166話 ひと段落がついて
海賊が宇宙軍に勝った。
この情報は一気にオリオン星腕内を駆け巡り、色々な場所で激しい反応を引き起こした。
まずは、SU政府が広報を通して釈明した。
「海賊に我が軍が負けたという嘘が流布されているようだが、これは誤りである。宇宙軍は負けたのではなく、海賊討伐の連戦疲れを癒すために一時帰投しているだけである」
この弁明があった直後に、海賊側が決戦の映像を流して『宇宙軍に大勝したことは本当だ』と情報をばらまいた。
その情報についても、SU政府は直ぐに反応した。
「これは海賊が作ったフェイク動画だ。海賊側に3隻も決戦砲持ちの戦艦があるはずがない。そんな資金力があるのなら、海賊なんて悪事を働かずに遊んで暮らせるのだからな」
政府広報と海賊の映像。
どちらを信じるかで、オリオン星腕に住む人たちは混乱した。
だが、もともとSUから独立をしていた、TRと独立企業体については、全面的に海賊からの情報を信じた。
いや信じたというよりも、それらの組織が信を置くスパイを海賊に潜り込ませていて、そのスパイからの情報を信じたのだ。
そしてTRが動く。
「SU宇宙軍は戦力を半減させている。いまが領土拡大の好機だ!」
TRは所有する全ての艦艇を用いて、SUの支配宙域の切り崩しを行った。
もともとドーソンとミイコ大佐の活躍によって、TRが接するSUの宙域を耳かきの匙で掬うように少しずつ取り込んでいたが、ここにきて大きく腕で掻き取るように奪いにいった。
SU宇宙軍は宙域の略奪を阻止しようとするが、半減した艦艇を工場で増産中なために援軍が遅れず、現地部隊で対処するしか方法がなかった。
その結果、TR全隊とSU現地部隊という戦力の格差によって、TR側が勝利して宙域を大きく確保した。
SUから独立した企業体も、SUの宙域と資本力の奪取に入った。
こちらはTRとは違って、武力ではなく経済力での侵略だ。
企業体の近場にある宙域を、資本力の投入と物資援助というカードを用いて、次々に味方に引き入れる。
その上で、SUから離脱して傘下に入るのなら、更に援助を行うことを約束。
これだけで、あまりSU政府から重要視されていなかった宙域の星々は、企業の傘下に入ることを了承した。
SU政府から庇護を受けていた宙域も、企業が援助を打ち切ったうえで自戦力と提携する海賊戦力を交渉でチラつかせると、敵わないと分かって傘下に入ることを願い出るしかなかった。
こうしてSUの支配宙域が時と共に削られていく中、海賊勢力も大きな動きを行う。
海賊国家の樹立を、オリオン星腕中に放送したのだ
「――宇宙軍を打倒し得る戦力を持つ我らは、もはや裏街道に住むハミ出し者ではなく、宇宙に覇を唱えられる暴力機構といえる。そして、それほどの暴力機構があるのならば、海賊による海賊のための政府を樹立しても、他者からの避難を受け止めて跳ね返すことが可能となる。ならば、樹立しない道理はない」
ゴウドが仮面で顔を隠しながら演説放送を行う。
演説原稿の作成と演技指導は、コリィが責任を持ってやってくれた。『あの、映像作品、再現できる。楽しみ』と嬉々として。
ともあれ海賊国家は樹立を宣言し、その中心地を≪ビックコック≫に定めた。
どうして決戦の拠点だった≪チキンボール≫ではなく、≪ビックコック≫なのか。
それは海賊の中で≪ビックコック≫が、その歓楽街によって憧れの地であるため、この場所の支配者こそが海賊の親玉に相応しいという意識があったから。
ドーソンにしても、≪ビックコック≫を海賊の本拠地にし直すことに意義を見出していた。
「作戦の一環だったとはいえ、海賊が宇宙軍に負けた場所だからな。それを海賊の手で奪い返したとなれば、傷ついたプライドを修復することができる」
「そんなプライド、ドーソンは持っていましたっけ?」
「俺のじゃない。≪ビックコック≫を神聖視する海賊のプライドがだ」
ドーソンの見立てた通りに、海賊たちは宇宙軍の防衛艦を撃破して≪ビックコック≫を再支配すると、先の決戦に勝ったときと同じぐらいに喝采を叫んだ。
