159話 決戦・隠れ撃ち
海賊艦隊の別動隊が、SU宇宙軍の背後をついて被害を与えた。それも決戦砲を持つ艦を1隻撃沈で、もう1隻を小破、更には射線上にいた艦艇を複数が余波で被害を与えている。
この不意打ちで宇宙軍の動きが鈍ったことが、ドーソンは見て分かっていた。
「さて、前後からの挟撃だ。どんな選択をする?」
ドーソンが緊張と共に、宇宙軍の動向を観察する。
ここで宇宙軍が取る選択肢は、大きく分けて2つ。
1つは、全軍で海賊艦隊の前後のどちらかを先に排除すること。
もう一つは、艦隊を分けて両方の海賊艦隊に対処すること。
果たして宇宙軍が取った選択は――
「前の戦いで尻尾切りをしたことからわかっていたが、宇宙軍の指揮官は慎重派だな」
――宇宙軍を2つに分けて対応することを選び、およそ5万隻をこの場に残し、その他の艦隊で恒星近くに布陣する≪奥穂高≫が率いる海賊艦隊に対処する動きを見せている。
この状況は半ば予想した通りとはいえ、ドーソンにとって望んだり叶ったりだ。
「これであちら側の戦力差が縮まった。しかもバリア艦の殆どが、あちら側へと行ってくれて助かる」
宇宙軍の司令官は慎重な性格だ。≪奥穂高≫を含めた決戦砲持ちの大戦艦を怖がり、盾となり得るバリア艦全てで対抗しようとすることは、性格からして道理と言えた。
そして慎重だからこそ、背後を突かれることを嫌がり、背後を守る艦隊を置くことも当然だった。
この状況になったからには、ドーソンがやることは決まっていた。
「敵は本隊に集中して、こちら側の対応は疎かになる。対する敵艦隊の数も減った。叩き時だぞ!」
ドーソンは惑星や衛星の陰に隠れる海賊たちに発破をかけてから、≪雀鷹≫で5万隻残った宇宙軍艦隊へと攻撃する。
これは味方の海賊の士気を上げるためと、もう一つの意図がある。
「敵の残った艦隊に高エネルギー反応。決戦砲持ちが残ってます!」
「数は!」
「1つです!」
キワカの報告を聞き、ドーソンはしめたものだとほくそ笑む。
決戦砲は驚異的だが、たった1隻が放つ1発の砲撃では惑星や衛星を完全に破壊できない。
つまり、惑星や衛星という盾で2度攻撃を防げるということであり、その事実は海賊に安堵感をもたらす効果が期待できる。
「実証といこうか!」
ドーソンは≪雀鷹≫の砲塔と銃座で全力攻撃を行い、あえて目を引き付けるよう振舞う。
その狙い通りに、敵の決戦砲の照準が≪雀鷹≫が盾にしている小型惑星へと向けられる。
「高エネルギー反応、臨界点です。来ます!」
「惑星の陰に退避だ!」
≪雀鷹≫を下がらせて、完全に惑星の陰へ。その直後に、決戦砲の強く大きな光がやってくる。
惑星の硬さに防がれて、決戦砲の光が惑星の表面上を枝分かれしながら駆け抜け、そして≪雀鷹≫が隠れる場所の横を通過して虚空へと消えていく。
その光の奔流が終わった後、やはり惑星は健在していた。
「オイネ。盾にした惑星の破壊された規模は?」
「中心部に到達すらしていません。上手くやれば3発は耐えられる計算です」
「いや、盾の酷使は危険だ。この規模の惑星でも2発は確実に耐えられるとだけ考えた方が良い」
ドーソンはいまの結果をデータとしてまとめると、海賊たちへと配布した。
このデータで、海賊たちは決戦砲を必要以上に恐れる必要がなくなり、より思い切った行動が取れるようになる。
「だが、まずはこちら側にいる海賊たちを集結させることだな。こうも散らばった状態では、嫌がらせ以上のことはできないからな」
「そうは言いますけど、この場に残った敵の数は約5万隻。対するこちらは1万にも満たない数ですよ。戦力差が大きすぎると思いますが?」
「この地形を生かせば、やってやれないこともないぞ」
ドーソンは自信を滲ませながら、海賊たちに集結地点を送信した。
