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17話 打ち上げの宴

 撃破した商船団の残骸を、≪ヘビィハンマー≫一派の海賊たちは手あたり次第に回収していく。商船団の輸送船の積み荷の一切合切も回収し、その回収したものを積載量をより多く改造された海賊の中型運搬船へバンバン押し込んでいく。

 ドーソンは≪大顎≫号の超遠距離砲撃用の照準器で周囲を警戒することで、作業の手伝いとした。

 やがて問題らしい問題も起こらないまま、≪ヘビィハンマー≫一派と≪大顎≫号は宙域から空間跳躍で離れた。

 そして海賊母船ハマノオンナに戻ると、≪ヘビィハンマー≫一派とドーソンとが海賊仕事の成功を祝う宴が催されることになった。


「今回も儲けた儲けた! 商船団のほぼ全てを頂いたうえに、こちらに被害はまったくない。こりゃあ、笑いが止まらんぞ。おい、じゃんじゃか飯を持ってこい!」

「へへへっ、流石はオヤビン、気前が良いですぜ。おい、変な混ぜ物をしやがるんじゃねえぜ。こちとら健全な海賊様だからなあ!」


 酒場街の店がひしめき合う一画の露天椅子に陣取り、近くの店の店員を呼びつけて注文して料理も運ばせる。

 どうやら酒場街でも≪ヘビィハンマー≫は知られているようで、店員は愛想よく対応して料理も嬉々と運んでくる。

 そうやって羽振りがいい真似をすれば、その御零れに与ろうと人が近寄ってくる。


「あのー、≪ヘビィハンマー≫の旦那がた。このケチな海賊に、お恵みをいただけないんで?」

「今回はかなり儲けたからな。同席するヤツに限っては、飲食代を持ってやろうじゃねえか」

「言っとくが、酒には払っても、クスリに金は払わねえ。変な真似をしたら蹴り出すからなあ!」


 気前のいい言葉と釘を刺す言葉を聞いて、他の海賊たちが『お行儀よく』宴に参加していく。

 そんな光景を、ドーソンは宇宙服に仮面の姿で見て、肩をすくめる。稼いだ金を気前よく使うこと自体は良い事でも、何の打算もなしに他の海賊を宴に参加させることは良い事なのだろうかと疑問に思ったのだ。

 しかしながら、≪ヘビィハンマー≫が稼いだ金をどう使おうと関係ないと、ドーソンは思い直すことにした。

 ドーソンが気持ちを入れ替えると、≪ヘビィハンマー≫船長の男から大声がやってきた。


「おおい、≪大顎≫! 功労者の一人が遅い登場じゃねえか! さあ、近くに来て、存分に飲み食いしていけ! この宴で、お前に金は払わせねえから!」


 お呼ばれしたからには行かなければいけないと、ドーソンは≪ヘビィハンマー≫船長の横に座った。すぐさま料理が目の前に並べられる。

 どの皿も、油でギトつく色の濃い料理で、培養肉と藻素構築野菜と可食用油、そこに人工調味料と人造香辛料をまぶされている。

 何という名前の料理か、ドーソンには分からない。だがアマト皇和国の料理形態の一種にある『チュウカ』によく似ていた。もっとも『チュウカ』にしては、色が濃すぎるし、油の量も段違いに多い見た目だった。

 あまりの油の多さに、ドーソンは若干尻込みしたが、≪ヘビィハンマー≫の連中が食べているのを見て、毒物ではないだろうと考えて食べてみることにした。

 ドーソンは宇宙服のバイザーと仮面の口元を開けると、フォークで刺した料理を口に運んでみた。


「――うん。なるほどな」


 味わいは『チュウカ』に近かったが、やはり別物だった。

 この料理は、まず素材の味をかき消すほど濃厚な人工調味液ケミカルソースの匂いと塩気が広がり、続いて人造香辛料の刺激が舌を刺してくる。その刺激を中和しようというかのように油気が舌にまとわりついてきて、食べ終わり際に甘味料の変な甘味が口に残る。

 美味いか不味いかを問われたら、ドーソンの舌の判定は『食べられなくはない』――更に詳しく評するなら『好んで食べようとは思わない』だし『タダ飯じゃなきゃ席を立つ』となる。

 そんな料理を≪ヘビィハンマー≫の連中は美味しそうに食べ、円筒パイプに底を張って作った鼠色の巨大なジョッキで酒を飲んでいる。

 その食べる様子から、もしかしたら酒と共に飲むと美味くなる料理かもしれないと、ドーソンは思った。しかし海賊母船という場所で出る酒を、ドーソンは飲もうとは思わない。アルコール以外の依存性がある何かが入っていてもおかしくないからだ。

 ドーソンは多数ある料理を試食していき、一番マシだった培養鳥肉の大判唐揚げだけを食べることにした。この唐揚げは中身は鳥肉の味だけなのだが、揚げた後で衣に変な匂いの香辛料が振りかけられている。その香辛料を少し払い落とせば、我慢できる匂いに軽減できた。

