162話 決戦・一面での決着
アルマ少将が海賊を消費してでも戦いに勝ちに向かっているのを知り、ドーソンも戦いを早期決着させる方法を編み出すことにした。
「艦隊を2つの隊に分ける。魚雷持ちと、それ以外にだ。そして、それぞれの隊に指示を送る」
「はーい。送っとく~」
ドーソンが作った作戦を、ベーラは疑問も持たずに直ぐに通達した。
しかし作戦内容を見て、オイネが難色を示す。
「ドーソン。この方法は、かなり危険では?」
「お互いに星の陰に隠れながら戦っているんだ。決着を急ぐには、こうするしかない」
何事も、防御手段を持つ相手は手強いもの。盾を持つ兵士を剣で倒すのは難しいし、籠城する相手と戦うには3倍の兵力が必要という格言もあるほどに。
そうした相手に勝つには、攻撃力を増強するという真っ当な手段が常套なのだが、その手が使えない場合は危険な搦め手を使わざるを得なくなる。
ドーソンが提案した作戦も、そういう危険な手段だ。
「アルマ少将が勝つのを待ち、合流して戦うのではダメなんです?」
「それじゃあ遅い。海賊の数が減り過ぎるし、それに戦いの趨勢が決定的になったら、俺たちが対している側の宇宙軍は迷わず撤退するだろうしな」
拙い状況と見たら仲間を見捨ててでも逃げるという宇宙軍の性質は、≪ビックコック≫の海賊と共に戦った際に判明している。
現在の状況でも、そうだ。
宇宙軍は、ドーソンとアルマ少将がそれぞれ率いている艦隊により、前後に挟まれている状況。それにも関わらず、宇宙軍は艦隊を2つに分けた後は、その2つの艦隊が共闘することなく独立した形で運用している。
この形は、つまるところで片方の艦隊が危機に陥った場合は、状況不利と見たら逃げるという判断を念頭に置いた戦い方といえた。
「SU宇宙軍を叩く絶好の機会だ。どうせなら最大の戦果を目指さないとだ」
「そのための、この作戦というわけですね」
「成功すれば、あまり味方に被害を出さずに勝てる方法でもあるしな」
「失敗すれば、かなりの損害をだして継戦不可能になりそうですが?」
「失敗しなきゃいい」
ドーソンの自信に満ちた口振りに、オイネは仕方がないと肩をすくめた。
ドーソンが編み出した作戦は、実を言えば、そこまで奇をてらったものではなかった。
通常航行で接近するには盾としている星からでなければならず、その時点を攻められると被害が積み上がってしまう。
かといって星の陰に隠れながらの戦い続けたところで、海賊側も宇宙軍側も牽制程度の戦いにしかならない。
だから短期的に成果を出すなら、通常航行以外の方法で移動し、星の陰に隠れている宇宙軍を狙える位置に行くしかない。
そのために使う移動方法となると、短距離転移しかない。
「目標地点まで、跳躍します」
オイネの報告直後、≪雀鷹≫は通常空間から跳躍空間へと移行する。
3次元と4次元の境を短く滑り、そして通常空間へと脱出。≪雀鷹≫以外かつ魚雷を持たない海賊艦も、続々と目標地点へと現れる。
ドーソンが率いる艦隊が現れた場所とは、宇宙軍が決戦砲で破壊した星の陰だった。
なぜ破壊されて崩れている星に来たのか。
一応は、星の破片の向こう側、有効射程距離ギリギリの位置に、ドーソンたちと相対している宇宙軍の艦隊の姿がある。
星は破片になっているため、破片と破片の隙間を縫うようにして砲撃すれば、攻撃を届かせることが可能かもしれない。
少なくとも宇宙軍側は、ドーソンの行動をそう予想したようだった。
「敵から、多数の砲撃が来ます。弾着、直ぐ」
キワカの報告の直後、宇宙軍から放たれた砲撃が、ドーソンたちが盾にしている壊れた星の破片へと着弾した。
破片なため、星を盾にするときとは違い、通常の艦砲射撃を2、3発も食らえば粉々になり、盾の役割を果たさなくなる。
宇宙軍は砲撃の手を止めず、全ての破片を撃って壊す勢いだ。
次々にやってくる砲撃の光と、光に飲まれて消える破片の姿。
なかなかに恐ろしい光景だが、ドーソンも海賊たちも焦らない。
なぜなら、星の破片が無数にあるため、宇宙軍が砲撃を海賊たちまで通すことが難しいことを、ドーソンから教えてもらって海賊たちが知っているから。
「よしっ、作業を始めろ。一応、宇宙軍からの砲撃は気にしておけよ。まぐれで、破片と破片の間をすり抜けてくる砲撃も、なくはないだろうからな」
ドーソンの号令に、海賊たちが動いていく。
この場にいる海賊艦は、ほぼ全て巡宙艦以上の艦艇だ。その理由は、魚雷を発射する装置を持っていない艦種だからというのもそうだが、その内部にあるとある装備のため。
その装備とは『キャリーシュ』だ。
「艦艇と同じぐらいの大きさの破片を選べよ。捜査権限は≪雀鷹≫にすることも忘れるな。それとこちら側からも宇宙軍に砲撃しろ。一連の作業を、星の破片に隠れ進みながら砲撃するための行動だと誤解させろ」
