表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/178

145話 想定通りの戦い

 海賊とSU宇宙軍との戦いが、想定されていた通りの戦場で始まった。

 最初の立ち上がりは、意外なことに、両者が拮抗する状態になっていた。


「SU宇宙軍は旧式艦を前に出して戦っているからな。海賊船や海賊艦でも性能的に互角に持ち込めているんだろうな」


 ドーソンが冷静な声とブリッジにいる面々に伝わる声量で、現状を伝えていく。

 ドーソンがこうも余裕なのは、ドーソンと率いている海賊艦隊が主戦場から離れた場所に位置していて、敵の弾が飛んでこないからだ。

 事前の取り決め通りの配置ではあるが、配下の海賊たちが獲物を取られると不満がり、それを抑えるのに一苦労したという裏話もあるが。

 ともあれ、観戦気分での解説が続く。


「もうそろそろ、宇宙軍が本気を出し始める頃だ。数に任せて押し込んでくるぞ」


 捨て駒で敵の戦力を図り、その情報を元に有効な戦術で主戦力を用いる。

 そんな正統な戦術通りに、そしてドーソンが予想した通りに、SU宇宙軍は動いていく。

 SU宇宙軍側からの砲火が厚みを増し、徐々に徐々に海賊側が押されて下がっていく。

 海賊側の戦況が悪い方向へ傾きかけたところで、海賊側も新兵器を投入してきた。


「ロン大人の識別信号を持つ艦が前にでます。僚艦と思わしき2隻の艦も同じくです」


 キワカのレーダー観測の結果を受けて、その方向の映像を取得する。

 最大望遠での映像には、超大型の艦艇が3隻映っている。

 それぞれが≪雀鷹≫の3倍ほどの大きさがある艦たち。ロン大人の乗艦と思わしき1隻は派手目に外装が改造されているようだが、艦の造り自体は3隻とも同型艦だ。砲塔が5門に機銃が山盛りと、かなり厳つい見た目をしている。


