表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/178

13話 逃亡

2話更新です。

前話を読んでいない方は、ご注意ください。

 ≪大顎≫号は短距離跳躍を終えると、ブリッジを砲撃で壊した物資運搬船に最接近する。そして運搬船の壁面にアンカーを打ち込んで、船体を固定した。


「オイネ。物資運搬船へのハッキング。それと館内放送を繋げてくれ」

『運搬船へのメインシステムにハッキングを開始します。放送は繋げました、どうぞ』


 オイネの報告の後、ドーソンは運搬船の乗員へ向けて放送を行う。


「こちら、私掠船≪大顎≫号、船長のドーソンだ。たった今、この船のブリッジを吹き飛ばし、航行不能とした。乗員各員は速やかに、脱出ポットへの移動するよう勧告する」


 そこで言葉を少し気ったところで、物理モニターの上にオイネからの報告が書き込まれる。『警報装置、隔壁の操作を奪取しました』と。


「これから時間と共に、船首船尾から隔壁を下ろし、隔壁が下りた区域の空気を抜いていく。死ぬのが嫌なら、頑張って移動することだ」


 ドーソンが身振りり、オイネはハッキングを続けながら運搬船の警報装置を作動させ、船首と船尾の末端にある隔壁を閉鎖した。


『監視カメラの映像から、警報と隔壁閉鎖を目にして、乗組員が移動を開始しました。最大乗員数よりはるかに少ない人数のため、移動に混乱はなく、脱出ポットの数も十分足りるようです』

「ハッキングの進捗具合は?」

『乗員の抵抗がなくなったので、進捗が早まりました。いま生命維持装置と駆動系のシステムを掌握しました』

「ジェネレーターを破壊されると迷惑だ。機関室に誰もいなくなるまで、空気をゆっくり抜いていけ。生きている者がいなくなったら、機関室の隔壁閉鎖だ」

『了解です。ついでに人気がなくなった場所の隔壁も閉鎖していきますね』


 いまごろ運搬船の中は、警報ががなり立てる廊下を次々に閉まる隔壁に追い立て垂れるように、乗組員が走り逃げていることだろう。

 その光景を想像し、ドーソンは心の中で『馬鹿な選択をしたお前らの船長を恨め』と思っていた。

 オイネがあと少しで全ての権限を奪取するという段階で、ドーソンの下で働く海賊たちが跳躍脱出してきた。

 その海賊たちから、叩きつけるように通信がやってきた。


『≪大顎≫の旦那! この指示はどういうことで!?』

『こんな大物を手にしたってのに、おれ達には帰れって、どういうこった!』


 続々とくる非難の声に、ドーソンは仮面を被っていてもわかるほどの怒気を発した。


「うるせえ!! こちとら、この運搬船の馬鹿船長の所為で、今からSUの艦船から逃げながら、この船をハマノオンナまで運ばなきゃならなくなったんだ! お前らが俺と一緒にSUの艦船からの逃避行に付き合いたいってのなら好きにしろ! だが俺は、お前らが撃沈されようと、助けやしねえからな!」


 ドーソンが怒声を画面越しにぶつけると、画面に映る海賊たちの顔色がサッと青くなった。


『SU艦に追いかけられるって、今までそんなことなかったのに、どうして!?』

「馬鹿が。これほど大きな船を運ぶとなれば、通常航行なら逃げきれねえし、跳躍しても追跡装置に跳んだ先を補足されるに決まってんだろうが」

『な、ならよ。今までと同じで、コクーンを100個奪って逃げれば』

「腰抜けめ。折角の大戦果を不意にするわけねえだろうが。これ一隻で、今までの何百倍もの大金が入るんだ。後の人生を遊んで暮らせるんだぞ」


 ドーソンが論破していると、次は≪ゴールドラッシュ≫からの通信がきた。


『……もしかして≪大顎≫は、おれ達がSU艦に追われないように別方向に逃げろって言ってんのか?』

「お前らがいたところで、戦闘の役に立つわけでもねえだろう。いられるだけ、迷惑なんだよ」


 ドーソンは偽りない本心を次げたが、少し間違った方向に≪ゴールドラッシュ≫には伝わったようだった。


『おれ達を逃がすため、おれ達と大金を山分けするため、困難な道を選ぶってわけか。へっ、≪大顎≫は漢だな。わかった。他の連中のことは任せとけ。お前さんの指示通りに逃げてやるからよ』


