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144話 海賊たちは戦闘場所へ

 ≪ビックコック≫から、次々と海賊船や海賊艦が出発していく。

 ロン大人からの歓待と、歓楽街での大人の遊びで気分が晴れやかなのが伝わっているのか、宇宙を進んでいく艦船の調子も上向きのように感じられる。

 それら艦船が目指すのは、地球近辺の宙域から≪ビックコック≫へと通じる星腕宙道メインロード。その道の中でも、確実に通ると目されている場所だ。


「周囲の星系やブラックホール重力場の影響を考えると、大艦隊を布陣できる星腕宙道を1つに絞り込めます。その場所で海賊は決戦を挑むようですね」


 オイネが空間投影型のモニターに展開したのは、海賊が目指している宙域。

 何十万隻もの艦船が航行できる広さがある太い星腕宙道だが、その道から一歩でも外れると宇宙潮流や重力場などの影響を直に受けることになる場所でもある。

 もちろん潮流や重力場にはムラがあるので、数隻ずつ移動可能な星間脇道サブロードはいくつか存在する。

 しかし、その脇道はかなりの遠回りになるし、移動できる艦船の数が限られるため、SU宇宙軍が移動する道には適さない。


「だから、この場所で宇宙軍と戦うと決めたわけか」


 ドーソンの口振りは、感心という感情もあったが、呆れが多く含まれているもの。

 レーダー観測手のキワカは、その声色に疑問を抱いたようだった。


「悪くない作戦だと思いますが?」


 宇宙は広大なため、侵攻してくる敵の位置を予想する事が難しく、予想できたとしてもニアミスすることだってあり得る。

 その観点からすると、確実に宇宙軍が現れる場所が分かっているということは、なによりものメリットに感じられる。

 しかしドーソンにしてみれば、士官学校で意地悪な敵出現予想問題をこなしてきたこともあって、敵が現れる場所の検討などついて当たり前。だから問題とするのは、その場所が戦うに適しているかどうかだ。


「唯一の道であることは、宇宙軍だってわかっているはずだ。分かっているのなら、襲われることを警戒した布陣をとってくる。襲われる覚悟をしている相手と戦うのは、かなり骨が折れる」

「そういえばドーソン艦長は、敵に準備をさせないような、奇襲などの敵の意表を突く作戦を採ることが多いでしたね」

「何事でも、正面から構えている相手と戦うよりも、意表を突いてみたり相手の油断を誘った方が楽に勝てるものだからな」


 そういったドーソンの戦闘における価値観からすると、やはり戦う場所の設定が間違っていると思わずにはいられなかった。


「俺なら、この星腕宙道をSU宇宙軍が通り過ぎて安堵したところで、戦いを仕掛ける。多くの宇宙軍の艦艇が別々の道に逃げてしまうだろうが、確実に敵の数を減らすための戦いだと割り切って戦う」

「別々に分かれてくれたのならば、各個撃破の目もありますしね」


 オイネの補足説明に、ドーソンは強く頷く。


「海賊は正規軍と比べて装備が貧弱だ。魚雷などの1発で敵を撃破できる装備を多用するとしても、出来るだけ少数の敵と当たりたい」


 その考えからすると、まるで正面衝突をしようというような、ロン大人が主導する海賊戦力の用い方は、ドーソンの好みではなかった。

 ここで意外なことに、普段から物静かなコリィが意見してきた。


「あ、あの、海賊の、数を、減らすのが、目的じゃないかなって」

「SU宇宙軍に勝ちながら、味方の数を減らすことが目的って、それって意味あるのか?」

「た、戦い終わった後で、論功行賞を、減らすためって。そ、そういう話が、映像作品に、あって」


 コリィの意見には、ドーソンにはなかった視点があった。

 ドーソンにしてみれば、有能な者こそと同士でいたいし、仮に無能であっても別の道で活躍してもらいたいと考えている。その方が人材の有効活用だし、その人にとっても組織にとって健全だと思っている。

