160話 決戦・追いかけて
予想外の一撃で決戦砲を持つ超大型戦艦を失い、ドーソンの前にいる宇宙軍の艦隊に混乱が見られた。
その隙を、ドーソンは見逃さない。
「海賊のうち、快足の艦船は陰からでて接近し、宇宙魚雷を叩き込め! その他の艦は、砲撃で援護だ!」
小型惑星や衛星の陰に幾つかの集まりとして分散していた海賊艦たちが、それぞれ行動を開始。
駆逐艦や改造船などの魚雷持ちが全速力で魚雷の有効射程へと接近を始め、その援護をその他の艦が行う。
四方から接近してくる艦船と、八方からやってくる砲撃。
SU宇宙軍は混乱していたこともあり、その対処にまごついてしまう。
そうして貴重な時間を浪費したことで、海賊の魚雷持ちが有効射程まで接近し、艦体や船体から魚雷を発射した。
『ドデカいイチモツを頬張りな!』
『魚とキスしやがれ!』
思い思いの言葉を吐きながら、魚雷を発射した艦船は進路を反転して逃げる。
宇宙軍は、周りからくる砲撃を避けつつ、接近してくる魚雷の対処もしないといけないという、二重苦に陥った。
ここで危険度を優先づけるなら魚雷の対処が一番だが、先の混乱が続いているためか、宇宙軍は両方を対処しようとして結果的にどちらも失敗する。
投射された多数の魚雷の大半が命中し、宇宙軍に大きな被害が出てしまう。
しかしドーソンたちは1万隻未満で対する宇宙軍は約5万隻。被害を与えたとはいえ、その差を大きく縮めるほどではなかった。
それでも宇宙軍に大打撃を与えた功績は、海賊たちの士気向上という形で利益となって返ってくる。
『宇宙軍がなんぼのもんじゃい!』
『装備が良いだけの獲物じゃねえか!』
海賊が喝采を叫ぶ中、ドーソンは冷静に宇宙軍の様子を観察する。
超大型戦艦を失い、多数の艦にも被害が出た状態。
普通なら混乱が増長するものだが、現実は逆に落ち着きを取り戻しつつある。
「指揮官が手綱を引き締めにかかったか」
ドーソンは敵の様子を見つつ、海賊たちに次の指示を出す。
指示といっても、星の陰に隠れて攻撃を続けつつ、分散している艦船を集合させる地点を示しただけ。
なぜこの指示を出したかというと、次の宇宙軍の行動予想が3つに絞れるからだ。
1つ目は、その場に留まってドーソンたちへの砲撃を継続する。
2つ目は、宇宙軍のもう一つの艦隊に合流するべく下がる。
3つ目は、海賊と同じく星の陰に入って交戦を続行する。
どの場合でも、海賊勢力を集結させた方が対処しやすいと、ドーソンは考える。
そして実際に宇宙軍がどの選択をしたかというと、星の陰に入ることだった。
「海賊からの射線を切って、艦隊の指揮を完璧に掌握する時間を作る。基本に忠実な指し手だな」
「でも厄介じゃないですか? 敵も盾に隠れながら攻撃してくるんですよね?」
オイネの質問に、ドーソンは敵の思惑を推測する。
「決戦砲を失ったことで、海賊が盾に浸かっている星を潰す手段がなくなった。まともに戦うには、この宙域のような隠れ場所が沢山ある場所での戦闘は不得手。なら宇宙軍の本隊が他の海賊を駆逐した後で対処すればいい。そう考えての行動だろうな」
「つまり、攻撃は消極的になると?」
「攻撃するということは、星の陰から出るということでもあるからな。危険を冒さないようにするのなら、牽制射ぐらいに留めるだろう」
「なるほど。しかしドーソンは、それに付き合う気はないんですよね?」
「ないな。盾に隠れる気でいる相手を叩く方法はいくらでもある。それも海賊流のな」
ドーソンは海賊に命じて、対する宇宙軍艦隊が隠れた星へ向けて砲撃を集中させる。
ドーソンが予想した通り、宇宙軍は星の陰に隠れて出ようとせず、持久戦の構えを取っている。
予想が的中したと判明した直後、ドーソンは次の一手を打つ。
魚雷持ちの海賊艦船に短距離跳躍させて、宇宙軍が隠れる星の向こう側へと送り出したのだ。もちろん転移兆候は敵に捉まれるため、出現先は敵艦隊からの砲撃を遮れる星の陰にしてある。
「さて、どうする。跳躍の兆候で、海賊艦に背後を取られたことはわかるだろ?」
背後に取られたことに慌てて星の陰から出るようなら、ドーソンが率いている側の海賊たちが継続している、砲撃の餌食になる。
砲撃を気にして星の陰に居続けるなら、宇宙軍へ魚雷の脅威が降りかかることになる。
嫌な2択を強いてみると、宇宙軍は星の陰から出ない方を選択したようだった。
「チッ。流石にそこまで馬鹿じゃないか」
