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151話 総力戦・終

 連結玉の陰から飛び出して、ドーソン率いる海賊艦隊は突撃する。

 半包囲されつつある状況での飛び出しは、SU宇宙軍には予想外だったようで、対処が遅れている。

 この隙に少しでも接近しようと、ドーソンは海賊艦隊を急がせる。

 しかしここで、オイネから報告が来た。


「多数の海賊艦船が、玉の陰から出てきていません」

「数は!?」

「およそ2千隻です」


 海賊艦隊の1割が、怖気づいて飛び出しに失敗していた。

 今さら戻ることはできない。

 ドーソンは、その1割は失われたものだと決断した。


「腰抜けを構うな。全隊、前へ前へと進め!」


 SU宇宙軍の本格的な攻撃を前に、いまは1隻でも多くの味方が欲しい状況なのに、戦力を1割喪失するという事態。

 ドーソンは今後の展開に向けて頭の働かせていたことも加わって、頭痛を感じていた。

 しかし頭痛に構っている時間はない。

 SU宇宙軍が混乱から抜けて、海賊艦隊へと攻撃してきたからだ。


「反撃しつつも、全力で前進しろ! とにかく、相手の陣形の中へ潜り込むことだけを考えろ!」


 海賊艦隊は宇宙軍へと砲撃を行いながらも、ジェネレーターが生み出すエネルギーを推進装置へと最大限に融通して、移動速度を確保する。

 連結玉と超巨大戦艦2隻を犠牲に接近し続けてきたこともあり、宇宙規模で見たら、海賊艦隊と宇宙軍の陣形とは目と鼻の距離。このまま順当に行けば、海賊艦隊は宇宙軍の陣形の内側へと飛び込むことが出来る。

