31話 撃破要請
ドーソンの≪大顎≫号の完熟訓練も終わり、いよいよ海賊仕事を再開する――というときに、≪チキンボール≫の港の中で通信を受けた。
『通信相手は、あの『ジェネラル・カーネル』です。繋ぎます?』
オイネの問いかけに、ドーソンは嫌な予感を得ながらも通信の許可をだした。
「こちらは≪大顎≫号、船長のドーソンだ。用件はなんだ?」
白黒仮面を付けたドーソンの問いかけに、巡宙艦の乗組員募集を演説していた姿のままのジェネラル・カーネルが笑顔を向けてくる。
『こんにちは、ドーソン船長。君の働きには大いに助けられているからね。お礼の言葉をかけようと思い、通信させてもらったのさ』
感情が欠片ほどしか籠っていない声に、ドーソンは仮面の内側で半目になる。
「お礼は受け取った、ではな」
ドーソンが通信を切ろうとすると、ジェネラル・カーネルが慌てて止めてきた。
『おいおい、待ってくれ。君は意外とせっかちなのかい? それとも会話の前置きが嫌いな人なのかな?』
「……用件を話せと、最初に言っただろ。その前段階は必要ない」
『そういう主義なら仕方がない、こちらが倣おう。さて用件だったね。まず何から話したものか』
考え込む姿に、ドーソンは面倒臭さを感じた。
「これから海賊仕事に出ようとしていたんだ。話し難い内容なら、仕事の後にしろ。それなら、ゆっくりと聞いてやる」
『いやいや、待ってくれ。その海賊仕事に関する話なのだよ』
ドーソンは苛立ちを感じながら、早く話せと身振りだけした。
『単刀直入に言おう。君に要請したいのだ、駆逐艦以上の軍艦を拿捕してはくれまいかとね。軍艦を拿捕してくれたなら、撃破報酬と軍艦購入代に、達成報酬を追加でクレジットを支払うことを約束する』
「その提案は≪大顎≫号の装備を見て、言っているのだよな?」
『その通りだ。巡宙艦を討ち取って持ってきた、君のその腕前を期待しての要望だよ』
「あれは拿捕じゃない。撃沈艦を回収しただけ。あの艦体が修復可能な壊れ具合だったのは、単に運が良かっただけだ」
『じゃあ言い方を変えよう。駆逐艦以上の軍艦を撃沈し、その残骸を持ってきてくれ。なーに、残骸ならニコイチにして艦を復元すればいいからね』
その内容なら仕事を受けても良いが、疑問はある。
「御自慢の巡宙艦を使え。あれなら≪大顎≫号に比べて、廃艦の曳航も楽だ」
『残念だが、アレは派遣先が決まっているのだよ。君が離れた、海賊母船≪ハマノオンナ≫へとね』
「意外だな。どうしてだ?」
『あちらは戦力の立て直し中でね。そしてSUの宇宙軍が躍起になって海賊を倒そうと頑張っている。そんな状況だから、海賊母船に守護神が1艦あった方が、海賊が安心して集まってくれるようになるのではないかとね』
「上手く巡宙艦が働けば、あちらでも撃破艦をニコイチして、新たな戦力を得ることもできるということも狙っているだろ」
『ご明察。せっかくSU政府が星腕宙道の混乱に頭を悩ませている最中だ。その悩みの種を増やしてやろうじゃないかとね』
意地の悪い話だが、ドーソンの任務にとっては追い風だ。引き受けない手はなくなった。
「仕事を引き受けても良いが、可能なら撃破艦を曳航する手が欲しい。≪大顎≫号では、1艦がせいぜいだからな」
『そういうことなら、任せておきたまえ。我が忠実な配下を回しあげよう。戦闘は不得手だが、操船の腕前は一流だよ』
「戦闘が不得手って、海賊にあるまじきことじゃないか?」
『はっはっはー。何事にも得手不得手はるものさ。適材適所で働かせてこその、≪チキンボール≫支配人というわけさ。じゃあ、よろしくたのむよ。すぐに配下の船を向かわせるからね』
ジェネラル・カーネルは『ばちこん』と男臭いウインクを一つして、通信が切れた。
その直後に、短文のメールがどこかから送られてきた。
『差し出し先は、≪Aキール≫、≪Bウイング≫、≪Cレッグ≫の3隻です。どの船からも『指揮下に入る。よろしく』との短文だけですね』
「短文メールだけとは味気ないな。仲良くする気はないってことか?」
『どうでしょう――っと、おやおや、メールの送受信以外の通信は閉じているなんて、本当に友好的に接する気はなさそうですね』
「相手の通信状況をそう把握したってことは。オイネ、ハッキング仕掛けようとしたな?」
『あは。いやあ、こんな短文だけを出してくる相手、どんな顔をしているのか気になるじゃないですか』
「やってしまったことは仕方がないが、以後は止めておけよ。要らない波風を立てる必要はないんだからな」
『そうします。ああして通信を閉じているの、≪大顎≫号にはハッキング装置があると分かっていての対策でしょうから。変にこちらの手の内を晒さない方が良さそうですし』
ドーソンは≪大顎≫号を港から出し、メールを出した3隻を待った。
程なくして現れたのは、四角柱型の宇宙船――あまり見慣れない船だった。
「オイネ、あの船の形はデータにあるか?」
『ちょっと待ってくださいね――ああ、ありました。あの外観と合致する船は、オリオン星腕の至る所へ移民が行われた過渡期に設計製造されたもので、いまではもう新規製造されていません。中身に改修がされていないのなら、相当の老朽艦です』
「その背景からすると、あれは移民船ってことか?」
『分類的にはそうですけど、本質的には運搬船です。人を多く詰め込んで入植先へ運搬するためだけの船です』
「その口振りだと、奴隷船のようだが?」
『半ば強制的に入植させるための船ですからね、あながち間違いじゃありません』
なんとも後ろ暗い背景のある船をつけてくれたものだと、ドーソンはジェネラル・カーネルに文句を言いたい気持ちになった。