ドーソンの指示通りに、海賊艦は積載していた『キャリーシュ』を星の破片へと巻いていく。
そうして選ばれた破片は、宇宙軍の砲撃に壊されないようにと、少し離れた位置へとまとめられる。
そんな作業をしながらも、海賊たちは破片と破片の隙間から宇宙軍を狙えるときに限り砲撃も行う。
星の破片の中を進んで出た海賊の砲撃は、宇宙軍へと向かう。だが有効射程距離ギリギリのためか、避けられてしまっている。
そうした作業を続けていると、星の破片の数がある程度溜まった。
「千近くの破片に『キャリーシュ』を巻けたな。それでは、第2フェーズに入る」
ドーソンの指示を受けて、オイネとコリィが同時に作業を行う。オイネは隕石に巻かれた『キャリーシュ』に、コリィは別動隊とした魚雷持ちの海賊を相手に。
「準備完了です」
「こっちも、準備終わったって~」
「ではカウント開始する。30秒からだ」
ドーソンの指示で、空間投影型のモニターに30の数字が現れ、秒数と共に数字が減っていく。
やがてゼロになった瞬間、『キャリーシュ』を巻いた隕石が消失――いや、跳躍した。
その姿を見た瞬間に、ドーソンは手勢の海賊に命令を発する。
「吶喊! 星の破片の間を進み、敵に接近する!」
≪雀鷹≫が急発進し、海賊艦隊も一瞬遅れで後を追う。
こんな真似をしたら、宇宙軍からの砲撃が来て危険なように思える。
しかし宇宙軍からの砲撃は、≪雀鷹≫と海賊艦隊が星の破片を抜けてもやってこなかった。
その理由は、宇宙軍艦隊の側に浮かぶ『キャリーシュ』付きの破片群と、その破片に隠れて接近してくる魚雷持ちの海賊たちの対処に忙しいから。
「しかしドーソンも考えましたよね。跳躍だと跳躍場所を気取られてしまうなら、その場所に盾となるものを先に置いてしまえばいいだなんて」
オイネが意表を突かれたと言いたげに語った通り、ドーソンの作戦は実はシンプルなものだ。
『キャリーシュ』で破片を敵艦隊の側に跳躍で運び、その破片の陰に魚雷持ちの海賊たちを時間さで跳躍させる。後は魚雷持ちの海賊が破片を盾に敵艦隊に近づき、必殺の魚雷をお見舞いするだけ。
やっていることは単純だが、効果は絶大だ。
「意表を突かれて、宇宙軍は浮足立っている。完全に俺たちの方を忘れてしまうほどにな」
近場に現れた破片と海賊艦。破片は『キャリーシュ』が、海賊艦は自前の推進装置で、両方とも近づいてくる。
射程範囲ギリギリよりも、目と鼻の先にいる敵に意識が集中してしまう、その気持ちはわからなくもない。
だが意識の全てをそちら側へと向けてしまうことは、問題だ。
「魚雷持ちへの援護だ。砲撃を行い、敵の混乱を長引かせる」
≪雀鷹≫と配下の海賊艦が、砲撃を連続発射する。
つい先ほどまでは星の陰に隠れながらの長期戦の様相だったのに、いまは2方向から攻められる短期戦の様相に変わったためか、宇宙軍の動きに混乱が見える。
それこそ、魚雷持ちの海賊艦を撃ち落とそうと奮闘する艦、砲塔をさ迷わせる艦、味方の陰に隠れようと後退する艦、勝手に跳躍してどこかへと去る艦と、動きに統率感がない。
そうした混乱は10秒ほどで落ち着きを取り戻したようだが、この10秒は戦場で失うべきじゃない時間だった。
なぜなら、その10秒で魚雷持ちの海賊艦が、魚雷の有効射程に到達していたからだ。
『たりーほー! ジャックポットはいただきだ!』
『魚雷全弾発射! 弾込め急げ、ばら撒くんだ!』
『食べ放題! 満員御礼!』
口々に勝手なことを叫びながら、海賊たちは魚雷を宇宙軍へと叩き込んだ。ついでにオマケとばかりに、砲撃も行う。
ドーソンは≪雀鷹≫の砲撃を師事しながら光景を見て、眉を寄せる。
「馬鹿が。調子に乗り過ぎだ。魚雷発射したら、すぐに破片の中へと引き返せばいいものを」
ドーソンが懸念を口にするのと同時に、宇宙軍は魚雷に仲間を焼かれながらも反撃を始めていた。
不用意に接近しながら砲撃していた海賊たちは、その反撃をもろに食らい、少なくない数の被害が出てしまった。
「被害状況は?」
「えーっと、魚雷持ちの海賊艦の半分ほどに被害が出てます。半分ほどは小破ですが、残り半分は大破ないし撃沈です」
つまり魚雷持ちの海賊艦の4分の1が、先ほどの攻防で失われたことになる。
ドーソンは海賊たちが指示を無視して自滅したことに対して、自分自身に腹立ちと呆れを感じていた。
海賊の練度不足は分かっていたし、今後のために海賊は出来るだけ減らさないと決意したのに、このザマである。
「さっきの攻撃で魚雷は払底していた。魚雷持ちの海賊艦が多少減ったところで、今後の戦いに影響は少ないと、そう自分を慰めるしかないな」
ドーソンは溜息で気分を整え、魚雷攻撃から生き残った宇宙軍艦隊を殲滅するため、海賊艦と共に砲撃を行うことにした。