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29話 ひと段落

 改造、各部チェック、試運転、調整を経て、新生≪大顎≫号は完成した。

 以前との違いは、外観は船体下部の砲身カバー部分が肥大化したことで下ぶくれになり、内部は船体重量の増加による最大速度の数%の低下となり、戦闘力は連射に若干の間が必要になるが砲撃で巡宙艦を倒せるようになった。

 十二分な強化に、ドーソンは満足していた。


「これで、より成果を出しやすくなったな」

『ですが、これ以上の強化改造は不可能です。この船で出せる以上の成果を望もうと思ったら、必然的に他の手を借りる必要がでてきます』

「その点は前から考えていた。だからこそハマノオンナで≪ゴールドラッシュ≫と≪ヘビィハンマー≫と共働きしたんだからな」

『あの2組みの海賊は、予行練習だったというわけですか?』

「片や、人の下で働くしか能のない海賊。片や、自らの戦い方を確立していた海賊。利用するには、どちらも必要な種類の海賊だったろ?」

『海賊の中には、その他の種類の人たちもいると思いますよ。例えば、人を利用して成り上がろうとする海賊とかです』

「その手の奴らは、仲間にしても害にしかならない。手を組みたいとは思わないから、相手にする気はない」


 きっぱりと言い切ったドーソンに、オイネは教師のような口調になる。


『いいですか、ドーソン。世の人の中には、人の足を引っ張りたがる輩や、人を利用して良い目を見ようとする輩の方が多いのです。いわば多数派です。ドーソンが今後、士官として立身出世しようと考えているのでしたら、その多数派に所属する人を上手く動かす術を覚えないといけません』

「使える奴らは少数派だから、仲間や部下にいるのは稀だってことか。でもなぁ」

『ドーソンの気質的に、人の邪魔をする輩を真っ当に扱いたくない事は分かります。ですが、使えないものをどうにか使えるようにするのも、上に立つ者の役割です。そして士官は、上に立ち他の者を導く存在です』

「分かった。とりあえず、使えないヤツだと一括りで見ることは止めると約束する。一人一人の特性を見れば、なにか使い道があるかもしれないからな」

『そうそう、その意気ですよ、ドーソン』


 オイネの満足げな声を聞いて、ドーソンはふと思いついたことがあった。


「なあ。人工知能はダメ人間好きだったよな。なら、どうやったらダメ人間が動くかのノウハウがあるんじゃないか? あるのなら、教えて欲しいんだが」

『なくはないですけど、ドーソンにはおススメできない方法ですよ?』

「まず例を一つ教えてくれ。それを聞いて、使えそうかどうか判断するから」

『じゃあ簡単に言いますと、褒めたり宥めたりしながら提案するんですよ、邪魔の仕方をちょっとだけ変えさせるようにです』

「望む結果の方向へ、意識誘導するってことか?」

『はい。でもこれ、人間同士だと上手く行かない方法ですよ。人には常識とか倫理観とかで感情が動きますから、本心でない褒めたり宥めたりすると嘘が混じります。人の邪魔をしたがる人は小心者が多く、そういう人たちは自分たちが嘘をよく付くので人の嘘を敏感に感じ取ります』

「しかし人工知能なら、本心を上手く隠せる――いや、ダメ人間好きの人工知能は、人のダメな部分が好きだからこそ、本心で褒めたり宥めたりできるってことか」

『ダメな子ほど可愛い、あばたもえくぼ、という類の判断基準で、です』


 なんともまあ便利なものだと思いつつ、ドーソンは話を元に戻す。


「海賊なんて仕事をやっているヤツは、基本的に真っ当じゃない。なら人の邪魔をする存在が、普通の環境よりも多いと考える方が自然。そして俺は、その手の海賊を集めて、SUの経済により多くの混乱を起こさないといけない」


 ドーソンが決意を語ると、オイネは少しだけ言葉を濁した。


『その通りではあるのですが、ドーソンに与えられた任務の重要度を考えると、今の段階でも十二分な成果だとは思うのですよね』

「……そんなに成果を出していたか?」

『もしやと思ってましたが、自覚ありませんでしたか』


 オイネは残念そうかつ、ドーソンのダメな部分を垣間見て嬉しそうな声をしていた。


『ドーソンは成果として、SUの星腕宙道メインロードの一部と、そこに付随する多数の星系と惑星に多大な経済的混乱を起こしました。そして、悪化した治安の回復するための増援という理由で、アマト星腕に進行予定だった艦隊を解散させています。これはアマト皇和国の被害を減らした、偉大な功績といえます』

「……アマト星腕への派遣が中止になったのは知らなかった」

『ドーソンは海賊仕事で大忙しで、SU宇宙軍の動向は艦船の運行状況しか見ていませんでしたからね。大して重要でもないとされたニュース記事にまでは、目に通してなくても当たり前ですね』


