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158話 決戦・緒戦

 ドーソンが決戦場に選んだのは、多惑星系と呼ばれる、名前の通りに恒星の周りに多数の小型惑星が存在する無人の星系だった。

 少し移動すれば惑星の裏に隠れられる宙域のため、地上戦でいうところの塹壕陣地のような場所である。

 そこでドーソンは海賊だけが乗る1万隻の艦艇と合流した。


「もう少ししたら宇宙軍が来るが、心配はいらない。所詮連中は、数頼りの弱兵の群れでしかない。俺たち海賊が狡猾に立ち回れば、恐れる必要のない相手だ。むしろ簡単に倒せるから稼ぎ時だぞ」


 ドーソンの演説に、血気盛んな海賊が合いの手を入れる。


『そりゃいい! がっぽり稼いで、後で宴会だぜ!』

『こっちだって良い艦を貰ってんだ。宇宙軍の青瓢箪には負けねえってな!』

「頼もしい。では、どんな風に戦うかを配布する。一目通しておいてくれ」


 オイネがまとめた資料を、ベーラが海賊たちへと通信で配っていく。

 額がない輩でも分かるほどシンプルにしたたこともあり、海賊たちからの疑問や反対はでなかった。


「資料の通り、俺たちは各星々の裏に分散し、その星を盾に宇宙軍と戦いながら逃げ回る。逃げ隠れ、騙し討ちは、海賊の十八番だ。楽な仕事だろ?」

『ははっ、違いない! 楽過ぎて欠伸がでそうだ!』

『物陰に隠れて獲物を待つことだって、得意だぜ!』


 海賊の士気は上々。怖気づいて逃げだす心配は、いまのところは要らないようだ。


「俺と手下が敵の攻撃が激しくなるであろう場所を担当するんだ。ヘマをすんなよ?」 

『ヘマなんてするかよ。見とけ!』

『戦艦撃沈してみせるぜ!』


 通信を終えて、それぞれが持ち場につく。

 そしてしばらくの間、なにもない時間が過ぎていく。

 ドーソンは今か今かと、宇宙軍が現れるのを待つ。あまり時間を置くと、せっかく上げた海賊の士気が減少しかねない。士気が高いうちに戦いたい。

 そんな願いが通じたのか、キワカがレーダーを身ながら叫ぶ。


「想定宙域に跳躍脱出反応! 大艦隊規模です!」

「これだけの星が集まる星系だ。ここが戦場だと知れば罠があると予想はするもの。それでも、ああして大部隊を喧伝するような登場をするとはな」

「罠があっても数で踏みつぶそうって考えですね。豪気というか被害を気にしてないというか、迷うところですね」


 オイネが辛辣な評価を口にした直後、宇宙軍の大艦隊が次々と通常空間に現れる。


「敵の数、推定で20万隻。全軍いると思われます!」

「想定通りだ。味方全てに通達。作戦を開始しろとな!」


 ドーソンの号令で、この宙域での戦闘が始まった。



 戦いの最初は、見ようによっては、海賊側が押していた。


『食らえ、宇宙軍の腰抜けども!』

『へへっ、食らうかよ、そんなヒョロ弾によお!』


 各惑星や衛星の陰に隠れたり出たりしながら、海賊は宇宙軍を攻撃する。出ては隠れ、隠れては出てという、まるでモグラ叩きのゲームのような戦い方だ。

 宇宙軍はそんな海賊を、20万隻という大量の砲撃力でもって打倒しようとする。それこそ、この星系には人間は済んでいないのだからと、惑星衛星の区別なく破壊するような容赦のない弾幕を形勢する。

 しかし海賊は星系内に点在している。

 宇宙軍が一方向へ攻撃を集中させれば、別の方向から攻撃が行われ、その攻撃で注意を逸らしている間に砲撃されていた海賊は別の場所へと逃げる。多くの惑星や衛星という盾があるため、その裏へ跳躍するのだ。跳躍先はレーダーなどの感知装置で知られてしまうという欠点があるが、隠れる場所があるため欠点を突かれる心配は要らない。


「少し戦ってみせたことで、宇宙軍も俺たちがどんな戦いをやりたがっているかは分かったはずだ」


 障害物を利用する、ゲリラ的なヒット&アウェイ。1度1度の攻撃は大した被害も与えられない弱さながら、時間をかけてじっくりと敵の被害を積み上げていく戦法だ。


「この状況を打破するたまえに、宇宙軍が取れる方法が2つある」


 1つは、海賊の転移した先に宇宙軍の艦艇も転移すること。障害物に隠れているのなら、その障害物の裏へと入ってしまえば、後は地力と数の勝負。数で優る宇宙軍に有利な戦い方と言える。

