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22話 退避行動

 跳躍後、ドーソンはすぐに海賊母船ハマノオンナに通信を入れた。


「こちら≪大顎≫号。ハマノオンナ、応答してくれ」


 呼びかけにすぐ反応があり、ハマノオンナのオペレーターアンドロイド――ローレライが、物理モニターに映し出された。


『はい。こちらハマノオンナ。どうしましたか、≪大顎≫号のドーソン船長』

「≪ヘビィハンマー≫が偽装艦隊にぶつかった可能性がある。それを報せに戻ってきた」


 ドーソンの説明に、ローレライは少しだけ反応に間を開けた。


『そうですか。可能性とのことですが、確証はないのですね?』

「ない。今日襲う予定だった商船団が偽装艦隊じゃないかって疑いは、俺の予想だ」

『そうですか――少々お待ちを』


 ローレライの身動きが止まり、2分ほどしてから動きが再開した。

 そしてハマノオンナから近距離通信放送が全チャンネルで発信された。


『非常事態警報。由々しき事態が発生する可能性があるため、ハマノオンナは居留宙域を移します。それに伴い、船外桟橋の収容を行います。桟橋にある船は全てその場に残しますので、所有する海賊の皆様は、急いで搭乗をお願いいたします』


 ローレライが放送を流した直後、ハマノオンナの桟橋から多数の海賊船が切り離された。そして桟橋はハマノオンナの船内へと入っていった。

 すっかり桟橋が仕舞われると、今度はハマノオンナの壷型船体の底部が展開して、推進装置が出現した。

 推進装置に火が入り、ゆっくりゆっくりとハマノオンナが加速を開始する。

 移動を始めたハマノオンナから、続々と宇宙服をきた海賊たちが飛び出してくる。その海賊たちは、桟橋から切り離された宇宙船へと宇宙遊泳で向かう。

 その一連の光景を見て、オイネが呟きを漏らした。


『ドーソンの警告一つで、大騒ぎになっちゃいましたね。これで商船団が偽装艦隊じゃなかったら、大顰蹙ですよ』

「そうならないことを祈りたいな。海賊母船からの賠償金要求なんて、考えるだけで恐ろしい」

『まあ十中八九は偽装艦隊でしょうから、必要のない祈りですよ、きっと』


 ドーソンとオイネが会話をしている間にも、ハマノオンナは加速を続ける。不思議なことに、ハマノオンナから一定距離に隕石群は近づけない。あたかも、隕石が自分からハマノオンナの道を空けようととしているかのように。


『当船の新たな座標を配布いたします。この場にいない知人友人の海賊がいらっしゃる方は、移動先を口頭で伝達くださいますよう、お願いいたします』


 ハマノオンナが送ってきた電子データを、オイネが確認する。


『この座標は、ここから少し離れた惑星系にある、隕石地帯アステロイドベルトの中ですね。次の行き先も隕石の中ということは、ハマノオンナは隕石地帯に隠れることが得意な船ということでしょう』

「隕石を船に寄せ付けない特異な装置を持っているみたいだからな。隕石地帯に隠れ住むよう設計建造されたんだろうさ」


 ハマノオンナは、ある程度場所を移動すると、続いて跳躍ワープの準備に入った。

 ハマノオンナは海賊母船――海賊船を何十隻も船内にいれられる、超巨大な船だ。これほどの質量のある船だと、≪大顎≫号や他の海賊船のように、跳躍装置を作動させて即跳躍ということはできない。

 巨大な船体各所に多数配置された跳躍装置を作動させ、その装置たちを同期させたうえで、船の推進装置を最大加速させる必要がある。多数の装置を同期させなければ跳躍空間に入れないし、推進装置を最大にしなければ跳躍空間に居続けることができないからだ。

 ハマノオンナもその手順を踏み、多数の跳躍装置が同期したことで通常空間が歪む音がなり始め、船底の推進装置が眩い推進光を放つ。

 やがて歪んだ空間からガラスが割れるような大音がした直後、ハマノオンナは通常空間から姿を消した。そのハマノオンナが消えた空間を埋めるように、隕石が漂い集まってきて、ハマノオンナがあった痕跡を覆い隠してしまった。

