154話 問題点と派遣
ドーソンは休憩後に、SU宇宙軍と戦うための戦力の確認を行った。
すると予想外の問題に直面することとなった。
「企業から提供された戦力という部分を、もうちょっとよく考えるべきだったか」
ドーソンが呆れ声で呟きながら見ているのは、企業が供出してくれた艦艇の資料だ。
どうして資料を見ようと思ったのかというと、その艦艇の姿形が今まで見たことのないものだったから。
「船作りが得意な企業が艦体を作り、武器作りが得意な企業、推進装置が得意な、ジェネレーターが、その他もその道に強みがある企業が部品を作り、それを組み合わせて作った艦艇。一応、強みを生かした製造とは言えるが……」
分業制で作られた艦艇ではあるが、各企業は担当部分を作った後はノータッチなので、艦自体への信頼性はゼロだ。
もし艦に不具合が出た場合、どこに連絡を取ればいいのかすらわからない。
「数を揃えるにはこの方法しかないし、出所不確かな艦船や装備を使うことは海賊ではよくあることとは言ってもな」
「ドーソン。例の艦艇のチェックが終わりました。一応は実戦で使っても問題はなさそうですよ」
オイネの報告に、ドーソンは少しの安心と疑念を抱く。
「一応ってことは、何かしらの不備があったってことか?」
「不備と言いますが、どの艦艇であっても装甲厚が低いんですよね。多分、装甲を減らした分の素材を、新造艦作りに使っていたんでしょうね」
「装甲厚ぐらいなら運用でどうにかなる、他には?」
「あと砲塔と銃座ですけど、いくつかには在庫処分と思わしき古い型式のものが使われていました。トライアルレースに負けた過去の試作品を載せているものもあります」
「ちゃんと動いて撃てればそれでいい。まだあるか?」
「これは嬉しい誤算というやつですけど、装甲厚が低くて軽量なので、推進装置の出力が過剰気味ですね。機動戦には持ってこいだと思いますよ」
「大艦隊戦であまり生きない長所だけどな」
企業供出の艦艇は、防御力が低くて、機動力が高く、攻撃力は標準的で、艦艇と武器には動作保証がない。
それらの特徴は海賊船と同じもので、まさしく≪チキンボール≫側に配備される兵器として似合っていた。
「海賊船だと思えば、使えないこともないか。打たれ弱いのも、あらかじめ把握してあれば、運用でカバーできるしな」
「≪チキンボール≫に集まってくる海賊たちも、拿捕して修復した宇宙軍の艦艇よりも、こちらの艦艇の方を好んでいますよ」
「連中は、新品だからって理由で飛びついているだけだ。俺なら、宇宙軍の艦艇の方を選ぶ」
「ドーソンは意外と、堅実派ですからね」
ともあれ、海賊が乗りたいのは企業供出の艦艇だ。
それなら拿捕した宇宙軍の艦艇は、現時点で≪チキンボール≫で働いている人工知能たちの新たな勤務先にしてしまえばいい。
「艦艇の方はこれで対処したとして、問題は兵器の質だな」
「決戦砲が欲しいところですが、≪チキンボール≫にはないんですよね」
「宇宙軍は持ってくるだろうからな。対抗するためにも、何隻か決戦砲持ちの艦が欲しい」
特に宇宙軍は、バリア艦を配備している。
並みの砲撃では効かないが、決戦砲なら突き破ることが出来得る。
そういう意味でも、決戦砲は欲しかった。
しかし入手する当てはない――正確に言えば、オリオン星腕内にはなかった。
「決戦砲だけアマト皇和国から持ってくるか?」
「拿捕されたら、SUにアマト皇和国のことを知られる切っ掛けになりそうですよ?」
「奪われそうになったら自爆させればいいが、それでも時間稼ぎにしかならないか」
出所不明の決戦砲を見つけたら、SU政府と宇宙軍は血眼になって製造場所を探すことだろう。
なにせ決戦砲は衛星を吹っ飛ばせるほどの超強力な武器だ。