「超大型戦艦か。海賊の身分で、どうやって確保したのだか」


 ドーソンが呆れ声を出した直後、件の3隻の超大型戦艦から眩い光線が放たれた。

 居住惑星に落ちてきそうな隕石や、敵の宇宙拠点を破壊するための、高威力な決戦砲の光。

 宇宙を直進した光は、SU宇宙軍の隊列へと飛び込み、軌道上の全ての艦艇を溶かして破壊した。

 完全なオーバーキルによって、SU宇宙軍の隊列に大穴が3箇所も空いた。

 この光景を見て、ドーソンはある納得をしていた。


「ロン大人がSU宇宙軍と戦う決断をした上で余裕顔だったのは、超大型戦艦を3隻所有しているという自信からだったのか」


 ロン大人の心情を表すかのように、通信に乗る海賊たちの歓声も大きい。

 決戦砲の派手な見た目と、SU宇宙軍の隊列にある大穴という結果に、海賊全てが浮かれている。

 しかしドーソンは、顔を苦々しい表情に変えていた。


「必勝の戦術のあてがあるのかと思っていれば、まさか決戦砲の威力頼りだとはな。これは予想よりも、海賊側が瓦解する時間が早いかもだな」


 超大型戦艦の決戦砲は、先ほど示された通りに、かなりの超威力を誇っている。

 しかし、その威力と引き換えにデメリットも存在している。

 それは連射が出来ないことと、1発撃ったら長い充填時間が必要であるということ。

 確かに威力はデカくて脅威だが、連射が出来ない大砲だと、敵の行き足を留めることは難しい。

 実際、艦隊に大穴を空けられたSU宇宙軍だったが、すぐに隊列を整え直して前進してきている。

 ロン大人の大砲頼りの戦い方と、SU宇宙軍の立ち直りの速さを見て、ドーソンは危機感を抱いて配下の海賊たちの手綱を引き締めにかかった。

 ドーソンにとって海賊は捨て駒でしかないが、それでもロン大人の失策の所為では、手に馴染みつつある駒を失うことは惜しいのだ。


「逃げ道の算出を急ぐぞ。ロン大人が超大型戦艦に乗っているのなら、彼も死ぬと考えて撤退作戦を考え直す」


 超大型戦艦は、その巨体と決戦砲を抱えているため、速度が出ない。

 そんな大荷物を抱えてSU宇宙軍の大艦隊から撤退するなど、ドーソンはやりたくはない。

 ロン大人はこの戦いでの旗頭だが、それを失おうとも安全に撤退することを、ドーソンは至上と決めた。

 その決断の直後に、SU宇宙軍側にも新たな動きが現れる。


「敵艦隊、射線を開ける動きあり。その数、5箇所」


 キワカが報告した通りに、敵艦隊に再び穴が空く。その穴の中央の映像を、最大望遠で取得して、ドーソンは背筋に冷たさを覚えた。


「ベーラ。他の海賊たちに警告だ。敵も決戦砲を撃ってくると!」

「はーい。被害予想と共に、通達するね~」


 ベーラの通信が海賊に行き渡り、海賊たちが慌ててSU宇宙軍の決戦砲の軸線上から撤退しようとする。

 しかしSU宇宙軍の方も海賊の動きに気付いたようで、満充填には程遠い威力での決戦砲の投射を敢行してきた。

 光輝く5つの光が、海賊側へと到達する。

 慌てて退避していたこともあり、海賊艦船の被害はさほどではなかった。

 しかし、その被害の中に、海賊側の超大型戦艦が含まれていると判明してしまった。


「3隻の内の1隻が、さきほどの砲撃で轟沈のようです。切り札の1つが失われて、海賊に混乱が広がっているようですね」


 オイネからの冷静な報告で、SU宇宙軍の狙いが超大型戦艦の排除にあったのだと、ドーソンは遅まきながらに理解した。


「決戦砲の対策に決戦砲をぶつけるなんて、物資が潤沢なSU宇宙軍にしか出来ない芸当だな」


 少なくとも、いまのドーソンの手持ち戦力で行える手段ではなかった。

 そしてドーソンには、SU宇宙軍の対策法の是非を考えている時間的余裕もない。

 切り札の1つを失ったことと、SU宇宙軍が強かに進出してきていることで、海賊たちの統率が怪しくなってきたからだ。

 有り体にいってしまうと、海賊たちの腰が引けてきているのだ。


「SU宇宙軍の大攻勢が始まったり、もしくは決戦砲がもう1回撃ち込まれたら、完全に瓦解するだろう」


 ドーソンはそう予想を立て、この戦場から逃げきる算段を付け始めた。

 その算段が形になり、少し時間があいた時点で、SU宇宙軍が大攻勢を始めた。しかもその号令は、決戦砲の一斉射撃で行われた。

 この瞬間、海賊の士気が払底した。海賊たちが我先にと逃げ始める。


「ベーラ。付近の海賊たちに通達だ。こっち側に逃げてこいってな。そして近くに居ない海賊には、別の退避場所を教えてやれ」

「了解~」


 ベーラはすぐに命令を実行し、ある程度の数の海賊たちが急いで≪雀鷹≫がいる場所へと逃げてくる。

 

「全艦、SU宇宙軍に対して牽制射。逃げてくる奴らを安心させてやれ」


 ≪雀鷹≫を筆頭に、海賊艦隊が砲撃を連発する。

 まだSU宇宙軍とは距離があるため、命中弾を期待することは難しい。

 しかし砲撃の目的は、ドーソンたちには抵抗できる力があるのだと海賊たちに示すため。

 事実、逃げてきた海賊たちは、恐慌から一時的にでも脱却して、ドーソンの指揮下の下で整然と撤退準備に入ることができている。

 一方でベーラが海賊に教えた別の撤退場所では、海賊の艦船が入り乱れて混乱を起こしている。

 しかしドーソンは、そちら側まで救出する気はなかった。


「よしっ、撤退だ。ロン大人からの通信がないから、事前連絡で貰っていた撤退路を使う。上手く誘引できるようであれば、優位な場所でSU宇宙軍とひと当てする気でいく」


 ドーソンの撤退命令に、元々いた海賊艦隊と逃げてきた海賊とが一緒に宙域を離脱していく。

 整然と逃げ始めたドーソンたちとは裏腹に、別の場所にいる海賊たちは潰走という言葉が似合う醜態を晒しながら逃げだしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 海賊も軍もどうして一撃で戦場を切り裂くレベルの決戦砲を全艦斉射するんだよw 複数艦あるならカバーし合うのが鉄則じゃろうが……。
[一言] ロン大人 死亡確認! いやお主が言われる側かい!
[一言] 決戦砲持ち超大型戦艦?を見せ札で使用かな? 超大型戦艦の割には威力減衰する距離から、充填途中で発射で海賊側の落とされてるの見ると、 元々決戦砲防げる装甲持ってない、もしくは超巡洋艦みたいに砲…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