138話 中央の海賊
ドーソンがプログラムした無人空母及び電脳カミカゼ戦闘機が、SU宇宙軍の観艦式を強襲して被害を与えた。
これにSU宇宙軍は、面子を潰されたと大激怒した。
しかし激怒したのは、宇宙軍だけではなかった。
それは観艦式の翌日に、≪チキンボール≫を経由して、≪雀鷹≫に通信文が送られてきたことから発覚した。
ドーソンが内容を確認して、予想通りの反応だと言いたげに口の端を釣り上げた。
「どうやら他の海賊は、SU宇宙軍が激怒したことが恐ろしいらしい」
ドーソンが乗員へ文章内容を公表すると、オイネがくすりと笑い声を漏らした。
「ふふっ。大慌てで文章を書いて送りつけてきたようですね。誤字脱字が推古されないままに送ってきてます」
オイネが画面操作で、誤字脱字を修正し、ついでに文章表現を少しマシなものへと変換した。
その後に読めたのは、SU支配宙域の方々で活動する海賊たちが連名した抗議文。
大まかに要約すると、『SU政府と宇宙軍をここまで怒らせた責任を、ドーソンたちが取りやがれ』といったところ。
ついでに、弁明があるのなら話を聞いてやらなくはないと、日時と宙域の場所も書いてある。
ドーソンは書かれてあった内容を鼻で笑うと、≪チキンボール≫のゴウドへと通信を繋げた。
「ゴウド。俺は海賊に人気があったと自覚していたんだが、なぜか他の海賊たちから突き上げを食らっているんだが?」
『冗談で言っていると受け取ての説明になるが、その文章を送りつけてきたのは、SUの本星に近い場所で活動する海賊たちなのだよ』
「なんだと。SUの中心部分で活動している海賊にしては、腹も尻も座ってないな」
海賊とはいうものの、TRから私掠免状を発行してもらっていることもあり、実体はTRの私的工作員となる。
SU政府に間近に迫る場所で活動する工作員は、きっと政府や宇宙軍に負けない強者に違いないと、ドーソンは考えていた。
しかし、この文章内容を見て、別の方法で生き残っていたのだと理解した。
「SU政府と裏取引して生き残ってきたわけだ。政府の意に沿わない組織や個人を狙う、政府の手先になってな」
『そういう手合いには、今回のSU宇宙軍の激怒具合は、心胆を寒からしむることになっただろうな』
観艦式はSU宇宙軍の威信をかけた行事だった。それを海賊に不意にされたのだ。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの心持ちで、政府や宇宙軍と繋がりのあった海賊すら討伐対象にしていてもおかしくはなかった。
「むしろ、繋がりから居場所が分かるんだ。手早く海賊の首級を上げるには、絶好の相手と言って良いな」
中央部の海賊の状況が分かり、ドーソンはどう対処するかを決めることができた。
ドーソンは配下の海賊艦隊とともに、中央海賊が指定していた場所へと空間跳躍した。
会談場所とされている地点に跳躍して出ると、そこは穴だらけになった惑星の傍だった。
「オイネ。あの星は?」
「太陽系地球から1000光年ほどの場所にある、資源採掘されきった惑星です。この星の資源は、宇宙移民開拓時代に大量の移民船を生み出す原材料に使われたようですよ」
「取りつくされて遺棄された鉱山跡を、海賊たちがねぐらに使っているわけか」
ドーソンは説明を受けながら、惑星の位置と付近の星系図を確認する。
「ここは、なかなかに怖い場所だな。SU宙域の中でも移民初期から発展してきた宙域。その星腕宙道のほど近くにあるなんてな」
ドーソンなら、絶対にこんな星に海賊の拠点は作らない。
それこそ宇宙軍が気まぐれで大艦隊を差し向けてくることが、あり得そうな場所だからだ。
しかし、ここに居を構える海賊たちは、そんな心配はしていなかったのだろう。
なにせ海賊でありながら、SU政府と宇宙軍と裏で繋がっているのだから。
「ドーソン艦長。レーダーに感アリ。目の前の惑星から、多数の艦船が近づいてきています」
最大望遠で確認すると、ワラワラと海賊船らしき艦船影が近づいてきている。
その数は、およそで1万隻。
「数だけはあるが、海賊船の品質が悪すぎるな」
そうドーソンは言ったが、実情は海賊船としては真っ当な――普通の船に攻撃手段を付加しただけの船。
むしろドーソンの手下になった海賊たちが、SU宇宙軍のものに似た巡宙艦や駆逐艦に乗っていることが、本来の海賊としては異質だったりする。
ともあれ、普通の船を改造しただけの船が1万隻あっても、ドーソン率いる1000隻ほどの海賊艦隊にとって脅威にはなり得ない。
そのことに中央海賊は気づいているのだろうかと、ドーソンは反応を楽しみに待つ。
そして、海賊艦隊と中央海賊の船団が交戦可能距離にまで近づいて来た。
ちょうどその時、中央海賊船団が攻撃を始めた。
最初はパラパラとしたものだったが、段々と攻撃の激しさが上がっていく。
やがて1万隻の大半が、ドーソン側の海賊艦隊へと武器を放っていた。
その様子を、ドーソンは艦長席で白黒の仮面を被りつつ、つまらなそうに見ている。
どうしてドーソンは余裕な態度かというと、中央海賊船団からの攻撃が全く届いていないから。
そも交戦可能距離とは、ドーソン側の海賊艦隊にある巡宙艦が基準としている。
巡宙艦よりも貧弱な装備しかない海賊船では、攻撃を届かせるには距離が足りていない。
SU政府に骨抜きにされた海賊とはいっても、その距離の点ぐらいは把握しているはず。
それなのに海賊船団が攻撃を始めた理由はというと、つまるところ示威行為だ。
1万隻の海賊船なら、こんな攻撃が出来ると示して、敵を威圧しようというわけだ。
これが何も知らない商船の船長なら、あわを食って降伏通信を送ることだろう。
しかしドーソンは、自前の艦と海賊艦隊の防御力を把握しているため、怖気づく必要がないことを見抜いている。
だからこその、つまらなそうな目で中央海賊船団の示威行為を眺めているのだ。