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37話 初めての海賊仕事

 巡宙艦3隻を連れての初めての海賊仕事。

 十二分に訓練を積ませたとはいえ、生まれたばかりの人工知能たちの初陣だ。無茶な相手を設定するわけにはいかない。

 そこでドーソンは、商船とその護衛を狙うことにした。


「攻撃不可マークのない商船を選出しないとな」

『それなら≪チキンボール≫がマークのある商船の運行情報を公開しています。そこに載っていない船をリストアップしますね』

「それは助かる。頼んだ」


 オイネの作業で、襲撃可能な商船のリストが作られた。

 ドーソンはリストに表記されている商船の船種を見ていき、ある一つの商船に狙いをつけた。

 それは大型運搬船1隻と中型運搬船2隻の組み合わせの、星間脇道サブロードを通る予定の商船団。

 大型船は巡宙艦に、中型船は駆逐艦と似たサイズで、動く仮想標的として丁度いい相手。

 傭兵船の護衛がいるようだが、掃宙艇の能力ならいないも同然の相手だ。


「よしっ、こいつにしよう。長距離跳躍で出現するであろう地点を割り出すぞ」

『襲撃地点の割り出しを、あの3人に任せては?』

「いや、今回はこちらでやる。出現地点の割り出しは意外と難しいからな。成功体験という参考資料もなしにやらせるのは、ただの嫌がらせでしかない」

『おや。そう言うという事は、ドーソンにも苦い経験が?』

「生憎、俺はこの手の作業が得意だったみたいでな。教えられて直ぐにできるようになった。ただ、出来ない奴らと組まされたとき、俺が自分の予想結果を曲げずにいたら、教官に協調性に乏しいと評価をされたことがある」

『ドーソンが出した答えの方が正解だったのですよね?』

「俺の答えが正解だからこそ、教官も強く非難できなかったことが、あのときの一番の幸いだった。まあ、俺が孤児だからと馬鹿にして聞く耳を持ってなかったアホどもを、言葉で説いて同意を取り付けるのも士官の能力の内だと小言を言われもしたが」

『言葉で説き伏せる能力が士官に必要なのは、その通りでは?』

「俺もそこは分かっている。けどな、言葉ってのは聞く意識のある奴にしか通じないもんなんだよ。聞きもしない相手の耳に言葉をねじ込んでやるほど、そのときの俺は親切じゃなかったわけだ」

『今は違うと言いたげですね?』

「違うさ。あのときは訓練で、俺の意見が通らなくても死ぬ心配はなかった。けど今は士官になって、命を預かる立場にいる。俺が意見を押し通すだけで仲間の命が失われずに済むのなら、いくらでもねじ込んでやるとも。脅迫まがいのやり方を使ってでもな」 

『言っていることは真っ当ですけど、言い方が悪役ですね、ドーソンは』

「俺は話の通じるヤツだけを考えれば良いと思っている性質だからな。話の通じない奴らに嫌われたところで、どうとも思わん」


 ここでドーソンは、脱線している会話を打ち切った。標的が長距離跳躍後に現れるであろう地点の割り出しを終えたからだ。


「さて。地点は割り出せた。この標的を例題に、どうやるかの段階を書いて、あの3人に送るとしよう」

『レポートの作成は任せてください。でも、これで答えを外したら、ドーソンの赤っ恥ですね』

「そうなったらなったで、悪い見本として、失敗を糧に成長してもらうことにするさ」


 ドーソンは掃宙艇3隻に連絡をつけ、標的と定めた商船団を襲撃するため≪チキンボール≫から出発した。




 ドーソンが予想した地点に、商船団が跳躍してきた。そして次の跳躍へのエネルギー充填の時間、少しでも目的地への距離を縮めるため、宇宙空間を推進装置で移動を始めた。

 ドーソンは≪大顎≫号の長距離砲撃用の照準装置で、その商船団の動きを観察する。


「情報通りに、商船3隻構成。護衛の傭兵は8隻ぽっちか」

『商船および傭兵船に例のマークはなし。隊列の前後に2隻ずつ、左右に1隻ずつの、オーソドックスな警護隊形ですね。正直、これぐらいの相手だと、掃宙艇3隻は過剰戦力にも程があります』

