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137話 観艦式、強襲

 SU宇宙軍の観艦式。

 宇宙海賊を根絶やしにするために集結した 20万隻の艦艇たち。

 整然に並んだ威容はオリオン星腕中に放送され、心の弱い海賊や反抗者なら、この20万隻を見ただけで腰砕けになること請け合いの威圧感を放っている。

 このまま予定時間まで式は続いていく――と、見ている誰もが思っていた。

 しかし、画面を見ていた人たちは気づく。

 並んで進んでいた艦艇たちが、やおら砲塔を旋回し始めたのだ。

 儀礼で空砲を撃つために砲塔を動かしているのか――いや、それが行われる予定の時間ではない。

 なにが起きているのかと、艦艇の砲口が向かう先を、観艦式を映していたカメラの内の何台かが向けられた。

 カメラの最大望遠で、どうにかやっと映ったのは、宇宙空間を棚引く白い光。

 隕石や彗星が飛んできて、それを艦艇が警戒しているのか。それなら問題はないだろう。

 画面を通して映像を見ていた人たちは、誰もがそう思った。

 しかし、そうではなかった。

 観艦式に参加中の全艦艇が、その白い光の方へと次々に砲撃を始めたのだ。

 その攻撃の分厚さは、軌道が決まっている隕石や彗星へ撃つものとは思えない。

 それこそ、攻撃を避けるであろう相手を予想して、その逃げ道を塞ぐような砲撃だった。

 実際、多重に放たれた砲撃の先で、命中の光や爆発が起こらない。

 あの謎の白い光が、全ての砲撃を避けきったのだ。

 ここでカメラの映像の中で、白い光を発するものが何なのかを捕らえた。

 それは不格好な宇宙空母。

 艦尾部分に推進装置を乗せられるだけ乗せたような、尻が膨れた形をしている。

 その大量の推進装置による莫大な加速と、それを支えるジェネレーター出力によって、大量の砲撃を避けながら近づいてきているのだ。


『あの空母を敵と認定した! 諸君、日頃の訓練の成果を見せる時ぞ!』


 咄嗟のことで報道用の通信帯を使ってしまったのか、もしくや謎の空母を撃沈せしめる映像を収めさせようと目論んであえてそうしたのか。

 どちらにせよ、SU宇宙軍の司令官らしき声が、オリオン星腕中へと届けられた。

 そして観艦式の艦艇から、再度の砲撃が発せられた。

 今度の砲撃は、まず白い光を放つ空母の周りを囲むようにやや広い範囲へ、全艦隊からの半分の荷電重粒子砲が広く放たれる。そして半秒待ってから、残りの砲撃が放たれた。

 最初の砲撃で囲いを作って逃げ道を制限してからの、その制限区画を次の砲撃で飽和攻撃するという、なかなかに上手い戦法だ。

 そのSU宇宙軍の目論見は当たり、砲撃の先で大爆発が起こった。

 これで観艦式を邪魔する不心得な空母は消えた――かと思ったが、そうではなかった。

 空母が弾け飛んだ場所から、多数の光の軌跡が飛び散ってきた。

 報道カメラがどうにか写し取ったのは、腹に大型の魚雷を抱えた、宇宙戦闘機の姿。

 謎の空母が爆沈するより前に脱出したと思わしき戦闘機。その数は、およそ100。

 それらの戦闘機は、空間をジグザグに飛び回りながらも、順々に観艦式の艦艇へと近づいてくる。


『撃ち落とせ! 銃座で弾幕を張るのだ!』


 20万隻の艦艇から、熱線砲レーザーの光が放たれた。まさに豪雨のような数が、逃げ回る戦闘機へと向かっていく。

 しかし、どれほど厚い弾幕であっても、ここは宇宙空間で、相手は戦闘機だ。

 どうしても熱線と熱線の間には隙間ができてしまうし、戦闘機は胴体と翼の分の空間さえあればすり抜けることが出来る。

 そのため分厚い弾幕を張ろうとも、そう易々と機首を向けて近づいてくる戦闘機は落とせない。

 それでも、20万隻から放たれる無数とも言える数だけ熱線があれば、その発射回数だけ確率を振ることができる。そして試行回数が多ければ多いほど、確率は収束するもの。

 謎の戦闘機は良く避けているが、予想外の一撃や幸運な一撃を食らって撃墜されるものも出てくる。

 抱えている魚雷に熱線が命中して大爆発を起こし、戦闘機の1機が塵も残さないほどに蒸発した。

 また別の戦闘機は、翼部分に熱線が当たって錐もみを始めて回避行動が出来なくなった。

 また次の、そのまた次の戦闘機も、熱線が命中して撃破されてしまう。

 それでも運の良い戦闘機が10機ほど、SU宇宙軍の艦艇の近くまで接近することが出来た。

 だが直近になればなるほど、熱線の投射から到達までの時間が短くなる。

