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107話 民間軍事会社『コースター』にて

 ドーソン一行の宇宙船が着いたのは、とある宙域にある居住可能な人工衛星。

 街を1つ入れられる大きさにした無地の円形クッキー缶のような見た目をした衛星。

 これが≪チキンボール≫を支援していた例の企業が、SUから独立する際に作り、ジェネラル・カーネルへと与えた、民間軍事会社の社屋兼従業員宿舎だった。

 ドーソンが停留所に宇宙船を着けると、早速通信が入ってきた。

 ドーソンは自身とマコトが仮面を被っていることを確認してから、通信を繋げた。

 通信相手は、ジェネラル・カーネルだ。


『代表取締役社長を担っている、ジェネラル・カーネルだ。ようこそ、民間軍事会社『コースター』に。歓迎する、宇宙海賊のドーソン』


 ジェネラル・カーネルの持った回った言い回しの中で、ドーソンが気になった点が1つ。


「社名がコップの受皿コースターなのは、意味があってのことか?」

『この社屋の見た目から着けたのだよ。ピッタリではないか』

「皿というよりかは、缶とかフリスビーの方じゃないか?」

『そんな名前では、洒落っ気がないだろう』


 そういうものかと納得し、ドーソンは仲間と共に宇宙船から民間軍事会社コースターに下りることにした。

 その後も、繋ぎっぱなしの通信で、ジェネラル・カーネルと会話を続けていく。


「それで、俺たちは海賊上がりの傭兵たちに艦隊指揮を叩き込めばいいんだよな?」

『その通りだ。促成栽培で願いたい』

「1ヶ月でものにさせろってことか。やれと言われればやるが、それだけの根性があっちにあるか?」

『身になる者だけでいい。当面の指揮者だけ確保できたなら、後は時間をかけることができる』

「それは道理だが、企業からの要望がいまのままじゃ叶えられないと?」

『宇宙航行での護衛などは出来る。元は海賊。襲う立場から襲われる心配のある場所を考える頭はあるのでな』

「現状は上手くいっているものの、未来の業務の投資として艦隊指揮を覚えさせるってことか?」

『現在、SUとTRの戦争は終結間近になっている。完全に終わった後、SUから独立した存在を見せしめに叩こうとするかもしれないと、企業の支配者層が心配している。その心配を払拭するためにも、ある程度の戦力を『コースター』が持っておく必要がある』

