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30話 試運転/演説

 ドーソンは新生≪大顎≫号の試乗を行った。

 場所は星腕宙道メインロード星間脇道サブロードとも外れた位置にある、隕石地帯アステロイドベルト。通りかかる者も海賊もいないので、訓練で遠慮する必要がないこと。避けるための障害や、新しくした砲身の試し打ちの標的に、多数漂う隕石が都合がいいからだ。


「さて、やるとするかか」


 ドーソンは気合を入れて操縦桿を握ると、先ずは障害物走を始める。

 出来るだけ船の速度を出しつつ、不定軌道を取る隕石を避けて進んでいく。


『はーい、作成した順路はこちらになりまーす。タイムアタックじゃないので、無理して船を壊さないでくださいね』

「無理するなという割に、道順が厳しいんだが?」

『ドーソンならできると信頼しています♪』


 オイネに言われ、ドーソンは仕方なしに難易度が高い道順で、隕石地帯の中を通っていく。


「砲身と荷電粒子の発射機構が重くなって、船足が鈍っているのがわかるな。それと咄嗟の操作の反応にも、若干の遅さがある」

『足の遅さは無理ですが、操縦の反応に関してはソフトウェアの方で以前に近いように調節できます。やりましょうか?』

「いや。全て前と同じにならないのなら、このままで良い。まるっきり操作感が違うわけじゃないんだ。今の具合に直ぐに慣れる」


 ドーソンは宣言した通りに、しばらく障害物走を続けると、変化した≪大顎≫号の操縦性をすっかりモノにしていた。


「さて、いよいよ新しくした砲身の出番だ」

『標的設定。こちらの隕石が、お買い得となっておりまーす』


 オイネが冗談交じりに指定した隕石へ、ドーソンは照準を合わせた。


「標的確認。では第一射、発射する」


 ドーソンが操縦桿の引き金を絞ると、新しい荷電重粒子砲が放たれ、真っ白に輝く棒が隕石へと伸びていく。

 最大収束率での発砲だが、駆逐艦用の砲だったときと比べると、明らかに2回りは直径が太い。

 その太さだけ威力もあるようで、最初の隕石を貫き、さらにはその後ろにあった隕石の大半を溶かし尽くして、荷電重粒子砲の輝きは止まった。


「これはまた、流石は巡宙艦の艦砲だと思わせる威力だな。さて、発射直後の船体チェックだ」

『砲身の加熱量は規定値です。砲の反動による船体の歪みは出ていません。それと予期していたことですが、駆逐艦用のエネルギー充填装置の容量では、第二射を全力で撃つには不十分です』

「不十分って、どのぐらいだ?」

『20%ほど足りません。ジェネレーターからのエネルギー供給を10秒追加で、ようやく満杯になります』

「10秒か。短いと見るか、長いと見るか」


 普通の感覚なら早いと思うところだろう。

 しかし10秒もあれば、軍の艦船に緊急体勢を敷くことも可能だ。

 ≪大顎≫号の戦い方は遠距離からの不意打ちが主体なので、この10秒間の攻撃の間はは無視できない欠点になりうる。

 このタイムラグを埋める方法は、ただ一つだけ。


「第一射か第二射の片方を、80%のエネルギー消費で放つしかないか」

『ある程度は消費エネルギーの操作が可能なことは、荷電重粒子砲の良い特徴ですよね。今までは充填装置を使えば100%に直ぐ持って行けていたので、必用の薄い機能ではありましたけど』


