161話 決戦・合間
ドーソンはSU宇宙軍と相対しながら、アルマ少将の戦いぶりを戦場の概略図で読み取っていた。
「やっぱりミイコ大佐ではなく、アルマ少将に指揮を任せて正解だったな」
海賊連中を鉄火場へと放り込んで、無理やりにでも戦わせる。
そんなアルマ少将の手腕を見て、ドーソンは安堵していた。
実は、海賊を手下として扱うにあたり、問題点はいくつもある。
練度と連係が不足している点や、装備の質がまちまちな点に、基本的に個人主義の腰抜けどもな点。
それら以上に問題なのが、海賊たちの継戦能力の低さだ。
軍人は長期間戦う心構えと訓練をするが、海賊仕事は基本的に短期間で終わるもの。
ドーソンのように獲物の経路を探り、実際に襲い、戦利品を回収して戻るという行動ですら、10日ほどで完遂できる。
そんな手間をかけない海賊の場合だと、目星の地点に陣取って休憩含みの待ち伏せを行い、獲物が現れたら襲って奪う。獲物が来なくて待ち伏せが長期間になることもあるだろうが、その場合は早々に諦めて海賊拠点に帰ることだってできる。
どちらの場合でも、獲物との戦闘自体は1日も経たずに終わる程度の、お気楽な仕事だ。
そのため、大規模な艦隊戦でよくある長期間の継続戦闘は、海賊たちにとって未経験。
この決戦の前に訓練させて地力を底上げしてはいるが、それでも何日にも渡っての戦闘だと、海賊に対応できる力はない。
この継戦能力の不確かさという欠点がああるからこそ、ドーソンは数で負ける自軍を割ってでも敵を挟撃して逃げ場を封じることで、梁略的撤退で時間を稼ぐという方法を取れなくしたのだ。
そのドーソンの思惑を分かっていてか、それとも単純に戦いを早く終わらせたいからかは分からないが、アルマ少将は少し強引な手で配下の海賊たちに戦闘を強いている。
「あっちがやる気なら、こっちも負けてられない。物資の再配分は終わったか?」
「終わりました。物資面では戦闘可能です」
「海賊たちと話してみたけど、ちょっとお疲れかなって~」
ベーラの報告から、懸念していた通りに海賊たちの戦闘における体力が少ないことが分かった。
「一度戦闘を区切ったことで、疲れを自覚させてしまったか」
ドーソンは自身の失策に舌打ちしかけるが、魚雷などの補給は必須だったのは確かなので、判断に間違いはなかったと考え直す。
「戦いへの熱が引いてしまったのなら、また付ければいい。海賊たちに通達。戦闘再開するが、最初は軽く砲撃することから始めるとな」
ドーソンは海賊たちの調子を考えつつ、頭の中で戦い方を組み上げ、それを実行に移した。
海賊に調子を取り戻させるために、ドーソンが行うべき事。
それは敵と砲火を交わせることで、海賊たちの意識を戦いに再び向けさせることだった。
砲撃を放つ興奮と、敵からの攻撃に恐怖を感じること。
その興奮の熱気と恐怖の冷気による感情の温冷。それを交互に繰り返すことで、段々と海賊たちの脳に快楽物質を回していくのだ。
「一度止めると暖気が必要とは。海賊は古い機械のようだな」
「ははっ。年代物の艦艇のジェネレーターでも、これほどかかりが悪いのは稀だなあ」
ヒトカネの艦艇の機関に長年携わってきた者の評価に、ドーソンは苦笑いする。
「古い艦艇を動かすには、コツや裏技があると聞いたことがあるが、本当か?」
「あるとも。先輩から後輩へ申し伝えられていく、マニュアルにはかけないものが」
「利きの悪い海賊に使えそうな方法はあるか?」
「これほど手応えが悪いと、正攻法が一番の近道だろうよお」
そういうものかと、ドーソンは海賊たちの頭に戦闘への快楽が回るのをじっと待つ。
こうした準備時間の間にも、アルマ少将が率いている方は激戦が繰り広げられている。
「アルマ少将は人使いが荒いな。いや、他星腕にいる海賊なんて厄介者に斟酌する気がないだけか?」
ドーソンが思わず疑問を呟いてしまうほど、アルマ少将の戦い方は苛烈だった。
味方が1隻やられる間に、敵を2、3隻倒す。そういう戦い方だ。
ある種、撃墜比的には戦争の理想であり、実現の難しいことをやって見せている。
実現できた原動力は、間違いなくドーソンと同じ方法を海賊に行っている点だ。
「海賊たちを鉄火場に放り込んで、その頭の中を興奮と恐怖で脳内物質を満杯にし、敵を倒すことしか目に入らないようにしているわけか」
戦争への熱狂で脳を支配された人間は、戦いで自分が気持ち良くなることしか頭になくなり、隣で仲間が爆散しようと気にしないようになる。
その熱狂を、アルマ少将は意図的に作り出し、海賊という使いにくい戦力に被害を押し付け、数で優るSU宇宙軍の艦艇の切り崩しを行っているわけだ。
「俺の戦い方に似ているが、少し毛色が違ってもいるな」
ドーソンがアルマ少将の戦いぶりを推察できるのは、独り言で語った通りに、取っている作戦の系統が似ているから。
だからドーソンは理解出来てしまう。
仮にドーソンが、この1戦だけ参加するアマト皇和国の戦艦の艦長だったら、アルマ少将と同じことをするだろうと。
つまりは、使い捨てにしても心が痛まない輩――海賊という犯罪者の破滅と引き換えに、アマト皇和国の軍として有効活用できそうな人材や人工知能を温存することをだ。
しかし現状のドーソンは、アマト皇和国の特務中尉であると同時に、オリオン星腕の海賊の1人でもある。
今後の展開を考えると、海賊が大幅に目減りすることは、あまり歓迎できない。
「海賊国家をオリオン星腕に樹立させて、長期間に渡る混乱を起こすきでいるんだ。海賊勢力は1人でも多い方が良い」
戦争と同じく、国力は国民の能力と数で決まる。
あまりに人数が少ないと、折角海賊国家を樹立できたとしても、国体が弱くなってしまう。
そんな未来の予定を考えかけて、ドーソンは首を横に振る。
目の前の戦いに勝った後のことを考えるよりも、実際に勝利を収めることの方が重要だ。
「それに、あっち側はアルマ少将に任せると俺が決めたんだ。過程を含めた結果まで責任を取るのが、総指揮官の筋ってものだしな」
ドーソンはあちら側の海賊がどうなろうと気にしないことにした。
その代わり、自分が用いる海賊たちはなるべく被害を出さないように気をつけることにした。