「観戦と人員はある程度確保できたから、後は十全に運用できるよう扱き上げておきたいってことか」


 ドーソンが問題点を把握しつつ、ジェネラル・カーネルに促されるまま、海賊上がりの傭兵たちが待っているという場所に入った。

 そこは人工衛星の一室で、電子演算室シミュレーションルームと表札が扉に書かれてあった。

 部屋の中には、フルスペックの電子戦略盤が中央に据えられており、その周囲を囲むように艦艇や戦闘機のシミュレーターが配置されている。

 この部屋で訓練すれば、電子上という但し書きはつくものの、一端の艦隊戦術家と艦長や戦闘機乗りを育てることが出来そうだ。

 かなりのシミュレーターのラインナップだが、ドーソンがこの部屋に抱いた感想は充実さとは別のこと。


「まるでゲームセンターだな」


 ドーソンの呟きは、なるほどと頷けるものだった。

 巨大な中央の電子戦略盤には、誰も使っている者がいなくて、使い方のデモムービーが垂れ流しになっている。

 そのムービーから発せられる光源によって、他の周囲にあるシミュレーターが照らし出され、そこには傭兵らしき人たちが集まって、スコアの良し悪しで一喜一憂している。

 その様子は、戦闘技量を磨くために訓練しているというよりも、遊びがいのあるゲームに熱中している様子に見える。

 ドーソンはどうしたものかと思いつつも、やる気のない奴に教える気はあまりなかった。

 そして誰も戦略盤を使っていないのならと、ドーソンはマコトの腕前を確かめることにした。


「マコト。俺と戦略盤でひと勝負するぞ。ハンデはどのぐらい欲しい?」

「えっと、では、こちらが拠点防衛で、先輩が出兵侵攻側。そして、こちらには進行の予兆情報ありでお願いできればと」

「強欲だな。全力で優位を取りにくるなんてな」


 拠点防衛は物資と艦艇の確保がやり易く、出兵進攻はその真逆でとても難しい。そして予兆が分かる設定だと、進攻側が電撃戦で防衛側を不意打ちをすることもできなくなる。

 要するに、完全にマコトが有利な状態で戦ってくれという要望だった。

 あまりに図々しい要求だったが、ドーソンはそれでいいならと許可した。


「では戦うとしよう。言っておくが、この戦略盤はSU製のようだ。意味は分かるな?」

「SU宇宙軍の艦艇データしか入っていないってことは、重々わかっていますって」


 ドーソンとマコトの電子戦略盤での戦いが始まった。

 ドーソンは進攻に必要な艦艇と物資を集め始め、その動きの予兆を掴んでマコトも防衛側の準備を整えていく。

 予兆が把握されているため、ドーソンは速攻を意識することを止め、確実に相手を叩き潰せるだけの準備を整えてから進攻を開始。

 マコト側も、拠点防衛で物資と艦艇が集めやすい条件なため、かなりの防衛戦力を集めることに成功。

 そうして、電子上ではあるものの、両陣営の艦艇が共に1万隻を越える大艦隊での戦いが始まった。


「防衛準備はバッチリですよ」


 マコトは自信満々に言いながらも、戦法は自陣に引きこもっての持久戦を選らんだ艦隊の布陣をしている。

 ドーソン側は進攻場所まで移動してきたため、その分の物資を消費し、補給線が伸びていて補給するのにも時間がかかる。逆にマコト側は拠点での戦いなので、物資は常に十分な量が供給され続ける。

