149話 総力戦・序
SU宇宙軍と戦う宙域に、ドーソン率いる海賊艦隊が先に着いた。
未だ敵のいない場所で、粛々と陣形を整えていく。
ドーソンは隊列の位置を海賊に指示しながら、早くSU宇宙軍が来ることを望んでいた。
それは早く戦いたいからではない。
時間を置けば置くほど、海賊に怖気づく者が出てくる可能性が高まるからだ。
そんなドーソンの願いが通じたのか、陣形が8割がた完成したところで、宇宙軍が光学映像で捉えられる位置に出現した。
ドーソンは仮面を付けた状態で、宇宙軍へと通信を飛ばす。これは陣形を最後まで完成させるためでもあり、今後の展開を確定させる1手だからだ。
「こちらは海賊どもの一時的な頭になっている、海賊のドーソンだ。宇宙軍の総大将と話がしたい」
ドーソンの呼びかけに、しかし宇宙軍からの返答はない。
予想できた展開なので、ドーソンは話を進めていく。
「言っておくが、これは降伏の申し込みじゃない。徹底抗戦の宣言のための通信だ。これから俺たち海賊は、お前たち宇宙軍へ戦いを挑む。どうせ殲滅するって言われているんだ。大人しく殺されるぐらいなら、派手に散ってやる」
ドーソンは死ぬ気がないにもかかわらず、心にもないことを語る。その間に、自陣の陣形が定まったことも認識する。
ドーソンは手振りで、オイネに作戦の実行を伝える。
その直後、≪ビックコック≫から持ってきた球2つが連結した構造体が、微速前進を始める。続けてその陰に隠れるような位置へと、海賊たちも密かに移動を始める。
「海賊の意地を見せてやる――いや、そちらは俺たちと話し合いを嫌がっている腰抜け揃いだものな。そんなへっぴり腰じゃ、10倍近い戦力差があるにもかかわらず、こちらが勝ってしまうかもしれないな。はははははは!」
ドーソンがわざとらしく笑い声をあげるが、宇宙軍からの反応はない。
挑発が上手くいっていないことに、ドーソンは宇宙軍の指揮官に手強さを感じる。
当初の予定では、宇宙軍と言い合いをしている内に、密かに微速前進を続けた連結構造体の玉と共にある程度接近するつもりでいた。
しかしこうも反応がないのでは、その予定を変えざるを得なかった。
「宇宙軍の腰抜け具合を、オリオン星腕中に届けてやる。今から始まる戦いの映像を、全宙域で放映してやる。宇宙軍の醜態を、リアルタイムで晒せ。はははははは!」
ドーソンは笑い声をあげながら、ベーラに手振りで指示をだす。
ベーラはモニターを操作し、本当にオリオン星腕中へと映像を配信し始めた。
その映像の発信元は、≪雀鷹≫ではなく例の連結玉の構造体。
大出量で通信波を飛ばしているので、宇宙軍も連結玉から発信されているのだと理解できるだろう。
ドーソンはここまで段階を進ませたところで、宇宙軍へ出していた通信を切り、海賊たちへの通信を繋ぎ直した。
「プラン2を実行する。海賊船は、玉に取り付いて押せ! 一気に宇宙軍に近づくぞ!」
ドーソンの指示に連結玉が増速する。さらには多数の海賊船が、タグボートの要領で連結玉を押して、さらに増速させていく。
接近する巨大構造物と、その陰に隠れる海賊たち。
その図を宇宙軍はどう受け止めたのかは分からないが、砲撃を飛ばしてきた。
どうやら陣形を整えることよりも、砲撃で連結玉を破壊することを重視する気らしい。
次々に連結玉に砲撃が命中するが、そこは居住用の人工衛星と同程度もある巨大な構造物。全ての隔壁を閉鎖した状態でいることも手伝って、多少の砲撃では表面を貫かれるだけで済んでしまっている。
「オイネ。玉の被害が中心部まで到達しそうになったら、教えてくれ」
「了解です。いまのところの被害規模は、全体の10分の1程度です」
かなり余裕があることに安堵していると、連結玉の目を通して全宙域へ発信している宇宙軍の映像に変化が現れたことを、ドーソンは見取った。
「チッ。もう決戦砲を持ち込んできたか」
映像の中で、宇宙軍の陣形の内に大きな光点が5つ現れる。それは撃ち出される直前の決戦砲が放っている、砲内に溜まった攻撃の光に違いなかった。
5隻の超大型戦艦からの決戦砲の発射。これをまともに食らっては、超巨大な連結玉といえど無事では済まない。
しかしドーソンは、もともと連結玉のことを使い捨てにする気でいる。そのため宇宙軍が放とうとしている決戦砲への対処ではなく、攻撃を受けた後の対処を重視した。
「敵の超大型戦艦の位置を測定。玉で攻撃を受けた直後に、海賊に2隻残っている超大型戦艦の決戦砲で狙い撃つ」
「決戦砲の光から、距離と位置を算出します」
オイネが計算に入った直後、宇宙軍の5箇所から同時に目を潰さんばかりの大きな光が放たれた。
それら5本の巨大な光は、宇宙空間を瞬く間に駆け抜けて、連結玉に命中した。
「玉の構造の半分が消失しました。更に融解が進んでいます」
「構うな。反撃しろ」
ドーソンの命令で、海賊側からも決戦砲が撃ち出された。狙いは既に、オイネが算出してある。
攻撃直後で、宇宙軍の超大型戦艦は回避行動がとれない。その僅かな隙をついての海賊側からの決戦砲での攻撃は、多数の敵艦艇を巻き込みながら、狙った2隻の敵超大型戦艦を破壊することに成功した。
「5隻あるうちの2隻――まだ3隻も残っているのか」
5隻からの掃射で、連結玉の半分が失われた。それから推測するに、3隻からの攻撃なら2発耐えられれば御の字といったところだろう。
しかしドーソンは、その心配は要らないと考えている。
なぜなら宇宙軍は、先ほどの攻防で決戦砲を撃ち込めば、逆に狙撃されて超大型戦艦を落とされると学んだはず。
そして宇宙軍が20万隻もあるのに、決戦砲持ちの超大型戦艦は5隻しかなかった。しかし今、3隻に減ってしまった。
その貴重さを考えると、宇宙軍は超大型戦艦を残そうと動くだろう。
そんなドーソンは予想は的中し、宇宙軍は他の艦艇の砲撃によって連結玉を破壊しようとし始めた。
「オイネ。先ほど掴んだ敵の超大型戦艦の位置へ、決戦砲を撃ち込むよう通達してくれ」
「すでに移動していると思いますけど?」
「撃破が目的じゃない。こちらが敵の超大型戦艦を狙っていると、そう宇宙軍に信じ込ませるための攻撃だからな」
オイネは指示通りに動き、海賊の超大型戦艦から決戦砲が放たれた。しかしこの攻撃は、射線上から敵が退避したこともあって、大した被害を与えることは出来なかった。
しかし退避で陣形が崩れたことで、連結玉へ放たれていた砲撃の圧力が弱まった。
この間に、海賊船が連結玉を押しに押して、少しでも早く宇宙軍に近づこうと試みている。
こういった海賊側の頑張りによって、だいぶ両陣営の距離が接近した。
だがドーソンは、ここからが本番だと気を引き締める。
こうして距離が近づいたことで、戦艦を1発で破壊できる兵器をお互いに使うことが出来るようになる。
その兵器とは、宇宙魚雷。
そして宇宙軍から一斉に、多数の魚雷が連結玉に向かって放たれた。