 もう1つは、決戦砲などで惑星や衛星を破壊すること。隠れる場所がなくなれば、海賊お得意の戦法は使えなくなる。

 このどちらにも、一長一短がある。

 転移する方法は、海賊たちが分散しているため戦闘で相手を撃破しやすいが、転移兆候をつかまれて先制攻撃を受ける危険があり被害を受けやすい。

 星の破壊は、艦隊に被害は出さないが、破壊した星々の破片が邪魔になるうえ、星系の運行に支障が出て天文学的な大問題に発展する可能性もある。

 このどちらを、宇宙軍は選ぶのか。

 それは、宇宙軍が所有する決戦砲に光が灯ったことで判明した。


「敵は星を壊すことを選んだ。破壊された星の破片に当たらないよう、早め早めに退避しろ」


 ドーソンが海賊たちに警告を出してから数十秒後。宇宙軍の決戦砲が放たれた。

 5本の分厚い光の直線が、太陽系にある月ほどの大きさの惑星に直撃し、瞬く間に粉砕してみせた。

 幸いなことに、決戦砲の威力は惑星を破壊したことで使い切ったようで、その惑星の裏に隠れていた海賊艦に直接的な被害はでなかった。

 しかしながら、破壊されて飛び地った惑星の破片が、海賊艦を襲うことは避けられない。


『大きな破片だけ注意だ! 機関全開、逃げ切るぞ!』

『跳躍だ! 隠れる場所は、まだまだある!』


 逃げようとする海賊仲間を助けるため、別の場所から宇宙軍へと砲撃が始まる。

 しかし宇宙軍は、逃げる海賊ではなく、攻撃してくる相手の方へと決戦砲の砲口を向け、発射した。

 星がまた1つ破壊され、その場所から海賊が逃げる。また別の惑星から砲撃が始まり、そちらへ決戦砲が向けられる。

 次から次へと逃げ場所を破壊されて、海賊たちが慌て始める。


「ドーソン様~。問い合わせ殺到しているんですけど~」

「まだ星の数は沢山あるんだ。多少星が破壊されても狼狽えたりせずに冷静に逃げ回れ、と言っておけ」


 ドーソンは口ではそう言いつつも、対処が必要だと思っていた。

 星を盾にすれば海賊に被害はないが、圧倒的な宇宙軍の破壊力を目にしたら、士気が低下してしまう。そして士気が低下すれば、退避する海賊仲間の援護をやろうという者が減り、結果海賊たちが次の逃げ先に逃げきれないという事態を起こしかねない。

 そんな未来にならないよう、ドーソン自身が動くことにした。


「退避する味方の援護に入る。≪雀鷹≫と同じ場所に隠れている海賊艦には、こちらの動きに合わせて行動しろと通達しておいてくれ」

「了解~。言っておきました~」


 ベーラの報告を待ってから、ドーソンは≪雀鷹≫を操って、宇宙軍へと砲撃を行った。

 近くにいる海賊艦も呼応して、出来る限り多くの砲撃を宇宙軍へと放っていく。

 この砲撃で、宇宙軍の艦艇を数隻破壊することに成功するが、やがてドーソンたちの方へと決戦砲が向けられる。


「退避方法は跳躍を選択。次の隠れ場所はココだ」


 ドーソンは付近の海賊艦に転移先を通達してから、即座に跳躍。

 跳躍空間を短く航行してから、通常空間に復帰する。


「跳躍機関にエネルギー充填を開始します。先ほど隠れていた星は、決戦砲で完全に破壊されたようです」

「再び攻撃する態勢に入る。今度は通常航行での退避になるからな、移動経路には注意してくれ」


 ドーソンは積極的に、宇宙軍への攻撃を行う。

 このドーソンの勇気ある行動に、多くの海賊は安心して退避できる心の余裕を取り戻し、その内の少ない海賊は負けん気を発揮して宇宙軍への攻撃を強める。

 しかし、こういった海賊側の奮闘むなしく、宇宙軍の決戦砲によって次から次へと星々が破壊され、逃げ隠れする先が少なくなっていく。

 少しずつ外縁部へと移動して、逃げられる先を確保してはいくが、いずれ隠れ場所が全て破壊されることは目に見えている。

 それなのになぜ、ドーソンはこの行動に固執しているのか。

 それにはちゃんと理由があった。

 海賊をじわじわと追い込んでいた、SU宇宙軍。恒星を背にしながら外縁へと向かっていく、大艦隊。

 その背にしていた恒星の方から、太い光の筋が現れて、宇宙軍の大艦隊を直撃した。


「想定宙域まで宇宙軍の艦隊が到着。大戦艦≪奥穂高≫が決戦砲を発射。敵側の決戦砲を所持する戦艦を狙撃、撃沈しました。続けて、≪八権現≫と≪弥陀束≫も決戦砲を発射。狙いはそれぞれ別の敵の決戦砲。命中はしたようですが、一発撃沈とはいかなかったようです」


 件の恒星の裏や光の中に隠れていた、海賊側の残る9万隻の艦艇が、正体を現して宇宙軍を背後から撃ち始める。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小惑星ならともかくコアがある惑星を破壊なんかしたら超新星爆発は起きなくても大爆発が起きるでしょう。 飛び散る惑星の破片だって直径数百m~数百キロ以上はあるはず。 敵味方大ダメージですよ。 …
[気になる点] コロニーとかたとえ隔壁閉めてようがスッカスカなのに、決戦砲を何発か耐えたのに 5発の決戦砲で月サイズの惑星が粉々 その決戦砲を食らって沈まない大戦艦って装甲がヤバいのか、サイズが途方も…
[一言] 月ほどってことは最低直径3000キロ以上の岩石だぞ??? どっかの盾でも半分残ったのに
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