 オイネは、声だけでも肩をすくめている姿がありあると思い浮かぶ、そんな言い方だ。

 ドーソンは少し腹立ちを覚えたが、それよりも気になったことがあった。


「重要じゃないニュースだって? アマト星腕へ進出する予定の艦隊が解散したことがか?」

『SUの認識では、アマト星腕は未知の星腕なんです。分かっているのが敵性宇宙人がいるって点だけの。なので一般民衆からしてみれば、進出するしないは政府のお偉方が考えることという認識が強いわけです』

「宇宙人だって? それは『アマト皇和国人』のことだよな?」

『アマト皇和国は、大昔に長距離転移の自己で異なる星腕に到達してしまった移民で、それ以降は通信技術の距離限界もあって連絡を断ってしまいましたからね。SUの人たちが存在を知らないことは当然ともいえます。事実を知らない立場から見れば、ドーソンたちは『未知の宇宙人』でしょうね』

「じゃあ、なんだ。SUの認識としては、悪の宇宙人が支配している星腕を正義の力で開放すると考えていると?」

『一般大衆へのお題目は、その通りです。政府高官以上だと、単に新たな利権の確保のためですけど』

「……そういう事情なら、なにもアマト星腕の方じゃなく、反対側の星腕にすれば問題は起こらなかったのに」

『くじ運が悪かったのか、SUの技術だとアマト星腕の方が進出しやすかったのか。そこまでの情報は、まだありませんね』


 ともあれ、ドーソンは迷惑な話という意見しかない。


「SUは余裕だな。反乱組織であるTRが健在だっていうのに、未知の星腕に勢力を伸ばそうとしているなんて。普通は足元の地盤を固めてからやることだろうに」

『それはドーソンがアマト皇和国という、星腕統一国家の人間だから、そう思うんです』

「SUはそうじゃないと?」

『SUの中に『ユニオン』とあることからわかるように、国体は共同体で、色々な立場の人たちの寄せ集めです。意見の違いは当たり前。それどころか共通認識すら統一できていなくて当然なんです。だからTRのような反抗勢力が現れても、それを異常とは思わず、数ある違いの一部と認識してしまうようですね』

「聞くだけなら、悠長な認識のように感じるが?」

『実際に悠長ですよ。もしTRが極めて小さい勢力で、そして武力を持っていなかったら、足んなる市民活動として、SU政府は黙認していただろうと、そう予測がつきますから』

「反抗勢力が市民活動ねえ」


 ドーソンとしては、国を揺るがしかねない犯罪組織を野放しにする真似が信じられず、納得もできなかった。

 しかしながら、この情報は使えると思った。


「つまりSUには、反乱の芽がそこらかしこにあるわけだ」

『そうですね。力のある企業がSU政府に意見するのも、反乱の芽の一つでしょう。そして、この≪チキンボール≫の支援母体も、同じ類なのかなと思います』

「SUの支配地域のど真ん中で、SU宇宙軍に壊されることなく存続できているのは、政府が及び腰になるような存在が背後にいるからだ。そう考えたほうが自然なわけか」

『支配人の『ジェネラル・カーネル』――将軍大佐なんてふざけた名前も、軍の存在を揶揄している可能性があります』

「軍に対して面白く思っていない連中からすると、≪チキンボール≫と海賊は軍に対抗するための一戦力ってわけか」


 ドーソンは与えられた情報について考え、そして利用する方針を打ち出すことにした。


「オイネ。アマト皇和国への定時連絡の際、SUに反乱の芽が多数あることを報せてくれ。とくに有力企業の中にSUの支配に反抗的なものがあるとも書き加えて」

『構いませんが、そう報告する意図と目的は?』

「これは俺の認識だが、俺が海賊として動いているのは、SUの経済を混乱させるためという目的の他に、SUを大きく瓦解させる方法を探らせるためじゃないかと考えた。その考えにに従うと、反乱の芽が多いことはうってつけの情報となるんじゃないかってな」

『うーん。後方作戦室の人たち、そこまで考えていないと思いますけど?』

「俺の考えすぎなら、それでいい。でも、この情報が何かの役に立つかもしれない。送信に使うデータ量も大した差はないんだから、送ってみて損はないだろ?」

『それもそうですね。定時連絡の際に、未確認の付帯情報として送っておきますね』


 話が一段落ついたところで、ドーソンとオイネは話がだいぶ脱線していたことに気づく。


「もとは海賊をどう使うかを話していたんだったよな」

『そうでした。どうやって海賊を、こちらの目的に沿って踊らせるかの話でした』


 ドーソンとオイネは、とりあえずSUのことについて考えることをやめて、海賊の動かしかたを詰めていくことにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の流れが自然で面白いです。主人公とオイネとの会話もちゃんと人工知能が相手であるのが良く伝わってきます。 また、話の膨らまし方が上手いと思いました。 [気になる点] 誤字が多い気がします…
[一言] その考えにに従うと
[一言] 足んなる市民活動 単なる市民活動
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