 10機の戦闘機のうち、8機が撃ち落とされて直近で大爆発を起こす。

 残った2機は、その大爆発の目くらましに使い、片方は爆発を迂回する形で、もう片方は爆発の真ん中を突っ切って、SU宇宙軍の艦艇へと向かう。

 そうして、爆発を突っ切った機体だけが、爆炎で機体を燃やしながらも、機体ごと魚雷をSU宇宙軍の艦艇へと叩き込んだ。



 その一連の光景を報道映像として、ドーソンは≪雀鷹≫の中で見ていた。


「改造空母1隻と100機のカミカゼ機を使って、成果は艦艇1隻の大破か。これは望外の成果だな」


 傍目からだと大失敗に見えるのに、ドーソンは成功だと受け止めている。

 そのことに、キワカが疑問の声を投げかける。


「だいぶ海賊クレジットを張り込んだ割には、情けない成果だと思いますが?」

「そうでもない。あの空母と戦闘機の目的は、SU宇宙軍の観艦式にケチを付けるためだ。その点だけを考えるのなら、いい仕事をしたと言って良い」


 そのドーソンの価値基準で考えるのなら、たしかに目的は達成できていた。

 謎の空母の接近を許し、その空母から発進した戦闘機の撃墜に手間取り、1隻だけとはいえ艦艇を大破させられてもいる。

 しかも、その失態を生放送という形で、オリオン星腕中に晒してしまっている。

 SU政府と宇宙軍は、その面目が丸つぶれになってしまったに違いなかった。


「しかし、どうして観艦式に汚点を作らせたんですか?」


 キワカには、その点が疑問だ。

 確かに面目は潰したが、しかしそれだけでしかない。

 ドーソンがアマト皇和国の星海軍から命じられた、SU政府がアマト星腕へ進出を諦めるように動くという命令に役立つとは思えなかった。

 しかしドーソンは、これは布石だと語る。


「20万隻の観艦式を見た人たちは、その威容に驚き、抱いていた反抗心を萎えさせたことだろう。しかし、たった1隻の空母で観艦式を御破算になった光景を見たら、さてどう思うだろうな?」

「なんというか、20万隻もいたのに、だらしないなと」

「そう。威容が強ければ強いほど、少しの欠点でも大きく見えてしまう。本当を言えば、戦術の観点からすると空母も戦闘機もカミカゼに適した改造を施してあったから、あのぐらいの成果は期待でいるものだ。艦艇を1隻撃沈できたのは、いい出目を拾った感じはあるけどな」


 しかし、そういった戦術の目を持たない人から見ると、SU宇宙軍は弱いのではないかと映ってしまう。

 そこからの連想で、20万隻もの艦艇を組織したのは、それだけの数を用意しないと海賊も倒せないんじゃないかという邪推を呼ぶことに繋がる。


「宇宙軍という暴力装置が弱いんじゃないかという疑いを持てたのならば、人々の心にある反抗心が復活することに通じる」

「観艦式を見て意気消沈したのは、その威容に恐れたから。その恐れが勘違いだったと思ったのなら、大人しくする意味もなくなるというわけですか」

「その勘違いは、海賊たちにも通じることだ。相手が強敵と思っているより、弱敵だと思っていてくれた方が、海賊たちの働きは良くなるからな」

「つまり、SU宇宙軍との直接戦闘の前に、海賊たちを鼓舞するために、空母と戦闘機を使い潰したわけですか」

「戦闘機と改造費用はクレジットで払ったが、空母は奪い取ったもので、乗せていたのは専用のカミカゼ教育を施した無人格電脳だ。各方面への費用対効果を考えれば、安い買いものだったな」


 ドーソンは軽口を叩いているが、その顔に笑顔はない。

 なにせ、これは敵の勢いを少しでも弱め、味方の意気を少しでも上げようという小細工だ。

 そんなことを事前にやっている時点で、ドーソンは海賊を率いてSU宇宙軍と戦うことの難しさを理解しているという証明だった。


「……この展開になるよう道筋を立てはしたが、現実でやるとなると心労はキツイものだな」


 ふぅっと溜息のような息を吐いてから、ドーソンは次の行動へと向けて準備に入った。


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― 新着の感想 ―
[一言] ドーソン もう将官クラスでいいのでは せめて准将にでも上げてあげよう
[一言] これ突破できなかったらSU軍を勢い付かせるからかなりの博打だったんじゃ…… たった100のミサイルを迎撃できないSU防空はゴミ以下ではあるけど
[一言] オリオンよ、私は帰ってきた! とか送り込まれた誰かに叫ばせると良かったかも
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