 つまり戦いが長引けば長引くほど、マコト側が優位に立てる状況になっている。

 相手の時間を消費させる持久戦は、理に適った戦法選択と言えた。


「じゃあ、戦いを始めるとするか」


 戦いが長引けば不利なドーソンは、なるべく速攻で片を付けたいところ。

 しかし戦いの立ち上がりは、お互いに遠距離砲撃を交換していくだけ。

 ドーソンの側に急ぐ様子がないことに、マコトは意図の分からなさに疑問を持っている様子。

 何かしらの罠が既にドーソンから仕掛けられているんじゃないかと、戦域だけでなく周辺宙域に偵察艇を派遣して情報収集を行い始めた。

 その後も、チマチマと物資の消費だけが、両陣営の変化として記録されていく。

 開戦から30分――電子上では時間を加速させて10日が経過。

 相変わらず遠距離砲撃の交換が続けられていく。

 マコトの艦隊は、補給が十全な状態が保たれている。

 逆にドーソンの艦隊は、伸びた補給線の影響で物資運搬が間に合っておらず、艦隊が保有する物資量は五割を切っていた。

 もちろん、マコトもドーソンも相手側の補給状態を数字で把握することはシステム上できない。

 しかし、ここまでの戦闘での消費量と物資運搬能力から、お互いの状況は予想ができていた。


「ここら辺で打開策を講じないと、先輩の勝ち目が薄くなり過ぎるのだけれども」


 マコトは小さく呟きながら、ドーソンの艦隊に不信な動きがないかを偵察艇で探り続ける。

 しかしドーソンの艦隊は動かず、相変わらず遠距離砲撃と物資消費だけが記録されていく。

 このまま状況が動かないんじゃないかと思い始めて、さらに20分後――電子上で開戦から15日が過ぎた。

 この日も遠距離砲撃の交換で終わるのか。

 そう思ってマコトが気を緩めた瞬間、気の緩みを待っていたかのように、ドーソンの艦隊に新たな動きが現れた。

 それは、保有する全ての戦艦を全面に押し出しての、強硬突撃だった。


「なんて予想外なことを!」


 マコトは慌てて対処を行う。

 マコトの陣営――戦域を広く薄く布陣した艦隊は、遠距離砲撃の交換であれば、砲撃に当たる不幸な被害を減らすために有効だった。

 しかしドーソンが一点突破を狙った強硬突撃だと、槍先に薄紙を置くようなもので、とても耐えられる布陣ではない。


「先輩も、さっきまで同じ布陣だったはずなのに」


 マコトは対処を急ぎながら、ドーソンの陣形に目を向ける。

 そこでようやく、ドーソンがどうやって薄く広い陣容から一点突破の突撃陣形に移行できたかを理解した。


「全ての戦艦を陣の後ろに配置してから、一直線に加速を開始している。その移動する戦艦を追従するように、周囲から艦艇が寄り集まっていっている……」


 薄い膜のようだった布陣が、やがて細くて長い一本の集まりになっていく。

 その光景は例えるなら、鍋の中で膜を張った湯葉の真ん中を摘まんで引き上げたかのよう。

 しかしそれは、繋がった膜であれば簡単に集められても、艦隊のように個別のものを操るとなれば多大な苦労が伴う。

 1万隻もある艦隊のそれぞれが、どのタイミングでどんな動きで移動するのかを、あらかじめ考えて伝えておかないといけない。

 ここまで考えて、マコトは自分が罠にはまっていたことに気づいた。


「電子上で15日。この複雑な動きを周知徹底するには、十二分な時間」


 そう気づいたところで、ドーソンの艦隊は突撃してきているため、マコトには打開するために仕える時間が少ししかない。

 この限られた時間を可能な限り使って、マコトは自艦隊の終結を急いだ。

 その甲斐もあり、どうにか多大な犠牲を払うことは前提でも、ドーソンの艦隊を押し止めることはできる陣形を整えることに成功した。


「この戦いさえ凌いでしまえば」


 ドーソンの艦隊の物資は乏しい。となれば、この一戦に全てを消費しきる気で、複雑な艦隊運動を伴う方法で全艦突撃を敢行していることは間違いない。

 だから、どれだけ被害を出そうとも、この戦いさえ引き分けや痛み分けに持ち込めたなら、ドーソンの側は撤退するしかないため、実質的にマコトが勝つことができる。

 その勝ちへの確かな望みは、ドーソンの艦隊の先頭――砲撃が集中してボロボロになっている戦艦たちが、マコトの艦隊内へと突っ込んだ瞬間に瓦解することになる。


「んな!?」


 マコトが驚きの声を上げる。

 それもそうだろう。ドーソンが所有する全ての戦艦が、マコトの艦隊内に入り込んだ瞬間に、周囲を巻き込む大爆発を起こしたのだから。

 爆発とその威力で吹き飛んだ戦艦の装甲、進攻を押し止めようと集結させた艦艇密度もあって、かなりの被害をマコトの艦隊に産んだ。


「不用意に集まった敵には手榴弾を投げ込むのが有効だと、白兵戦の講習で習いはしたけれど……」


 その戦術の応用を艦隊戦で、しかも超高額な戦艦で行ったことに、マコトは信じられなかった。

 驚きで対応の手を止めてしまっているマコトに対し、ドーソンは自爆した戦艦がこじ開けた敵艦隊の穴を残りの艦艇で切り開きにかかる。

 マコトも呆然から立ち直って対処しようとするが、対抗の初動が遅れてしまった不利は覆しきれず、散々に艦隊を切り崩されて負けてしまった。


「ううぅ。先輩、酷いです。こんな無茶苦茶な戦法を使ってくるなんて」

「マコトには、学校時代に色々な戦術を教えてしまっていたからな。普段の俺なら絶対に使わない戦い方をしてみたんだが、上手くハマってくれて助かった」


 途中まで上手く行っていたと思ったのに、それも掌の上で転がされていただけだと知って、マコトはガックリと肩を落とす。

 その肩に、ドーソンが近寄ってきてポンと手を載せる。


「敵の動きの警戒がちゃんと出来ていたぞ。あれがなきゃ、俺はもっと楽な戦法で勝てていた。気を落とすことはない」

「じゃあ先輩に勝つには、どうしたらよかったんですか?」

「楽に勝つなら、補給の利点を生かして消耗戦を仕掛ける。味方の被害を抑えて戦いたいのなら、伏兵や別動隊を使って、こちらの補給路を叩くことだ」

「……その助言通りにしても、先輩に対処される気がするんですが?」

「方法は示したんだ。俺が対処しきれないよう、その頭で考えることだ」


 先輩が後輩に指導と激励を行っている良い場面ではある。

 しかし傍目から見ると、仮面を被った者同士での会話なので、異様でしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「では戦うとしよう。言っておくが、この戦略盤はSU製のようだ。意味は分かるな?」 つまり、戦果のある自爆なら上々、艦隊全滅すら侵攻側の思惑通りというわけですね。
[一言] やらないよりはマシなんでしょうが訓練って感じはしませんねー ドーソン達の勝負を見て電子戦略盤に興味湧いた人がいればいいですが
[気になる点] > それもそうだろう。ドーソンが所有する全ての戦艦が、マコトの艦隊内に入り込んだ瞬間に、周囲を巻き込む大爆発を起こしたのだから。 現実に出来ない戦術を取ったドーソンがシミュレーションを…
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