36話 訓練漬け
ドーソンのSU製人工知能3人の戦闘教育が始まった。
「まずは射撃練習だ。攻撃能力のある艦船を操る際、射撃が決まらなかったら勝てるものも勝てない。静止目標になら、狙った場所へ百発百中できるようになってもらう」
そんなドーソンの宣言と共に、≪大顎≫号と掃宙艇3隻は、密度の薄い隕石地帯へとやってきた。
そしてドーソンが指定する標的に向かって、掃宙艇は荷電重粒子砲を放っていく。
「どうした、エイダ。標的から数メートルもズレている。もっと確り狙え。ベーラは収束率を弄って投射する荷電粒子の厚みを変えるな。それじゃあ、当たっても撃破できないぞ。コリィは、命中精度は及第点だが、一発一発に時間をかけ過ぎだ。エネルギーが充填したら即撃てるようにしろ」
『了解であります! 狙い撃つであります!』
『当たっているんだから、いいじゃないの~。もう、仕方ないわね~』
『は、はい。が、がんばります!』
荷電重粒子砲が異常過熱を検知するまで連射し、砲身の冷却が終わるまで休憩し、砲身が冷えたらもう一度連射するを繰り返していく。
それでも流石は人工知能だけあり、3人とも静止目標になら高い精度で砲撃を当てられるようになった。
「さて次は、銃座の練習だ。まずは全方位射撃をやってみて、次は移動目標への射撃、最後に荷電重粒子砲を撃ちながら銃座の射撃を継続してもらう」
『はいぃ。練習内容ぉ、了解でありますぅー』
『ちょ、ちょっと待って。演算領域が熱っぽいわ。練習は明日ではダメかしら~?』
『はふぅ、はふぅ。が、がんがります……』
疲れた様子の3人に、ドーソンは首を傾げる。
人工知能たちは、本当に疲労を感じているのか、それともフリをしているのかと疑問を持つ。
アマト皇和国の人工知能は疲労らしい疲労は受けないと、ドーソンは教わっている。活動や作業をしながらメモリの整理やデフラグを熟せるので、人間のような睡眠を取る必要がないという。
しかしその常識はアマト皇和国の人工知能に対してであり、SU製の人工知能に当てはまるとは言えない。
ドーソンは少し考えて、練習の修正をすることにした。
「疲れていても射撃を当てられるようになって一人前だが、まあ訓練初日だしな。銃座の全方位射撃だけやって、今日の練習は終わりにしよう」
『本当でありますか! では、盛大にぶっ放して練習終了であります!』
『よかった~。でも、あんまり無茶ばっかりだと、ドーソン様のこと嫌いになっちゃいそうね~』
『がんばります』
掃宙艇3隻は、船体の左右と後部にある銃座を起動し、ドーソンが指定した隕石へ向かって射撃する。
掃宙艇の銃座の数が少ないため、あまり弾幕は濃くないものの、海賊や商船を怯ませるには十二分の迫力がある。
「銃座で全力射撃すると、どれだけジェネレーターのエネルギーを食うか、ちゃんと把握しておけ。その残りのエネルギーで、推進装置や荷電重粒子砲を賄わなければいけないんだからな」
『了解であります! そして、全力射撃は気持ちイイであります!』
『ちまちま狙うよりも、こう派手にやる方が気が楽ね』
『狙った場所に、当てる、当てる』
3隻の銃座が加熱警報が出たところで、この日の訓練は終了となった。
≪チキンボール≫に戻ると、停泊する港の場所が変更になった。
いままでは1隻用の場所だったが、5隻一組の海賊用の港を使用するようにと通達があったのだ。
その港の中に入ると、≪大顎≫号と掃宙艇3隻は、係留用のアームで固定された。
そしてその瞬間に、掃宙艇3隻からの通信が途切れた。
「港に入ると、シャットダウンするよう設計されているのか?」
ドーソンが首を傾げていると、オイネが理由を教えてくれた。
『どうやら、あの子たち。疲労の極みと、港に戻ってきた安心感で、寝落ちしてしまったようですね』
「寝落ち? 人工知能がか?」
『訓練で得た情報や体験の統廃合と記憶の整理に、SU製人工知能は休憩を必要とするようです。まるで人間のようで可愛らしいことですね♪』
「人工知能が人間みたいじゃ困る。もしそうなら、人間を雇った方が楽だからな」
『楽、ですか? 個人的には人工知能の方が扱いやすいと思いますが?』
「そうでもないぞ。人間なら報酬を与えれば働いてくれる。金や待遇や名誉とかでな。しかし人工知能はそうじゃないだろ?」
『報酬という意味では、人間への奉仕がそれですね。アマト皇和国の人工知能の場合は、ですが』
「じゃあSU製の人工知能に適した報酬はなんだと考えると、実はあまりない。せいぜいが存在を担保するぐらいだ」
『ドーソンのいう事を聞いているから、SU支配宙域では違法である人工知能が、裏の世界でとはいえ生かされているわけですからね。それ以上の報酬となると難しいですね』
「今のところ特別報酬は必用ないが、後々に功績を上げた際には必要になる。頭の痛いことだ」
『その際は、直接何が良いかを聞くしかありませんね』
ドーソンとオイネは、その後も会話を続け、睡眠を含めた長い休憩を取った。
そして人工知能3人が疲労から回復したのを見計らって、再び訓練に戻る。
人工知能たちは、毎日ヘロヘロになるまで訓練させられ、意識を失うように休憩を取り、再び訓練に戻される。
ストレスの溜まる日々の連続に、いよいよ爆発しかけたところで、タイミングよく一日休暇を取らされて、怒りの矛先が消失する。
人工知能たちは、矛先が消えて解消できなかったモヤモヤを訓練で消費することを覚えたことで、より一層訓練に力が入れていく。
そんな訓練の日々が、ドーソンの『全員が一定以上の技量に達した』との判断で、ようやく終了となった。
訓練終了後、一日の休息を挟み、いよいよ≪大顎≫号と人工知能付き巡宙艦たちの海賊仕事が始まることとなる。