ドーソンは星々の陰を経由して集まってきた海賊たちを取りまとめると、5万隻の宇宙軍別動隊へと攻撃を仕掛けることにした。
「隠れ撃ちだ。惑星や衛星の陰に隠れながら、一方的に敵に攻撃を浴びせかけてやれ」
星の陰から艦の舳先にある砲塔を出し、その砲塔のみで敵へと攻撃していく。
1隻につき1門の砲塔しか使えないため、攻撃力は通常よりも落ちる。しかし盾があるという安心感から、その1門だけをフル稼働させての攻撃が出来ている。
一方で宇宙軍は、迫る荷電重粒子砲の光から回避行動を取り、大部分が星に阻まれると知りつつも反撃する。
この反撃の目的は、少しでも海賊側の攻撃の手数を減らし、切り札である決戦砲に被害が出る確率を減らすためである。
「高エネルギー反応。決戦砲の充填が始まってます」
「敵の超大型戦艦に攻撃を集中させろ。大丈夫だ。確実に2発、この惑星なら耐えられる」
ドーソンの号令に、海賊艦からの砲撃が敵の超大型戦艦へと殺到する。
しかし宇宙軍側も決戦砲が重要なことは分かっているため、味方の艦を盾にしてでも守ろうと躍起になる。
この攻防は、宇宙軍側に軍配が上がった。
「決戦砲に発射兆候!」
「退避だ!」
≪雀鷹≫と海賊艦は、星の縁に出していた艦体を引っ込めて、完全に星の陰に隠れる。
その直後、決戦砲の光が星に直撃し、激しい光が星の表面を流れ、星の縁から後ろの宇宙へと飛び去っていく。
光の奔流が終わった直後に、ドーソンは再び海賊たちに号令を行った。
「敵決戦砲はチャージ中だ。星の陰から出て、全力攻撃! 敵の数を少しでも減らせ! 攻撃後はすぐに陰に入り直せ!」
海賊艦が勇んで陰から飛び出し、全力の砲撃を行う。海賊艦の全艦での砲撃で、宇宙軍の艦艇が次々に沈んでいく。
しかしすぐに敵から反撃がきた。反応の良い海賊艦は星の陰に隠れることができたが、退避が間に合わなかった海賊艦の幾つかが破壊された。
「敵に再び高エネルギー反応!」
「決戦砲のチャージが始まったか。オイネ、次の退避場所の選定をしてくれ」
「すでに終わってますよ。海賊に通知しますか?」
「そうしてくれ。いまは星を盾に、敵の超大型戦艦へ嫌がらせ攻撃を継続だ!」
星を盾にしながらの攻撃で、ちくちくと宇宙軍側の艦艇を削っていく。
そして決戦砲が放たれ、再び星が受け止める。
「これで、この星は盾に使えなくなった。次の場所へと移動する!」
≪雀鷹≫が先導し、次の退避先の星へと宇宙空間を突き進む。その間にも宇宙軍への攻撃は続行される。
逃げるドーソンたち目掛け、宇宙軍は命中精度を上げるために艦を止めての静止射撃を行う。
至近弾の連発に、海賊たちからの通信に生命の機器に対する悲鳴ともスリルを楽しむ歓声とも取れない声が乗ってくる。
『ひぃいあああ! こいつは危険だ、逃げろや逃げろ!』
『あっぶねえ! はっはー! 戦いってのは、こうじゃなきゃな!』
良い感じにアドレナリンが出ている様子に、ドーソンは満足を得ながら宇宙軍の方へとカメラ映像を向ける。
「静止射撃で命中率を上げるのは間違ってない対応だが、果たしてこの場に適した方法だったかな?」
ドーソンの問いかけの意味が、すぐにどういう意図かが証明されることになる。
恒星近くに布陣する≪奥穂高≫を含めた3隻の大戦艦の決戦砲が、対面している15万隻の宇宙軍を貫通し、ドーソンたちに砲撃を行っている5万隻の宇宙軍の方に直撃したのだ。
しかも運の悪い事に、先ほど活躍していた決戦砲持ちの超大型戦艦が、やってきた3発の決戦砲の光に抉られて轟沈した。
「あれだけ高いエネルギー反応をまき散らしていたんだ。静止状態でいたら、その反応目掛けて狙撃してくれと言っているようなものだろ」
ドーソンは仮面の内の口元に笑みを浮かべる。
彼我の戦力差はまだあるが、これでかなり戦いやすくなったからだ。