150話 総力戦・中
大量の魚雷が連結玉に殺到し、爆発する。
「被害拡大。分離崩壊の危険水準に達しつつあります」
オイネの報告に、ドーソンは仮面の中で苦い顔になる。
ドーソンが予想したよりも連結玉が破壊される速度が速いのだ。
しかしそれでも、最悪の想定よりかは少しだけマシでもあった。
「決戦砲を防御的に使う。恐らく敵は決戦砲を狙ってくるだろうから、超大型戦艦を守らなくていい」
ドーソンは2隻の超大型戦艦に決戦砲の発射準備を整えさせると、その全ての乗員を別の海賊艦へと移乗させる命令をだした。
「オイネ。発射位置とタイミングは任せる」
「超大型戦艦をハッキングして発射させるんですね。任されました」
「敵からの魚雷群の第2波、来ました!」
キワカの報告にドーソンはオイネに指示を与えて、2隻ある内の片方の超大型戦艦を連結玉の陰から出し、そして決戦砲を放たせた。
決戦砲は近づいてきていた魚雷群へと命中し、大爆破が巻き起こる。決戦砲を潜り抜けた魚雷もあったが、連結玉が受け止めたものの崩壊はしなかった。
「敵陣から高エネルギー反応。決戦砲です!」
敵から放たれた決戦砲は、連結玉の陰から外れた、先ほど決戦砲を撃ったばかりの海賊の超大型戦艦に命中し大破させた。
切り札の1つが失われ、ドーソンの渋面度合いが強まる。
「全速で玉を押せ! 盾が残っている間に、少しでも敵陣に近づくんだ!」
ドーソンの怒声が通信となって送られると、海賊たちは生き延びるために必死に動いていく。
海賊の艦船の推進器の光が強くなり、連結玉の移動速度が上がり、敵との相対距離がさらに縮まる。
ここでSU宇宙軍がドーソンの狙いを看破したようで、相対距離を開けようと後退を始める。しかし攻撃をしながらの後退なので、速度がでない。
必死に追う海賊の方が速度がかなり上なので、相対距離は時間とともに縮まっている。
「魚雷、第3派です!」
「オイネ。決戦砲で撃ち落とせ」
再び迫ってきた魚雷を、再び決戦砲で爆発四散させる。その代償に、宇宙軍からの攻撃で、海賊が所有する最後の超大型戦艦が破壊された。
これで後は、崩壊しかかっている連結玉の防御力頼みで、宇宙軍に接近するしかない。
この状況で、海賊側が取れる道は乱戦狙いの1択だが、宇宙軍側には3つ選択肢がある。
1つ目は、このまま攻撃を続けること。海賊が懐に入ってくる前までに連結玉を壊せれば、あとは数の暴力で叩ける。しかし懐に入られて乱戦に持ち込まれれば、それ相応の被害がでることを覚悟しなければならない
2つ目は、突進してくる海賊を受け止める形に、陣形を変化させること。海賊の勢いを受け止めつつ攻撃すれば、多くの被害を海賊に与えることができる。しかし乱戦に持ち込まれる恐れは残る。
3つ目は、攻撃を止めて高速で後退したり跳躍移動したりで、仕切り直しを行う。一度距離さえ離してしまえば、海賊側に再び接近できる術はない。安全に勝とうとするなら、一番良い手段だ。
その3つのどれを宇宙軍が選んだかというと、陣形変化を選んだ。
これは、ドーソンが一番選んでほしくない選択だった。
「敵が有能なのは困るものだと、いま改めて実感した」
現状維持を選んでくれれば、楽に乱戦に持ち込めた。後退してくれたのなら、オリオン星腕中に流しているライブ映像を利用して、宇宙軍は海賊に恐れをなして逃げたのだと偽りの情報で操作が出来た。つまり海賊が仮初にでも優位に立てる状況が作れた。
しかし陣形変化の選択に限り、海賊側が一方的に拙い状況に立たされるだけ。
その一番嫌な選択を、宇宙軍が確実に選んで来た。
だからドーソンが愚痴るのも無理はない。
「あんまり良い手ではないが、仕方がない」
このまま突き進んだところで、包囲されて全方向から叩かれることになる。
そんな状況になるぐらいなら、多少無理矢理にでも敵の懐に飛び込むべき。
ドーソンはそう判断すると、海賊たちと共に連結玉の陰からでて突撃することを選択した。
「ベーラ。海賊たちに跳躍での接近は止めろと伝えておいてくれ。出現場所を事前察知されて、通常空間に出た瞬間に袋叩きにされて終わるだけだとな」
「は~い。伝えておく~」
「オイネ。比較的安全そうに突入できそうな地点の割り出しを頼む」
「それは既に算出済みですよ。こちらになります」
「助かる」
ドーソンはオイネからの情報を確認し、算出された地点へ向けて突撃することに賭けてみることにした。
「突撃陣形の先頭は≪鯨波≫。バリア機能で後続を守ってもらう。2番手には≪鰹鳥≫。いざ突入というときに先頭に入れ替えて、敵陣を切り裂く役目を担ってもらう」
『分かりました、ドーソンさん。頑張りますよ!』
『了解であります! 大部隊への突撃に、胸が震える思いでありますよ!』
ドーソンは2人の意気込む様子を見て、突撃が上手く行く予感がして心が和んだ。しかし気を緩めてはいけないと、改めて気を引き締め直す。
「敵陣に入った後は、各自の自由に攻撃をしてもらうことになる。だが俺たち――アマト皇和国組だけは一塊で動き続ける。≪百舌鳥≫も気に留めておいてくれ」
『ようやくお呼びがかかったか。忘れられているんじゃないかと、ヒヤヒヤしたぜ』
ジンク中佐の冗談が出たところで、連結玉の陰から全ての海賊を引き連れて、ドーソンたちは宇宙軍へと吶喊した。