その後で海賊たちは、≪ビックコック≫の歓楽街に繰り出し、思う存分に性的快楽を堪能した。
ロン大人は、宇宙軍に取り入って≪ビックコック≫の支配人を続けていたが、海賊たちから裏切り呼ばわりされ、単身で小さな宇宙船に詰められて宇宙へと放逐された。ある程度の食料と空気は持たせたので、悪運が重ならない限りどこかの惑星や衛星まで移動することはできるだろう。
ともあれ、こうして海賊国家は樹立となった。
「ここから先が大変なんだけどな」
「≪ビックコック≫の要塞化に、集まってくる海賊の統率。反SU勢力との同盟締結と、SU政府にアマト星腕への進出を止めさせる裏取引。やるべきことが山積してますね」
「幸いなことに、どれも俺がやらなくて良いものばかりだけどな」
海賊国家の元首は、とりあえずゴウドにやってもらうことになっている。
これはオリオン星腕内にいるアマト皇和国の人員の中で、ゴウドが一番能力に適しているし階級も上位だからだ。
「SU政府に進出を止めさせることが叶った後、アマト皇和国がどうオリオン星腕に関与するにしても、俺を通すよりもゴウド准将に通した方が状況が上手く運ぶだろうしな」
「なにやらアマト星海軍では、ドーソンのことをオリオン星腕から戻そうという動きもあるようですしね」
「士官学校を卒業してから2年で、功績をあげすぎたからな。他とのバランスを考えると、俺を呼び戻すことは理に適っている」
アマト皇和国では、宇宙海賊以外に戦いらしい戦いはない。そのため、階級の上昇は勤続年数で決まることが多い。
しかしドーソンの場合、オリオン星腕での功績によって、年齢に似合わない階級まで上昇する権利を有している。
いままで海賊としての活躍のうえに、困難な任務を達成したことに加えて、海賊国家というアマト皇和国の出先機関に調度良い隠れ蓑まで作っている。
これらの功績を考えると、大尉昇進は確実として、少佐への特進も現実味のある可能性といえる。
士官学校を卒業して間もない士官が、誰の後ろ盾もないにも関わらず、佐官に昇進するなど前代未聞だ。
しかも、このままオリオン星腕での活動を許可し続けたら、ドーソンは更なる功績を打ち立てる予兆すらある。
もしも功績が更に積み上がったら、中佐、大佐へと昇進させざるを得ない。
そうなったら、さらに年齢だけでしか昇進できない軍人との格差が広がってしまう。
だからこそアマト星海軍の上層部は、ドーソンをアマト皇和国へと呼び戻すことで活躍の場を取り上げることで、これ以上の階級上昇を阻止したいと考えても不思議はなかった。
「もしアマト皇和国へ呼び戻されたら、俺は閑職回されるだろうな」
「ドーソンにとっては、閑職に就くことは願ったり叶ったりですよね?」
「そりゃな。大尉、ないしは少佐の給料を、暇つぶしをしているだけで貰えるんだ。金を稼ぐために軍人になった俺にしてみれば、喜ばないはずがないだろ」
「そんなことを言ってますけど、その閑職でもなにかやらかしそうですよね、ドーソンは」
「失礼だな。何事も起こらなきゃ、何もしないぞ、俺は」
「つまり、ドーソンの反骨心をくすぐる状況にならない限りは大人しくしている、ってことですよね、それは?」
ドーソンは明言を避けつつ、アマト皇和国に戻ったらなにをしようかと、想像を巡らすことにしたのだった。
一部完というところで、この物語は一区切りとさせていただきます。
後の展開に詰まったといいますか、書いても面白くなりそうな想像ができないといいましょうか、作者が都合の良い展開を提示すると――ドーソン『俺がそんな行動するわきゃねえだろうが!』と反骨されるといいましょうか。
どうにも上手くいかないようになってしまったので、一応完結とさせてください。
ドーソンと後の展開で折り合いがつくようになったら、復活するかもですが、期待しないでください。
申し訳ありません。
それと、新しい物語始めます。
悪の秘密結社の科学者は、異なる世界からの帰還に挑む
https://ncode.syosetu.com/n2543hx/
特撮世界の悪の科学者がナーロッパに転移する話です。
よろしくお願いいたします。