 しかし宇宙軍も対応してくる。連結玉を半包囲形で受け止める陣形だったのを変化させ、ドーソンたち海賊艦隊が突撃してくる場所から、艦隊を逃がそうとする。

 対応の速さは流石だが、しかしここで大軍の欠点が現れる。

 近くに大量の仲間がいるために移動時の衝突を避ける必要があり、それでフットワーク軽く移動することができないのだ。

 今回も、突然の陣形を変化させる命令に対応するべく、移動を開始するだけでも四苦八苦している様子が、海賊艦隊からでも見えた。


「敵は混乱している! 相手の陣形の中に潜り込みさえすれば、宇宙軍は組織的な攻撃が出来なくなる! 勝てるぞ、この戦いに!」


 ドーソンは海賊たちを鼓舞しながら、宇宙軍の隊列へと突き進む。

 陣形の中に潜り込ませまいと、宇宙軍全体から砲撃が来る。

 海賊艦隊の正面からくる攻撃は、≪鯨波≫のバリア装置で弾くことができる。

 しかし、その他の方向から来る攻撃に関しては、当たらないことを祈りながら突き進むしか手立てはない。


「海賊艦が次々に砲撃に当たって撃沈されています。10秒に1隻ぐらいの割合です」

「その程度の被害なら仕方がない。立ち止まりでもしたら、一瞬で100隻は吹っ飛ぶんだろうからな」


 止まれば死ぬぞと、ドーソンは海賊たちを叱咤しながら、海賊艦隊を前へと進ませ続ける。

 ここでドーソンの頑張りに運命が応えるかのように、状況が動く。

 連結玉の陰に隠れ続けていた2千隻の海賊たちが、ようやく連結玉から飛び出てきたのだ。それも、ドーソンたち海賊艦隊とは真逆の方向へと突き進むように。

 この状況はドーソンが狙ったものではないが、ドーソンにとって望ましいことでもあった。


「しめた。これで宇宙軍の狙いが2つに分かれる。攻撃の圧力が減れば、その分だけ敵陣に入り込む確率が上がる」


 ドーソンは海賊艦隊を急かして、最大速度を維持させる。

 一方でドーソンたちから離れて移動する、海賊2千隻は宇宙軍から攻撃を受け始める。

 この2千隻にはドーソンと言う船頭役もいない上に、飛び出すべきときに飛び出せなかった腰抜けたちの集まりだ。

 宇宙軍に攻撃されると、自分だけは生き残ろうと画策し、隊列もなくバラバラに逃げようとし始める。

 どれか1隻だけでも逃げ延びるには良い手段ではあったが、それが逆に宇宙軍が海賊を逃がすまいと目を強く向ける結果を引き起こした。

 突撃してくる海賊よりも、逃げようとする海賊の処理の方が先だと言いたげに、宇宙軍の砲撃が散らばって逃げる方の海賊たちへと集中した。

 そうして散った海賊が殲滅されようとしている間に、ドーソン側の海賊艦隊は敵陣に斬り込むことに成功していた。



 ドーソンが率いる海賊艦隊は当初の難関を越えて、宇宙軍の陣形の内側へと入り込むことに成功した。


「味方の残存数は!」

「アマト皇和国の関係者は全員無事です。海賊艦隊は1万2千隻まで数を減らしています」

「半分以上残っているのなら十分だ。後は乱打戦だからな!」


 ドーソンは海賊たちに命令を出す。


「周囲は全て敵だ! 武装がぶっ壊れるまで撃ち続けろ! 獲物は、より取り見取りだぞ!」


 ≪雀鷹≫が砲撃を始め、近くにいる宇宙軍の駆逐艦を一撃大破させた。

 この砲撃が切っ掛けとなり、海賊と宇宙軍の艦船がお互いへ向けて攻撃を始める。


『こうなりゃ、ヤケだ! 撃ちまくれ!』

『隊列の内から追い出せ! 反撃だ!』


 こうして敵味方入り乱れての乱戦が始まった。

 この状況で問題になることは、同士討ちだろう。

 しかし今は宇宙時代だ。敵味方を識別する信号があるため、同士討ちは確実に避けられるようになっている。

 だがそれは、味方を撃つことは避けられるというだけで、味方を誤って照準してしまうことはあり得た。

 事実、海賊側も宇宙軍側も攻撃の歳に混乱している様子が、漏れ聞こえてくる通信内容からもわかる。


『これも味方かよ! ああもう、面倒臭い! 乱射設定にして、銃座と砲塔をぐるぐる回転させろ! 敵に照準が向いていたら、勝手に撃ってくれるだろ!』

『照準が定まらん! レーダー観測、確り行え!』


 敵味方が大混乱する中、ドーソンを含めたアマト皇和国の関係者だけは混乱と外にいた。

 それはなぜかと言うと、ドーソンたちが一塊になっているとからと、アマト皇和国の視点からすればSU宇宙軍だけでなく海賊たちも味方ではないから。

 つまり、砲口を向けた先に攻撃を放つことが出来ない、という状況が存在しないからだった。


「≪鰹鳥≫を先頭にして、SU宇宙軍の陣形の中を泳ぎながら、砲撃や射撃するんだ。腹の中に入り込んだ寄生虫のように暴れ回れ!」

「ドーソン。寄生虫だなんて、宇宙時代で根絶された存在を例に出されても、ピンと来ませんよ」

「……とにかく、暴れ回れ!」


 現時点でのドーソンたちの目的は、宇宙軍に大打撃を与えながら、自分たちが生き延びること。その自分たちの中に、海賊たちの存在は含まれない。

 だから≪雀鷹≫を含めたアマト皇和国製の艦艇たちは、なるべく宇宙軍の艦艇を狙いはするが、敵味方の区別なく砲撃を与えていく。

 そうした敵味方に容赦ない攻撃は、他の宇宙軍や海賊の攻撃と比べると、攻撃先に迷いがない分んだけ激しさが違う。

 その攻撃の圧力にさらされて、宇宙軍の艦艇が次々に沈んでいく。同時に稀な誤射で海賊船も沈む。

 明らかにドーソンたちによる同士討ちだが、海賊たちは味方が沈んだ攻撃は宇宙軍のものだと誤解する。なぜなら、敵味方識別で同士討ちができないと、そう思い込んでいるから。


『ドーソンに負けるな! 撃ちまくれ!』

『宇宙軍は腰が引けているぞ! 叩くならいまだ!』

『海賊どもめ。急に勢いづいて――』


 時間が経つごとに、両陣営の被害が積み重なっていく。

 しかし乱戦ということもあって、海賊と宇宙軍は10倍の戦力差があるにもかかわらず、被害数に関して言えば宇宙軍の方が多い。

 それはドーソンたちの頑張りもあるが、宇宙軍は周囲に味方が多いことで誤射防止に攻撃がロックされる回数も多く、結果的に海賊を倒す機会を失うことに繋がっていたからだ。

 こうして乱戦を続けていると、≪鰹鳥≫から通信が入ってきた。


『ドーソン艦長。進行方向の少し先には、敵の姿がないであります』

「ない? まだ敵の陣形の端まで移動していないはずだぞ」

『そう言われても、いないものはいないのでありますよ』

「……キワカ。どうだ?」

「レーダーを偏向して、前方の遠くまで見えるように調整します――エイダさんが報告してきた通りに、敵の姿はないようです」


 2人からの報告に、ドーソンは歯噛みした。


「尻尾切りだ。俺たちが隊列の中を進んでくるより先に、宇宙軍は隊列を切って被害のない艦隊を退避させたんだ」


 そうした目的は、ドーソンは推察できた。

 陣形内に入り込まれて乱戦になった瞬間に、宇宙軍が味方を切り離してしまえば、その切り離した分だけで被害を抑えることができる。

 海賊の数は1万2千隻に減っていたので、ほぼ同数の2万隻を被害担当艦と仮に置くとしよう。

 宇宙軍の数は20万隻で、失われる2万隻を除いても、18万隻も残る。

 一方で海賊側は、乱戦で数を減らすこともあって、5千隻も残っていれば上首尾の状況だ。

 18万隻と5千隻。そして連結玉を失ったので、海賊側に再び乱戦に持ち込める手札はない。

 つまり宇宙軍の勝利が揺るがなくなる。

 そのため、この戦いで勝利するためには、味方を切り離しての隊列の再編は、着実な一手と言えた。


「だが、SU宇宙軍は勝利の前提条件を間違えた」


 ドーソンは意味深に笑い、そしてオリオン星腕中に配信している戦闘映像を再確認する。

 連結玉は大破しているが、最後の最後まで配信を続けられるよう、通信設備は最終ブロックに収めてある。そして宇宙軍は、海賊たちが陰から飛び出していたこともあり、連結玉を最後まで破壊していなかった。