 その一連の光景に、オイネが感慨深げになる。


『要塞級ほどもある船の跳躍を初めて見ましたが、かなり壮大でしたね。いつかは見る側ではなく、跳ぶ側で体験したいものです』

「俺も、あの跳躍を一度は操船してみたいな。そうなるための道のりは、まだまだ遠いが」

『そうですね。ドーソンが要塞級を手にしようとしたら、SUやTRでなら海賊として大金が必要でしょうし、アマト皇和国でなら軍人として大なる功績を上げないと無理ですからね』

「要するに、いまの俺には不似合いってことだ。精進するしかない」


 一通りの会話を終えて、ドーソンは操縦桿を握る。≪大顎≫号も跳躍して、この宙域を離脱するためだ。

 ハマノオンナ船内から外に出てきた海賊たちも、自分たちの海賊船に戻り、宙域を移動する準備を始めている。

 このまま何事もなく移動できる――どの海賊もそう思ったであろう場面で、この宙域に跳躍出現してくる船があった。


『ドーソン。≪ヘビィハンマー≫が襲う予定だった物資運搬船が、跳躍してきました』


 ドーソンが急いで確認すると、確かに偽装艦隊ではないかと疑った、あの物資運搬船の1隻だ。

 たった1隻の姿に、もしや本当に物資運搬船であり、≪ヘビィハンマー≫が仕留めて持ってきたのかと、ドーソンは思った。

 しかしそれが勘違いだとすぐにわかる。

 物資運搬船の外壁が展開し、明らかに軍用だと分かる砲身や銃座が現れたのだから。


「跳躍中止! 最大船速! 通常空間で距離を離してから、跳躍する!」

『はい、ドーソン。操船サポートします』


 ≪大顎≫号が急発進すると、一秒後、船体があった場所を偽装艦から放たれた熱線砲が通過した。見れば、偽装艦は多数ある砲身や銃座を斉射し、その一発一発が宙域にいる海賊船へと向かっていた。

 ドーソンは避けることが出来たが、多くの海賊が射撃の餌食になり海賊船が溶け崩れている。


「隕石に船体を隠しながら移動だ。あの艦からの砲撃も銃撃も、一発で致命傷になる」

『逃走ルートを作成しました。モニター上に投影します』


 ドーソンが逃げ始めると、やおらモニターにハマノオンナのアンドロイド――ローレライの姿が映し出された。そのローレライが警告を発する。


『私掠免状の提示を求めます。提示がない場合、攻撃いたします』

「これは録画映像か? この状況で私掠免状に何の意味があるかわからんが、なんにせよだ、オイネ」

『はい。私掠免状のデータを提示します』


 ≪大顎≫号だけでなく、運良く生き残って逃げ始めている海賊船たちも、私掠免状の提示を行った。

 この宙域で免状がないのは、ただ1隻――SUの偽装艦だ。


『提示未確認船の存在を検知しました。最終警告、提示してください。攻撃まで10秒。提示してください。5秒、4、3、2――攻撃開始』


 ローレライのカウントダウンの直後、宙域に漂っていた隕石が輝き出した。いや、輝いているのではない。隕石に装着された推進機からの噴射炎が光を放っているのだ。

 その光景を見て、ドーソンは海賊船≪ゴールドラッシュ≫が採掘船の払下げ品だったことを思い出す。


「隕石に推進装置をつける仕事をするために使っていた船だったわけか。しかし隕石爆弾とは、レトロなことだな」

『いつの世でも、質量兵器は一定の効果を発揮する武器ですからね。使い古されるだけの理由があります』


 多数の隕石が、偽装艦へと向かっていく。

 流石のSUの軍艦といえど、これだけの隕石をまともに受けるのは嫌なのだろう。海賊を狙っていた砲塔や銃座が、迫りくる隕石へと向く。

 ドーソンは、隕石の撃墜を始めた偽装艦を見て、少しだけ意地の悪いことを思いついた。


「オイネ。バック走するぞ。逃走ルートの修正をしてくれ」

『修正は構いませんが、後ろに走らせるんですか?』

「そうだ。≪大顎≫号は構造上、後ろに射撃できないからな」

『後方射撃って、まさかドーソン、あの偽装艦に攻撃する気なんですか?!』

「あちらは隕石の処理で手一杯だ。こちらへの警戒が薄くなっているからには、その隙を突くことはできるはずだ」

『また無茶を言って。でも良いですね。そんな無謀な挑戦をする人間を手助けすることこそが、人工知能の喜びの一つですし♪』


 オイネはすぐにルートを修正した。≪大顎≫号が後ろ向きに宙域を離脱しつつも、偽装艦へ射撃ができる絶好位置へと至る、その道筋を作った。

 ドーソンはルートを辿りつつ、荷電重粒子砲の準備に入った。≪大顎≫号の射撃口が開放され、砲身が露わになる。照準装置が立ち上がり、距離が離れ続ける偽装艦へと光学望遠照準を行う。