そんな武器を密かに作れる場所なんてあったら、SU政府高官たちは枕を高くして眠ることが出来なくなる。下手をすれば、不満分子の手に渡り、SU政府の本拠地である地球を破壊されてしまうかもしれないのだから。
その恐れから、自爆させて決戦砲を破壊しても、その破片から製造元を割り出すことだろう。それこそオリオン星腕内に無いと分かれば、別の星系に操作の手を伸ばすことぐらいはするだろう。
それこそアマト星腕は、棄民を捨てた先だ。その線から探りを入れてくることは十二分に予想できた。
そんな状況になってしまっては、ドーソンの任務である『SU政府にアマト星腕への進出を未来永劫止めさせる』ことは失敗だ。
「だから海賊を支援している企業に作ってもらいたかったんだが」
「海賊側が負けた際のリスク回避で、どの企業も製造には及び腰ですからね」
先ほども書いたが、SU政府と宇宙軍は決戦砲を作れる相手を気にしている。
それこそ決戦砲を作って海賊に渡すような企業があったら、海賊を殲滅した後の次の攻撃目標に据えられても不思議はない。
そして企業は、リスク分散の思考が強い。
海賊が負けた後も考えれば、SU政府と宇宙軍と完全敵対する決戦砲の製造と譲渡は出来ないのだろう。
「選択肢は2つ。決戦砲の入手を諦めるか、アマト皇和国から持ってきてもらうかだ」
「諦める場合は、宇宙軍の決戦砲を黙らせるための特別な作戦が必要です。持ってきてもらう方だと、負けるわけにも、決戦砲を破壊されるわけにもいかないですね」
次の戦闘で、オリオン星腕内の勢力図が決まる。
宇宙軍が勝てば、海賊勢力はSU支配宙域から拭い去られ、ドーソンは任務を一から再始動させないといけなくなる。
海賊側が勝てば、SU支配宙域に海賊国家を樹立することができ、ドーソンの任務は達成まであと1歩という場所に至れる。
そんな決戦だ。準備できる全てを準備し、使えるものは全て使うべきだと、ドーソンは感じていた。
「負ける気はないから、決戦砲を持ってきてもらう方向でいく」
「では手配をしますね。でもまあ、いまのドーソンは貴族派に貸しがありますからね。下手な横槍はないでしょうから、決戦砲を持ってきてもらえると思いますよ」
「そうだと願いたいな」
オイネが定時報告の際に、決戦砲を可能な限り送って欲しいと要望を出してから、1日と経たずに≪チキンボール≫の近くの宙域に空間歪曲型の跳躍兆候が現れた。
すわ宇宙軍の襲来かと海賊たちがビビるが、ドーソンは歪曲した空間の先にある艦艇がアマト皇和国製だと知り、ベーラに通信で味方だと伝えさせて落ち着かせた。
「まさか、早々と来てくれるだなんてな」
「大戦艦が3隻とは、大盤振る舞いですね」
アマト皇和国は艦艇が余っているわけではない。ましてや大戦艦の場合、攻撃でも防御でも大きな力を持つため、色々な任務で引っ張りだこ。
オリオン星腕からアマト星腕へ帰るためには、移動で多くの日数を必要とすることを考えたら、それらの任務に大穴をあけてしまうことは確定だ。
それにも関わらず3隻もの大戦艦を送ってくるということは、アマト皇和国の方でも重要な戦いであると認識しているという証拠でもある。
「欲を言えば、倍の数が欲しいところだったが」
「それは欲を言いすぎですよ。3隻だって、アマト皇和国が都合を付けられる上限を突破していますって」
「それもそうだな。あまりに素早く要求が叶ったから、少し欲張った」
ドーソンは心を入れ替えて、むしろ恵まれ過ぎだと考えることにした。
多少の問題はありつつも、10万隻の艦艇があり、そして決戦砲持ちの大戦艦が3隻派遣されてきたのだ。
宇宙軍と比べたら半分の戦力にどうにかなれたといったところだが、これで勝ち目ができたと考えるには十二分だった。