 つまりは、ここまでの戦闘の光景は、生き残っている連結玉のカメラや海賊艦船のカメラなどを通じて、ライブで配信され続けていた。その役割は、映像作品に強いコリィが担ってくれていた。

 ドーソンは配信映像を再確認し、SU宇宙軍が味方を切り離して艦隊の再編を行う光景が確りと映っていたことを確認する。

 これで材料は揃ったと判断し、ドーソンは演説を開始した。


「全宇宙の人々に告げよう。SU宇宙軍は、数だけの弱兵であると。そして味方の危機を助けるのではなく、自分たちだけが生き延びるために仲間を切り捨てる非常漢どもであると」


 ドーソンの演説に合わせて、コリィが配信映像を切り貼りしながら配信画面に流す。海賊の攻撃によって破壊されるSU宇宙軍の姿の後で、連結玉が捉えていた『しっぽ切り』の映像を。

 編集された映像ではあるが、戦闘状況はライブ配信されていたため、間違いなくあった光景であることは検証する間でもない。


「このような仲間を平気で見捨てる卑劣漢たちに、宇宙の平和は守られるのだろうか。いや、そうは思えない! こういう輩は、強いものにはおもねり、弱いものは虐げる。商人から金品を奪って懐を肥やし、悪人の所業を金銭で見逃すに違いない!」


 海賊が演説で言うことかといった内容だが、ドーソンは人々の心にSU宇宙軍に対する疑念が埋まればいいと割り切っている。


「未だ戦闘中なため、これ以上は余裕がないため演説は止める。しかしよく考えて欲しい。現状のSU宇宙軍およびSU政府のままで、本当に君たちは幸せに暮らしていけるかおだ。俺は幸せに暮らせないと思い、こうして武器を取って立ち上がったがな」


 ここでドーソンは演説の通信を切り、ライブ映像のみに切り替えた。


「さて、この戦いで実現しなければいけない最低条件は達成できた。あとは逃げるか、戦い続けるかだが……」


 乱戦の状況は有利に進んでいるが、乱戦を終えてしまえば、再編されたSU宇宙軍の残りが襲ってくる。そうなっては海賊側は負けるしかない。


「では、撤退するしかないな」


 幸いなことに、乱戦で敵味方が入り乱れている状況にある。

 いま戦っている宇宙軍を倒しきらずに撤退すれば、その生き残りが再編された方の宇宙軍の盾となり、比較的安全に撤退が可能になる。

 ドーソンはアマト皇和国製の艦隊を安全に逃がす使命もあるため、その撤退方法をやらない手はなかった。


「撤退する。逃げる方向は、この戦場と再編された宇宙軍を直線で結んだ延長上だ」


 ドーソンは海賊たちに指示を出して、撤退を始める。

 乱戦状況からの脱出は難易度が高いものだが、流石は逃げ足に定評のある海賊たちだけあり、撤退方向さえ指示を出せばスルスルと戦場から逃げてみせる。

 その逃げっぷりに、ドーソンは舌を巻きながらも撤退を開始。こちらは≪鰹鳥≫を先頭に≪鯨波≫を最後に配置しての、後方へと突撃するような形での逃走だ。

 海賊たちが撤退し始めて、今まで直近で戦い続けていた方の宇宙軍は一息吐こうと残存の取りまとめを行い出す。その動きが邪魔になって、再編していた方の宇宙軍は海賊へ砲撃することが出来なかった。

 それでも、このまま海賊を逃がしてなるものかと、再編していた方の艦隊が進出して海賊を叩こうとする。

 しかし戦闘が終わったのなら、海賊としては一まとめにいる必要はない。

 戦いを早々に切り上げたこともあり8千隻近く生き残った海賊たちは、それぞれが思い思いの場所へ向けて、ばらばらに跳躍で脱出していく。

 すぐに追跡装置が使用されたが、都合8千箇所にも登る跳躍先の情報に、宇宙軍は優先順位を付けて追いかけることすら難しく、追跡を諦めるしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 非常漢・・・ワロタ
[一言]  ドーソン的にはSUの蜥蜴の尻尾切りを撮影するのが主目的だったようだけど、ドーソンの実力からするとちょーっと今回の作戦お粗末だったのでは? 10倍の戦力差が厳しいモノで海賊達が頼りないのは勿…
[一言] 観艦式はケチを付けられて10倍近い戦力差で勝ち切れず味方を切り捨てる姿を星腕中に流されて SU宇宙軍はどう出ますかねー
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