「偽装艦といえども軍艦だ。駆逐艦用の砲じゃ艦体装甲は撃ち抜けない。狙うのなら、比較的装甲を薄くせざるを得ない、推進装置だ」

『偽装艦は足を止めて隕石を撃ち払っている最中です。偏差は必要ないですね。移動する隕石に注意しつつ、やっちゃいましょう!』

「我が妙技をご覧あれってな――いま!」


 ドーソンが操縦桿の引き金を絞り、≪大顎≫号の砲身から最高収束率の荷電重粒子砲が発射された。

 砲口から真っ直ぐに伸びた荷電粒子の白い棒は、宙域を漂う隕石の隙間を縫うように直進し、偽装艦の船尾に命中した。

 そう見事に当てはしたものの、ドーソンの顔は優れなかった。


「予想外に装甲が厚い。荷電粒子の大半が、装甲で散った」

『砲撃貫徹率、目算で30%。移動能力を奪うには、心元ない数字です――偽装艦、増速。推進装置は生きています。砲身の一つが、こちらに向こうとしています』

「隕石の陰に隠れる。こちらとあちらの射線上に、少なくとも隕石が3つ間に入る位置取りをする」

『適した場所を算出――ここです』


 オイネが出してくれた位置に、ドーソンは≪大顎≫号を退避させた。その直後、偽装艦から砲撃が来た。

 ≪大顎≫号と同じ荷電重粒子砲だが、明らかに威力は偽装艦の方が上で、隕石を2つ貫徹した後に、≪大顎≫号が隠れる3番目の隕石の半分ほどを溶かした。

 ドーソンは急いで場所を移動し、次の隕石の裏へと隠れた。


「いまの砲撃から、偽装艦の砲塔の種類を判別できるか?」

『アマト皇和国で拿捕したSU艦が持っていたデータと照合します――重巡艦の主砲の可能性が大きいですね』

「海賊相手なら駆逐艦で十分だってのに、張り込んだもんだ。鶏を捌くのにマグロ包丁を持ち出してくるようなもんだぞ」

『不相応な大鉈を持ち出してくるほど、怒り心頭だったんでしょうね。この近辺の星腕宙道の安全性は、ドーソンたちの所為でボロボロですし』

「まったく、こんな偽装艦がやってくるなんてな。先にハマノオンナが逃げていたのは不幸中の幸いだった」


 ドーソンは、偽装艦の砲撃をもう一度隕石でやり過ごしてから、荷電重粒子砲で反撃した。再び砲撃は当たったものの、やはり厚い装甲に散らされてしまった。


「手詰まりだ。逃げることに専念するか」

『そうしましょう。隕石爆弾が残っているうちに逃げないと、逃げきれなくなりそうです』


 ドーソンは≪大顎≫号の向きを反転させると、隕石の陰を繋ぐルートを最大船速で走り逃げる。

 偽装艦はしつこく≪大顎≫号を狙ってきたが、隕石爆弾の対応に砲塔と銃座を使う必要があることもあり、やがて諦めたようで射撃がこなくなった。

 そうして安全圏まで退避し終えると、ドーソンは空間跳躍で宙域を離脱した。偽装艦の強さから、≪ヘビィハンマー≫一派は生き残ってはいないだろうなと感想を抱きながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] いふゆーすめるわっとざどーそんずくっきんぐ
[一言] >降ってない隕石は小惑星では? 宇宙が当たり前の時代なら、言葉の定義も変わってるかもね。 少なくとも、恒星系に属さない小天体群は小惑星ではないな。
[良い点] 海賊母船はTRの国営と思われるので、高性能なのは当然かと。 そして、単艦で飛んできたのは、一番早く海賊母船にたどり着ける足の早い艦が、一番強力で海賊に撃沈される恐れの無い重巡艦だったのと、…
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