113話 訓練継続中
傭兵艦隊と人工知能艦隊とで、模擬戦を行うこと1週間。
ドーソンは人工知能艦隊の旗艦に乗艦しながら、模擬戦に直接関係のない作業を行っていた。
では、いま人工知能艦隊を指揮している人物は誰か。
それは、オイネの補助を受けた、マコトがやっていた。
「敵主力を押さえつつ、別動隊で削りますよ! 駆逐艦部隊、吶喊!」
マコトの艦隊運用は、状況を即断即決して主導権を握り続け、チャンスと見るや強力な速攻を仕掛ける傾向が強い。
経験の未熟さから運用判断に失敗することもあるが、その立て直しも早っている行うため、結果的に損耗が押さえられているという中々に稀有な特色を持っている。
逆に傭兵艦隊はというと、マコトが行う怒涛の展開に振り回されて、右往左往している。
こういう敵に混乱を与えているところは、士官学校時代にドーソンの薫陶を受けたからだと分かる。
「駆逐艦部隊、撤退。敵が追ってくるようなら砲撃で押し返し。追ってこないのなら、敵主力に圧力を強めます!」
マコトの生き生きと指示出しに、オイネは少し不服そうな顔で従う。
どうやらオイネは、ドーソンに頼まれたから仕方なくというスタンスで、マコトの指示を人工知能艦隊に伝えることにしているらしい。
オイネは人工知能なので、本来は人間に使われる事を喜びとしているため、マコトの指示を不服とする態度には違和感がある。
これは恐らくではあるが、オイネの認識上で自身の所有者をドーソンと定めているためか、もしくは今後もマコトが当たり前に指示してくることを牽制する狙いではないかと思われる。
そんな態度はともあれ、マコトが操る人工知能艦隊は、徐々に徐々にと傭兵艦隊を追い詰めて行っている。
「ここで思い切った手を出すか、さもなければ撤退指示するかが、傭兵側が選択するべきなんだが」
ドーソンが作業しながら呟くと、その言葉が届いたかのように、傭兵艦隊が人工知能艦隊と距離を開けようとする。
しかし撤退は、艦隊運用の中でも難しい部類に入るもの。
不用意な後退は、人工知能艦隊の全艦突撃の呼び水になってしまった。
「吶喊、吶喊! そして全力攻撃!」
マコトが嬉々と人工知能艦隊の全てを、全速力で前進させる。駆逐艦や足の速い巡宙艦が先を行き、その行き道を空けるために、強力な砲火を持つ艦が支援砲撃を行う。
そんな全力突撃に、傭兵艦隊は大慌てで対処しようとするが、艦隊運用の拙さがでてしまい、あえなく敗北となった。
マコトと傭兵たちとの模擬戦が終わったところで、ドーソンの作業もひと段落ついた。
「よし。部隊分けが出来た」
ドーソンが空間投影型のモニターに映し出しているのは、傭兵と人工知能艦の組み合わせ。
傭兵には能力によったランク付けと、適性があるであろう艦種が記載されている。人工知能艦の方も、人工知能の製造と教育による差異を参考にした資料がある。
その両者が良い感じにつり合いが取れるように、ドーソンは先ほどから艦隊の再編計画を練っていたわけだ。
このリストを元に、ドーソンは傭兵たちに2艦隊に分かれるよう指示出しをした。
その結果誕生したのが、企業側から派遣された傭兵フィデレが筆頭の艦隊と、海賊上がり傭兵パッサーを筆頭とする艦隊だ。その2艦隊の中も、特定の傭兵同士に人工知能艦の組み合わせで固定となっている。
「これから先は、その2艦隊で運用していく。艦隊を出すまでもない仕事の場合は、俺が指示した小隊単位での活動をして貰う」
ドーソンの宣言に、フィデレとパッサーからの反論はなかったが、その他の傭兵たちから文句が出てきた。
全波帯通信を使った多くの人からの苦情だが、その内容はほぼドーソンが人事に口を出してきたことへの不満だった。
ドーソンは溜息を堪え、海賊らしい荒っぽい口調で怒声を放つことにした。
「うるせえ! 艦隊戦のイロハも学べてないお前らが、まともに艦の振り分けなんぞ出来るわけないだろうが! それともなんだ! 適当に仲良し同士で組みたいとでも言う気か! 仲良しこよしがやりたいのなら、傭兵を辞めて、今すぐ小学校に入り直してこい!」
このドーソンの意見は最もだと、意外にもフィデレが擁護に入ってきた。
『そうだな。海賊ドーソンの提案してくれた艦隊案は、とても良くできている。ひとまずこれでやってみようじゃないか。もしもそれでダメなら、そのときに異動を行えばいい。それなら構わないな?』
最後の部分の問いかけを受けて、ドーソンは首肯した。
「俺の役目は1ヶ月――残り2週間で、お前らを使い物にすることだ。それ以降なら、お前らがどうしようが関係ない。好きにしろ」
『では、あと2週間。そちらの指示に従うことにしよう』
フィデレが傭兵たちに同意を求めると、フィデレが言うのならとほぼ全てが納得した。
納得していない者も、もう片方の艦隊筆頭であるパッサーが取り成して、最終的に全ての傭兵たちがドーソンの指示に従う事を決めた。
「不満はなくなったようだな。それでは、分けた2艦隊で模擬戦を行ってもらう。戦力は均等に振り分けてあるんだ。片方が負け続けるようなら、その負けた方にはペナルティーを課す。あと変に手加減して戦っている様子が見えたら、全傭兵にペナルティーを受けさせる。そのつもりでいろ」
ドーソンは宣言の後に、通信を切ってしまう。
そして乗艦を操って、『コースター』の人工衛星へと戻ることにした。
ドーソンが戦域から離れたところで、傭兵たちは2つの艦隊に分かれて、模擬戦での砲火を交換し始めた。
『ペナルティー』について、ドーソンが詳しいことを言わないことに恐ろしさを感じたのか、傭兵たちは真面目に模擬戦をしているようだった。