 ドーソンが大判唐揚げばかり食べるので、その料理が追加注文され、山盛りになって出てきた。


「気に入ったのなら、存分に食ってくれ」


 ドーソンは唐揚げを頬張りながら頷いて返す。口に唐揚げが詰まっているからでもあるし、素の声を出してアマト皇和国特有の語調を聴かれるのを避けるためだ。

 ドーソンがひたすらに唐揚げを食べていると、≪ヘビィハンマー≫船長は別の仲間の席に呼ばれて去っていく。

 その後の席を引き継ぐかのように、ネズミのような顔つきの男――≪ヘビィハンマー≫の僚船の船長が座る。そしてドーソンを睨みつけてきた。


「おい、テメエ。あんま調子のんなよ? オヤビンの声掛けだから、オレっちらは黙って仕事を共にしてやってる。だから≪ヘビィハンマー≫の一員になれるだなんて、大層な考えをしてくれんなよ、オオッ?」


 ドーソンは仮面の口元を閉じてから、ネズミ顔を見返す。


「俺は≪ヘビィハンマー≫の仲間になる気はないし、お前らの下につく気もない。今回の仕事も、俺の腕が見たいと言われ、分け前も不満がなかったから同行しただけだ。俺の力が必要ないというのなら、すぐにでも≪ヘビィハンマー≫から離れてやるよ」

「んだと、テメエ。たまたま大型の運搬船を一隻、奪い取ったぐらいでよお!」

「たまたまで、運搬船が手に入ると思っているのなら、お目出度いな。いや、運搬船を手に入れるだけなら簡単だから、たまたまはあり得るか。大変なのは、海賊母船ハマノオンナの位置を探知されないよう、SU艦船の追跡から逃れることだ。発言を訂正しておく」

「そんなぐらいの事、≪ヘビィハンマー≫一派が集まりゃ、運搬船を1隻どころか2、3隻は一度で奪い取って、そこから完全に逃げ切ってみせらあ!」


 その啖呵に、ドーソンは仮面の内側で笑みを浮かべた。


「そこまで言うのなら、やってみせて貰おうじゃないか。超大型の物資運搬船を2隻か3隻。狩って、ハマノオンナまで連れてきてくれよ」


 ドーソンの要求に、ネズミ顔男は大口を叩き過ぎたと理解して目を泳がせる。


「そ、そいつは、どうかな。判断はオヤビンがやることで、オレっちが口出しできるもんじゃねーし」

「お前は≪ヘビィハンマー≫の僚船の船長なのだろ。お前の言葉なら≪ヘビィハンマー≫の船長も考えてくれるだろ」

「そりゃあ、そうかもしれねえけど……」


 ネズミ顔男がごにょごにょうと言葉を濁していると、≪ヘビィハンマー≫船長が戻ってきた。


「おっ、なんだなんだ。二人して悪だくみか! よし、聞かせろ!」


 ≪ヘビィハンマー≫船長の問いかけに、ネズミ顔男は慌て出す。


「い、いえ、オヤビン。大したことじゃねえんで」

「へえ。星腕宙道の超大型物資運搬船を2隻か3隻一度で奪ってくる話が、大した事ないとは。流石は≪ヘビィハンマー≫の僚船の船長だ」


 ドーソンがさらっと話していた内容を語ると、ネズミ顔男から睨まれた。さしずめ、余計なことは言うなと注意したかったのだろう。

 しかしそれより、≪ヘビィハンマー≫船長の発言の方が早かった。


「おー。なんだ、お前らも星腕宙道で物資運搬船を襲う気だったのか。やはり実績者の助けがあるんだ。大物を狙わん手はないな!」


 この言葉に、ネズミ顔男は顔色を青くした。


「お、オヤビン。まさか、本当に?」

「あたぼうよ! じゃなかったら、どうして≪大顎≫の実力を確かめたのか分からんだろ」

「い、いやいや。コイツが物資運搬船を手に入れられたのは、警戒が緩かったからですぜ。いまの警戒度じゃ、どうやったって無理じゃねえですか!?」

「物資運搬船を狩る方針については、≪大顎≫に考えがあるだろうさ。じゃなかったら、何度も何度も星腕宙道に無駄足を運ぶ事はなかったはずだ。だろ?」


 ≪ヘビィハンマー≫船長は、多数の海賊を束ねる男だけあり、中々に抜け目がない。

 そしてドーソンも、その抜け目のなさには負けていない。


「こちらも、≪ヘビィハンマー≫が星腕宙道の運搬船に興味があると思ったからこそ、今回の狩りに同行したんだ。それこそ、お前らの手助けがあれば、運搬船の1隻は奪い取る作戦を立てた状態でな。まあ、2、3隻奪いたいと言われたからには、作戦の修正は必須だがな」

「やはり≪大顎≫も似た考えだったか。やはり海賊たる者、狙うは大物でなければな。それこそ、他の誰もが手を出せないような、そんな大物をな!」


 ≪ヘビィハンマー≫船長は、この会話でドーソンの事を気に入ったようで、宴が終わるまで隣の席を離れなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出された食事に不満はあれど、一通り食べる辺り胆力あるよな。 ついでに迂闊に出て来たやつをダシに影響力上げる点も抜け目がない。
[気になる点] 異文化だからまずいのか食い物がまずい理由が何かあるのか・・・コンテナに高級食品ぐらいあるやろ
[一言] まともな身分の人からしたら安っぽいどころかどんな混ぜ物がしてあるかわからないような食事だし、毒じゃないとはいえあまり食べたくはないものなんだろうなぁ。害のあるものを避けつつも怯まずに周りに合…
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