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153話 反撃準備

 ≪チキンボール≫に帰投すると、10万隻近い大艦隊が待ち構えていた。

 SU宇宙軍の別動隊かと危惧したが、そうではないことがすぐに分かった。

 なぜなら多くの艦艇の見た目が、外装すら塗られていない、新品ばかりだからだ。

 ドーソンは、この艦艇がどういう意図でここにいるかを悟り、ゴウドへと通信を繋げた。


「聞きたいんだが、外にいる大艦隊は企業からの支援品か?」

『おお、帰ってきたのか。そうとも、SU宇宙軍と戦うために必要だろうと、融通してくれたのだよ』

「それにしたって、これだけの数をどうやって?」

『なに。一企業だけが出資元ではないだけのこと。広いオリオン星腕に点在する、様々な企業が供出してくれた結果だとも』

「それほど多くの企業が、海賊がSU宇宙軍を倒すことを期待しているのか?」

『企業の連中は危惧しているのだよ。SU宇宙軍が大艦隊で海賊を制圧した後で、その艦隊の力でもって企業の締め付けにくるんじゃないかと』

「あり得ない話ではないな」


 人間という存在は、安易な方法に流れようとする性質を持つ。その低きに流れそうになる心を、倫理観や常識などで押し止めているのだ。

 しかし今回、SU宇宙軍は大艦隊で敵を倒す味を覚えてしまった。オリオン星腕随一の暴力を用いれば、どんな相手だろうと言うことを聞かせることができるのだと。

 このまま事態が推移すれば、SU政府は統治の手軽さを求めて軍国主義に舵を切ることだってあり得る。

 そして全ての資本を軍部に集中させる軍国主義と、企業が求める価値の想像を偏在化させる資本主義とは相性が最悪だ。

 企業が自分の利益を守るためには、SU宇宙軍の躍進を止める必要がある。


「だが、これだけ多くの艦艇の製造は一朝一夕じゃできない。企業は≪ビックコック≫に集結した海賊が負けることを予想済みだったようだな」

『その点については、悪いと思ったが、ドーソン特務中尉の予想を横流しさせてもらった。企業に艦艇を多く製造させるには、必要不可欠だったのでな』

「現状良い方向に転がっているから文句は言わないが、どの時点でだ?」

『ドーソン特務中尉が、人工知能艦隊をミイコ大佐に預けたぐらいの頃だな』


 ドーソンが今回の戦いの絵図を思い描いた――より詳しく言えば、数ある未来の1つとして海賊が宇宙軍に負けると考えていた頃に、ゴウドは企業に働きかけを行っていたのだ。


「思い切りが良いな。もしかしたら海賊が宇宙軍を倒していたかもしれないのに」

『なーに、そのときは海賊が企業が作った艦艇を勝ったとも。海賊主体の無法国家を作るのなら、手元に戦力を確保する必要があるからな』

「……本当に後方支援というか、色々な調整を行う能力については優秀だな」

『軍艦に乗っての戦闘よりも、こちらの方が水が合うのはその通りだとも』


 ドーソンはゴウドの才能に舌を巻きつつ、企業からの支援については納得した。


「だが全ての艦艇が企業からのものじゃないだろ。割合は少ないが、使い込まれた様子が見える艦艇や船もある。」

『そちらはTRからと、ミイコ大佐が海賊行為をして手に入れたSU宇宙軍の艦艇だな。海賊を乗せて使うことになりそうだが、人員がな』


 ≪チキンボール≫には多数の海賊がいたが、≪ビックコック≫の呼びかけに応じて出て行った者も多かった。

 だからいま居る海賊を、企業からとTRとミイコ大佐の略奪物とで振り分けると、どうしても艦艇の方が余ってしまうことになる。


「≪チキンボール≫の運営補助に使っている人工知能は?」

『可能な限り、人工知能艦へと任地換えしたとも。それでも余っているのだよ』

「企業に新たな人工知能の製造要請は?」

『艦艇を作るのに手一杯で、そちらまで手が出せないのだそうだ』

「……それは建前で、SU宇宙軍が動き回っている中で、禁忌の技術である人工知能の製造を行えばバレてしまうと考え、及び腰になっているんだろうな」


 海賊に艦艇を供与しているのに今更と思うかもしれないが、供与の方は商取引という建前が使うことができる。だから、もし後に問題視されたとしても、せいぜい業績が傾くぐらいの罰金を科されるだけで済む問題といえる。そして罰金だけなら、どれだけの大金であろうと、企業は金儲けの名人なので痛くも痒くもない。

