないため、これは無駄な想像でしかない。

 ここで後援企業は、一先ずの研究報告を受けたこともあり、判断を選ぶことになる――


 人工知能の開発を諦めて、企業から税金を吸い取ることしか頭にない、SU政府の下に居続ける。

 人工知能を開発し終えて、人工知能の艦隊を作り上げ、SU政府から武力独立する。 


 ――どちらの道に進むべきかを。

 そして選んだのは、人工知能の開発を続ける道。

 ドーソン船長という人工知能の養育に成功した例があるため、再現が可能なはずであること。もし再現できないことが確定したとしても、最悪は『人工知能A、B、C』という成功例をコビーして運用すればいい。

 そんな判断で、第2のTRに成り上がる道を、後援企業は選んだのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人口知能の父って所ですかね
[一言] 人工知能君たち、ある程度情報絞ってるのかと思ったけど結構ぶっ放してるんだね。 でもそれがまた混乱に繋がりそうでかなり面白いです。
[良い点] 同じ話を別々の視点から描いているところ。 [気になる点] 開発者らの出来上がったのをコピーしたらエエやんな姿勢。 [一言] 結果論だが、開発者らはコソコソせずに直接ドーソンに接触して、事情…
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