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155話 面通し

 アマト皇和国から来た、3隻の大戦艦。

 名前はそれぞれ、≪奥穂高おくほだか≫、≪八権現やごんげん≫、≪弥陀束みだたば≫。≪奥穂高≫と≪八権現≫は最近に作られた大戦艦で軍務派に所属、≪弥陀束≫は古めの大戦艦で貴族派に所属している。


「この3隻の姿を見るだけで、アマト皇和国の権力者たちの思惑が透けているな」

「軍務派は今回の戦いを勝利する気でいて、貴族派は手を貸しはしても失敗して欲しいといった感じですね」


 そちらがその気ならと、ドーソンはSU宇宙軍との決戦で≪弥陀束≫を酷使することに決めた。

 これは意趣返しという意味もあるが、非協力的な存在に協力させるには、命の危険のある場所に置いて言うことを聞かなきゃ死ぬと思わせることが手っ取り早いからでもある。

 それはともかく、3隻の大戦艦は要請に応じて応援にきてくれたのだから、ドーソンの方から挨拶に行くことが筋だ。

 その挨拶の約束を取り付けようとすると、2隻の大戦艦から拒否された。


「えーと~。≪八権現≫は挨拶をする暇があるのなら作戦の一つでも多く立てろって~のと、≪弥陀束≫からは階級が下のドーソン様の言うことを聞けという命令が気に食わないから会いたくないって~」


 恐らくは、もっと婉曲的な言い方での通信だっただろうが、ベーラが翻訳した報告にドーソンは苦笑いする。


「唯一≪奥穂高≫は会ってくれると?」

「そうみたい~。話に良く聞いていた人物と会うことを楽しみにしているって~」

「話って、俺のか?」


 『噂』や『報告』ではなくて『話』という部分に、ドーソンは違和感を覚えた。

 そして直感で、オリオン星腕での活躍ではない部分で、自分を知られていると察した。


「大戦艦ってことは、士官学校の上位3席の研修先だった可能性がある。そうなると、俺の話をするような人物となるとだ」


 ドーソンが卒業したときの3隻と4隻である貴族子女子息は、きっと関係ない。なにせドーソンにしてやられた所為で、貴族の子女子息でありながら孤児に負けたという汚点がついたのだから、話題にすることすら嫌がるはずだからだ。

 となると候補は1人に絞られる。


「あのバカ皇子め。変な話を流布していたら承知しないからな」


 ドーソンは一気に会うのが嫌になったが、そうもいっていられないため、大戦艦≪奥穂高≫へと短距離用の宇宙船で向かうことにしたのだった。



 ≪奥穂高≫に入ると、歓迎もそこそこに艦長室へと通された。

 ドーソンが特務中尉という階級と、海賊艦隊司令という仮の肩書を告げて中に入ると、艦長と副長と思わしき人物が待っていた。

 その中で、艦長らしき軍帽を阿弥陀に被った中年男性の表情を見て、ドーソンは真面目な士官という態度を取っ払うことにした。


「獲物を前にした猛獣のような顔だな。戦略盤や艦艇での模擬戦なら付き合ってやってもいいが?」


 ドーソンが不遜な態度で言うと、阿弥陀軍帽の中年男性がニヤリと笑う。


「ははっ。なるほど、聞いていた以上の跳ねっ返りだ。俺様がその態度に腹を立てて、アマト皇和国へ≪奥穂高≫と共に帰るとは考えないのか?」

「戦う気がないのなら帰ったらいい。戦いに楽に勝つために大戦艦の決戦砲を欲したが、なくたってどうにかなるしな」

「余程の自信だな。どんな手段なら決戦砲がなくてもかてるってんだ?」

「この場で講釈を垂れてもいいが、聞きたいのか?」


 ドーソンも阿弥陀帽の男も、視線で鍔迫り合いをするかのように、真っ直ぐに相手を見据えながらの会話。

 そんな2人の横にいる副長らしき男性は、気が気でない様子だ。


「ドーソン特務中尉とアルマ少将。味方がいがみ合ってどうするのですか!」


 副長からの忠告に、ドーソンもアルマ少将もお互いに視線を合わせた状態のまま返答する。


「いがみ合いじゃない。俺は態度で示しているだけだ。この態度をするだけの実力があるってな」

「この坊主は、俺様と似た性格だ。実際に噛みつくまでいかなきゃ、じゃれ合って遊んでいるのと変わらない」


 ここでドーソンは、アルマ少将は目を見合わせた状態のまま、一歩ずつ近寄っていく。そして手を出せば殴れる距離に来て、すっと右手を上げる。これは殴るためではなく、握手を求めるための動きだった。

 しかしドーソンの動きに、副長は大きく反応した。ドーソンがアルマ少将に殴り掛かるんじゃないかと誤解したからだ。

 一方で当のアルマ少将は、ニヤケ顔の中にドーソンを認める感情を入れ込んで、怯えた様子もなく差し出された右手を握り返した。


「≪奥穂高≫の艦長のササク・アルマだ。業腹だが、お前の指揮下で戦ってやろう。下手な真似をしやがったら、すぐに指揮権を奪ってやるがな」

「≪奥穂高≫に求めるのは決戦砲の威力だけだ。艦長の存在はなくたっていいが?」

「はははっ。口が悪りぃな、クソガキめ」

「そのクソガキを威圧するしか脳がない小心者が」

「甘っちょろい皇族のボンボンに、士官学校の成績抜かれた間抜けが偉そうに」

「あのアホがなにを語ったがしらないが、あいつの言葉だけで俺を知った気になるなんて、それはバカの発想だ」


 2人が握手している手からは、相手の骨をへし折らんとする握力によって、ギリギリと実際に音が鳴っている。

 この2人の様子は、反りが合わないというよりかは、むしろ合い過ぎて相乗効果が高まっているといった感じ。火に油というか、ダイナマイト原料であるニトログリセリンとニトログリコールの関係性に近いもののように、傍から見ていた副長には感じられたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今混ざってるから王子くんが揺らしに来てくれるんかな
[一言] 仲良しかよw
[気になる点] ドーソンが卒業したときの3隻と4隻である貴族子女子息は、 ↑3席、4席の間違いでは?
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