 必要なかった以外に、ドーソンが常に100%で荷電重粒子砲を撃ってきた理由は他にもある。


『でも、この砲で80%だと、駆逐艦用の砲の100%より、若干威力が劣りますよ?』


 そう。消費エネルギーの%を減らすと、荷電重粒子砲の威力も下がる。しかも指数関数的減衰という形で。

 その点はドーソンも理解している。


「分かっている。それでも、掃宙艇を仕留めるには十二分の威力はあるはずだ」

『ありますけど、駆逐艦相手だと仕留めきれない可能性が残りますよ?』

「その場合は、ジェネレーターからのエネルギー供給を5秒行って、90%で放つ。それで威力は十分出るはずだ」

『計算してみると、確かにその通りです。5秒なら、SU宇宙軍の艦船の混乱も抜けきらないでしょうから、いい案ですね』

「そうと決まったからには、試射を続けるぞ。連続発射と継続発射で、どれだけ砲身と船体に負担がかかるかの測定をする」

『分かりました。計測準備完了。試射、どーぞ』


 ドーソンは荷電重粒子砲の砲撃を続け、多数の隕石を破壊し、十二分に新しくなった≪大顎≫号の試乗を堪能した。



 ドーソンが試乗から≪チキンボール≫近くの宙域に戻ってくると、なにやら式典映像が入ってきた。

 物理モニターに映してみると、胸元に『ジェネラル・カーネル』とテロップが付いた人物が、大仰な演説を打っている。


『――そして我々は、とうとう自らの手でSU宇宙軍を打撃し得る戦力を手に入れた。諸君らも知っているだろう。先ごろ入手した、SU宇宙軍の巡宙艦がそれである!』


 どうやら≪チキンボール≫の支配人自ら、海賊たちを発奮させようと言葉を尽くしているようだ。

 『ジェネラル・カーネル』らしき人物の見た目は、顔の堀が深して皺が薄い30代半ばほどの容姿、白髪を整髪料でオールバックに固め、勲章が胸元にいくつかついている軍服を着ている。


「意外と若いな。あと軍服ってことは、SUかTRの軍人なのか?」

『アマト皇和国に来たSU艦隊が持っていたデータと照合してみましたが、あの意匠の軍服と勲章はSUにはありませんね。TRのものか、もしくは『ジェネラル・カーネル』というふざけた名前に寄せたコスプレをしているのではないでしょうか』

「TRの軍人が海賊拠点の支配人っていう可能性は薄いだろうから、コスプレ海賊ってことにしておこうか」


 正直ドーソンにとって、『ジェネラル・カーネル』がTRの軍人であろうとコスプレ海賊だろうと、どちらでも過度の肩入れをする気はない。

 TRの軍人に繋ぎを得るには時期尚早だし、コスプレしているだけなら今までの海賊たちと同じ対応に終始するだけだからだ。

 そんなドーソンとオイネが感想を言っていた間にも、演説は続いている。


『その巡宙艦は≪チキンボール≫が買い上げ、修理と整備を施し、十全な状態となった。後は乗組員があれば、その破壊力でSU支配宙域で暴れ回ることができる。そう、いま必要としているのは、乗組員である! ≪チキンボール≫に集まった海賊諸君の中に、この巡宙艦に乗り込んで働いても良いと考えるものは、この私に連絡を寄越してくれ。アドレスは以下の通り!』


 『ジェネラル・カーネル』と書かれていたテロップが反転し、連絡用のアドレスが表示された。


『この私『ジェネラル・カーネル』は、勇敢な諸君の参加を待っている!』


 ビシッと効果音が成りそうな指差しを画面に向けて行ってから、ジェネラル・カーネルの演説は終わった。

 沈黙したモニターを前に、先ず喋り出したのはオイネだった。


『巡宙艦の乗組員募集ですって。ドーソン、どうします?』

「どうするって、なにがだ」

『上手く立ち回れば、あの艦の艦長になれるかもしれませんよ。士官学校卒業一年以内に巡宙艦の艦長と成った人物はいませんから、前人未踏の偉業を成し遂げるチャンスです!』


 オイネの提案に、ドーソンは手をひらひらと降って興味ないことを示した。


「馬の骨とも分からん海賊たちと乗り合わせてSUの巡宙艦を運用しろって、冗談にもならない。素人の集まりが活躍できるほど、軍艦は甘い存在じゃない」

『ええー。せっかく巡宙艦の艦長になれるかもしれないのにですか?』

「≪大顎≫号に巡宙艦の砲身を乗せる前なら、少しはそう成る方法を考えたかもしれない。だが今は≪大顎≫号の船長に居続けるほうが魅力的だ。SUの巡宙艦にオイネを持っていくわけにもいかないしな」

『そ、それってつまり、このオイネのために艦長職を辞退すると!?』

「調子に乗んな。いまのは単なる軽口で、そういう意味で言ったんじゃない」

『ええ~? 本当にございますか~??』

「そのアニメ声でのウザったい口調はやめろ!」


 それからもオイネが突くような揶揄い口調を続けてくるので、ドーソンは軽口でも要らないことを言わないようにしようと反省した。



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― 新着の感想 ―
[一言] ええ〜〜? 本当でござるかあ?
[一言] ええー?ほんとにござるかぁ?
[一言] 将軍大佐はCv大塚明夫で私は帰ってきた!って言いそうな容姿してそう(´・ω・`)
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