 だからこそ、無能者が組織の上に立っているなら、引きずり降ろしてでも組織の外へと叩き出したいという、反骨心的な欲求を抱いてもいる。

 その価値観からすると、死ぬまで勇敢に戦える海賊を浪費するような戦い方は、百害あって一利なしだと感じられる。

 だが、そうする目的に気づかないほど、ドーソンは馬鹿ではない。


「自分の海賊としての地位を守るためには、有能な海賊こそ死んでもらいたいってことか。なんとも自分本位の考え方だな」

「海賊の方が装備が劣っているのですから、その考えを実行するには状況が早いですよね」

「やるなら、宇宙軍との決着がつく最終決戦でやるべきだな。まあ、それまでの戦功で、ロン大人が下克上されるかもしれないが」


 ドーソンが海賊艦隊を率いつつ最前線で戦い続けているのは、他の海賊に戦功で抜かれないため。

 しかしロン大人は、先の宴会の手際の良さと見に付けていた豪華な衣服と装飾品を見るに、戦闘向きではなく商売向きの人材だ。他の海賊より論功で勝ることは難しくなる。

 子飼いの海賊に一番の戦功を取らせることで、他の海賊に牽制するという手もあるにはあるが、子飼いの海賊が下克上を狙ってきたら防ぎようがなくなってしまう。

 つまるところ、ロン大人が今の自分の立場を堅守するためには、有能な海賊が戦闘で死んでくれることが望ましいわけだった。


「その理屈でいうとだ。俺たちの海賊艦隊は激戦区に配置はされれないな」

「えっ。ドーソン艦長は海賊実績十分だから、最前線送りじゃないんですか?」


 キワカが疑問を口にするが、それをオイネが否定する。


「ドーソンは海賊の実勢がずごいですが、≪チキンボール≫を拠点とする≪ビックコック≫の利権とは関わりのない人物です。今後も海賊とSU宇宙軍との戦いが続くと考えたら、手元に残しておきたいと考えるはずです」

「そうか。ロン大人にとって、身内よりも外様に戦功をあげて貰ったほうが、立場が脅かされなくていいわけですね」


 そんな会話をしていると、ロン大人が指揮する海賊船から通信文が送られてきた。


「ドーソン様充てに、戦いでの配置場所が送られてきた~。予想していた通りに、あんまり大事じゃなさそうな場所みたい~」


 ベーラが言いながら通信を転送し、ドーソンはその内容に目を落とす。


「確かに大事じゃなさそうな場所だが――それは戦いの最初ならだな。海賊側が総崩れになったら、この場所が重要な逃げ道の1つになる」

「逃げ道、ですか?」


 キワカの疑問に、ドーソンは戦場になる宙域の画面を用いて説明する。


「現状、海賊は常識的な艦隊を組むようだ。宇宙軍の方も、艦隊の数が20万隻と多いからな、正攻法な陣形で戦うはずだ。つまりは、お互いに大戦力を正面衝突させるような感じになる」

「ですが、海賊の方は装備が貧弱ですよね。真正面で戦って、勝てるものですか?」

「サイコロの出目が良ければ勝てるが、7割がた負けるだろうな。そして海賊が負けた場合、どう逃げるかが問題になる」


 2つの長方形が向かい合い、ぶつかり、片方の四角の形が崩れる。この崩れた方が海賊側だ。


「海賊は軍人としての訓練を受けているわけじゃない。だから逃げ方は、大まかに分けて2通りになる。手前勝手にバラバラに逃げるか、無事そうな仲間の元に集うかだ」

「バラバラに逃げたら、宇宙軍に一隻ずつやられてしまいませんか?」

「俺が宇宙軍の指揮官なら、敵の数を減らす意味でも、バラバラに逃げる海賊船を速やかに落としにかかるから、合っていると思うぞ」


 モニター上で崩れた四角は、半分ほどが霧状になり、残る半分が幾つかの丸い形に集まる。

 そして宇宙軍を表す方の四角は、霧状の点を消す動きを取っていく。


「俺たちの艦隊は、この丸の1つの中心部になることを、ロン大人は期待しているようだ。そして恐らくは、この戦力を減らさないように、次の戦いの場所へと移動することになるだろう」

「次の場所って、どこですか?」


 大艦隊がひとまとめに通れる場所が1つに絞られる星腕宙道は、いま向かっている場所しかない。

 その場所から撤退してしまったら、宇宙軍がどこを通るか予想が難しくなるはず。

 しかしドーソンは、そうは思っていなかった。


「ほぼ全ての海賊が集まって戦い、そして崩れて逃げるんだ。宇宙軍にしてみれば、余計な道に逸れて進むよりも、逃げる海賊を追った方が殲滅が楽だと考える」

「宇宙軍を誘導しながら、次の戦場へと移動するわけですか?!」

「少々危険だが、良い手だと思うぞ。追ってきてくれるのなら、海賊にとって優位な場所まで引っ張っていくことだってできるからな」


 ロン大人やその取り巻きが作戦を考えたのなら、その人はなかなかの戦略家だと言える。それこそ全て任せてしまってもいいのではないかt思えるほどの有能さだ。

 しかしドーソンは、自分の運命を他人に委ねることを嫌う。

 撤退する中で指定されるであろう次の戦闘場所について、もしも気に入らなかった場合を考えて、別の候補地点の作成に入った。


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[一言] 流石に戦う前から足を引っ張り合うのもねえ?
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