 ≪ゴールドラッシュ≫船長はそれだけ言うと、通信を切った。そして続々と、他の海賊からの通信も切られていった。

 急に物分かりが良くなったことに、ドーソンは面食らっていた。


「なんだ、いまの?」

『たぶんですけど、ドーソンが大金を得るために大それた賭けをしようとしていて、その賭けに他の海賊たちを巻き込まないよう心配りしたと勘違いしたんですよ、きっと』

「俺が奉仕精神に目覚めたってのか。しかも相手はむさ苦しい海賊だって。はんっ、笑えない冗談だ」


 ドーソンは肩をすくませると、操縦桿を握り直した。


「運搬船の状況は?」

『各所の電脳を支配下に置き、システムを完全に掌握しました。現在、跳躍機関の充填中――ドーソンから要求があった直後から充填し始めていたみたいで、もう少しで満充填になりますよ』

「そういうことなら≪大顎≫号のジェネレーターとバイパスする案は、跳躍後でいいな」

『はい、大丈夫です。運搬船と≪大顎≫号の二機のジェネレーターがあれば、連続跳躍でSUの艦船から逃げ切れますよ』

「そうありたいもんだ。念には念を入れて、遠回りでハマノオンナに行くぞ。予定では、都合10日間の逃走劇だな」

『逃げる海賊を追う軍艦。まさに昔のスペース・フィクションの一場面ですね』

「当事者じゃなきゃ、喜んでいられたんだけどな」

『ドーソン。運搬船の跳躍が準備できました』

「よし。この場に、運搬船の乗員が入った分だけの脱出ポットを射出。その後に跳躍。残りの人員は跳躍後の空間にばら撒き、それから再跳躍だ」

『予定を了解しましたー。脱出ポット射出!』


 運搬船から脱出ポットが次々と射出されていく。おおよそ2千人分を射出し終えたところで、運搬船はアンカーでつながった≪大顎≫号と共に空間跳躍し、通常空間から姿を消したのだった。



 襲撃場所から、一度目の跳躍。

 脱出ポットの残りを放出しながら、≪大顎≫号と物資運搬船とをエネルギーのバイパスを接続することにした。≪大顎≫号にはバイパス用のエネルギーパイプはなかったが、物資運搬船には用意があった。

 ドーソンは≪大顎≫号の位置を物資運搬船の空間跳躍装置の近くへ移動させると、オイネが操る船体修復用のロボットが≪大顎≫号から運搬船へと乗り移り、そのロボットが両船のバイパス接続を行っていく。

 オイネがロボットを使って忙しく作業をしている中、ドーソンは逃走経路の確認をしていた。

 このまま星腕宙道メインロードの上を逃げていたのでは、SUの艦船の巡回が多いため、容易く見つかってしまう。

 そのため星間脇道サブロードを使う必要があるのだが、コクーンを2000万個も運ぶ超大型の物資運搬船では通れない道がある。それは宇宙粒子の粗密の差だったり、高重力の惑星の近くだたりと、理由は様々だ。

 加えて、海賊母船ハマノオンナに直接戻るわけにはいかない。物資運搬船の空間跳躍だと、その大質量の所為でSU艦船の空間跳躍追跡装置ワープトレーサーに跳んだ先を確実に補足されてしまう。不用意にハマノオンナがある宙域に飛べば、それはすなわちSU艦船を海賊の本拠地に連れてくることになる。