「新兵には、まず成功体験を積ませるべきだからな。過剰戦力なぐらいで丁度いい」


 ドーソンは仮面を被ると、掃宙艇3隻へ通信を繋いだ。


「エイダ、ベーラ、コリィ。準備は良いな。俺が砲撃の二連射で、護衛を2隻沈める。それと同時に、お前たちは商船を襲撃するんだ」

『了解であります! 訓練で磨いた腕が唸りをあげているでありますよ!』

『はいはーい、分かってまーす。失敗したら訓練漬けに逆戻りなんて嫌だもの。真面目にやりまーす』

『が、がんまります』


 ドーソンは3人の言葉を聞いて頷くと、≪大顎≫号の射撃機構を立ち上げる。船体下部にあるカバーの口が開き、砲身の先端が現れる。

 商船団との相対距離を確かめ、どの程度の時間を置いたら、標的が≪大顎≫号の射程に入るかを算出する。


「カウント60の後、砲撃する。お前たちは残り10秒の段階で進発しろ。それで襲撃がちょうど良くなるはずだ」

『ドーソン船長。小職らの船の性能では、商船団がどこにあるか分からないであります。位置情報をお願いしたくあります!』

「分かった。これが商船団のいま居る位置と隊列だ。把握しておけ」

『この隊列だと、どこから襲えばいいかしら~』

『手早く、すませようね。宇宙軍がきたら、怖いから』

『宇宙軍が来るなら、来るべきであります! 小職ら3名ならば、倒せない敵ではないはずでありますよ!』


 勇ましいことだと思いつつ、ドーソンはカウントを見る。残り20秒。


「進発の準備をしろ。もうすぐ時間だぞ」

『準備完了しているであります!』『用意は終わっているわ』『やれます』

「じゃあ――行ってこい」


 カウント10を残し、掃宙艇3隻は一気に最大船速で商船団へと向かった。

 掃宙艇たちが商船団の認知範囲に入る直前に、カウントが0になる。


「では、作戦開始だ」


 ドーソンは≪大顎≫号から荷電重粒子砲を放った。真っ直ぐに伸びる白い棒状の線は、狙い違わず、隊列戦闘の傭兵船の片方を貫通した。続いての2撃目で、隊列左方にいた傭兵船を撃沈させる。


「荷電重粒子砲へのエネルギー充填開始。推進装置への供給をカットし、その分のエネルギーを充填に回す」

『急速充填開始します。完了まで15秒』

「さてさて、掃宙艇の様子はどうかな?」


 護衛の傭兵がいきなりやられたことで、商船団は浮足立っている。その混乱の最中に、3隻の掃宙艇が登場だ。

 ドーソンは商船団が更なる混乱を起こすだろうと考える。

 しかし、そうはならなかった。


「……なあ、オイネ。あの商船団。掃宙艇を見て、明らかに警戒態勢を解いてないか?」

『あー、この状況はあり得ましたね。あの掃宙艇、元はSU宇宙軍のものですからね。商船団は、助けに来てくれたのだと誤解しているんでしょうね』

「あの掃宙艇は、駆逐艦の砲塔を乗せた改造品だぞ。違いに気付かないのか。いやそもそも、海賊の襲撃を受けた直後に現れる掃宙艇なんて、怪しさ全開で信じるに値しないだろ」

『海賊が宇宙軍の掃宙艇を鹵獲して使っているなんて、あの商船団の意識の外なんでしょうね、多分』


 ドーソンとオイネがそんな会話をしている間に、荷電重粒子砲の充填が終わった。

 ドーソンは充填終了した直後に発砲。さらに護衛の傭兵船を1隻撃沈した。


「この砲撃で3度目だ。これで≪大顎≫号の位置は商船側にも分かったはず。そして掃宙艇は、砲撃された方向から来ていることも」

『残念ながら、商船団は間抜けの集まりのようですね。近づいてくる掃宙艇と≪大顎≫号の予想位置の直線延長上に位置を変えようとしています。要するに、掃宙艇の陰に入ろうとしていますね』


 まだ掃宙艇がSU宇宙軍のものだと誤解しているらしい。

 そして既に掃宙艇の荷電重粒子砲の射程距離に、商船団は入ってしまっている。


「これはもう勝負あったな」

『掃宙艇3隻、銃座からの斉射を開始。残りの傭兵船を全て排除しました。商船団はようやく、掃宙艇が海賊だと理解したようで、大慌てですね』

「慌てる前に、護衛が全滅したのだから降伏しろよ。いや、海賊相手だと身柄の保証がないから、やりたくないのか?」

『掃宙艇、それぞれの商船のブリッジに荷電重粒子砲を照準しています。発砲。命中しました』

「あとは、降伏勧告を出して、商船にいる人員を脱出ポットに入るよう誘導したら終了――」

『掃宙艇それぞれが、一発ずつ魚雷発射。商船団への直撃コースです』

「――はぁ!? なにやって」


 ドーソンの驚きの声の直後、宇宙魚雷が命中して、商船団は全て大破した。この攻撃で、商船内にある無事な商品は、幸運なごく少数になることだろう。

 ドーソンはこの結果に唖然としつつ、自分の失敗を今更ながらに悟った。


「しまった。軍艦艇を襲撃するための訓練を積ませてはいたが、商船を襲う作法は教えてなかった」

『確かに訓練通り、ブリッジを破壊してからの止めの一撃でしたね。ですが、あの3人も今回の相手が商船だと分かっているんですから、もう少し柔軟に対応してくれてもいいんですけど』

「教えてないことをやれというのは、教育者のエゴだ。責められるべきは俺だ。訓練内容も、今回の標的を選んだこともだ」


 ドーソンは商船から物資を奪うことは期待できないと思いつつも、掃宙艇3隻の初戦果だから持ち帰ることを選んだ。

 宇宙魚雷の直撃で大破した商船は、実に慎ましい値段で≪チキンボール≫で売れ、その売却益は人工知能3人のために作った口座へと入金されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「情報通りに、商船3隻構成。護衛の傭兵は8隻ぽっちか」 『商船および傭兵船に例のマークはなし。隊列の前後に2隻ずつ、左右に1隻ずつ 全部で6隻か前後左右に2隻づつで8隻なのかどっちで…
[気になる点]  巡宙艦3隻を連れての初めての海賊仕事。 掃宙艇
[一言] 自分の常識を相手が知ってるわけじゃないのに、生まれたばかりのAIじゃなおさらだな
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