 しかし人工知能に限っては、見つけられてしまうだけで、宇宙軍が企業を潰す口実になってしまう。

 流石に取りつぶされてしまうと、企業であろうと再起不能だ。

 そんな危険を冒してまで、海賊のために人工知能を作りたくはないのだろう。


「まあいい。人手の方はなんとかなるだろ。あの戦場から逃げられた海賊が行ける先は、≪チキンボール≫ぐらいしかないしな」

『他にも海賊拠点はあるが、どうしてだね?』

「俺のホームが≪チキンボール≫だからだ。一緒に戦った上で、さらに上手く生き延びることができる作戦を考えた指揮官がいる場所だぞ。撤退先に考えるのなら、第一候補だろ」


 あの戦場から生き残った8千隻の海賊たちは、バラバラに逃げている。そのため、彼ら自身で今後の身の振り方を考えることが出来る状況ではある。

 しかし宇宙に潜伏した海賊たちが、宇宙軍の偽装軍艦によって狩られているという噂がある。

 その噂を知っているのなら、海賊は必然的に海賊拠点に身を寄せたいと考える。拠点にさえいれば、偽装軍艦程度は追い払うことができるからだ。

 ではどの拠点に行くべきかを考えると、地球近くの拠点が宇宙軍に潰されたこともあり、より安全な場所を選ぶべきだと気付くだろう。

 こうした思考の連続を行っていけば、以前に宇宙軍を撃退した実績があり、一緒に戦った優秀な戦友が身を寄せている拠点が最良だと分かるはずだ。

 そう考えない海賊も居はするだろうが、ここまで考える知恵が回らない海賊なら、どうせ使い物にならないためSU宇宙軍戸の戦いで必要ない。


「ともあれ、次に宇宙軍と戦うときには、まともな戦いに出来そうでよかった」

『流石のドーソン特務中尉も、10倍差の敵には勝てないかね?』

「手持ちの戦力が精強ならやりようもあるが、どこの者かもわからない海賊を用いてじゃ難しい。しかも戦いの当初は、俺に指揮権はなかったしな」

『指揮権があったのなら、いまとは違った結果だったかね?』

「戦う場所に目星がついた上で、決戦砲付きの超大型戦艦が3隻だ。やりようはいくらでもあった」


 例えば、海賊船をゲリラ的に使って侵攻を遅らせたり、戦場に先んじて罠をしかけたり、決戦砲の運用の仕方に工夫を凝らしてみたりと、敵艦艇の数を減らす方法があった。

 それらを有効に使えば、勝つことは難しくても、SU宇宙軍に次戦を躊躇わせるだけの損害を与えることは確実だったと、ドーソンは考えている。


「だがまあ、後からでは何とも言えるからな。終わったことを言っても仕方がない」

『それもそうだ。ともあれ、無事に帰って来てくれて安心した。戦闘後で疲れているだろう。来るべきときのために休息に入ってくれたまえ』

「そうさせてもらう。流石に負け戦からの撤退は、骨身に堪えた」


 ドーソンはゴウドとの通信を切ると、≪雀鷹≫、≪百舌鳥≫、≪鰹鳥≫、≪鯨波≫に完全休暇の許しを出した。

 次の戦いに備えて、心身の安息を得るために。

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― 新着の感想 ―
[一言] これでドーソンが結果を出したら、ゴウド准将も大きく功績を認められそう。 てか、貴族派は元々ドーソンのおこぼれに与ろうとゴウド准将を送ってるし、前回失点してるから挽回する為にゴウド准将の功績を…
[良い点] なる程ね個人的な疑問がほぼほぼ解消した。あとゴウドには素直に称賛、本当にこれが戦いの前に間に合ってれば良かったのにね。
[一言] ゴウドさんいいですねー! 適材適所でほんと今輝いてる!
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