134話 略奪
20隻の海賊艦が、居住惑星の物資集積所へと降りていく。
おおよそ、2、3隻の艦が1つの集積所に下りるようだ。
ドーソンが乗る≪雀鷹≫を始めとしたアマト皇和国製の艦は、その光景を惑星の外から眺めている。
それは撃破したSU宇宙軍の艦艇を回収する作業のためでもあり、そして来るであろう宇宙軍の援軍を警戒してのこと。
「オイネ。他の2つの惑星にいった海賊たちの調子はどうだ?」
「一進一退な感じですね。海賊の方が艦数が多いんですけど、腰が引けている様で」
海賊は調子に乗らせると怖いが、それ以外では素人操艦と同じ。
ちゃんと訓練を受けた軍人相手になると、荷が重すぎるのだろう。
「被害のほどは?」
「海賊も死にたくはないらしいですね。必死に避けて、被弾しないように努めてます。今のところ、どちらの惑星宙域の戦闘でも、撃沈された艦は片手で数えるほどみたいですね」
「必死に避けるあまりに隊列もなにもなくなってしまい、後は追い散らされるだけになっているんだろうな」
他の2宙域の海賊がどの程度で逃げるのか。その後で海賊と戦っていた宇宙軍が逃げる海賊を追いかけるのか、それともドーソンがいる海賊の略奪が始まった惑星にやってくるのか。
それらの事を、ドーソンは冷静に考えて、撤退する限界時間を割り出す。
「今から10分で惑星から引き上げさせる。そして15分後には、この星系から脱出する。ベーラ」
「分かったよ~。海賊たちに通達しておくね~」
ベーラが通信を送ると、すぐさま『もうちょっと時間が欲しい』と海賊たちからの返信が来た。
しかしベーラは取り合わず、時間が過ぎたら面倒は見ないと言って通信を切ってしまう。
乱暴な措置に思えるが、海賊に現実を突きつけるにはいい方法である。
それになにより、ベーラにお願いをしている時間があるのなら、その時間を略奪に使えば貴金属の延べ棒の1つや2つを抱えて帰る時間は作れるのだから。
ドーソンが設定した時間が経過した。
20隻降下した内、14隻が惑星から宇宙へと戻ってきている。
ここでドーソンは全艦に通達する。
「今から撤退準備で1分使ってから、この宙域を離脱する。宇宙軍が来援してくるだろうが、逃げに徹すれば逃げ切れるルートは作ってある。心配しなくていい」
残り6隻は居ないものとしている通信に、海賊たちの艦から通信が飛ぶ。
通信の先は、ドーソンの艦ではなく、惑星にまだ居る他の海賊艦だ。
『早く上がってこい! 逃げきれなくなるぞ!』
『ジェネレーターを吹かし上げれば、1分で惑星から脱出できるはずだ。早くしやがれ!』
海賊たちが通信でせっついたからか、大慌てで4隻の海賊艦が上がってきた。
しかし撤退準備の1分を経過しても、残る2隻の海賊艦は戻ってこなかった。
そして時間が経過した瞬間に、ドーソンは非常にも言い放つ。
「撤退する。全艦、最大出力で移動だ。俺の艦に付いてこい」
ドーソンは命令を発した瞬間に、≪雀鷹≫は最大船速――の一段下の速度で進発した。どうしてその速度かというと、海賊艦が機関を最大にした場合と同じ速度だからだ。
急発進した≪雀鷹≫を追って、他の艦も発進する。
海賊艦のうち数隻は、少しだけ追うか残るか迷ったようだが、SU宇宙軍の来援が気になったのか、結局は≪雀鷹≫を追いかけ始めた。
そうして2隻少なくなった艦隊で移動していると、キワカが報告を上げてきた。
「先ほどの惑星の近くに、跳躍脱出反応。SU宇宙軍の来援と予想します」
「きっとそうだろうな。そして、間が悪いな」
ドーソンが呟いた後半に呟いた言葉は、自艦隊に対してでもSU宇宙軍に対してでもない。
これは、惑星から遅まきながらに脱出してきた、2隻の海賊艦に対するものだ。
事実、跳躍空間から通常空間へと出てきたSU宇宙軍の目の前で、その海賊艦たちが横腹を晒しているのだから、間が悪いにも程があった。
当の海賊艦たちも自身の運の悪さに気づいたらしく、全波帯通信で宇宙軍に対し、生き残るための威嚇を始めた。
『撃ってくるなよ! こっちには、惑星から連れてきた住民が居るんだぞ! 見殺しにはできねえだろ!』
『安全な場所まで逃がしてくれりゃ、こいつらを開放してやっても『いや、助けて』黙ってろコラァ!』
怒声を上げる海賊と連れてこれらた住民の声が、通信でしばらく続く。
その通信を耳にして、ドーソンは溜息を吐きだす。
「人は連れてこないようにしてあったのに、それでも連れてきているってことは、自力で引きずってきたってことだろうな」
「海賊らしい所業といえば、海賊らしいですね」
「……もしかして他の海賊艦でも、住民を連れてきた奴がいるのか?」
「居るかもしれませんけど、居た場合どうします?」
「略奪したものは、その海賊のものって約束しているんだ。俺に不利益を齎さない限りは、どうともしないな」
この会話の間にも、海賊が人質をとってSU宇宙軍を脅す言葉が続いている。
しかしドーソンは、もう興味ないとばかりに表情を消すと、オイネに向かって軽い手振りを行った。
「では、やりますね」
オイネは空間投影型のモニターへ手を這わせる。
すると通信にある海賊たちの声の雰囲気が変わった。
『なんだ!? おい、何してやがる!』
困惑の声が流れ、そして唐突に通信が切れた。
その直後に、キワカがレーダー画面に不信な点を見つけた。
「惑星から出てきた海賊艦が、来援した宇宙軍へと突進していきます」
最大望遠で様子を確認すると、推進装置から大きな光を発しながら、全ての砲塔を乱射しながら突き進む2隻の海賊艦の姿があった。
ついさっきまでの通信では、人質を盾に逃げ切ろうとしていた。
それなのに今では、自分の命を顧みない吶喊を行っている。
前後の状況が一転していることと、その状況になる直前にオイネが何か操作していたこと。
その両方が合わされば、誰だってドーソンが企んだことだと予想がつく。
「海賊艦に何か仕込みを行ってますね?」
キワカが代用するように質問すると、ドーソンはあっさりと認めた。
「下手に生き延びられて、俺たちの情報を渡されても困るからな。いざという時には、カミカゼで死んでもらうように操作系を弄ってある」
「カミカゼってことは、もしかして」
キワカが嫌な予感を得て最大望遠の映像を見直すと、ちょうどSU宇宙軍の砲撃が海賊艦の1隻に命中するところだった。
当たり所は中破がせいぜいといった場所だったのに、なぜだか大爆発を起こして海賊艦が四散していた。
もう1隻の艦も、今度は推進装置を撃ち抜かれて航行不能と成った瞬間に、大爆発して宇宙の藻屑と成り果てた。
「じ、自爆機構まで……」
「本当は証拠隠滅用だ。いまやったのは、本来の使い方じゃない」
「証拠隠滅用ってことは」
「ああ。俺が率いていない他の場所で撃破された艦を、遠隔で爆散させることが目的だ」
ドーソンが理由を明かしている間にも、オイネが画面を操作している。
その操作で、今回ドーソンが率いていなかった海賊艦のうち、SU宇宙軍に撃破されて動けなくなったものが、拿捕しにきたSU宇宙軍の艦艇を巻き込む大爆発を起こした。