転移兆候をしっかりと把握して、跳躍した海賊艦船の数が少ない事が分かったのだろう。
だから星の陰から出るよりも、跳躍してきた海賊たちを対処した方が完全だと見抜かれてしまったようだ。
その証拠に、跳躍させた海賊たちから泣き言が通信でやってきている。
『連中、やたらめったら撃って来てやがる!』
『魚雷を発射したが、撃ち落とされた!』
「無茶はしなくていい。その場に待機していてくれ」
ドーソンはそう指示を出しながら、集結させた海賊勢を引き連れて、宇宙軍が隠れる星へ接近する。そして衛星軌道でゆっくりと周回していく。
やがて徐々に宇宙軍艦隊の姿が、星の陰から見え始める。
「砲撃しろ!」
ドーソンの号令に合わせて、海賊艦隊が砲撃を開始。僅かに見えた宇宙軍艦隊へと荷電重粒子砲を連射していく。
しかし姿が見えているのは僅かであるため、放たれた砲撃の大部分が星の縁に当たって散っていく。
それでも幸運な何発かは宇宙軍に命中し、大破を含む被害を与えることに成功する。
だが宇宙軍も黙ってやられてはいない。お返しとばかりに反撃をしてくる。こちらも星の縁に当たり、大部分が効力なく散り、幸いな幾つかが海賊艦に命中した。
「撃ち続けろ! 怖気づいて手を止めれば、敵の反撃が強くなるだけだ!」
ドーソンは率先して≪雀鷹≫に砲撃させることで、海賊たちに規範を示す。
一方で宇宙軍は、海賊たちからの攻撃に怖気づいた様子で、星を周回して星の陰に入り直そうとしている。
ここが攻め時だと、ドーソンは強く感じた。
「全艦、最大速度! 一気に敵との距離を縮めるぞ!」
宇宙軍の腰は引けている。強く押せば、盾にしている星を周回して逃げるか、また別の星の陰へと移動をしようとするはず。
そのどちらの場合でも、艦隊を近づけておけば、攻撃を与える機会が来る。
ドーソンはそう予想して、海賊艦隊を引き連れて増速した。
果たして宇宙軍は、少数の殿艦を星の周回軌道に残し、その他の艦隊は別の星の陰に逃げることを選んだ。
ドーソンが考える中で、一番やりやすい選択だった。
「殿艦を狙って砲撃する! 逃げる方には牽制射で良い!」
ドーソンの号令に合わせて、海賊艦隊が攻撃する。
宇宙軍はまさか海賊側が増速して近寄ってくるとは考えてなかったのだろう、殿艦たちが慌てて砲撃を開始し、逃げる方の艦隊は最大速度で逃走を始めている。
そして宇宙軍の殿艦は、数が少なかったこともあり、あっという間に海賊側の全力攻撃で溶けて消えてしまった。
「逃げる敵の砲撃を叩き込め! ケツを蹴りあげ、逃げる手助けをしてやれ!」
海賊に追い散らされるようにして、逃走を選んだ宇宙軍艦隊が星の陰に入ろうと躍起になっている。
しかし宇宙軍は忘れている。その逃走経路の途中には、先んじて短距離跳躍させて伏せさせていた、魚雷持ちの海賊が多数いることを。
「追い立ててやったんだ。たらふく食え」
『待ってました! 魚雷全弾、撃ち尽くせ!』
『ひやっはあー! よりどりみどりだぜ!』
大人しく待っていた海賊たちが喜びの声を上げ、艦船の腹に抱えていた魚雷を惜しげもなく投射した。
ここで宇宙軍は、逃げることで一杯だった頭に、ようやく伏せていた海賊の存在を思い出したのだろう。慌てて魚雷を撃ち落とそうと砲撃と銃撃とを行う。
やはり数で優るため、魚雷の多くが到着前に破壊されるが、それでも少なくない数の魚雷が宇宙軍艦隊に着弾。大破壊を引き起こした。
「こちらも全力射撃! 敵の数を減らすぞ!」
ドーソンが命じて≪雀鷹≫が砲塔を壊さんばかりに連続射撃を行うと、海賊艦たちも追従して大量の砲撃を放つ。
魚雷と大量の砲撃という攻撃圧に、数で優っているはずの宇宙軍は星の陰に入ることを優先して逃げる。
その逃げ切るまでの短い時間で、ドーソン側は宇宙軍の数を3分の2にまで減らすことに成功する。
「ここまでやったのに、敵の数は未だ俺たちの倍はあるんだから、嫌になるな」
「同じ手を使えば、数で逆転できるようになるのでは?」
「同じ手が使えればな。残念だが、大量に使ったから魚雷の数がない」
絶好の機会に惜しげもなく攻撃を行ったことで、敵の大量撃破と引き換えに、強力な武器の数が目減りしている。
積載量に余裕のある艦に予備の武器弾薬は積んであるが、それを運用するには補給行為が必要になる。
「敵に立ち直る時間を与えることになるが、仕方がない。こちらも星の陰に入り、武器弾薬の再分配を行う。休息も必要だしな」
ドーソンは一度攻撃を取りやめて、補給と休息に入ることにしたのだった。