 そういった理由があるため、完全にSUの艦船の追跡を巻いた上で、どこで跳躍したか分からない場所から跳躍しないといけない。

 その条件を満たす場所まで行くための逃走経路は、なんとも複雑な道行きになってしまっていた。


「星腕宙道と星間脇道を交互に使って移動し、恒星フレアが活発な場所から跳ぶ。フレアの影響で跳躍痕が隠れるだろうが、念のために、また別の恒星付近から跳んでから、大型船が通れる星間脇道を使って、ハマノオンナがある宙域へ戻る。言い表すだけなら簡単だが、行程が10日も掛かる大仕事なんだよなぁ……」


 それに移動中は、気の抜きどころはない。

 星腕宙道でも星間脇道でも、他船に見られてSUの艦船に通報されないよう、隠れ進んでいかないといけない。物資運搬船という、大荷物を抱えた状態でだ。

 かなりの難事だが、ドーソンにはやり遂げる自信があった。


「こんな場所で、士官学校の嫌がらせされた経験が役に立つとはな」


 ドーソンを目の敵にしていた、ある教官がいた。

 その教官は電子上の模擬演習で、輸送隊を指揮して特定の地点へ向かうようにと課題を出した。

 課題の難易度は、家柄が良いほど簡単で、悪いほど難しくくなるよう仕組まれていた。孤児のドーソンは家柄など無いので、超がつく難易度に挑戦しなければいけなかった。

 一見では、なにもしなくても通れそうな道が一本設定されていたが、ドーソンが嫌な予感から先行偵察艇を使うと多数の海賊が屯していると情報が。しかも輸送隊の防衛戦力では敵わないほどの大勢の海賊がいるようだった。

 この段階でかなり現実離れしている状況なのだが、演習はあり得ない状況を体験する場所だと言われてしまえば、反論のしようもない。

 そのためドーソンは別の道を急いで探し出し、一歩間違えたら部隊が全滅するような、それこそ伏兵の置きようのない危険な場所を通ることを選んで、どうにか課題をクリアした。


「あの課題に比べたら、今回は時間がかかるだけで安全性は高い。良い肩慣らしだな」

『ドーソン、こちらの作業は終わりました。すぐにでも跳躍可能です』

「了解。では、次の宙域へと跳躍だ!」


 脱出ポットをばら撒いた場所から少しだけ移動して、≪大顎≫号と物資運搬船は超長距離の空間跳躍を行った。

 通常空間に戻った後は、他の船の認知範囲外をコソコソと航行して見つからないよう気を配り、星腕宙道と星間脇道を渡り歩いていく。

 認知範囲外まで距離が取れない理由がある場所では、≪大顎≫号の長距離射撃用の認知装置で周囲を見渡し続けた。もし他船と出くわしそうなら、先に≪大顎≫号でその船を付近から追い払ってから、その宙域を物資運搬船と共に通り抜ける。

 その道の果てに、フレアを絶えず吐きだす恒星に着くと、今度は船の耐熱温度ギリギリまで恒星に接近してから、長距離跳躍を行う。その際、フレア風の影響で跳躍先の設定がズレたらしく、跳躍後に現在位置を特定することに苦労させられることになった。

 その他にも、SUの艦船の追跡を振り切るため、一日で惑星の周囲を何周もする衛星の近くから跳躍してみたり、流星の尾に隠れながら星腕宙道を進んでみたり、オイネに頼んで見当違いの場所の星間脇道で船影を見たと誤情報を流させたりと、ありとあらゆる手段を講じた。

 そうやって用心に用心を重ね、誰の追跡も受けてないとドーソンとオイネが共に判断を下した後で、誰も見ていない宙域から長距離跳躍して、海賊母船ハマノオンナのある宙域へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いよいよ始まるってか
[一言] まさか海賊をしている時に士官学校時代の経験が生きてくるとはなあ 何が役に立つか分からんもんですな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